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婚約破棄? ちょうどいいですわ、断罪の場には。
江戸川ばた散歩
ミステリーサスペンス
2024年10月26日
公開日
27,126文字
連載中
辺境伯令嬢バルバラ・ザクセットは、第一王子セインの誕生パーティの場で婚約破棄を言い渡された。
だがその途端周囲がざわめき、空気が変わる。
父王も王妃も絶望にへたりこみ、セインの母第三側妃は彼の頬を打ち叱責した後、毒をもって自害する。
そしてバルバラは皇帝の代理人として、パーティ自体をチェイルト王家自体に対する裁判の場に変えるのだった。

続編1……裁判となった事件の裏側を、その首謀者三人のうちの一人カイシャル・セルーメ視点であちこち移動しながら30年くらいのスパンで描いています。シリアス。
続編2……マリウラ視点のその後。もう絶対に関わりにならないと思っていたはずの人々が何故か自分のところに相談しにやってくるという。お気楽話。
続編3……正編と続編2をバルバラの護衛騎士兼婚約者視点で見た話。全体の〆。
続編4……続編2において登場した円盤杯の話。
続編5……続編4と関連する別の「辺境伯令嬢」話。

以上の6部構成となります。

1 まずは婚約破棄

「もう勘弁ならない! バルバラ・ザクセット! お前とは婚約破棄だ!」


 第一王子がそう言った瞬間、場の空気が凍った。

 この日は彼の誕生日ということで、王宮で盛大なパーティが開かれていた。

 国王王妃、そして多数居る側室とその子全て集合、更には王都に在住している貴族達全てと騎士達も勢揃いしていた

 なお、この「勘弁ならない」の言葉の前にはこの言葉がある。


「前々からお前は辺境伯ごときの娘だというのに、俺の婚約者というのが気に食わなかった。俺の下の王子達の婚約者は皆公爵か侯爵の令嬢だ。なのに何だ、辺境伯の娘とは! 礼儀も何も知らない、皆見てみろ、このパーティにおいてすら、相応しい装いもして来ないとは!」


 確かにバルバラ・ザクセットの格好は他の令嬢達に比べ質素だった。

 少なくとも見た目は。

 首元をきっちり留めた襟元も、決して王都の流行にはそぐわない。

 そして他の令嬢達の様にきらびやかな宝石等を付けている訳でもない。

 そんな彼女の真逆とも言える様な令嬢をセインは呼び、引き寄せ。


「俺はここに、マリウラ・ランサム侯爵令嬢との婚約を宣言する!」


 そう言った瞬間だった。


「何を言っておる!」


 王の声が飛んだ。

 座から立ち上がり、今にも長男の元に走り出しそうな勢いだった。


「父上、何をそんなにうろたえておられますか? 今までのこの女の存在自体が、俺には相応しくないものではなかった、そう思われませんか?」


 一方、言われた側のバルバラ・ザクセットは落ち着いた表情のまま、軽く顎を動かした。

 その仕草そのものがセインの神経を更に苛立たせる。

 こんな時にも涼しい顔か! と更に言葉を連ねようとした。

 が。


「皆様、お聞きになりましたか?」


 バルバラは周囲をゆったりと見渡す。

 周囲の貴族の雰囲気はそれまでと変わっていた。

 誕生パーティの浮かれた雰囲気はそこには既にはなく、できればすぐにここから立ち去りたい、と言いたそうなものに変わっていた。

 セインもそれには何となく気付いたのか、焦って周囲を眺め渡す。

 すると父王だけでなく、王妃がその場に崩れ落ちていた。

 そして母である第三側妃はドレスの裾を持ち上げ息子の元に駆け寄ると、胸元を掴み上げ、ぱんぱんぱん、と勢い良く、思い切り頬を打った。


「……お前は…… お前は一体何をしたのか、判っているのですか!」

「母上一体…… 何をおっしゃっているのですか? 俺は俺の正当な権利を」

時点で何がお前に起こっていたのか、誰も教えなかったのですか!」


 第三側妃は周囲を見渡し、王の好んだよく通る声で問うた。


「……そう…… 貴方には何も言う程の意味も無いと思ったのね…… 判りました。バルバラ嬢、いえ、帝室派遣官様、この馬鹿者と、馬鹿な我々にしっかりと裁きをお願いいたします」


 そして第三側妃は、その場で胸のロケットに隠し持っていた丸薬を飲み干した。

 うっ、と一瞬うめくと、彼女の身体はそこに崩れ落ちた。


「は、母上!?」

「これは実に見事な態度。何故この様な優れた貴婦人から、貴方の様なうつけ者が誕生したのでしょうね、セイン・チェイルト、そして国王殿?」


 彼女はそう言うと、胸元を開き、そこから大きな宝玉を付けた帝国の紋章のペンダントを取り出した。


「この場をもって、皇帝陛下の代理人、帝室派遣官バルバラ・ザクセットはチェイルト王家における裁判を始めます」

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