足を引きずるように家に帰った。母の形見の破片を、制服のポケットに包んだハンカチで抱えている。その感触が胸に突き刺さる。
部屋の扉を開け、私はそのまま崩れるようにベッドに倒れ込んだ。堪えていた涙が零れ出す。
「お母さん...どうして...」
シーツを強く握りしめる。大切なものを、また守れなかった。最期に私の首にかけてくれた時の温かさが、永遠に失われてしまった。それを思うと、胸の奥が千切れそうになる。
「春香」
掠れた声が、闇の中から滲み出るように響いた。
私が顔を上げると、そこにウサギがいた。暗がりの中で、片目だけが妖しく揺らめいている。
「僕には分かるよ」
低く沈んだ声。それは不思議と心地良く、私の心に染み入ってくる。
「春香が感じている痛みが」
ウサギは私に近づいてきた。その姿が月明かりに照らされ、輪郭がくっきりと浮かび上がる。
「もう誰にも君を傷つけさせない」
その言葉は、まるで呪いのように響いて。
「あの子たちに教えてあげよう」
繊維で出来た体が歪み、影が大きく伸びていく。
「絶望とは、どういうものなのか」