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ミリア

 遠くで鳴る鐘の音が、私の胸の中で虚ろに響く。


 教室のドアに手をかけた時、私は深く息を吸い込んだ。開ければ、また始まる。そう、いつものように。

 ペンダントを強く握った。銀色の楕円形の中には、母との最後の写真が収められている。大丈夫、私は大丈夫。ペンダントを上着の内側に隠し、私は教室の扉を開けた。


――「死ね」


 鉛筆で机に書かれたその文字が、朝日に照らされて光っている。その周りを無数の罵倒の言葉が取り囲んでいた。「ブス」「キモい」「消えろ」見慣れた文字の数々。私は黙って消しゴムを取り出し、一つ一つ丁寧に消していく。消しカスが机の上に積もっていく様子は、まるで降り積もる雪のよう。でも、この雪は私の心を凍えさせるのだ。


 昼休み。一人、窓際の席で給食を食べていた。隣のクラスからは賑やかな笑い声が聞こえてくる。その声が、どこか遠い世界のものに感じられた。


「あんた、また一人なの?」


 甘ったるい声が、蛇のように耳元で這う。ミリアだ。背後に立つミリアの影が、私の給食の上に暗い影を落としている。


 「まあ当然か。そんな暗い顔してるんだから」

 ミリアの後ろで女子たちが笑う。その笑い声が、私の耳の中で轟音となって響く。私は黙って箸を動かし続けた。視界が少しずつ歪んでいく。涙を堪えるように、奥歯を強く噛みしめる。

 突然、誰かが私の腕に当たり、お椀が大きく傾いた。熱い味噌汁が制服に広がっていく。ジワジワと染みる熱さに、小さく息を呑む。


「あ、ごめんなさい。わざとじゃないわ」


 ミリアの声に、また笑い声が続く。私は黙って立ち上がり、震える手でハンカチを取り出した。制服がよれ、内側に隠していたペンダントが陽の光を受けて一瞬だけ強く輝いた。マズい。心臓が一拍飛び跳ねた。しかしもう遅い。ミリアの目が、獲物を狙う猫のように細くなっていた。

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