蒸し暑い真夏の午後、黒く腫れた雲から降り注ぐ雨が、祖母の家の古びた窓ガラスを執拗に叩いていた。朽ちかけた階段を一段ずつ上がるたび、軋む音が屋根裏へと響き渡る。扉を開けると、埃っぽい空気が私の肺に忍び込んできた。
薄暗い屋根裏は、かすかに差し込む光の中で、幾つもの影が歪な形を作っている。
そこはかつて、秘密の遊び場だった。私と、そしてあの子の。
古びたダンボール箱が、まるで私を待ち構えていたかのように、部屋の隅に佇んでいる。ゆっくりと、私はそれを開けた。その瞬間、腐った布のような異臭が漂う。
「ごほごほ」
ツンとする匂いに顔を歪めながらも、私の目には懐かしい形が目に飛び込んできた。
いた。
幼い頃に大切にしていたウサギのぬいぐるみ。今では薄汚れた灰色の毛並みは所々抜け落ち、黒いボタンの目は片方だけが、虚ろに天井を見上げている。そう。かつて、この子は私のかけがえのない親友だった。いつも私の側にいて、私の全てを受け入れてくれて、まるで本当に生きているような気がしていたのだ。
「懐かしい」
宝物に触れるように、私はそっと手を伸ばす、その時――
「春香ぁ」
蜘蛛の糸が震えるような、か細い声。しかし、確かにそれは言葉となって、私の耳に届いた。思わず箱を取り落とす。埃が舞い上がった。激しく脈打つ心臓の音が、耳の中で轟いている。
ゆっくりと顔を下げると、床に転がったウサギが、不自然な角度で首を傾げていた。残された片目が、まるで生きているかのように、じっと私を見つめている。口元は……笑っていた。微かに、しかし確実に、両端が吊り上がっている。
窓を打つ雨音が、次第に遠ざかっていく。
この瞬間、屋根裏の空気が、まるで時間が止まったかのように、重く澱んでいった。