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サイコウサギの復讐代行
水谷健吾
ホラー怪談
2024年10月26日
公開日
3,535文字
連載中
イジメに遭っている女子高生の春香は、祖母の家で幼い頃に可愛がっていたウサギのぬいぐるみを見つける。すると、ウサギのぬいぐるみは喋り出し、春香を虐めていた同級生たちを次々に復讐していく。

屋根裏

 蒸し暑い真夏の午後、黒く腫れた雲から降り注ぐ雨が、祖母の家の古びた窓ガラスを執拗に叩いていた。朽ちかけた階段を一段ずつ上がるたび、軋む音が屋根裏へと響き渡る。扉を開けると、埃っぽい空気が私の肺に忍び込んできた。


 薄暗い屋根裏は、かすかに差し込む光の中で、幾つもの影が歪な形を作っている。

 そこはかつて、秘密の遊び場だった。私と、そしてあの子の。


 古びたダンボール箱が、まるで私を待ち構えていたかのように、部屋の隅に佇んでいる。ゆっくりと、私はそれを開けた。その瞬間、腐った布のような異臭が漂う。

「ごほごほ」

 ツンとする匂いに顔を歪めながらも、私の目には懐かしい形が目に飛び込んできた。


 いた。


 幼い頃に大切にしていたウサギのぬいぐるみ。今では薄汚れた灰色の毛並みは所々抜け落ち、黒いボタンの目は片方だけが、虚ろに天井を見上げている。そう。かつて、この子は私のかけがえのない親友だった。いつも私の側にいて、私の全てを受け入れてくれて、まるで本当に生きているような気がしていたのだ。

「懐かしい」

 宝物に触れるように、私はそっと手を伸ばす、その時――

「春香ぁ」

 蜘蛛の糸が震えるような、か細い声。しかし、確かにそれは言葉となって、私の耳に届いた。思わず箱を取り落とす。埃が舞い上がった。激しく脈打つ心臓の音が、耳の中で轟いている。


 ゆっくりと顔を下げると、床に転がったウサギが、不自然な角度で首を傾げていた。残された片目が、まるで生きているかのように、じっと私を見つめている。口元は……笑っていた。微かに、しかし確実に、両端が吊り上がっている。


 窓を打つ雨音が、次第に遠ざかっていく。

 この瞬間、屋根裏の空気が、まるで時間が止まったかのように、重く澱んでいった。



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