「──ふーん。この公園、よく見たらギア使用可能施設になっているのね。低ランクでもギアの使用が可能な場所。いいわね、自然が多い場所でギアを使えるのって」
カグヤは、ふと自分たちのいる公園を見渡して、改めて特殊な環境になっていることを理解した。
ここは草木が多いため分かりづらいが、所々最新設備の装置が埋まっている。
これによって、カグヤの通い詰めているマテリアルブーツ用の施設と同様の効果になっているんだろう。
「結構いいところ知ってるのね、Mr.パルクールさん。使用ギアは制限されてるらしいけど、いくつか使えそうなのはありそう。今度みんなで楽しもうっと。……さて、と。ハクト君は……」
「っは!!」ゴロンッ
「よーしよし! ハクト選手ナイスッショ! それがPKロールッショ!」
ハクトは、Mr.パルクールと一緒にモニュメントの高台から飛び降りて着地しているところだった。
着地の際、前方に回転しながら衝撃を分散して、直ぐに立ち上がっている。
なるほど、ハクト君の空中移動からの着地にぴったりな技だ。カグヤはそう思っていた。
ハクト達は、既にマテリアルブーツを装着している。
HPグローブがある以上、万が一があったとしても怪我はないだろう。
ギアも一応取り付けているようだが、そっちは今は使用するつもりがないようだ。
「よしハクト選手、次ッショ!」
「はい!」
そうして、ハクト達はすぐに他の技にも挑戦していた。
PKロール(着地)だけでなく、
・ヴォルト(乗り越える)
・クライムアップ(登る)
・ウォールラン(壁走り)
・プレシジョン(飛ぶ)
などなど、様々な基本的なパルクール専門技術をハクトに教えていっている。
それらを一通り、ちょっと試しただけですぐものにしていくハクト。
「やっぱり! ハクト選手、すぐ習得したッショな!」
「えへへ、ありがとうございます!」
Mr.パルクールは簡単に成功されているにも関わらず、とても嬉しそうにハクトを褒めていた。
それを受けて、ハクトも照れ臭そうに受け止めている。
「うんうん、ここまでは予想通りッショ。それじゃあ……」
そう言って、Mr.パルクールはハクトの靴に指を刺し……
「……今付けている【バランサー】、それを外して欲しいッショ」
「え?」
ハクトは疑問の声を上げていた。
けれど、すぐに理解したような表情になっている。
「……なるほど、重心を自動的に安定にしてくれる効果だから、それ無しでの練習ですね」
「それもあるけど、もう少し違う理由があるッショ。とりあえず一旦ブーツを解除して、ギアをとって欲しいッショ」
「はいっ」
ハクトはMr.パルクールの言う通りに、【バランサー】を取り外して準備していた。
ギアを取り外すためにブーツをリセットしたから、残ったギアのCTがマックスになってしまっているが……今は特に問題ない。
「それじゃあ、今まで教えた技をもう一回やってみて欲しいッショ」
「了解です」
そう言って、先ほどと同じように技を繰り出そうとするハクトだったが……
「あ、あれ?」
転がったまではいいが、起き上がれなかったり。
他にも、登る際ジャンプ力が足りなかったり、壁走りの際すぐ落ちてしまったりしていた。
大半の技が、ほとんど失敗状態だ。
「どうしたのハクト君? 急にそんなに不調になっちゃって」
「いや、なんか思ったように体が動かなくて……」
「ふーん? それって【バランサー】外したから?」
「た、多分。えー……? まさか、重心がはっきりしなくなるだけでこんなに出来なくなるもんなの?」
ハクトは自分の足元を見つめながら、とても意外そうな感想を溢していた。
【バランサー】で、重心がはっきりと分かり体幹が良くなるのは分かる。
そのせいで、パルクールの技の再現がし辛くなるのも分かるだろう。
けれど、ここまで全然出来なくなるようになってしまうとは、想定より酷かった。
「それなんだけど、ハクト選手、ちょっといいか?」
「はい?」
「……その【バランサー】の効果って、重心が分かるって言うより、“重心が自動調節される”効果が正しいんじゃないッショか?」
「……自動調節?」
ハクトはMr.パルクールの言葉を聞き返した。
それに対して、ああと頷き……
「重心が自動調節されるってことは、体そのものの体幹が調整されているって事っショ。それが常に行われているとするならば……」
Mr.パルクールは、そこで一区切りし……
「……もしかして【バランサー】って、装備者の“思った通りの体の動きが出来る”副次効果を持っているんじゃないッショか?」
「「……えっ?!」」
そんな考察をハクト達に伝え出した。
この考えには、流石のハクト達もビックリだった。
「だから俺との試合の時でも、一度見たパルクールの技を簡単に真似出来た。それっぽい動きをやったなら、あとは【バランサー】側で自動調節してくれるから。これがあの試合でハクト選手がすぐ真似出来た理由だと思うんだけど、どうッショ?」
「どうって……」
「……確かに、よくよく考えるとそうかもしれない。ハクト君、ソロ・トーナメントの時も素人とは思えない体の使い方をしていたもの」
カグヤはMr.パルクールの考察に同意していた。
ハクトはもともとある程度体を動かせていたとはいえ、流石に当日マテリアルブーツを装着した素人の動きにしては出来すぎていたからだ。
それが【バランサー】の効果だったとするならば、理屈は通っている。
「何、と言う事は、【バランサー】ってギアのリアクション化だけでなく、体の動き補正までやってくれてたって訳?」
「……こうして考えてみると、やっぱり最高レアなだけあるわね、【バランサー】。効果控えめかと思ったら、意外と使える効果が盛り沢山だわ」
ハクトは改めて、父からもらった【バランサー】を見つめていた。
思った以上の可能性の塊のギアだったらしい。
「……あれ、と言うことは、今はパルクールの技の練習中だから、使わない方がいい……?」
ハクトはふと、その事に気づく。
このギアを装着したままだと、練習にならないんじゃないかと。
「うーん、でもハクト選手。もともと、試合でパルクールの技が使えるようになりたいから習いに来たんだよな? だったら、本番に近い環境で練習することは、それはそれで間違いじゃないッショ。どうせ【バランサー】つけるんだろうし」
「それは、まあ。そうですね」
「ただ、確かにハクト選手自身の身にもなって欲しいから、“ギア無しでも出来るように練習する”、でどうっショ? 最初【バランサー】付けて練習して、理想の動きが分かったら外して普通の練習。これで行くッショ」
「はい! わかりました」
「うん! それじゃあハクト君、頑張ってね!」
そうして、ハクトは【バランサー】有無両方で練習することになった。
さすがに【バランサー】を無しの状態だと、すぐには完璧には出来なかった。
しかし、何度も練習していくにつれて、着実にパルクールの基本技がハクトに身についていってることを実感していった……
☆★☆
「──よし! 今日のところはここまで! お疲れッショ!」
「ありがとうございました! ふうっ……」
「ハクト君、お疲れ様」
あれから数時間。今日のパルクール講習が終わって、ハクトは芝生に腰を下ろしていた。
カグヤが差し入れにスポーツドリンクを渡しており、それをゴクゴクと飲んでいる。
「ぷはあっ。ありがとう、体に染み渡るー」
「いい飲みっぷりね。ハクト君、だいぶ疲れたでしょ」
「まあね。でもまあ、一日中試合の時よりはまだマシだから、後少しは体力残ってるよ」
ハクトは手足をブラブラさせて、まだ動ける事をアピールしていた。
確かにハクトは、元々空中を縦横無尽に飛び回るスタイル。普通の人よりは体力は多いだろう。
それでも、一応気をつけるようMr.パルクールは注意する。
「無理しない方が良いっショ。今日はこの後はゆっくり休んで──」
「──うむ! もし! そこの者達!」
ん? と、ハクト達3人は振り返った。
聴き慣れない声。それを掛けてきたのは、袴を履いた少女。
長い黒髪をポニーテールで縛ってあり、何より特徴的なのは“木刀を持っていた”事。
その少女が、問いかけてくる。
「もしや噂の、“ムーンラビット”チームのメンバーではないか?」
「噂の、かは分からないけど……そうだけど?」
「うむ、やはり!」
そう言うと、目の前の少女はうんうん、と嬉しそうに頷いていた。
「“ムーンラビット”は、特徴的なウサギパーカーを着ていると聞いていたからな! 分かりやすくて助かった!」
「ねえ。あなたは一体どちら様?」
「うむ、自己紹介が遅れた! 私は佐々木武蔵(ささきむさし)! あちこちを旅して武者修行しているものだ!」
ムサシと名乗った少女はそう自己紹介すると、ムンっと胸を貼って自信満々の態度を見せてきた。
「武者修行って、今の時代で見るの珍しい……というか、初めてッショ」
「俺も。それで、その武者修行中のムサシさんは一体何のようなんですか?」
「ああ、今日は頼みがあって来た! そのために今まで探していたのだ!」
「頼み?」
そうハクトが聞き返すと、ムサシはふうー……と息を吐いて。
……ガバッと頭を下げた。
「どうか、“私と一戦戦ってくれないだろうか!! ”」
「へ? 俺!?」
ハクトが自分を指差すと、うむ! とムサシは頷いていた。
「そうだ! 前々から噂が合って、戦ってみたかったのだ!」
「噂って、そんなに私たち有名?」
「動画でプチバズりしてたから、その件かッショ?」
そう戸惑っていると、ムサシは顔を上げて、木刀の切っ先をこちらに向けて突き出した。
「さあ、勝負しよう!
“有栖流斗(アリスリュウト)!!”」
「人違いです」
ハクトはズバッと返した。
おや??? と頭を傾げるムサシ。
あちゃー、と頭を抱えるカグヤとMr.パルクール。
「おかしいな? ムーンラビットでよく動く少年がそうだと聞いていたのだが……先程のトレーニング風景を見て、てっきりそうだと」
「うーん……確かに俺が1番動いていると言えなくも無いですが、その情報だけだと俺と断定するには厳しいような……」
「何? そうなのか?」
あっれー? とさらに首を傾げているムサシ。
頭の後ろのポニーテールが悩みを表すようにユラユラ揺れている。
「うーむ、この町に“剣士として有名な男”がいると聞いて、是非手合わせをと思って、アリスリュウトを探していたのだが……」
「アリスなら、俺たちのチームメイトで合ってますよ。まあ……最近ちょっと、連絡が付き辛いですけど」
「そうだったのか……むう、これはこの間の“試合を逃した”のが思った以上に痛かったかもしれぬ……」
「試合ッショ?」
「うむ。実は私は“一人巌流島”チーム所属でな……」
あれ。どっかで聞いたことあるような……ハクトはそう思った。
すると、カグヤがふと思い出したように手を叩く。
「あ、思い出したかも。ほらハクト君、私たちこの間のチーム戦、<ストーリー・スカイスクレーパーカップ>ぶ参加したじゃない?」
「うん、そうだね」
「その時、“1回戦私たち不戦勝”だったじゃない? その時のチーム、“一人巌流島”よ」
「あー。あー! あの時の!」
という事は、目の前の人があの時の本来の対戦相手!?
ハクトはそう気づいて、ムサシに勢いよく振り返った。
「うむ。そうなる筈だったらしいな!」
「筈って……何で試合来なかったんですか?」
「それは、その……恥ずかしながら、“道に迷ってしまって”……」
照れ臭そうに、ムサシはそう言い訳をしていた。
つまり、迷子で遅刻?
「迷子になっちゃったッショ? それは災難だったけど……他のチームメンバーは?」
「ん? “私一人”だが?」
サラッとムサシはそう言った。
遅れてハクト達は、その言葉の意味に気付きだす。
「ん、は? あ!? チーム戦大会なのに、一人で!?」
「ふむ? べつに大会要項的には、メンバーが4人満たさなくとも問題無かった筈だが……?」
「それは……確かにそうだけど、よくそれで一人で参加しようなんて思ったッショ。勝ち目殆どないッショ?」
「……あなた、Rankいくつ?」
「ん? Rank2だな」
「じゃあ本気で何で一人で参加したのよ……」
カグヤは少し呆れた表情でムサシを見ていた。
コレがカグヤのように高Rank経験者で、ハンデのために参加したならまだ分かる。
けれど、Rank2経験者だとハクト達とそうは変わらない。
そんな状態で、4人制の大会で一人で戦うのは無謀という他ない。
そう言うと、ムサシは自分の胸をドンっと自信満々に叩く。
「大丈夫だ!! “対複数人用の戦闘”は慣れているから!」
「……へえ」
そう聞くと、カグヤは先ほどまでの呆れの表情とは一転して、目を細めて相手を観察するような目つきに変わっていた。
嘘かもしれないが、どうやらカグヤはムサシに興味をもったらしい。
ハクトも、こんなに自信満々に言ってくるなんて、逆に気になって来ていた。
「……ねえ。あなたアリス君と戦いに来たのよね?」
「うむ、そのつもりだったが……」
「なら、変わりと言っては何だけど、“私と戦わない? ”」
「カグヤ?」
「ちょっとあなたの戦いに興味が湧いて来たわ。その自身、ちょっと確かめてみたくなって来ちゃった」
カグヤがそう積極的になっていると。
対象のムサシは……うーん、と悩むように腕を組んでおり。
「あら? やっぱり私じゃ不満かしら?」
「いや、それはそれで文句は無いのだが……それならやはり、この場で戦うなら“白兎パーカーの君”とがいいな!」
「へ? 俺?」
カグヤの誘いを断り、改めてムサシにハクトが指名される。
「俺はイナバハクトで、アリスリュウトじゃないよ?」
「うむ、それは分かった。しかし、ウサギパーカーの君は“縦横無尽に駆け巡る戦い”をするのだろう? その噂は聞いている。多少噂が混ざった認識になってしまっていたが、その戦い方にも私は興味ある。親近感が湧くからな!」
親近感? そんな疑問がハクトに浮かぶ。
が、それはそれとしてムサシがハクトに改めて向き直った。
「どうだろうか? 初めは勘違いだったかもしれないが、改めて君に勝負を挑みたくなった。失礼かもしれないが、この戦い受けてくれないだろうか?」
……ふむ。ハクトは一瞬悩んで。
「……いいよ。やろっか、勝負」
その提案を、受け入れた。
まだまだハクトはマテリアルブーツの試合経験が少ない。
もともと今は訓練の期間のつもりだった。実践を積めるなら、それに越したことは無い。
「っ! ありがとう! とても嬉しいな!」
「話は決まったッショ? それじゃあ、この公園の施設にもフリーバトルルームがあるから、そこで戦うのがいいッショ。……ところで、俺も見学していいかッショ?」
「ん? ああ、私は構わないが……この人は誰だ?」
そんな一幕もありながら、ハクト達は場所を移動し始めた。
こうしてムサシと名乗る少女との、予想外のフリーバトルが始まろうとしていた──
★
16歳
167cm
黒髪ポニーテール
混沌・善
Rank2
木刀を持っている少女。
元々剣士としてアリスに興味があって近づいていた。
しかし、それはそれとしてハクトの戦い方そのものにも興味があったため、勝負を挑んで来ることに。
実は方向音痴。
主な戦法は……