『それでは、表彰式を行いたいと思いまーす!! 選手の皆さんは、フィールドに出て来てください!』
決勝戦が終わってからその熱が冷める間も無く、実況のカラーのそのアナウンスが会場に鳴り響く。
参加者のチームが、ゾロゾロと平らに戻ったフィールドに並んで行った。
「いやー。白熱したわねー、ハクト君」
「いや本当、決勝戦どうなる事かと……」
「最後白兎、大活躍だったからなー。オレ達も頑張ったけど、トドメ要員としてだけど」
ハクトは一安心、と言った感じで一息ついていた。
決勝の最中は大いに熱く、盛り上がっていたが、冷静になると自分一人しか何とか出来る人材がいないなんて、絶望的にも程がある。
よくあそこから逆転出来たなと、ハクトは自分で自分に驚いていた。
「って、あれ? そういえばアリスは? 近くにいないけど」
「なんかちょっとお手洗いに行くって、席外してたわよ。けど、確かに遅いわね?」
「おいおい、表彰式もう始まっちまうってのに。しゃーねえ、俺達だけでも受けようぜ。後で自慢してやろう、戻ってこねえ方が悪い」
『はーい、それでは表彰です! まずは3位入賞チーム、レディ・オブ・シャークマンズ!! 前に出て来てくださーい!!』
「はい、分かりましたわ!」
「へーい」
「あ、ヒメノさん達だ」
「やっぱり、3位入賞に入ってたわね。まあ、あれだけ実力があったらねえ」
いつの間にか、3位決定戦もやっていたようで、しっかり入賞を果たしていたようだ。
優雅に髪をフサっと掻き上げながら、堂々と前に出て行っていた。
『はい、レディ・オブ・シャークマンズ! 3位入賞おめでとうございます! あとヒメノちゃん、私の会社のギアの使用感どうだった?』
「ありがとうございます。使用感については、ワタクシにとって最高でしたわ。それぞれのギアの使用感についての感想は、後ほどレポートとして提出しようかと」
「おお、真面目ねー! 大助かりよ、ありがとう〜!!」
そう言って、ヒメノとカラーは表彰式にもかかわらず、会話が盛り上がっていた。
それを聞いて、キテツはポツリと気づいたように言う。
「あれ? そういえば今回の大会って、商品でねえの? 前は3位の時、お米券だか出なかったっけ?」
「スポンサーが違って、今回は優勝者じゃないと商品が出ないらしいのよ。そこら辺、世知辛いわねー」
「と言うか、お米券だってあのカラーさんが勝手に追加したやつじゃ無かったっけ? 社長権限として……」
何だ、ちょっと残念だな。と、キテツは呟く。
ヒメノ達とは因縁があったとはいえ、彼女の活躍自体は何らかのご褒美があってもいいものと思っていたからだ。
まあ、その辺はあのカラーがいろいろやってくれるだろう。今もテストプレイヤーとして活躍しているそうだし。
『はい! お次は二位! キャット・タワーズでーす!! さあ、前に出て来てください!』
「よっしゃ! 行くッショ!」
そうして、今度は準優勝のMr.パルクールのチームが前に出ていった。
その顔は先ほど負けたばかりとは思えない、とても清々しいものだった。
『決勝戦、お疲れ様でしたー!! とっても白熱した試合で、すっごく楽しかったわ!』
「そう言ってくれて、ありがたいッショ!! 俺自身、今回の試合はすっごく得るものがあったッショ!!」
『これからもあなた達の活躍、期待してるわよ!!』
そうして、キャット・タワーズが表彰台から降りてくる。
すれ違いざま、Mr.パルクールが声をかけて来た。
「ムーンラビットチーム、最高に楽しかったッショ! そしてハクト選手、とっても熱い試合ありがとう!!」
「いやあ、こちらこそ」
「ところでハクト選手、渡したいものがあるッショ。はいこれ」
「ん? 何これ、チラシ?」
Mr.パルクールから、ハクトは一枚の紙を受け取る。
それは、“パルクール初心者講習”のチラシだった。
「俺達が開いているパルクールの体験が出来る講習会ッショ! 初回無料だから、是非興味があるなら来て欲しいっショ!」
「ちゃっかりしてるなあ……ありがとうございます。じゃあ、時間が出来れば」
「おう! 待ってるっショ! 今日はありがとう!」
そう言って、Mr.パルクール達は元の場所に戻って行った。
パルクールの体験か……今回の試合でちょっと相手の真似してみたけど、意外と使えたんだよなあ……
ふむ。ハクトはそう思考して……
『はーい!! それでは映えある第一位! 優勝、ムーンラビットチームでーす!!』
「あ、俺達か」
次の瞬間、ムーンラビットの名前が読み上げられた。
ハクトはチラシを丁寧に畳んだあと、輝夜達と一緒に表彰台に上がる。
『優勝おめでとう!! いやー、ソロ・トーナメントの時も思ったけど、とっても楽しかったわ! 優勝候補に恥じない活躍でした!!』
「ありがとうございます!」
「えへへ、照れちゃうわね」
『それでは今回の優勝商品として、“ギア専用の商品券10万円分”をプレゼント致しまーす!! ギア・ショップなら使えるから、戦力補充に使ってね!』
おお、これは結構嬉しい。ハクトはそう思った。
汎用性のギアだけでも、20~30万は普通にする。それを少しでも埋められるなら、学生としてはとても助かる。
『さて、ここまでは<ストーリー・スカイスクレーパーカップ>の司会者としての言葉です。そしてここからは、”カラフル・カンパニー”社長としての言葉ですが……』
「あれ?」
突然のその言葉に、ハクト達は疑問の声を上げる。
離れたところで見ていた解説の風雅も、こんな流れあったか? と思っていると……
『カラフル・カンパニーの社長として、ムーンラビットに提案です! あなた達、私の会社と“スポンサー契約”しない?』
「え!?」
「ええ!?」
「マジか!?」
「はあ!?」
ハクト達3人と、風雅も驚きの声を上げていた。
スポンサー契約。それは『企業がプロスポーツチーム、選手又はスポーツイベントなどに協賛し、金銭や物品等を提供する契約』の事。
そのお誘いを、会社の社長からムーンラビットは誘われているのだ。
会場中もザワザワとし出していた。
『もちろん、プロとしての正式な契約、とまではいかないわ。あなた達はまだ学生だからね。そうね……アナ達、今後もいくつかの大会とかに参加するつもりでしょう?』
「まあ、はい。そうですね?」
『けれど、大会ってこの都市だけでなく、全国各地であるわ。移動費や宿泊費だけでも大変。……そこで! ウチの会社が、ムーンラビットチームの“大会参加に関わる内容”に限り、それらの費用を“半額”受け持つわ!!』
「「本当ですか!?」」
「マジか!?」
カラー社長の言葉は、とても魅力的な話だった。
半額、とは言ったが、学生の身で全国各地に向かうことになる場合、かなりの費用となる。
それらを抑えてくれるなんて、かなりありがたい話だった。
「おいカラー!? そんな話を、こんな所でマイク越しにするなよ!? せめて後で個別の部屋に呼ぶとかさあ……」
『あら風雅さん? だってめんどくさいじゃない。この場で説明した方が、うちの会社の宣伝にもなるしー』
「この大会、主催者お前じゃないだろ!? あんまり勝手なことするなって話だよ! もう……」
風雅がカラーに注意を入れるが、あまり聞き耳を持たず。
風雅は頭を抱えながらも、ムーンラビットに向き直って話をする。
「まあ、それはそれとして。ムーンラビット、おめでとう。この話を受けるかどうかは、君たち自身で改めて考えるといい。この場にチームメンバー全員はいないようだし、残った一人ともよく相談した方がいいよ」
カラーにああ注意してはいたが、風雅はムーンラビットのスポンサー契約については、それほど文句自体は無かった。
「(ま。あのカラーの無茶振りな対戦相手表を乗り越えたんだ。ムーンラビットは期待以上の活躍で答えた。これくらいはカラーからのご褒美、と言ったところなんだろうな)」
「うおおー!! ムーンラビット、凄いっショ! スポンサー契約なんて!」
「ッく!! こんな事なら、何が何でも優勝してやりたかったですわ……!!」
Mr.パルクールやヒメノは、それぞれ自分のことのように喜んだり、逆に爪を噛んで思いっきり悔しんでいたりと、様々な反応だった。
それを見て、ハクト達は苦笑いをしている。
「ありがとうございます! よく考えて、決めて来ます!」
『返事はいつでもいいけど、なるはやでね〜。よし! それじゃあ、これで表彰式は終わります!! 解散!!』
こうして、ムーンラビットとしての初大会は、無事優勝で終わった。
これからも、このメンバーでムーンラビットの快進撃は続いていく。そう思っていた。
……そう、思っていた。
☆★☆
「──で、何の用かな?」
アリスは、大会の会場の廊下で、とある相手と対峙していた。
表彰式に向かう途中、こっそりアリスにだけ、ここに来るようにメッセージがあったのだ。
「──貴様に、伝えたい事がある」
その相手とは、二回戦でぶつかった【マジック連合】のリーダー。ダイリ隊長だった。
大会の最中以上に、真剣な表情でアリスに向かい合っている。
「何だい? 二回戦で負けた際の負け惜しみかい? それとも、仕返しで僕だけでもボコリに来たのかな? それなら、別にいいよ? 僕一人で相手しても」
「貴様の相手をするのは、この場ではない。そして、私だけでもない」
「はあ……?」
アリスは怪訝な表情をして……
「──“魔王四天王”の一人、ドッペル様からの伝言だ」
「────」
その言葉を聞いて、アリスから表情が、抜け落ちた。
「──魔王四天王、だって?」
そしてその直後、アリスから多大な殺気が、ダイリ隊長に向けられた。
言葉によっては、この場で殺す。
そう言ってるような鋭い殺気だった。
ダイリ隊長は冷や汗を掻きながらも、何とかメッセンジャーとしての役割を果たそうとする。
「“異世界にまで逃げて、君に平穏が訪れると思うなよ? 勇者さま?” と。確かに伝えたぞ」
「…………」
「近い未来、ドッペル様が貴様に接触するだろう。その時は、私も今日のリベンジを果たすとしよう」
今日のところは失礼する。ではな。
そう言って、ダイリ隊長は去っていた。
「────」
そこに残されたのは、殺気を抑えようとして抑えきれない、無表情となったアリスだけだった。
第二章 結成! ムーンラビット編 完