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第17話 パルクール

『さあ、屋上で逃げ出したハクト選手!! そこにMr.パルクールが単独で追走中だー!!』


「っ!! 追いかけて来た!? 二つ目の【脚力強化】を持ってたのか!!」


 ハクトは逃げながら、背後からMr.パルクールが接近して来ていることに気づく。

 HPグローブで相手チームの情報を確認したら、隠されていたMr.パルクールのスロット2の正体が判明していたのだ。

 おそらく狙いは、【インパクト】復帰前迄のトドメ。


「そうはさせない!! このまま逃げ切ってやる!!」


 今度の相手は、実質一人。これなら十分逃げ切れる勝算はあった。

 ましてや、Mr.パルクールのギア構成は全て割れた。

 リアクションギアもない事から、不意打ちを喰らう可能性は限りなく低い。

 真上を取られて、【落雷】をされることさえ気を付ければ十分だろう。


 ……いや、【インパクト】が付きてる今、ハクト自身落下したら復帰出来なくなる。


「いや、わざと先に地上に逃げるのも手か……? 上からの攻撃に気を付ければ全然……いや、ダメだ!! “あの事に気づかれたら、逆にヤバイ!! ”」


 ハクトは一つ、懸念事項があった。

 ハクトから持ちかけた、Mr.パルクール達へのスマブラ勝負。

 あれには、実は重大な欠陥がある。そこを突かれたら逆にチームの勝敗が決まってしまうだろう欠陥。


 さっきのパルスの行動には、実は肝を冷やされた。失敗はしていたが、“ある工夫”があれば十分成功されてしまっていただろう。

 だから予定通り、ビルの屋上を逃げまくった方がいい。あの方法に気づかれる前に。


「とりあえず、後1分弱このまま逃げ切れば……」


「よい、ッショおおおッ!!」

「おわあっ?!」


 そんな事を考察していると、急に背後から“蹴り”が飛んできた。

 Mr.パルクールがいつの間にか追いついていた!? 


「一体いつの間に……!? 移動速度はそんなに大差無いはずでしょ!」

「はっ! 舐めるんじゃねえっショ!! 本家本元のパルクールチーム相手に、屋上で鬼ごっこなんざお茶の子さいさいッショ!!」

「ック!!」


 ハクトは一瞬で周りを見渡し、状況を把握した。

 どうやら、工事現場中を再現したビルの屋上のようだった。

 足場の鉄骨や、工事用ロープ、クレーン車。鉄パイプなどがゴロゴロ転がっている。

 こんなところまで再現されてるのか……!? 


 その内の、鉄パイプ一つをパルクールは手に持って構えて来た。


「っ!? ちょ、それアリなの?!」

「フィールドに落ちてるものは何を使ってもいい! もちろん、武器にしても可能ッショ!」

『はーい、その通りでーす♪ そのために色々再現として道具ばらまいておいたんだから! いやー、使われずに終わっちゃうのかとちょっと焦っちゃったわー』

『たかがミニチュア模型に、いやに凝ってんなあ……』

「くっそ!! 手に持つのありなのかよ!!」


 それを聞いて、ハクトもとっさに落ちている鉄パイプを拾い上げる。

 しかし、剣術に自身があるわけでも無い。


「全く、ケンジ兄とチャンバラでやったくらいしか経験ないんだけどなあ!! ギア無し、“ラビット・スピン”!!」

「とか言いながら、とっさに回転して上手く使いこなしてるの、ハクト選手どうかしてるッショ!!」


 新技でその場で回転し、遠心力を利用してMr.パルクールに打撃を叩きこむハクト。

 それをガードし、強化した脚力を活かして、踏み込みの力強さで無理やり押し返すMr.パルクール。

 鉄パイプ同士の使い方は、Mr.パルクールに分があるようだ。


「う、うおっと?!」


 そして、押し返された力でバランスを崩したハクト。

 チャンス……かと思われたが、そこはハクト。Mr.パルクールは油断しなかった。

 体制を崩したフリをして足払いして来たハクト選手のそれを、冷静にMr.パルクールは回避する。


「やるうっ!!」

「そっちこそッショ! 【落雷】!!」

「おわあっ?!」


 ジャンプしながら回避した上、さりげなく大きく飛んで【落雷】の発動条件を満たしていた。

 それをギリギリで回避したハクトは、またその場から走り去って別のビルに移動しようとした。


 ハクトの視線の先には、別のビル。

 このビルとロープで繋がっており、間に宣伝用の垂れ幕が垂れ下がっていた。

 そのロープの上に沿って飛ぶように、勢いをつけてジャンプする。

 別のビルへー……


「させるかあっ!! これでも食らえ!!」


 そう言って、強化状態の脚力でシュートを放つMr.パルクール。

 蹴ったのは、工事現場のヘルメットだった。


「おごっ?!」


 空中で食らったハクトは、体制を崩して勢いが下がる。

 支えが無いと、バランスも何も無いのだ。


 そのままハクトは、ビルのビルの間で失速して落下する。

【インパクト】の無いハクトなら、空中で逃げられることもない。

 自由落下中に【落雷】をヒットさせれば、それで勝ちだ。

 これで決まる──! 


「お、あああ────っ!!!」


 そして、ハクトは──ビルの合間のロープに、ローラースケートで着地した。


 “そしてそのままロープの上を滑り出した。”


『……は?』

「はあああアアアアアッ?!!」

『あっはははははッ?!! これは驚きです! ハクト選手、【インラインスケート】の状態のまま、ロープの上をすべっております!! 何あれ、サーカス?! あっハハハハ!!』

「そんなんありッショか?!」


 Mr.パルクールは思わずそう叫んでしまっていた。あんなのパルクールの達人でも出来っこねえよ。

 いや、レールバランスって技はあるけど、インラインスケート越しはやった事ねえッショ。

 しかし、そんなことに驚いている暇は無い!! 

 またハクトは別のビルに無事に逃げてしまった!! 


「くっそ!! 逃さねえっショ!!」


 Mr.パルクールは、再度その場を飛び出して追いかけた……


 ☆★☆


「さ、さっきのはヤバかった……終わったかと思った……」


 ハクトは心臓をおさえ、ドキドキしながら呟いていた。

 さっきの攻撃で落下してたら、追撃されて本当に終わっていた。

 まさかとっさにやったロープの上を滑ることが出来るとは……明らかに【バランサー】のおかげだった。ガチで凄え。


「とりあえず、このまま再度逃げればいいんだけど……」


 けれど、さっきあっさり追いつかれたのが気になる。

 屋上を滑りながら、ハクトはチラチラ背後を確認していた。

 Mr.パルクールがどうやってハクトに追い付いたのか、よく観察しようとして。


「っふ、よっ、はあっ!!」


「っ!! 段差とかを、殆どロスなく飛び越えて行ってる……!!」


 そう、Mr.パルクールが追い付けたのは単純な話、ハクトが引っかかるような障害物を難なく乗り越えて行ってるからだった。

 ハクトは滑りをする都合上、比較的物の少ない平らな道を選んで逃げて行った。

 対してパルクールは、ハクトと直線上のルートを段差を物ともせず一直線に向かって来ていた。


 ハクトは知らない技だったが、

 ・PKロール(着地)

 ・ヴォルト(乗り越える)

 ・クライムアップ(登る)

 ・ウォールラン(壁走り)

 ・プレシジョン(飛ぶ)

 などなど、様々なパルクール専門技術を用いてハクトを追いかけて行ったのだ。

 その差が大きく現れたのが、ハクトに追い付いた結果だったのだ。


「なんだあの動き!? 色々滑らかに乗り越えて動いてる!!」


 ハクトはすごく驚いていた。Mr.パルクールが使っているあの動き。

 あれほどスムーズに障害物を乗り越えていくとは……

 ハクトはその動きに思わず逃げながらも身惚れてしまい……


「っとと! このままじゃ追いつかれる! 一旦作戦変更だ!」


 ハクトは意識を切り替えて、作戦を考え直す。

 このまま逃げ続けても、また追いつかれる。


 その前に、少し賭けになるが……先に、あっちを対処しよう。

 そう考えて、ハクトは逃げる先をある地点に決定した……



 ☆★☆



「あー、暇だー。リーダーが追いかけて行ったけど、俺はいけないからここで留守番。チャージされるまであと40秒くらいか? 意外と長いんだよなー……」

「見つけたあああー!!」

「って、ハクト選手?!」


 元のビルに戻ったら、屋上にパルスがボーッと立っていた。

 まだギアは復活していない!! 

 落とすなら今がチャンスだ!! 


 ハクトは隣のビルから飛び上がりながら、パルスのいるビルに着地する。


「このまま、“ラビット・スピン!! ”」

「うおおッ?!」


 ビルから直線的に飛んできた着地のスピードを、そのまま回転力に変更。

 これで準備は整った! 


「や、やられてたまるか!! あと15秒くらいなんだ! 逃げ切ってやる!」

「待てえっ!!」


 そう言って、パルスは【脚力強化】が無い状態ながらも、その場から逃げ出した。

 その先は、屋上から階段の入り口のある箱上の部分だった。

 階段で逃げるつもり!? 無駄だ、扉は開かない!! 


 そう思って、パルスに全力で追いかけたハクトは……


「──かかったな!?」

「っ?!」


 ふと、パルスは壁を切って大きくバク転して、ハクトを飛び越えた。

 パルクールの技、“ウォールフリップ”と呼ばれる技だった。


「そのまま壁に衝突して、自滅しろ!!」


 そうパルスは叫んで、ハクトは──


 ☆★☆


 ──Mr.パルクールは見た。

 隣のビルにやっと戻って来て、そこからパルス達のいたビルの上を見ることができたのだ。

 そこで今まさに、ハクトが壁に衝突しそうな場面を。


 加速状態の【インラインスケート】であれは間違いなく激突する。

 そうすれば、大きな隙となり、追撃を食らわせて大ダメージを与えることが出来る。

 そう思った。思っていた。



「っは、あああッ!!!」


 だが、ハクトは。

 スケート靴のまま──壁を蹴り、バク転して。


「は?!」

「らああッ!!!」

「げふううう?!」


 そのままの勢いで、パルスを蹴ったのだった。


「……は?」


 ……今起こった光景を、Mr.パルクールはすぐには信じられなかった。

 ハクトが反撃をしたこと、では無い。

 ハクトが、壁を蹴ったあの行為……あれはまさしく、“ウォールフリップ”、パルクールの技の一つだった。


「(なんで……ハクト選手があの技を使えたッショ? パルクールの経験者……ってわけでも無いはず)」


 見ると、それだけでは無かった。

 その場で屋上を逃げ続けるパルスは、段差をクライムアップ(登る)で、壁ギリギリをウォールラン(壁走り)で。また、ギリギリ隣のビルが近い箇所でプレシジョン(飛ぶ)で。

 そうやって、様々なパルクールの技でなんとか逃げようとしていた。


 ──それを、ハクトは真似していた。

段差をクライムアップ(登る)で、壁ギリギリをウォールラン(壁走り)で。また、ギリギリ隣のビルが近い箇所でプレシジョン(飛ぶ)で


 パルスの動きを、“パルクール”の動きを。ハクトは使っていたのだった。


「(……っ!! おい、おいおい! 何やってる、何やってるんだよ俺!!)」


 Mr.パルクールは口元を押さえ……


「(試合中だぞ!? “笑ってるんじゃねえよ俺!! ”)」


 パルクールの普及。それがまた一つ、広がった事を自覚しながら。

 心の底で、湧き上がる喜びを必死に押さえながら。

 Mr.パルクールは、目の前の光景に集中する。


 ……あの様子だと、パルスが落とされるのは時間の問題だろう。

 俺が加勢すれば、ギリギリ間に合うかもしれないが……


「……悪いな、パルス」


 Mr.パルクールは、チームメイトに静かに謝る。

 白戸から持ちかけられた勝負のルール。欠点があることに気付いていた。


 そこを利用させてもらうつもりだった。そのために、パルスには囮になってもらう。

 最初に使うのは憚れたが、やられそうになってる今なら使うのも仕方ないだろう。


「ハクト選手、パルクールの技使ってくれたのは嬉しいっショ。嬉しいけど……勝つのは、俺たちだ」


 そう決意を固めて、タイミングを見計っていたのだった……



 ☆★☆


「“ラビット・スピン!! ” からの、ダッシュ!! たああッ!!」

「うおあああ!?」


 ハクトは、“ラビット・スピン”の回転速度を全て移動速度に変換し、パルスに向かって突進した。

 そしてその勢いのまま、パルスを抱えて滑り込んで、屋上の端っこへ。


「そのまま、落ちろおおおッ!! ぺえいッ!!」

「ああああああぁぁぁぁ──ッ?!!」


 そしてそこからパルスを放り投げて、地上へ落下させた。

 あとはカグヤ達が3人目の処理もしてくれるだろう。


 これでキャットタワーズ、3人が片付いた!! 


『キャットタワーズ・3人目が落ちたー!! 3人目に向かってムーンラビットの攻撃が相変わらず集中しています!!』

『あの状況から、よくここまで持ち直したな!? 普通に凄え!?』


「あとは、Mr.パルクールのみ!! このまま、また逃げて……」

「【落雷】!!」

「っ!? あっぶな!?」


 投げ落とした直後の隙を狙われて、ハクトにトドメを刺そうといつの間にか真上に飛ばれていた。

 それをギリギリで気付いて、ハクトはとっさに避けることができた。


「ッチ! 避けられたッショ!」

「あ、危なかった……けど、今のを回避出来たのは大きい!」


 ハクトは状況が自分に有利になって来たのを感じ取っていた。

 あとはMr.パルクールに集中するのみ、1対1なら十分攻撃を避ける自信はある。

 あとは【インパクト】復帰まで、あと10数秒!! 

 そこまで耐えれば、あと一人落とす自信はいくらでもある! 


 そう思っていると、頭をポリポリ搔きながら、Mr.パルクールが……


「あー、実はもう無理にハクト選手に攻撃当てる必要はなくなったッショ」

「……は?」

「──もう、勝負に乗らなくてもいい状態になったからッショ」

「──ッ!?」


 その言葉とともに、Mr.パルクールは走り出す。

 そしてハクトを無視して、ビルとビルの間に飛び上がった! 


「しまった!? 気づかれた?!」

「その通りッショ!! “下の3人を先に倒せば、それだけで勝ち!! ” パルスの言ってた事は合ってた!! ただ、タイミングが必要だっただけッショ!!」


 そう、ハクトの懸念事項はMr.パルクールも気づいていた。

 下の3人を先に倒せば勝ち、しかし警戒している下の3人には、単発の【落雷】程度では簡単に避けられる。


 ではどうするか? 


 ──1人を囮に、ボコボコに集中している3人を、範囲攻撃でなぎ払う


 これが正解のルートだった。

 今、下の3人は落ちて来たパルスの処理に手一杯だろう。

 そこに、真上からの別の【落雷】……しかも範囲攻撃に強化したものを避ける余裕は無いはず。

 そしてこれは、初見であればあるほど避けようが無い攻撃!! 


 このことに気付いた時、無傷のパルスを突き落とすのもなんかあれだったし、味方を簡単に囮にするのも勝ち方的にどうかと思っていた。

 しかしすでに、パルスは突き落とされてしまっている。

 それなら遠慮なくパルスごと全員【落雷】でなぎ払ってやろう、そう開き直っていた。


「スロット──」

「させるか!! スロット1! 《R》【クイック、アトラクト】!!」


 ハクトはビルの合間にいるMr.パルクールに向かって、そう宣言した。

 引き寄せのギア、最後のエネルギー。

 確かにそれを使えば、Mr.パルクールを引き寄せて、攻撃を失敗させることが出来る。

 しかもMr.パルクールは、【落雷】をすでに2回ハクトに向かって放っている。

 3回目を失敗した時点で、CTに入り90秒間再使用不可。下にいるカグヤ達はその間安全となる。

 まあ──


「──3。【サモン・ブロック】」


 発動したのが【落雷】だったらの話だったが。


「っ!?」

「【サモン・ブロック】は空中にも召喚出来るッショ。そして……」


 召喚場所は、“Mr.パルクールの足元”。空中に、“巨大な質量”が現れた。

 その後、Mr.パルクールはそれを足場にして──“真上に飛んだ”。


『く、“空中でブロックを使った二段ジャンプ”ー!?』

『あの男、この土壇場まであんな回避方法隠してたのかよ!?』


 実は、普通の人間でも二段ジャンプは理論上出来る。

 自分より質量のある重い物体と一緒に飛び上がり、頂点に至った時、質量が重い方を押しのけて自分が飛び上がればいい。

 これをMr.パルクールは実践したのだ。最後の、ハクト選手のリアクションギアを避けるために。


「これでハクト選手に俺を邪魔する手段は無くなった。これでトドメッショ」


 高く飛び上がったMr.パルクールは、今度こそ本命のギアを発動しようとする。

 ブロックから飛び上がる際、微妙に位置をずらしてブロックに当たらないように。

 広範囲の雷を──


「スロット4、【落雷】──待て、“なんでハクト選手そこにいる”ッショ?」


 Mr.パルクールは、気付いた。

 いつの間にか自分の召喚したブロックの上に、ハクト選手が飛んできていたことを。

 何故だ? その位置からだと、いくらスケート靴でも俺みたいに垂直に飛ぶ事は出来ない。

《R》【クイック・アトラクト】を使い切った以上、距離の離れたMr.パルクールに影響のあるギアはない。

【インパクト】も戻ったわけじゃない。


 何も出来ないのに、何故──? 


「──まだ、残ってる」


 そうして、ハクトは片足を振り上げ──


「スロット“4”、《R》【クイック・アトラクト】!!」


 “本当の2発目”を、Mr.パルクールに向けて放ったのだった。


「は──ッ?!!!」


 発射態勢に至っていた、Mr.パルクールはもはや動けない。

 回避用のギアを持ってるわけでもない彼は、そのままハクト選手に引き寄せられた。


「(なんで……!? 確かにさっき、2発目を……!?)」


 ──「させるか!! スロット“1”! 《R》【クイック、アトラクト】!!」


「あ、あ、あああああッ?!! “スロット、番号”……!?」


 ハクトのスロット1は、【バランサー】だった。《R》【クイック・アトラクト】じゃない。

 わざと番号を間違えて、そもそも発動自体をしていなかったのだ。

 カグヤの【フェイク•アクション】を参考にした技術だった。

 何故そうしたのか……昔からケンジに“敵味方問わず、勝ちを確信したその時こそ何かあると思っとけ”と口酸っぱく聞かされていたことも理由だが。

 それとは別に、ハクトは無意識に信じていた。Mr.パルクールなら、また別のパルクールの技か何かで回避してくるんじゃないだろうかって。


 その無根拠の信頼が、ハクトを助ける形となった。 



 そして……


 ガシッ!! 


「発射口、完全に塞いだらどうなるかな!?」

「おまっ?! やめ──ッ?!」


 直後、【落雷】が発動し──発射口を塞いでいたハクトが、全部雷を引き受けた。


「かッはあ……ッ?!」


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 プレイヤー1:ハクト

 HP:141 → 0/1000

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 完全な自滅による脱落。

 ハクトは、倒せた。だが……


「雷が、全部潰された……!!」


「……勝負は、こっちの負け」


 落下しながら、ハクトは力強く宣言する。


「──試合は、勝ちだ!!!」


 すでにブロックも一緒に落下している。

 もう一度ジャンプして屋上に戻るのも手遅れだった……


 ドゴシャアアアッ!! と、ブロック毎ハクト、Mr.パルクールが地面に衝突する!! 


「かはあッ?!!」


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 プレイヤー5:Mr.パルクール

 HP:1000 → 948/1000

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 落下ダメージをくらい、初のダメージとなる。

 隣でハクトも倒れているが、すでにフィールド側の機能でバリアを貼られている。

 命に別状は無いだろう。


「ま、まだッショ!! 【脚力強化】がまだ残ってる! それにパルスがまだ耐えている筈、今のうちに上に戻れれば……」


「「戻れれば、なんだって?」」

「かしら?」

「────っ」


「す、すまねえ……」


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 プレイヤー8:パルス

 HP:1000 →→→ 0/1000

 ==============


「……ははっ、倒すの早すぎっショ」


 Mr.パルクールは、その場で空笑いをする。

 とっくに、パルスは片付けられていたのだ。

 ハクト選手の頼れる仲間達が、まさに今目の前に勢揃いしていた。


「ふう……あーあ」


 Mr.パルクールは、ビルの合間から見える空を見上げて一言。


「──めっちゃ楽しかったッショ!!」


 それが試合中、彼が最後に発した言葉となったのだった。


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 プレイヤー5:Mr.パルクール

 HP:948 →→→ 0/1000

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 バトル・フィニッシュ! 

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 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:7分32秒

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 ==============

 キャット・タワーズ 全メンバー全滅! 


 よって勝者 ムーンラビット! 

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 こうして、一人の白兎による勝負の行方は、白兎は負けたが、試合には勝ったのだった。




 ★因幡白兎イナバハクト


 主人公。

 白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。


 勝負は負けた。試合は勝った。


 ★卯月輝夜ウヅキカグヤ

 ★有栖流斗アリスリュウト

 ★浦島亀鉄ウラシマキテツ


 フィールドの下できっちり仕事を果たした。



 ★チーム:キャット・タワーズ

 パルクール集団。

 全員がほぼ共通のギア構成をしている。

 例外なのはリーダーだけ。



 ★Mr.パルクール

 本名、猫山飛尾ねこやまとびお

 パルクールの天才。

 チームリーダー。


 やれることは精一杯やった。負けた悔しさより、試合中の喜びの方が大きかったのが致命的だったかもしれない。

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