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バトルルール:殲滅戦
残りタイム:9分20秒
プレイヤー1:ハクト
HP:153/1000
スロット1:バランサー (★常時適応中★)
スロット2:インパクト (残りE:0/10 残りCT:3/3)
スロット3:インラインスケート (残りE: 5/5)
スロット4:《R》クイック・アトラクト (残りE: 1/2)
プレイヤー2:カグヤ
HP:51/1000
(省略)
プレイヤー3:アリス
HP:808/1000
(省略)
プレイヤー4:キテツ
HP:151/1000
(省略)
VS
プレイヤー5:Mr.パルクール
残HP:1000/1000
rank:2
スロット1:脚力強化 (残りE:1/3) (★適応中)
スロット2:────
スロット3:サモン・ブロック (残りE:3/3)
スロット4:落雷 (残りE:3/3)
プレイヤー6:パルワ
HP:0/1000
(省略)
プレイヤー7:パルツ
残HP:1000 → 0/1000
(省略)
プレイヤー8:パルス
残HP:1000/1000
rank:2
スロット1:脚力強化 (残りE:1/3) (★適応中)
スロット2:サンダー・ロングソード(残りE:1/3)(★適応中)
スロット3:エマージェンシー・エスケープ(残りE:1/1 残りCT:0/3)
スロット4:落雷 (残りE:3/3 残りCT:0/3)
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「(──俺には、夢があるッショ)」
Mr.パルクールは、ふと思い返していた。
自分がマテリアル・ブーツの大会に参加した理由を。
それは、パルクールという競技自体を、もっと流行らす事。
建物の上を、縦横無尽に駆け抜けていくスポーツ。自分の大好きなこれを、もっともっと多くの人に知って貰いたい。
だから、パルクールチームを作り、ネットで配信したりして、パルクール自体の知名度向上を目指している。
もちろん、マナーは守っている。ちゃんと走る予定のコースの建物の管理人に許可を貰ったりと、事前の根回しはキチンとしている。
……しかし、パルクールという行為自体が危険と言う事は否定出来ない。
高所を走ると言う都合上、落下や衝突の危険性は避けては通れないからだ。
大怪我をしては元も子もない。だから人気が出ても、実際にやるプレイヤーの数はそれほど増えないだろう。……そんな諦めも、何処かあった。
──そこに来た、マテリアル・ブーツ。
正確には、そのHPグローブの性能が、Mr.パルクールにとっては衝撃だった。
高所からの落下や衝突のダメージを、肩代わりしてくれる存在。
しかも、ギアによっては脚力強化もしてくれて、ジャンプ力アップになってくれるステキ仕様。
自分以外の新規参入者に、安全にパルクールという行為を楽しんでもらうのに、これ以上無いくらいぴったりな装備品だった。
このことに気づいたMr.パルクールは、早速パルクールにマテリアル・ブーツを導入して試そうと決意。
まだ低ランクの為、街中で試す事はまだ出来ていないが、特定施設で実際に使ってみたところ、軽い運動だけでも安全性が高められる事を実感していた。
これをパルクールに導入出来たら、絶対流行る……!
その確信を得ていた。
だからMr.パルクールは、まずはRank3を目指すことにした。
そこまであげたら、街中で自由にギアを使える許可を得たも同然だからだ。
チームメンバーと組んで、大会に参加したのもそれが理由だった。
また、チームとしてマテリアル・ブーツの大会で有名になればなるほど、それはそれでパルクールの宣伝になると思った為、都合が良かったのだ。
──そんなこんなで、パルクールとマテリアル・ブーツの二足ワラジを続けていたところ、とあるプレイヤーの存在が目に入る。
因幡ハクトだ。
最近新規参入したプレイヤー、デビュー戦での快進撃。
何より、決勝戦での空を自由に跳んだ空中移動!!
ある意味、子供の夢を詰め込んだかのような動きに、Mr.パルクールはそれはもう驚いた。
何より、あの動きはパルクールに活かす事ができそうだ。そう思った。
【インパクト】を使った空中移動。高所を移動するパルクールに合わせたら丁度良さそうだった。
しかし自分含め、メンバーは上手く衝撃移動の先をコントロールしきれなかった。
そこで、《R》【エマージェンシー・エスケープ】の出番だった。
【インパクト】と違って単発だが、プレイヤーの意思で衝撃方向をコントロールする事ができた。
このことに気づいた後、これを買えるだけ購入して、連続4段回ジャンプを試したのはつい最近の事だった。
擬似的な再現のそれに、ネットの動画でプチバズりもした。
また少し、パルクールの知名度に役立ったのだ。
そんな新たな楽しさを教えてくれたプレイヤーが、今大会の決勝戦の相手となっている。
これほど熱くなる展開はそうそう無い。
しかし、尊敬する相手とは言え、相手はまだ子供で、こっちは大人だ。
それにプレイヤー歴自体はこっちの方が長い。
大会のバトルステージにも恵まれた。決勝戦でこれほど自分たちにとって有利なステージもないだろう。
はっきり言って、全体的に運が良すぎた。
だからこそ、思ったより一方的な試合となり、少し残念ながらもハクト選手にとどめをさして、チームとして敗北させようとした。
「(──それが、今はどうッショ)」
まず、パルワが落とされた。
そこまでは良い、残る3人がかりで、手間取りながらも追い込めた。
しかし、追い詰めたと思ったら……
「(なんだあの高速回転!? ビックリッショ!?)」
ハクト選手のローラースケート靴を履いた状態の、高速回転。
あんな回転、普通維持できる筈がない、ましてや移動のコントロールなど。
Mr.パルクールですら、同じ事は無理だとサジを投げる。
それがどうだ、ハクト選手はあの回転を完璧にコントロールし、移動し、速度に変換させて今度はパルツも落としてしまった。
あの動きは、動画でも今大会中でも見たことが無い。完全な、新規技だった。
あっという間に、自分含め残り二人……
全く……
「(っぱりスゲエ! ハクト選手、サイコーすぎるッショ!!)」
伊達にMr.パルクールがファンになった相手なだけはある。
改めてそう実感していた。
まだまだ、勝負はここからだ──
☆★☆
「ギア無し!! “ラビット・スピン”!!」
「またあの回転だ!?」
「いや、今度は【インパクト】が無いっしょ! 回転速度はそこまでじゃ無い!」
Mr.パルクールはパルスにそう言い聞かせた。
先ほどはパルツが落とされてしまったが、あれは人一人吹っ飛ぶ衝撃を、全て回転速度に使ったからだ。
自力でのその場での回転だと、そこまで速度は出ないだろう。
しかしそれを考慮しても、ハクトの回転はとてもキレイだった。
自力のみでの回転とは言え、スケートのトリプルアクセル程度の回転速度を維持していた。
先ほどより移動速度は無くとも、この狭い屋上で逃げ続けるだけなら十分な速度だ。
「どうする!? このまま攻めるか!?」
「それは……」
Mr.パルクールは、一瞬悩んだ。
確かに、【インパクト】は切れている。今が攻め時だ。
しかし、新技を習得したハクト選手相手に攻め切れるかどうか。
それに……
「こっちも【脚力強化】のエネルギー、残り少ないッショ!!」
そう、ここまで節約しながら使ってきていたが、キャット・タワーズの共通ギア、【脚力強化】も残りエネルギーが少ない。
パルスの【サンダー・ロングソード】もだ。せいぜい後15秒程だろう。
そして他の共通ギアである【落雷】。
実はこれ、自分未満の高さにしかダメージを与えられない都合上、何も無い場所だと自力のジャンプ力が必須なギアでもある。
その比較的厳しい条件によって高めの攻撃力と残弾数が保証されていたのだが、流石に強化のない素のジャンプだと当たり判定すら出ない。
つまり、このままだとハクト選手に対する攻撃ギアが無くなってしまう。
ハクトは【インラインスケート】を起動したばかり。
あの機動力を考えると、【脚力強化】無しでハクト選手にダメージを与えるのは至難だろう。
“Mr.パルクールはともかく”、パルスを一旦下げるべきか……
「(いや、弱気になるなッショ!! 【インパクト】が切れてる今が最大のチャンスなのは変わらないッショ!!)」
そうだ、新技に面食らったが、どのみち空中移動を再度されるようになったらキツい。
やるなら今、短期決戦を仕掛けるべきだ。
そう決意して、パルスに伝えようと……
「……ところで、俺、思ったんだけどさあ」
「ッショ?」
「……別に、ハクト選手相手にする必要なくね?」
「は?」
「──先に、下の奴ら全滅させちゃえば、どの道終わるよなあ!!」
「いや、ちょ?!」
そう言って、パルスはMr.パルクールが止める暇もなく、ビルの外に全力ジャンプした。
その真下には、ムーンラビットチーム3人の姿が!!
「はっはあ!! 【落雷】!! どの道下のダメージ稼ぐ奴らがいなくなった時点で、こっちの勝ちは確定だ!! 最初からこうすりゃ良かったんだよ!!」
「バッカッ?! それ“悪手”ッショ?!」
そうしてMr.パルクールの制止も振り切って放たれた、【落雷】は……
「ふっ!」
「よっ!」
「はあっ!!」
……簡単に地上の3人に躱されていた。
「……あり?」
「地上で真上から降ってくる俺たちをずっと確認して警戒してるだろッショ!? そんな状態で単発の【落雷】が当たるわけねーッショがあああッ!??」
空中で疑問の声を上げるパルスに、Mr.パルクールのツッコミが鳴り響く。
不意打ちや連携攻撃でも無い限り、地上の3人にトドメはさせない。
そして、そんな隙を晒しているパルスに対して、ハクトは容赦しない。
十分な回転速度を全て移動速度に変更し、ハクトも空中に飛び出して……
「落ちろおおおッ!!」
「げふうッ?!」
空中でパンチして、パルスを叩き落としていた。
正直そこまでダメージはないが、体勢を崩させるには十分だった。
そのままパルスは落下──
「するかあ!? 《R》【エマージェンシー・エスケープ】ッ!!」
かと思われたが、とっさに復帰用のギアを発揮。
パルツと違って、今度こそパルスは復帰を完了出来た。
「(いや……? てっきりハクト選手にさっきの引き寄せのギアで、また落とされるかと思ったッショ)」
そうだ、さっきパルツを追撃したように、《R》【クイック・アトラクト】を使って再度引き寄せてから落とせば、3人目は落せたはずだ。
一体どうして……
その疑問は、すぐに晴れた。
「よっとッ」
シャー……←インラインスケートで遠ざかっていく音。
「──逃げた?!」
実はハクト、パルスを殴った後、衝撃を殺さずそのまま飛んで別のビルの屋上に着地していた。
《R》【クイック・アトラクト】を使ったのは、単純な話射程が足りなかったからだ。
パルスは元のビルに着地、ハクトは別ビルに着地したから距離が離れすぎていた。
そしてそのハクトは、更に別ビルへと飛んで行こうとしている。
【インパクト】が回復し切るまで逃げる気だ!?
「くそっ!? ハクト選手逃げた!! 急いで追いかけて……」
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プレイヤー5:Mr.パルクール
スロット1:脚力強化 (残りE:1 → 0/3 残りCT:3/3)
プレイヤー8:パルス
スロット1:脚力強化 (残りE:1 → 0/3 残りCT:3/3)
スロット2:サンダー・ロングソード(残りE:1 → 0/3 残りCT:3/3)
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「って、ダメだリーダー!? 【脚力強化】今切れた!?」
「ッチ、ッショ!!」
これでキャット・タワーズは移動力が大幅減。
ジャンプ力も足りない為、自由にビルを飛び回る事は出来なくなった。
これで、ハクトを追う手段は無くなった──
「──まだッショ!!」
かに思われたが、Mr.パルクールは叫ぶ。
最後に残していたギア……
「スロット2!! バフギア!! 【脚力強化】ッショ!!」
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プレイヤー5:Mr.パルクール
スロット1:脚力強化 (残りE:0/3 残りCT:3/3)
スロット2:脚力強化 (残りE:3/3) (★適応中)
スロット3:サモン・ブロック (残りE:3/3)
スロット4:落雷 (残りE:3/3)
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二つ目の、【脚力強化】。これがMr.パルクールのとっておきだった。
エネルギーが切れて、追撃が無いと思い込んだハクトに対して、不意打ちで継戦能力を見せつけるつもりだったが、この際仕方がない。
もはや残りメンバー二人で、ハクトに対抗する手段は限られている。
しかも【インパクト】が回復するのは、パルスの主要ギア3つより先だ。
あの動きを二人の時にやられたら、あっという間に全員落とされてしまう。
「パルスはここに残ってるッショ!! 俺が追いかける!!」
「リーダー!?」
もうここからは、時間との勝負だった。
ハクト選手が【インパクト】が復帰するまで1分強。
それまでに、ハクト選手にとどめをさせなければ大幅不利。
例え実質動けるのが一人でも、ここで攻めに行かなくてはいけないのだ。
それに……
「ビルの屋上!! こんな絶好なロケーションで、俺Mr.パルクールに敵うとでも思ってんのかッショ!!」
そう、自分の得意分野の状況。
この状況で、強気にいかなくてはMr.パルクールの名が廃る──!!
「さあ、追いかけっこッショ、ハクト選手!! このMr.パルクールから逃げ切れると思うなよ!!」
その掛け声とともに、Mr.パルクールは今までいた屋上から飛び出して行った……
★因幡白兎イナバハクト
主人公。
白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。
逃走開始。戦略的撤退中。
★卯月輝夜ウヅキカグヤ
★有栖流斗アリスリュウト
★浦島亀鉄ウラシマキテツ
フィールドの下で待機中。
★チーム:キャット・タワーズ
パルクール集団。
全員がほぼ共通のギア構成をしている。
例外なのはリーダーだけ。
★Mr.パルクール
本名、猫山飛尾ねこやまとびお
パルクールの天才。
チームリーダー。
念の為に、バフギアは二重に積んでいた。本職の本領発揮だ。