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第15話 いつもより回っております

 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:10分30秒


 プレイヤー1:ハクト

 HP:153/1000

 スロット1:バランサー  (★常時適応中★) 

 スロット2:インパクト  (残りE:5/10)

 スロット3:インラインスケート (残りE: 5/5)(■非公開)

 スロット4:《R》クイック・アトラクト (残りE: 2/2)(■非公開)


 プレイヤー2:カグヤ

 HP:51/1000

 rank:2

 スロット1:ファイアボール (残りE:0/10 残りCT:0/3)

 スロット2:《R》アクセル・アクション(残りE:1/3)

 スロット3:ヒートライン (残りE:1/2 残りCT:0/3)

 スロット4:《R》バンブープリズン (残りE:3/3)(■非公開)


 プレイヤー3:アリス

 HP:808/1000

 rank:2

 スロット1:ショートソード (残りE:3/3)

 スロット2:ロングソード・ハード (残りE:3/3)

 スロット3:《R》カウンター・アタック (残りE:3/3)(■非公開)

 スロット4:二連斬 (残りE:5/5)(■非公開)


 プレイヤー4:キテツ

 HP:151/1000

 rank:2

 スロット1:メタルボディ   (残りE: 2/3)

 スロット2:ハイパー・パワー・バフ (残りE: 2/3)(■非公開)

 スロット3:フォートレス (残りE: 2/3)

 スロット4:反応装甲 (残りE: 3/3)(■非公開)


 VS


 プレイヤー5:Mr.パルクール

 HP:1000/1000

 rank:2

 スロット1:脚力強化 (残りE:3/3) (★適応中)

 スロット2:────

 スロット3:サモン・ブロック (残りE:3/3)

 スロット4:落雷 (残りE:3/3)


 プレイヤー6:パルワ

 HP:0/1000


 プレイヤー7:パルツ

 HP:1000/1000

 rank:2

 スロット1:脚力強化 (残りE:3/3) (★適応中)

 スロット2:サンダー・ロングソード(残りE:3/3)(★適応中)

 スロット3:エマージェンシー・エスケープ(残りE:1/1 残りCT:0/3)

 スロット4:落雷 (残りE:3/3 残りCT:0/3)


 プレイヤー8:パルス

 HP:1000/1000

 rank:2

 スロット1:脚力強化 (残りE:3/3) (★適応中)

 スロット2:サンダー・ロングソード(残りE:3/3)(★適応中)

 スロット3:エマージェンシー・エスケープ(残りE:1/1 残りCT:0/3)

 スロット4:落雷 (残りE:3/3 残りCT:0/3)

 ==============


「落ちろ!! 【インパクト】ッ!!」

「当たらないっショ!!」

「ック! やっぱりただの素撃ちじゃ当たらないか!!」


 Mr.パルクールに放ったギアを回避され、ハクトは舌打ちをつく。

 これで【インパクト】は残り4発。無駄打ちができない状況にも関わらず、一発失敗してしまった。


「おらあっ!!」

「食らえっ!!」

「おわっと!?」


 パルツ、パルスの連携攻撃が来る。

 雷の剣を携えたその蹴りは、一回でもクリーンヒットしたらほぼそこで試合終了だろう。

 ハクトは体勢を崩しながらも、なんとか回避する。


 けれど、その崩した体勢を見逃すほど敵は甘く無い。


「隙あり! 貰った!!」

「ッ! 【インパクト】!!」

「おわあ!? カウンターしてきやがった!!」

「けど、回避出来たっショ!!」

「くそ!」


 体勢を崩した、と、見せかけてのギアのカウンター。

 狙いは良かったが、ギリギリ見抜かれてしまい外してしまった。


 そのままハクトに攻撃が飛んでくるが、ハクトは再度【インパクト】を発動。

 今度は自身を浮かび上がらせて、一旦その場から離脱。

 仕切り直しの状態にした。

 しかし……


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 HP:153/1000

 スロット2:インパクト  (残りE:5 → 2/10)

 ==============


「これで【インパクト】は残り2回! 追い詰めたッショ!!」

「くっそう!! キツい……!!」


 ハクトは大分追い込まれていた。

 攻撃は回避し続けているが、肝心の敵の場外落しが出来ていない。

 あっという間に、貴重な【インパクト】が3発も消費してしまっていた。


 しかも、相手には《R》【エマージェンシー・エスケープ】がある。

 あれは以前、ショップの映像配信で見た覚えがあった。

 空中でハクトの【インパクト】みたいに一回だけ自由に移動出来るギア。


 というか、映像にあった擬似スカイラビット再現チームがこのキャット・タワーズだという事に今ハクトは気づいた!! 


 これでは、一回落とそうとしただけでは復帰される! 

 最低でも追撃用の“クイック・ラビット”がいるのに、残り2発だと自身の復帰分が逆に足りない!! 


 このままでは、【インパクト】無しで3人分の攻撃を1分半回避し続ける必要があるが……! 

 そんな実力も自信も、今のハクトには無かった。


「さあ、覚悟するッショ! ハクト選手!!」

「ック!!」


 ハクトは苦虫を潰した様な顔をして……



 ☆★☆



 ──それは、数日前の事。


「ハクト。お前、“ギアに頼らなさすぎ”」


 ハクトは自分の兄、ケンジとの会話を思い出していた。

 ハクトがギアを使うようになってから、ブーツを使った模擬戦もするようになってから言われたその言葉。


「頼らなさすぎって、どう言う事? 俺、結構【インパクト】に依存してると思うんだけど……」


 ケンジの言葉の意味が分からなかった。

 ハクトの戦法は、今の所全て【インパクト】の衝撃を利用した戦法だ。

 蹴りの加速なり、砲撃なり、空の移動なり。全てギア依存だ。


 だから【インパクト】が無いとハクト自身一気に戦力ダウンとなってしまい、ギアに頼りきってると言われたら否定出来ない。

 けれど、自身の兄から言われた言葉は全くの真逆。ギアに頼っていないと言う評価だった。


「それもそうだが、どちらかと言うと【バランサー】の方だな。あと、他のギア……例えば、【インラインスケート】とかも」

「えー。けど、【バランサー】も空中制御に使ってるよ? あと、【インラインスケート】もあれ、ただ移動速度アップってだけじゃ無い? 頼るも何も、それくらいで……」


「そうだな。けどハクト、“お前根本的にギアを信用していないだろう? ” ……お前が本当に頼りにしてるのは、自前の身体能力だけだ」


 ……ギアを信用していない。

 その言葉に対して、ハクトは心当たりは、あるにはあった。

 しかし、それは……


「……でもそれって、“ケンジ兄の教えだよね? 便利な武器に依存しすぎないように”って、昔からケンジ兄に教え込まれた価値観なんだけど」

「まあ、その通りだな。その教えをしっかり見に染みているようで、ある意味安心してる所ではある」


 うんうん、とうなづきながら相槌を打つ兄。

 そのことに納得を見せながらも、何処か不満の様子でもある。


「“便利な武器に依存しすぎて、自前のスキルの成長が疎かになる”。これは結構想定される状態だ。だからそうならない様に、ハクトの特訓だとあくまで本人自身のスキルを磨く事を中心にしてきたが……ある意味やりすぎたな。他人、と言うか、“自身以外の要因に身を委ねる事”をあまりしなくなってる」

「まあ、うん」


 その言葉に、ハクトは自覚はあった。

 具体的には、サイコロが分かりやすいだろう。

 ハクトは、乱数に頼ると言う事をあまりしない。と言うか、したく無い。


 基本的に、ラッキーパンチに頼る様なことはせずに、自前のスキルで行けるところまで運の要素を削って、確定数値で勝負したがる傾向がある。

 運に頼るのは、本当に最後の最後、どうしようもなくなった時だけだ。


「でも俺、チームメンバーには結構頼ってるつもりだけど……」

「“足りねえよ”。もっと思い切って自分の命……までは言い過ぎか。試合でHP預けるくらいやってみろ。……後、話を戻すけど、お前のその要因は“お前がよく分からない要素に実践で頼ると言う事”をしないことに繋がってる。つまり……」


 すなわち、“ギアの新しい可能性について頼りきらない”。


 ケンジはそう指摘する。

 道具ギアが持ってる新しい使い方を、あまり積極的に見つけられていないと。

 それを聞かされたハクトは、うーん……と、あまりピンと来てないが……


「ピンと来てない理由は分かる。ソロトーナメントの時の試合は動画で見させて貰った。お前は試合中、【インパクト】の新しい使い方を見つけまくって勝ち進んでいったな? あれは都合のいい覚醒というより、“お前自身追い詰められたから、今までやってなかった事をやる様になった結果”だと、俺は思ってる。お前自身手詰まりだったからこそ、試合中【インパクト】で何か無いか頼ったんだろ?」

「……言われてみれば、確かに」


 つまり自分は、ギアに普段から頼っていたわけでは無い。

 追い詰められたから、その時初めてギアに何か方法がないか探していただけ。

 つまり、ギリギリまでギアに頼っていない。


「手持ちのカードで勝負している。聞こえはいいが、“新しいカードを使わず既存技術だけでなんとかしようとする”とも言い換えられるだろう。……いや、もっと適した言い方あるな。“既存ルートの展開方法以外やらない”。それが今のお前の弱点だ。慎重派とも言えるが、いささかやりすぎるな。いざって時の“不確定要素に頼る勇気”が足りない」


 もったいないなあ、とケンジは呟く。

 ギアには、もっともっと可能性がある。

 人のままでは出来ない事を、出来る様にするのがギアの役割なのに。

 自前の能力以外に、ギアの能力も引き出してこそ、両方の力を合わせた方がよっぽど強くなれるのに。


 力など、結局あればあるだけいいのだ。

 一つの力だけに頼るから、いざその一つが使えなくなった時に行動出来なくなるのが問題なだけなのだから。

 ハクトは、片方の可能性をまだ狭めたままだ。


「対策方法としては二つ。1.事前練習で可能性を見つけまくる。これが一番シンプルだな。不確定要素に頼りたくないなら、既存知識に落とし込んでしまえばいい。事前にギアで出来る事を試しまくれ」


 けどまあ、これで全て見つけられるなら苦労は無いだろう。

 だから……


「2.“もっと思い切ってギアに委ね切ってみろ”。ちょっとした思いつきでもいい。手に持った武器をスッポ投げる様な、あり得ない使い方もしてみろ。案外、そこから新しい手札のカードになるかもだぞ?」


 まあ、言いたいことは……

 ケンジはそう前置きして。


「──もっと【バランサー】に頼ってみろ。身を委ねるくらいに。そのギアは、お前の想像イメージを、想定以上に受け止めてくれるぞ」


 ──────


 ────


 ──




 ☆★☆



「(……なーんで、あんな話を今思い出すのかなあ)」


 ハクトはぼんやりと、そんな事を思っていた。

 目の前に、キャット・タワーズの面々が3人向かい合ってるこの状況で、そんな場合じゃ無いのにその事を思い出してしまっていた。


「(まあ、追い詰められてるっちゃあ追い詰められてるか……)」


 ハクトのHPはわずか153/1000。崖っぷちもいいところだ。

 相手の雷一発で確定アウトのライン。

 先ほどは不意打ちで一人突き落とすことが出来たが、もう警戒されていて全然落せていない。

 ここからもそう簡単には落としてくれないだろう。


【インパクト】も残りたった2発。

 警戒している相手を突き落とすには、物凄く運が良くてせいぜい後一人くらいだろう。

 それも、復帰用のギアが相手にある以上ほぼ無理な話だ。


 では、仮に上手く行っても残りの二人は? 

 失敗した場合は? 

 90秒ものリチャージタイムの間、【インパクト】無しで逃げ切れるのか? 


 そんなことはキャット・タワーズも想定しているだろう。

 ハクトの自前身体能力だけでは、仮に一人落としていたとしても、残り二人がかりで襲い掛かられたら対処しきれない。


 ……ならばどうするか。


「(……【バランサー】、【インラインスケート】、【クイック・アトラクト】)」


 ハクトは静かに、手元に残ったカードを見つめ直す。

 ビルの屋上という、狭いバトルフィールド。


【クイック・アトラクト】はともかく、他二つはこの状況で使っても、あまり意味ない様に見えるが……


「(……どうせ、このままじゃ行き止まりなんだ。だったら、思い切った事をしてみるのもいいよね)」


 そう思考し、ハクトはギアを一つ発動する。


 既にもう腹は括った。

 自分がまだ知らない、ギアに眠っている可能性を信じて……



 ☆★☆


「変形しろ!! 【インラインスケート】!!」

「っ!? こんな場所で、ローラースケート靴ッショ!?」


 Mr.パルクールは、ハクトのした選択に驚いていた。

 今自分たちが立っているビルは、確かにそこそこ大きい。

 けれど、こんな場所で【インラインスケート】を展開する理由は殆ど無いはずだ。


 準決勝の試合はMr.パルクール達も見ている。

 確かにあの機動力は目を見張るものではあった。

 しかしあれは、ある程度の加速出来る広さがあってこその強みの筈だ。


 こんなローラースケートするには狭い屋上で、あの加速が得られるとは思えない。

 それにこんな互いに接近した状態だ。とっさの瞬発力で言えば、ローラー靴じゃ無い方が確実に避けるのに適してる筈だ。

 攻撃を避けるときにもたついて、尻餅つく未来しか見えない。


 一見不適切なギアの使用に思えるが……


「関係ねえ! さっさと倒してやる!」

「パルツ!」


 キャット・タワーズの一人が、ハクトに向かって走り出す。

 その靴には、電気の剣が既に展開されている。

 一回でもヒットすれば、ハクトの動きを阻害させ、あとはとどめをさせるだろう。


「食らえっ!」


 ブンッ! っと振り上げられた雷の剣の蹴りを、ハクトは大きくのけぞって回避する。

 しかし、上体を大きく後ろに倒しすぎだ。

 不安定な足元で、ハクトは背中から倒れていく。


 ほら、隙だらけだ。後は倒れたところをトドメを刺せば──


「──ッフ!!」


 ……その直後、ハクトは足元のインラインスケートを大きく弧を描く。

 倒れたと思ったら、両足が胴体を中心に開脚し、その場で360度回転。

 足の勢いをつけて、逆にパルワの足元をガッと足払いした! 


「っ!? 何!?」


 足払いをした後、ハクトは両足の動かし方を工夫してその場からバックでスイーっと離れる。

 スピードはまだそれほどじゃ無い、ゆっくりとしたものだ。


「まぐれだ!!」


 そう言って、今度はパルスが攻めに行く。

 パルスの雷の剣が振られて、今度はハクトは真横に倒れて回避する。

 今度こそ倒れたと思ったが……再度急激な体捌きで、逆に足払いをさせられていた。


「うげえっ?!」


「……重心の移動ッショ。ハクト選手、“重心を急激に下げて、それをそのままローラースケートの加速に利用してる”ッショ!!」


 離れたところで見ていたMr.パルクールは、ハクトがやった事を直ぐに見抜いていた。

 理屈としては簡単。重心を急激に下げ、ローラーのついた足をいい感じに曲げ下げすれば、理論上は推進力に変えられる。

 特に、その場で回転するだけなら比較的簡単だろう、それを利用して足払いしていたのだ。

 しかし……


「それでも、あの体勢は異常っショ!? “あまりにもあり得ない体勢からでも動けてる!! ” あんなの普通そのまま倒れて終わりっショ!?」


 パルツ、パルスの猛攻をいまだにくぐり続けているハクト選手を見て、戦慄する。

 通常ではただ失敗するだけの筈の体制ですら、そこから反撃に動き出せていた。

 足払い、推進を交互に無差別に繰り返し、それで攻撃を躱し続けている。

 あり得ない体捌きを見せられて、パルクールのプロだからこそ重心移動の限界を理解しているパルツ、パルスは、逆に戸惑っていた。


 これこそが、ハクトが見つけ出した新たなギアの可能性。

【バランサー】は元々、プレイヤーの姿勢制御の効果も持っていた。

 それを極限までフル活用し、本来なら倒れるだけのあり得ない体勢からでも、ギリギリの体捌きを可能としていたのだ。


「やべえッショ……! ハクト選手、まだこんな手を隠し持ってたのか!!」


 Mr.パルクールは、ワクワクを隠せないでいた。

 元々ファンでもあった上に、ここに来て見知らぬ戦法を披露してくれたのだ。

 興奮するなという方が無理な話だ。


「けど……それも、“二人までが限度”ッショ」


 あの体捌きとローラースケートで攻撃を捌き続けているのは見事。

 しかし、それも二人まで。見ると今の時点でギリギリだ。

 ここに3人目、つまりMr.パルクールが加われば……


「そこッショ!!」

「っ!! ぐわっ!?」


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 HP:153 → 127/1000

 ==============


 Mr.パルクールによる、脚力強化済の“蹴り”がハクトにヒットする。

 重心移動を下げ切ったタイミングで、避けるギリギリのタイミングに割り込んで攻撃した。

 残念ながらギアの構成上大ダメージは与えられなかったが、それでも完全にハクトを転倒させる事は出来た。


「いまッショ!!」

「「よっしゃあ! トドメ……」」

「【インパクト】ッ!!」

「「うわあっ!?」」

「っく、逃げられたッショ!」


 トドメの攻撃が放たれる直前、ハクトは【インパクト】で自身を打ち上げて回避した。

 屋上の離れた位置に着地したのを確認する。


 しかし、これで【インパクト】は残りたった1発。

 絶体絶命の状況まで追い込む事が出来た。


「さっきの動きは驚いたッショ。けどそれもここまで、観念するッショ!!」

「よっしゃあ! いくぜえ!!」

「おっしゃあ! いくぜえ!!」


 そうして、先ほどと同じ様にパルツ、パルスが攻めに行く。

 そして3人目として、Mr.パルクールが脚力強化の蹴りで、体勢を崩しにかかる。

 最初の二人を捌きながら、3人目の対処はハクトは仕切れない……


「っ“クイック・ラビットォ!! ”」

「おっ!? っとおッショ!!」


 と、予想外にハクトは“クイック・ラビット”を発動。Mr.パルクールを迎撃しようとする。

 それをバックステップでMr.パルクールはとっさに躱した。

 追撃は出来なかったが……これで【インパクト】は完全に切れた。


 ハクトの最後の蹴りは空振りとなった。

 これで彼に回避手段はもう無い。詰みだ。


 そうして何も手が無くなったハクトはというと……



 空振りした蹴りが。


「お、おあ?」


 ……“ローラーを履いた足元だとその場で停止出来ず”。


「おお、おお?」


 右足が自分の体の周囲を一回転し。



「おおおおおおおおお──────ッ?!!!!」



 2回転、3回転…………何十回転と。

ギュルギュルと、その場で高速で回転し続ける結果となった



「な、なん!? なんなんッショ?!」


 これには、追撃しようとしたMr.パルクール達も何事かと足を止めた。

 まるでスケートのトリプルアクセル、それがずっと続いている様な状態だった。


 空振りした蹴りが、そのまま回転に変換されている!! 

 今のハクトは、人一人垂直に10m以上飛べる衝撃が、全てその場の回転速度に上乗せされていた! 


「おおお──────ッ!?」


 ハクトは、悲鳴の様な、驚きの様な声を暫くあげながら……


「────使える、な」


 回転し続けているからよく分からないが……ハクトがニヤリと笑ったと、Mr.パルクールは何故かそう思った。


「おい、これどうする!?」

「お、落ち着けって! 冷静に考えろ、こんなのただ剣突き刺せばいいだけだ! 寧ろこんな回転じゃ俺たちの攻撃避けるなんて事は出来ねえだろ!」

「そっか、了解!! いくぜ!」

「ま、待つッショ!?」


 静止しようとしたMr.パルクールの声は届かず、パルツがハクトに向かって雷の剣を振り下ろす。

 高速回転中のハクトには、どうすることも出来ないと思われた……


「──っふ!」


 が、まるでコマの動きの様に、その場から回転しながら位置をずらして、攻撃を避けていた。


「何!?」

「──っよ!」


 すると、攻撃を避けただけでなく、まるで弧を描く様な動きで回転しながら激しい動きをし始めた!! 


「うおお!? なんじゃこりゃああ!?」

「ベイゴマ!? ベイブ○ードかよ!?」

「これは……?!」


 Mr.パルクールは、離れた位置から観察して考察する。

 ハクトは、高速回転しながら足元を微調整して、軸足をズラして高速移動を行なっている。まるで攻撃型のコマの動きみたいに。

 しかも、動きを先読みして攻撃を当てようにも、その瞬間にも軸足をずらして攻撃を避けるため不規則な軌道も実現している! 


 こんなの、とんでもないバランス感覚の持ち主でも無い限り実現不可能っショ!? 

 Mr.パルクールでさえ、同じ事をやれと言われたら絶対出来ない動き方。

 これを年下のハクトが実現出来ているなんて……ッハ!? 


 そこでMr.パルクールは気づいた。ハクトのスロット1のギアを……【バランサー】の事を。

【バランサー】で姿勢を制御し、【インパクト】で回転速度を上げ、【インラインスケート】でその状態を維持する。

 3つのギアを使ってるからこそ出来る、コマ状の高速回転!! 


「──らあッ!!」


 その掛け声とともに、ハクトは“超高速移動”を決めた。

 攻撃型のコマという事は、そのグリップ次第で回転力を移動力に変える事が出来るという事。


 その動きの先は……パルツだ。


「ッハ?!」


 まるで【インパクト】を使われた時の様な高速移動。

 実際はそこまでの速度では無いが、それに錯覚するほどの速度で一瞬で接近され、そして……


「──ぶっとべえええ!!」

「グボおッ!!」


 その回転速度を、タイミングよく全て蹴りの一撃に込めて、パルツを全力で蹴った!! 

 あまりの回転速度が乗った蹴りをモロに胴体に喰らったパルツは、ある程度吹っ飛んでしまい……ビルの屋上から落とされた。


「ぐっ! ヤロ……《R》【エマージェンシーエスケープ】!!」


 蹴り落とされたパルツは、慌てる事なく復帰用のギアを発動。

 空中で衝撃移動を行い、ビルの屋上に向かって飛んで行った。


 大丈夫、【インパクト】は無い。それに今の蹴りで、相手の回転速度も無くなったか、最低速度が落ちてる筈だ。

 屋上に復帰してから、じっくり対処すれば……

 その様に算段を立てていると……


「よっと」

「っ!! ハクト選手、ビルの淵に……!」


 気づくと、ハクト選手がビルの淵に立っていた。細い足場で不安定にも関わらず。

 こっちの復帰を妨害して、落とす気か!? 


「けど、残念だったな!! ハクト選手のやや上を通ってビルに戻る! 足を伸ばしても俺には届かないぜ!! なーっはっはっは!!」


「《R》【クイック・アトラクト】」


「ッハッハ……あれ?」


 気づくと、パルツの体はぐんぐんと、ハクトに引き寄せられていき……


「ギア無し!! “ラビット・バスター!! ”」

「グボおぉッ?!」


 そのまま鳩尾を蹴られて、今度こそ叩き落とされて行った──


「よいしょっと」


 ビルの淵から、ハクトはスッと降りる。

 フーッと一仕事終えた様なため息をついてから、Mr.パルクール達に向き合った。


「は、ハクト選手。今のは……」

「……ただの偶然。だったけど、そうだな……」


 ハクトは一瞬悩む素振りを見せ、


「──“ラビット・スピン”、なんてどうかな?」


 楽しそうな笑みを浮かべながら、そう答えていた。

 キャット・タワーズ。残り、二人──




 ★因幡白兎イナバハクト


 主人公。

 白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。


 偶然新技を獲得。やったぜ。


 ★卯月輝夜ウヅキカグヤ

 ★有栖流斗アリスリュウト

 ★浦島亀鉄ウラシマキテツ


 フィールドの下で待機中。



 ★チーム:キャット・タワーズ

 パルクール集団。

 全員がほぼ共通のギア構成をしている。

 例外なのはリーダーだけ。



 ★Mr.パルクール

 本名、猫山飛尾ねこやまとびお

 パルクールの天才。

 チームリーダー。


 冷静に戦況を見つめていたが、ハクトの可能性の塊に驚いている。



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