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第10話 灰崎ヒメノ、ですの!!!

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 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:9分30秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:835/1000

 スロット1:バランサー  (★常時適応中★) 

 スロット2:インパクト  (残りE:9/10 残りCT:0/3)

 スロット3:インラインスケート (残りE: 3/5) (★適応中)

 スロット4:────


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:727/1000

 rank:2

 スロット1:ファイアボール (残りE:10/10 残りCT:0/3)

 スロット2:ファイアボール (残りE:10/10 残りCT:0/3)

 スロット3:ヒートライン (残りE:2/2)

 スロット4:バンブープリズン (残りE:3/3 残りCT:0/3)


 プレイヤー3:アリス

 残HP:936/1000

 rank:2

 スロット1:ショートソード (残りE:3/3)

 スロット2:ロングソード・ハード (残りE:2/3)

 スロット3:────

 スロット4:二連斬 (残りE:4/5)


 プレイヤー4:キテツ

 残HP:536/1000

 rank:2

 スロット1:メタルボディ   (残りE: 3/3 残りCT:0/3)

 スロット2:ハイパー・パワー・バフ (残りE: 3/3) (★適応中)

 スロット3:フォートレス (残りE: 2/3)

 スロット4:反応装甲 (残りE: 2/3)


 VS


 プレイヤー5:ヒメノ

 残HP:702/1000

 rank:2

 スロット1:ブレイクミサイル (残りE:2/2 残りCT:0/3)

 スロット2:チョイス・マジック・デバフ (残りE:10/10) (■非公開)

 スロット3:チョイス・レッグ・バッファー (残りE:6/6 残りCT:0/3)

 スロット4:チョイス・ショック・デバフ (残りE:6/6) 


 プレイヤー6:鮫田長男

 残HP:0


 プレイヤー7:鮫田次男

 残HP:0


 プレイヤー8:鮫田三男

 残HP:0

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「“ロング・エッジ!! ”」

「うらあ! “鉄拳”!!」


 アリスとキテツが得意技で、ヒメノを挟み込んでダメージを与えようとする。

 普通に当たれば大ダメージ。しかし……


「ッフ!!」ビッ


「っとと!? うわあ!?」

「ちょお!? 有栖テメエ何やって?!」


 ヒメノはとっさにバックステップをしながら、アリスだけに脚力強化を付与。

 結果、アリスだけタイミングがずれて勢い余って、反対側にいたキテツを斬りつけてしまっていた。


「このお!! “ラビット・バスター!! ”」


 今度はハクトが地上戦最高火力の技でヒメノに攻撃する。

【インパクト】二発分のこもった火力。これなら多少衝撃を減少されたとしても影響は少ない筈。そう思ってのことだったが……


「せい!」ガッ

「何っ?!」


 ハクトの伸ばした足を、下から蹴り上げられる。と言っても、少ししか持ち上がらなかったから完全に回避されたわけではない。

 そのままドゴンッとバスターが発射される、が……


「ぐううう────ッ!!」


「やったぜ!! 大きく吹っ飛んだ!!」

「いや、違う!! 壁にぶち当てるつもりだったのに、“ブロックの上に向けさせられた!! ”」


 そう、“ラビット・バスター”は地上で手軽に出せる火力だが、それは背後が壁だった場合。

 途中で障害物に当たらない場合、ただただ【インパクト】で吹っ飛ばしたのと殆ど変わらない。

 つまり、端的に言うとハクトの技を利用して逃げられた! 


 遠く離れた位置に落ちたヒメノはズシャッと地面にぶつかったが、直前で衝撃減少のギアを一つ切ってちゃっかり減速していた。

 おかげでダメージがほとんど入っていない。

 その状態で、ハクト達に大きく距離を離すことが出来た! 


「っオホホ!! その程度ですの、ムーンラビット!! この程度じゃ本気で逃げ切れますわね!!」


「くそう、“ラビット・バスター”じゃただ距離を離されるだけになっちゃう!」

「ちっくしょう!! さっきからちょこまかと! 攻撃が全然当たらねえええ!」

「思う通りに体が動かないって、こんなにストレスが溜まるものなんだね! 初めて知ったよ!!」


 ムーンラビットの男子衆は、各々そんな愚痴を漏らす。

 試合の結果自体はほぼ決まった状態の、エクストラバトル。

 ヒメノにとどめをさせばいいだけのバトルが、予想以上の難易度になってると実感し始めていた。


「このまま逃げ続ければワタクシの……」

「サモン、《R》【バンブープリズン】!!」

「っ!?」


 そう思考していたヒメノを嘲笑うように、カグヤのギアが発動する。

 先ほどのように、ヒメノの周囲を竹で多い囲んだ!! 


『ヒメノ選手、カグヤ選手の【バンブープリズン】に囲まれたー! 逃げ場がなーい!!』

『さすがに逃げ場そのものを塞がれたら、どうしようもないな!』


 これにはさすがにヒメノは何も出来ない、そう会場中は思った。

 次の攻撃は流石にクリーン・ヒットする。そう確信していると……


「さすがにこれなら当たるでしょ、迸れ! 【ヒートライン】!!」


「スロット2!! 【チョイス・マジック・デバフ】!! セブンセットォッ!!」


「っ?!」


 ここに来てこの試合初の、“無宣言じゃないギア発動宣言”。

 それをヒメノは唱え、指先はカグヤの方をロックオンしていた。

 距離は、届かない筈。15mは離れているから、チョイスシリーズの範囲外。


 戸惑いながらも、カグヤは【ヒートライン】を発動する。

 赤い線ラインが引かれ、拡張し、炎の柱が迸っていく!! 


 ゴウッ!! っと炎が走り去っていき、檻に囚われたヒメノを間違いなく飲み込んだ。

 これでダメージが入る筈……だった。


「けほっ……けほっ……埃っぽいですわね、もう!」


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 プレイヤー5:ヒメノ

 残HP:695 → 692


 スロット2:チョイス・マジック・デバフ (残りE:10 → 3/10)

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「嘘でしょ!? ほぼノーダメージ!?」


『なな、なんとぉ!! ヒメノ選手、【ヒートライン】をモロに食らったにも関わらず、ほぼダメージなああしっ!! すごい、すごいぞヒメノ選手!! あなた今めっちゃ輝いてますよー!!』

『さっきの宣言発動!! あれがヒメノの本来のRank2でのメモリーカード特性か!?』


 例えば、ハクトのRank2が【インパクト】の飛距離アップ。

 カグヤのRank2が、【ファイアボール】の精密操作アップ。

 ならば、ヒメノのRank2は、おそらく“チョイス”シリーズの射程アップ。そして……


『多分射程アップ以外に、“重複発動”も含まれてる!! さっきの一瞬で、7回分のギア宣言を一回にまとめてやがる!? そのせいで本来一回30程度の減少が、一瞬で200以上のカグヤ選手のマジック威力ダウンに繋がってる!!』

『つまりヒメノ選手は、ギア宣言をすることで無宣言だと使えなかったメモリーカード特性を思う存分発揮できるようになったと?』

『その通りだ!! あの選手、まだこんなとんでもない隠し球を残してやがった!?』


 予想以上の大芸当に、会場中が旋律した。

 カグヤでさえ、【ファイアボール】の高速連続発動は出来るが、一発にまとめて発動は出来ない。

 特定のギアにおいては、下手するとRank3経験者のカグヤ以上のギア練度を誇っているかもしれない……


「で、でもそれなら! もっと離れた位置からの【ヒートライン】ならどう!? こっちは最大、25m離れた位置からでもヒット出来る! いくらメモリーカードで延長出来ると言っても、限度がある筈……っは!?」


 そう考察しようとしたカグヤに対して、いつの間にか“ミサイル”が飛んできた。

 “宣言発動で効果がアップすると言っても、無宣言発動もやらないわけではない。”そう示すように。


「うきゃあうっ!?」


 とっさにカグヤは横っ飛びで回避することが出来た。

【バンブープリズン】は、相手を竹で囲む檻を作るギア。しかし、竹と竹の隙間がそこそこあるため、そこから内外から足を出して攻撃することは可能なのだ。

 今回は、その隙間をヒメノに逆利用された形だった。


 今の不意打ちは予想外だったが、しかしヒメノをまだ閉じ込めていることには変わりない。

【ヒートライン】のダメージ減少で、檻へのダメージも無くなったからまだ維持できてるのだ。

 急いでカグヤは距離を取ろうとして……


 バギイッ! という音が遠くから聞こえてきた。


「……所詮竹ですわ。鉄製のブーツで本気で蹴れば、多少手間取りますが簡単に脱出出来ます!」

「ああーっ!?」


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 プレイヤー2:カグヤ


 スロット4:バンブープリズン (残りE:3 → 0/3 残りCT:3/3) (★適応中 → ギア・ブレイク!!)

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 カグヤが振り返ると、思いっきり竹の一部を蹴り飛ばして脱出しているヒメノが見えた。

 檻の役目を果たさなくなったギアは、ブレイク扱いと判断された。

 せっかく発動したサモンギアが、再度すぐにCTに入ってしまった。


「まだだ! 【インパクト】!! 【インパクト】!! いけ、キテツ! アリス!」

「おう!!」

「行くよ!」

「っ! 一気に距離を詰めてきましたわね!」


 檻から脱出したヒメノを追いかけるように、ハクトがギアでキテツとアリスを吹っ飛ばす。

 距離を取られては、時間まで逃げ切られるだけだ。常に距離を縮めて追いかけ続けないと。そう共通認識を持っていた。


「装着1! 【メタルボディ】再適応!! “鉄拳”!!」


 リチャージしたギアを再適応して、得意技を放つキテツ。

 今度は味方の妨害にならないように、アリスは一歩引いた位置にいる。

 そのままキテツ単機でダメージを与えようとするが……


「っふ! っふ!」

「くおっ! このっ!! 全然当たらねえ!?」

「そんな大振りの攻撃、ギアを使うまでもないですわ!!」


 キテツの拳がまるでこの葉に逃げられるように、ヒラヒラとヒメノは躱し続けていた。

 単純にギアの使用練度だけでなく、動体視力とそれに伴う反射神経がずば抜けている! 


「“伊達にこの身一つで不良高一つ統一していませんの!! ” 舐めないでくださいまし!!」

「お嬢様口調とは裏腹にやってることがおかしいんだけどコイツ!?」

「なら、これならどうだいっ!」

「ふふん、さっきと同じこと……」ビッ

「《R》【カウンター・アタック】!!」

「っ!? キャア!?」


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 プレイヤー5:ヒメノ

 残HP:692 → 631


 プレイヤー3:アリス

 スロット3:カウンター・アタック (残りE: 3 → 2/3)

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『ここにきて、やっとヒメノ選手にまともなダメージ!! とうとう被弾したことを悲しめばいいのか、それともここまで耐えてきたことを称賛するべきかー!!』

『チョイスシリーズのギア采配は見事だけど、同じ《R》ギアの反応速度なら対応出来る!! そういうことか!』


「これで君の優位性はなくなった! このまま《R》ギア中心で攻め続ければ! 《R》【カウンター・アタック】!!」

「甘いですわ!!」ビッ

「っ!?」

「うおい!? アリスまた俺に!?」


 アリスが攻略法を見つけたと思い、それ中心で攻めようとした時、再度キテツと同士討ち仕掛けてしまっていた。


「確かに《R》ギアなら反応速度はほぼ同等、対抗出来ますわね。ですがそれは、互いに同等の手札になっただけのこと! あとはプレイヤースキル同士の差しか生まれない! ギアの采配、発動タイミングでワタクシに勝てると思わないでくださいまし!!」

「うぎゃあああ!? 本気でコイツ強いんだけど!? え、まじで倒し切れるのこれ!?」

「ふふん、絶望なさい!! このまま逃げ切ってやりますわ!」

「けど、“余裕自体は無くなったんじゃない? ”」

「はい?」


「【インパクト】!! 真上に吹っ飛べ!!」

「っ!? うきゃあ?!」


 ヒメノが二人に集中している間、こっそり接近していたハクトが彼女を打ち上げた。

 アリスの攻撃が通用するようになったからこそ、出来た隙だった。

 回転しながらヒメノは高く上がる。あれでは視界もグルグルしてどうしようもないだろう。


「よっしゃあ! 白兎ナイス!!」

「このまま“ラビット・スタンプ”決めてやる! 俺自身も【インパクト】……」

「スロット4!! 【チョイス・ショック・バッファー】!! アップ! ファイブセットォッ!!」

「っ!?」


 空中で回転しながらも、ヒメノは確かにそう宣言した。

 声を出した直後、一瞬だが確かにその手はハクトにロック・オンしていた。

 その直後に、ハクトは自身を【インパクト】で打ち上げた。


 そして、ドビュゥゥゥウゥン!! っと、高く、高く……


「うわああああぁぁぁぁぁ────────────ッ!!???」

「ちょっと白兎!? どこまで行くの!?」


 打ち上げたヒメノが10mほどなら、ハクトは実測距離50mほどの高さまでハクトは吹っ飛んでしまっていた。

【インパクト】一発で吹っ飛んだ距離にしてはおかしすぎる、明らかにヒメノのギアの効果だ。


【チョイス・ショック・バッファー】は、衝撃移動の距離をアップダウンどちらか選べる。

 今回はアップの効果で、ハクトを逆に強化してヒメノを大きく通り過ぎるくらい吹っ飛ばしたのだ。


 流石にここまで離れすぎると、“ラビット・スタンプ”で狙うまでにヒメノが落下し切ってしまう。どころか高く上がりすぎて、逆にハクトに落下ダメージの恐れがある! 

 ハクトはこの時点で、残りの【インパクト】を切りながらゆっくり降りてくる選択肢しかなかった。


「でも、ヒメノちゃんが打ちあがったのは変わり無いわ!! ここから食らいなさい! “アクセル・アクション”!! からの、“ファイアボール・ガトリング”!! 20連打!!」


 ここで離れた位置にいたカグヤが行動に移す。

 攻撃力アップの加速を付け、残りの【ファイアボール】を余すことなく注ぎ込む連撃。

 ヒットさえすれば、強化威力60のファイアボールが、20発ヒメノにヒットしてとどめになる筈。


「スロット2!! 【チョイス・マジック・デバフ】!! トリプルセットォッ!!」


 しかし、ヒメノは冷静にギアの宣言をする。

 カグヤの【ファイアボール】は、“アクセル・アクション”を使ってるとしても、発動者の位置から15mしか届かない。


 対して、ヒメノはチョイスシリーズ限定で、自己のメモリーカードの特性で射程5mアップ。さらに、“ハンド・ロックオン”という技術で、手で指し示した相手に対して単体付与も射程5mアップするというメモリーカード特性も手に入れていた。


 よって、同一の15m。ヒメノの弱体化付与はカグヤに届いてしまう。

 精密な射撃で20発全てヒメノにズガガガガッ! っとヒットしたが……


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 プレイヤー5:ヒメノ

 残HP:631 → 620

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「うわあああんっ!? やっぱりダメージ入ってなーい!? 落下ダメージだけ!?」

「うっそだろ!? 今のほぼ決まってもおかしくない攻撃だったじゃねーか!?」


『ヒ、ヒメノ選手今の一連のハクト選手とカグヤ選手の猛攻を捌き切りましたー!? スゴい、すごいわ! 期待以上よー!!』

『いやマジで凄え!? 相手のダメージ考えずに自己の生存特化したとはいえ、あそこまで粘れるか普通!? どんな捌きの技術!?』


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 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:9分30秒 → 6分48秒

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 この特殊ルールが発生してから、二分半以上が経過した。

 なのに、たった一人のヒメノを倒すどころか、大きなダメージすらムーンラビットは与えられていない。


「ふ、ふふ……どうかしら。ワタクシの技、味わってくれまして?」


 高台に落ちたヒメノは、ゆったりとした行動でムーンラビットに振り向き、そう聞いてきた。


「まだ! まだワタクシはこうして立っている!! このまま宣言通り、最後まで生き残ってやりますわ! 皆さんの中に灰崎姫乃ハイザキヒメノという存在を、焼き付けてやりますわ! 覚悟なさいまし!」


 ブロックの上で、高らかにそう宣言するヒメノ選手。

 一人の女の意地で始まったこのエクストラステージ。まだまだ終わらない──

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