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第9話 月兎たちの逆襲!

 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:13分30秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:845

 スロット1:バランサー  (★常時適応中★) 

 スロット2:インパクト  (残りE:0/10 残りCT:1/3)

 スロット3:────

 スロット4:────


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:1000

 rank:2

 スロット1:ファイアボール(残りE:0/10 残りCT:3/3)

 スロット2:ファイアボール(残りE:0/10 残りCT:3/3)

 スロット3:ヒートライン(残りE:1/2)

 スロット4:────


 プレイヤー3:アリス

 残HP:949

 rank:2

 スロット1:────

 スロット2:ロングソード・ハード(残りE:2/3)

 スロット3:────

 スロット4:────


 プレイヤー4:キテツ

 残HP:541

 rank:2

 スロット1:メタルボディ  (残りE: 0/3 残りCT:2/3)

 スロット2:ハイパー・パワー・バフ(残りE: 2/3)(★適応中)

 スロット3:フォートレス(残りE: 2/3)

 スロット4:反応装甲(残りE: 3 → 2/3)(★適応中)


 VS


 プレイヤー5:ヒメノ

 残HP:1000

 rank:2

 スロット1:ブレイクミサイル(残りE:1/2) 

 スロット2:チョイス・マジック・デバフ(残りE:10/10) (■非公開)

 スロット3:チョイス・レッグ・バッファー(残りE:0/6 残りCT:1/3)

 スロット4:チョイス・ショック・バッファー(残りE:4/6) 


 プレイヤー6:鮫田長男

 残HP:192

 rank:2

 スロット1:ドリル・ショット(残りE: 0/5 残りCT:1/3) 

 スロット2:────

 スロット3:クラスターミサイル(残りE: 0/2 残りCT:2/3)

 スロット4:閃光弾(残りE: 2/3)


 プレイヤー7:鮫田次男

 残HP:911

 rank:1

 スロット1:スーパーミサイル(残りE: 1/5) 

 スロット2:────


 プレイヤー8:鮫田三男

 残HP:908

 rank:1

 スロット1:スーパーミサイル(残りE: 1/5) 

 スロット2:────


 ==============


 ──攻めに行っている3人を見て、俺は歯痒い思いをしていた。

【インパクト】が切れている状態だと、自分は何も出来なくなる。


 だからEが復活するまで、後ろに待機しているだけ。

 それでも後30秒待てばチャージが完了するから、それまで待っているのが正解だ。


 正解だけど……本当にそれでいいのだろうか? 


 このまま【インパクト】依存だけの戦術で、直ぐ息切れする状態を他のみんなにカバーしてもらうだけでいいの? 


 そんな自問自答をする。


 ……答えは、否だ。


 カグヤだって、マジックのエネルギーが切れた時は自前の技だけで乗り切れるように工夫していた。

 俺もカグヤ程では無いにせよ、他の方法で何か今でも役に立てる技術を持つべきだ。


 そう考えたハクトに、今手元に残っているのは……発動していない二つのギアだった。


 だったら……


「発動しろ──」


 ハクトは、静かにギアを起動する。

 誰かに譲り受けたものでは無く、あの大会の優勝で初めて“自力で手に入れた”と言えるギアを……


 ☆★☆


「っ馬鹿弟達!! キテツさんとアリスさんを足止めしなさい!! 今の内にワタクシと長男で、カグヤさんを攻撃しますわ!!」

「っは! 了解だぁ!!」

「「お、おう!!」」


 ヒメノの指示が下される。

 それに不良弟達は慌てながらも、なんとか遂行しようとキテツとアリスに接近した。


「行かせるかあ! どけよ、“鉄拳”!!」

「さっさと決める! スロット4、“二連斬”!!」


 キテツはパンチを。アリスは隠していたリピートギアを。

 それぞれの得意技で迎撃しようとする、が……


「「スロット2! リピート、《R》【ガード】!!」」


 ==============

 プレイヤー7:鮫田次男

 残HP:911 → 860

 スロット2:ガード(残りE: 3 → 2/3) 


 プレイヤー8:鮫田三男

 残HP:908 → 899 → 887

 スロット2:ガード(残りE: 3 → 2/3) 

 ==============


「っげ!? 強化状態の“鉄拳”なのに、ダメージが思ったより入ってねえ!?」

「防御力を上げるリアクションギア! しかも連撃に対して強いタイプか!」


「「その通り!! お前達に対して生き残るためにつけたギアだ!!」」


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 プレイヤー7:鮫田次男

 プレイヤー8:鮫田三男


<スロット2>

 ギア名:ガード

《R》

 GP:2 最大E:3 最大 CT:3

 ギア種類:リピート

 効果分類:自身指定

 系統分類:無

 効果:数秒間防御力をアップ。受けるダメージを減少する。

 ==========================


「っくそ! めんどくせえ事をしやがる!!」

「ウラシマ君、こいつらは無視しよう! ミサイルも1発しか残ってない筈だし、構う意味が無い!」


「「させるかあ!!」」


 逃げられると踏んだ不良弟達は、体を張ってタックルを行った。

 狭い足場で、ほぼ避けられる余地は無い。


 キテツとアリスはそのまま不良弟達と一緒にブロックの上から落ちてしまった。


「ぐえっ!?」

「ぐうっ! やってくれるね!」

「「兄貴達が勝つまで、絶対離さねえ!!」」

「っち!! この、この!!」

「スロット1、【ショートソード】!! たあ、やあ!」

「「いて、痛え!? が、【ガード】!!」」


 不良弟達に体を張って足止めされて、キテツとアリスはすぐには身動き出来なくなった……


 ☆★☆


「さあ、いきますわよ長男!!」

「了解だ! スロット4、【閃光弾】!!」


 ピガアアアァァアアアアァァアァッ!! 


「残念、喰らわないわよ!」


 牽制とばかりに投げ込まれたスタングレネード。

 それをカグヤは、咄嗟に腕で目を隠して目眩しの状態を避ける。


「それくらい分かっておりますわ、よ!」

「うわっと! まさかのヒメノちゃんの接近? 降りて来ちゃっていいの?」

「こうでもしないと、当たらないでしょう貴方!!」

「そうね、分かってるぅ!」


 目を隠していたカグヤの隙をついて、ヒメノは接近してカグヤを直接捕まえようとする。

 それを難なく避けて、軽口を言う余裕のある輝夜。


「躊躇なく近づいちゃっていいの? “卯月流・月外し”!」

「ぐう! 決勝戦の動画のあれですわね!」


 ==============

 プレイヤー5:ヒメノ

 残HP:1000 → 970

 ==============


 接近されてもある程度戦えると言わんばかりに、カグヤの得意技の体術がヒメノに襲い掛かる。

 見事に技が決まり、ヒメノに【ファイアボール】1発分のダメージが入った。

 ささやかなダメージだが、この技は継続する。

 さらに極まった状態の為、ヒメノは抜け出すことは出来ない。だが……


「そんなことは、百も承知ですわ! 極まっているということは、あなたも逃げられないと言うこと!」

「っ!」

「やりなさい! 長男!!」


「おう!! スロット2、【ロケットミサイル】!!」


 ブロックの上に登ったままの長男から、最後のミサイルのギアが発動された。

 初めて見る種類のミサイルだ。

 狙われたカグヤは月外しを辞めようとするが、上からヒメノが手で押さえている為技が辞められない! 


「けど、この状態でも避けるくらいなら……!」

「ッ!!」 ビッ! 


 ボカアアアンッ! 


「んな!?」


 ミサイルを避けようとしたら、その前に“カグヤ達の足元が爆発した”。

【ロケットミサイル】が当たった訳では無い、それより前に、だ。

 ダメージは、無い。しかしこれには流石にカグヤも予想外だった。


 この一瞬の隙で、ヒメノに位置を調整されてミサイルにぶつかってしまった! 


 ボカアアアアアアンッ! 


 ==============

 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:1000 → 747

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 ==========================

 プレイヤー5:鮫田長男


<スロット2>

 ギア名:ロケットミサイル

 GP:2   最大E:2  最大 CT:3

 ギア種類:フォーム

 効果分類:単体攻撃

 系統分類:ミサイル

 効果:射程15m届くミサイルが飛んでいく。1発の威力は250と効果力。ただし……

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「いったーい!! 嘘でしょ、私の【ヒートライン】より1発のダメージ上!?」

「ようやく初ダメージですわね!! 如何かしら!」

「やってくれるわね! 【ブレイクミサイル】を地面にワザと誤爆させたでしょ! そこまでやる!?」

「やらないと貴方に勝てる訳ないですわよ!!」


 そう、ミサイルに当たる直前にヒメノはいつもの無宣言で、自分たちの足元に【ブレイクミサイル】を撃ったのだ。

 単体攻撃のミサイルはカグヤやヒメノには当たらなかったが、咄嗟の目眩しとしては十分に役割を果たしてくれていた。


 しかし、一歩間違えれば自爆ダメージを喰らってもおかしくないような方法。

 こうでもしないとカグヤにダメージを与えることは出来ないと言う、ヒメノにとってカグヤへの評価の高い証明でもあった。


「くうっ! ちょっとヤバイかも……」

「長男! 【閃光弾】よこしなさい!」

「お、おう! スロット4、【閃光弾】!!」


 戸惑いながらも、鮫田長男がスタングレネードを発動して投げ飛ばす。

 いつものカグヤだったら、この状態でも避ける事はできる。ただ目を隠せばいいのだから。

 しかし、そのことはヒメノも既に分かっている。


 よって、ヒメノは投げ飛ばされたスタングレネードを“片手でキャッチした”。


「よしっ」

「嘘!? まさかそれ!」

「そのまさかですわ!! 死ねばもろともですわー!!」


 ピガアアアァァアアアアァァアァッ!! 


「きゃあああっ!!」

「くぅうっ!!」


 顔面至近距離で炸裂したスタングレネードに、流石にカグヤも手で防ぎ切ることは出来なかった。

 ヒメノも一緒に目眩し状態になってしまったが、カグヤを一瞬足止めすると言う目的には十分だ。


「やりなさい長男!!」

「ああ! スロット2、【ロケットミサイル】!!」


 再度先程と同じようにミサイルを飛ばす長男。

 目眩しが決まった上、ヒメノに固定されて回避もままならないカグヤには避けようが無い。


 そのまま二発目がヒット──……




「──キャッチ! ダッシュ!!」



 ……する前に、“カグヤだけがその場から消えた”。


「あえっ!?」

「っは!? 何ですの!?」


 カグヤもヒメノも、一瞬状況が分からなかった。

 カグヤは、急に引っ張られる感触が。ヒメノは、掴んでいたカグヤを“持ってかれた”感覚が。


 この訳のわからない一瞬の間にミサイルが着弾した。

 その場に残っていた、ヒメノに。


 ボカンッ! 


「きゃあああっ!?」

「あ、姐さああんっ!?」


 ヒメノの姿はミサイルの爆煙に隠れて見えなくなっていた。

 誤射した事に鮫田長男は大慌て。


 その様子を、声だけで判断するしかないカグヤだった。

 一体何があったのかまだ理解しきれない。


「間に合った……カグヤ、大丈夫?」

「い、一体何が……ふえ?」


 目眩しの状態が落ち着いて、目が見えるようになったカグヤの視界には……ハクトの顔が映っていた。

 それも、思ったより近く。具体的には、いつぞやの決勝戦の時のように、お姫様抱っこされている状態だった。


「は、ハクト君!? え、お姫様抱っこ!? え、嘘、ええ!? いや、それよりまだ【インパクト】戻ってなかった筈じゃ……」

「ふふん、このギアのお陰! 【インラインスケート】!」


 カグヤをその場に下ろして、見えるように自身の靴を見せ付けるハクト。

 その靴には、ローラーが縦に4つ付いているスケート靴になっていた。


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 プレイヤー1:ハクト


<スロット3>

 ギア名:インラインスケート

 GP:1   最大E:5  最大 CT:3

 ギア種類:フォーム

 効果分類:自身持続

 系統分類:靴

 効果:自身の靴をインラインスケートにする。移動力大幅上昇。ただし平らな地面以外では逆に移動力減少。

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「フォームギア! それってソロトーナメントの時の優勝商品で貰ったあれね!」

「そう! 思いつきで発動してみたけど、思ったより機動力が上がってびっくりしてる! ていうか、本当に速!? 普通に走るより2倍の速度でたよ!?」

「それは本当に速いわね!?」


 ハクトはカグヤをサポートする為に、フィールドを大回りして彼女達に近づいていた。

 のだが、思った以上に移動速度がアップして、かなり遠回りしたにも関わらずタイミングよく間に合う事が出来た。


『おお、【インラインスケート】起動してる!! そう、それもウチの商品よ! 普通に走るより移動速度が2倍近く上昇する移動用のギア! “チョイスシリーズ”だけでなく、それも自慢の一品なの! 面白くなってきたわねー!』

『さらっと宣伝したなお前。けど確かに、あの移動力は本気で凄え! だてに優勝商品として先行展開してるだけあるな!!』


 カラーが待ってましたとばかりに、ハクトの使ったギアの詳細な情報を放送していた。

 それに軽くツッコミながらも、風雅も凄いギアだと称賛する。


「……っく! やってくれましたわね……」


 ミサイルの爆煙が晴れた所から、ヒメノの姿が現れた。

 所々煤けた格好だが、これで向こうにもかなりダメージが入った筈……


 ==============

 プレイヤー5:ヒメノ

 残HP:970 → 967

 ==============


「って、あれえ!? 全然ダメージ入ってない!?」

「嘘、なんで!? 私と同じミサイル直撃したはずじゃ!」


「“不発弾”ですわ。あのミサイル一撃の威力は強力ですが、半分位不良品が混ざっておりますの。……これは完全に、ワタクシの運がある意味良かっただけですわね」

「うおお!? 姐さん無事!? 無事だ、良かったぜぇ……」


 ヒメノは自嘲する様に言葉を零す。今のは危なかった。

 カグヤにあたってもどの道ダメージは無かったという事だが、結果的にはマシな状態に落ち着いた。


「けど、30秒は経ったわね」

「……っ!」


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 スロット2:インパクト  (残りE:0 → 10/10)


 プレイヤー5:ヒメノ

 スロット3:チョイス・レッグ・バッファー(残りE:0 → 6/6)


 プレイヤー6:鮫田長男

 スロット1:ドリル・ショット(残りE: 0 → 5/5) 

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「【インパクト】が戻ってきた!」

「これでハクト君の本領発揮ね!」

「っく! 舐めないでくださいまし!」

「そうだ、ギアが戻ってきたのはこっちも同じだぁ!!」


 この瞬間、計3つのギアが再使用可能になっていた。

 ここからまたバトルが白熱するだろう。しかし……


「ハクト君、ちょっと耳!! ゴニョゴニョ……」

「ふんふん……うん! 分かった、OK!!」

「よし! 行ってきてっ!!」


 その言葉とともにハクトがその場でスタートダッシュ。

 真っ直ぐヒメノ達に対して突っ込んで行った! 


「っ! 【インラインスケート】で移動力がアップなら、こちらが効きますわ!!」


 そう言ってヒメノは例のポーズをとり、【チョイス・レッグ・バッファー】をハクトに対して無宣言で放つ。

 だが……


「おわっ! スピードが下がった!? けど問題無いや!!」

「くうっ!! 一回当てただけじゃ焼け石に水ですわ!!」


 確かにハクトのスピードは下がった。が、それでも十分移動速度は速い。

 もしハクトが攻撃するつもりでヒメノに接近していたのなら、確かにこの変速は無視出来ない影響があるだろう。


 しかし、ハクトの目的はヒメノでは無い。彼女の横を通り過ぎていき……


「こっち来やがった!! 洒落せえ! スロット1、【ドリル・ショット】!!」

「当たらないよ!」

「くっそ、はえぇっ!!」


 鮫田長男は迎撃として地面を伝う攻撃を行うが、高速移動するハクトには全然当たらない。

 照準は合っていても、既にその場所から移動済みだからだ。


 元々このギアは着弾まで通常のミサイルより時間が掛かる。

 ヒメノのサポートなどで相手の移動を封じるか、不意打ちで無いと意味の無いギアなのだ。


「よっと、到着!!」

「テメエッ!!」

「そしてもう一回、【インパクト】!!」

「ぐうっ!?」

「させませんわ!」ビッ


 ブロックの上に到着したハクトは、再度鮫田長男をギアで蹴り飛ばそうとする。

 ヒメノが【チョイス・ショック・デバフ】で衝撃の抵抗を上げたが、それでもブロックの上から落とすには十分だった。


 鮫田長男はそのまますぐ真下の地面に落ち、近くにヒメノがいる状態になっていた。


「いつつ、テメエ!!」

「長男、早く上がりなさい!! 出ないと……」


「オッケー、ハクト君予定通り!! サモン、《R》【バンブープリズン】!!」


 カグヤの最後のスロットが解放される。

 この間のショップで手に入れた、サモンギア。物体や生物を呼び出す召喚ギアだ。


 バスッ! バスッ! ババスッ!! 


「な、なんだあ!?」

「閉じ込められましたわ!?」

「【バンブープリズン】! 竹を生やして相手を閉じ込めるギアよ!!」


 ==========================

 プレイヤー2:カグヤ


<スロット4>

 ギア名:バンブープリズン

 GP:1 最大E:3 最大 CT:3

 ギア種類:サモン

 効果分類:召喚持続

 系統分類:生物

 効果:射程3マス。1マス範囲を下から竹を生やして、相手を閉じ込める。

 竹のHPは大体50程。

 但し、召喚指定位置は地面で無いと失敗する。

 ==========================


「これで隠れることも、ブロックの上に避難することも出来ないでしょ!」

「っく!」ビッ

「おっと! “アクセル・アクション”!! “チョイスシリーズ”の射程は共通で5m、せっかく閉じ込めたのに態々範囲内にとどまる必要は無いからね!」

「っく、やはりギアのスペックは把握されてましたか……!!」

「そして、このまま……!!」


 そう言って、カグヤは閉じ込めたヒメノ達から離れる様に走り続け、ある程度加速したらUターン。

 そしてその勢いのまま、軽く飛んで空中で前転一回転。そして……


「迸れ!! 【ヒートライン】ッ!!」


 竹の檻ごと、全てを焼き払った。


「きゃああぁぁあああっ!!?」

「うぶおおあぁぁああっ?!!」


 ==============

 プレイヤー5:ヒメノ

 残HP:967 → 702


 プレイヤー6:鮫田長男

 残HP:192 → 0(HPオーバー!!)

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 ==============

 プレイヤー2:カグヤ

 スロット3:ヒートライン(残りE:1 → 0/2 残りCT:3/3)

 スロット4:バンブープリズン(残りE:3 → 0/3 残りCT:3/3)(★適応中 → ギア・ブレイク!!)

 ==============


「くそっ……すまねえ、姐さん」

「バカ長男!! っく、やってくれましたわね……!」


『おおーっと!! ここで鮫田長男HPオーバーで脱落ー!! メインアタッカーが消えて、レディ・オブ・シャークマンズはこれは痛いぞー!!』

『ちなみにだが、HPオーバーになった選手はフィールド側でバリアを貼ってくれるから、その場に止まっても安全な仕様になっている。基本的には試合終了までその場所で待機だな』

『復活系のギアとか持っているなら、発動した位置で復活してしまうので“ゾンビ状態”で位置調整されるのは困る、という訳ですねー』


 実況と解説のアナウンスが響く中、鮫田長男の周囲に見えづらいが、実際バリアの様なものが貼られているのが見えた。

 これで試合終了迄、脱落した選手の安全の事を気にせず戦える、という事だろう。


「っく、しかしまだ次男と三男がいます! その二人と合流すれば……」


『おおーっと!! キテツ選手とアリス選手も凄いぞー!!』


「っ!?」


 ヒメノが一縷の希望を持っていた、その二人の現在は……



 ☆★☆


「「スロット2! リピート、《R》【ガード】!!」」


「だああ!! めんどくせえ! 全然ダメージ稼げねえ!」

「でも、これで相手のリアクションギアは使い切った!! 今がチャンスだよ!」

「でも後15秒程しか【ハイパー・パワー・バフ】使えねえんだけど! 【メタルボディ】もまだCT中だし!」

「そうなの!?」


 キテツとアリスは、鮫田弟達に手こずっていた。実力的には負ける相手では無いのだが、相手が完全に時間稼ぎ目的のため、防御を固めて生存特価にしているせいだ。

 かと言って無視しようとすると、体を張ってしがみついたりして妨害してくる。

 実力を考慮しなくても、相手はどちらも背の高い1歳年上の男。体格差による押さえつけは地味にキツかった。


「はっはっはっ!! これで厄介な亀野郎はひとまず無力化した!!」

「もう行ってもいいぜ! あとはこっちの金髪やろうを押さえつけとけばいいからな!」

「はは、僕人気になっちゃったね!」


 鮫田弟達は、キテツの攻撃手段が無くなると判断してもう無視する。

 仮に【メタルボディ】が先に戻ってくるにしても、ヒメノが【ブレイクミサイル】を持っている以上、簡単に封殺してくれると思ったからだ。


 ……実際は、ヒメノはカグヤに攻撃を与えるため【ブレイクミサイル】を使い切っているのだが、向こうの状況が分からない鮫田弟達にそれを分かれと言うのは無理な話だ。


 とにかく、二人の目標はもう既にアリスに移っていた。


「じゃあな亀野郎!! せいぜい姐さんにボコボコにされろ性犯罪者!!」

「やーいセクハラ野郎!! 姐さんに手出した事後悔するんだなバーカ!!」


 そして、ここぞとばかりに何も出来なくなるだろうキテツに対して、悪態を吐きまくる。

 そのままキテツを無視して、アリスの妨害に二人とも行こうとする。


「────────」ブチッ


 そして、キテツは────切れた。



「「あん!? なに足掴んで……」」



「“陸亀大車輪”んンンンン──ッ!!!」


「「あ、あ、あああぁああああぁああ────っ!!?」」


 キテツを無視して背を向けた、隙だらけの鮫田弟達を両方捕まえて、得意技の大車輪。

 後10秒ほどでしか無いが、逆に言えば10秒はブン回せるのだ。


 もうここまで来たら、完璧に不良弟達をどっちもHPオーバーにする。そう決めた。


 とはいえ、いくら腕力が以前よりアップするギアを使っているとはいえ、10秒で不良弟達のHPを削り切るのは一人では厳しい。

 壁に頭をぶつけさせるのも、回転が落ちて時間が掛かる。

 ぶん投げて壁にぶつけても、HPは削りきれない筈。


 しかし、キテツには頼れる仲間がいた。


「アリスぅっ!! ソードで横ギロチン!! 刃ぁ固定しろ!!」

「えっ、あっ! そっか、なるほど!! スロット2、【ロングソード・ハード】再起動!!」


 キテツの言葉に求められていることを理解したアリスは、強化長剣を展開。

 それを刃を横にして、キテツの大車輪近くに足を固定する。


 すると、どうなるか……大車輪の外側に、長剣の刃が当たり続ける!! 


「「がっ!? がっ!? がっ!? がっ!?」」


 ==============

 プレイヤー7:鮫田次男

 残HP:790 → 740 → 690 →→→ ……


 プレイヤー8:鮫田三男

 残HP:827 →787 → 737 →→→ ……

 ==============


「斬り付けられる程度なら、回転は落ちないよなあー!!」

「うわ、これすっごい楽。相手から勝手に斬られに来てくれるし。でも絵面酷いね」

「「あああああぁぁああああぁあああ────ッ?!!!」」


 そうして、斬り付けさせながら回転速度をどんどん上げていくキテツ。

 10秒、9、8、……3、2、1。


 ==============

 プレイヤー4:キテツ

 スロット2:ハイパー・パワー・バフ(残りE: 1 → 0/3 残りCT:3/3)(★適応中 → 強制解除)

 ==============


「ぶっ飛べええええええ!!? 」

「「あああああぁぁああーッ?! 、ぐあはあああああああッ!!!?」」


 ==============

 プレイヤー7:鮫田次男

 残HP:→→→ …… 0


 プレイヤー8:鮫田三男

 残HP:→→→ …… 0

 ==============


 近場のブロックに叩きつけ、トドメの一撃となった。

 防御用のギアが残っていたなら、ここまで上手くはいかなかっただろう。

 或いは、残っていた【スーパーミサイル】を使って、キテツの腕に攻撃して離させる発想力があれば、抜け出すことは出来ただろう。

 しかし【ガード】のエネルギーは使い切ってしまっている上、Rank1にその発想力を求めるのは酷な話だ。


 あれだけ残っていたHPが、キテツとアリス二人の手によって、あっという間に削られ切ってしまったのだ。


「っふん!! ざまあみろ、人をバカにした罰だ!!」

「キテツ君頑張ったね。お疲れ様ー」


 こうして、鮫田弟達も撃沈してしまっていたのだった……



 ☆★☆



『鮫田次男、鮫田三男共にHPオーバー!! これにより、レディ・オブ・シャークマンズは3人倒れて、ヒメノ選手のみとなりました!!』


「そんな……!!」


 アナウンスを聞いて、ヒメノはショックを受ける。

 これで自身以外のアタッカーをやれる人材は、全て戦闘不能になった。

 つまり……


「私たちの勝ちね、ヒメノちゃん」

「流石に、4対1でかつこのHP差だと逆転は難しいだろうし」


「…………」


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:845


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:747


 プレイヤー3:アリス

 残HP:949


 プレイヤー4:キテツ

 残HP:541


 VS


 プレイヤー5:ヒメノ

 残HP:702

 ==============


 電光掲示板の表示を確認しても、終わって見れば圧倒的だった。

 ここから攻撃手段が【ブレイクミサイル】のみのヒメノが、勝利出来る未来は無いだろう。


 決着はついた……



 ☆★☆



「……終わったな。流石にここから逆転は無いだろう、ヒメノチームも序盤は押していた様に見えたが、結局は総合Rank差が最後に響いたな」


 風雅は試合を見て、そう感想を溢す。

 確かにヒメノチームも思った以上に粘れていたが、流石にムーンラビットが上だった。

 上手くヒメノの指揮は嵌っていたが、流石にRank差を覆すほどのものでは無かった。

 せめてRank3とRank2の違いなら、まだ取れる手段は合ったかもしれないが、Rank2とRank1では流石にスロット数の差が響き過ぎる。


 終わってみれば、順当な結果に落ち着いただろう。


「…………」

「カラー、残念だったな。押していたチームが負けてしまって」


 風雅は、先程から黙ったままのカラーに対して慰める様にそう声を掛ける。

 押していたチームが負けてしまうことのショックは、風雅も分かっているつもりだ。

 でも試合の結果は絶対だから仕方ないことだと、そう声を掛けようとして……


「……何言ってるの?」

「は?」


「……私があのチームに期待したのは、面白い展開を見せてくれる事よ? 別に最初からチームの勝利なんて期待していなかったわ」


「ひっでえ言い分だな、おい!」


 とんでもない事実を言い出していた。

 それに対して風雅は流石に反論する。


「でも、それでも十分試合は盛り上がっていただろ? そう言う意味では、お前の期待も十分答えてくれていたと──」


「だから、何言ってるの?」



「──何ヒメノちゃんが、このまま終わると思い込んでいるの?」


「──何だと?」



 ☆★☆



「おーい、白兎! 卯月も!」

「なんとか、こっちも片付いたよ。そっちも決着は付いたようだね」


「キテツ、アリス!」

「二人ともお疲れ様、これで勝利確定ね!」


 離れていたキテツとアリスも合流して、この場にムーンラビット全員が揃った。

 目の前には、俯いた表情のヒメノ選手が一人。


 代表して、アリスが前に出てヒメノに声を掛ける。


「さて、ヒメノさん。そろそろ降参宣言したら? 流石に勝ち目は無いことは分かっているでしょ?」

「…………」

「後10分も時間が残ってしまっている。これ以上やっても無駄さ。早めに降参したもうがすぐ楽に……」


「────っ」ビッ


 直後、ヒメノの体がブレ……



 アリスの目の前に移動していた。



「っは? ぐえあっ?!」

「有栖!?」


 気づいた時には、鳩尾にヒメノのパンチがめりこんでいた。

 パンチの威力はそれほどでも無いが、急所にいいのを貰ってしまった。


「この!? ま……」

「──っ」ビッ

「ッガっ!?」


 まだやる気か、そう言おうとしたキテツの頭に蹴り上げキック。

 咄嗟にガードは間に合っていたが、ギアを解いていたキテツはたたらを踏んで下がっていた。


「いい加減に、“クイック・ラビッ”……」

「──っ」ビッ

「っ!? 蹴りが止められ、うが!?」


 無理やり止めようとしたハクトを、逆に脚力ダウンで蹴りを片手で止め、もう片方の手でアッパーカット。


「──っ」ビッビッ

「ちょ、ちょっとこれ!? きゃあっ!?」


 少し離れた位置にいたカグヤに対して、一気に距離をつめて飛び蹴り。

 ギアにより強化された脚力で、速度と威力を乗せた蹴りだった。


「…………まだ、終わってませんわ」


 気がつくと、ムーンラビットは全員少し距離を取った状態。

 その中心位置に、ヒメノが立っている状態だった。


「て、テメエ! まだやる気なのかよ!?」

「ええ、そうですわ。タイムアップが来るまで、最後までやる気ですわ」

「往生際が悪すぎないかい!? 君には攻撃ギアなんて一つしかない! ここからの逆転なんて不可能だ!」


「ええそうですわね、認めましょう。残り10分弱。この時間“だけ”では、到底あなた達を倒し切ることなんて不可能です。その前にタイムアップで、残り生存人数的にそちらの勝利でしょう」


「おい、その言い方だと、“時間さえあれば倒し切れる”って言いたいようだな!」


「ええ、そう言いたいのですわ」


「っ!?」


 その返事に、キテツは流石に言葉が詰まる。

 それを言ったヒメノは俯いていた顔を上げ、無表情に事実を淡々と言うように、そう話していた。


「逆にあなた達はなんですの?」

「何?」

「こんな馬鹿げた事を豪語する、“愚かな女一人、さっさと倒せないのか”って聞いてるんですの」

「っは!?」


 さっきから言うヒメノの言葉に、キテツは混乱する。

 この圧倒的不利な状況で、実際は勝ってたと言い放つ事と、それを馬鹿げた事と自分で言ってる事にも、ヒメノが何を言いたいのか分からない……


 ヒメノは片手を額に当てながら、続きを話す。


「ええ、そうですわ。チームとしては完全敗北。私達の負けでしょう。ですが私個人……ヒメノと言うプレイヤー個人としては、こう言わせていただけます。まだワタクシ“そのもの”は負けていないと」

「何を、言って……」


「ワタクシは、灰崎姫乃はいざきひめのっ!! 大海原高校の2年生で、不良高の生徒達にこの身一つで分からせ、頂点に成り上がった女!! あのバカ達のリーダーです!!」


 そう、声を張り上げる。

 自分はここにいると、会場中に知らしめるように。


「チームの負け? それでワタクシも降参すると? まっぴらゴメンですわ!! ワタクシはまだこうして立っている!! ええ、これはただのワタクシの意地! 最後まで立ち続けていると言うワタクシの誓いですわ!!」


 ムーンラビット!! っと、キテツ達にビシッと指を挿す。


「これはワタクシの挑戦上!! ムーンラビット、“残り10分以内に、ワタクシを倒して見せなさい”!! それまでワタクシは、このフィールドに立ち続けます!! 生きて生きて、最後まで生き残ってやりますわ!! そしてこう言ってやります! “たかが調子に乗った子娘一人、倒せないチームなんですのね”、と!!」


「なあ!?」


 その宣言に、会場内で真っ先に反応した人物が一人。

 マイク越しに、大いに興奮していた。


『こ、これは盛り上がって来ましたー!! ヒメノ選手個人からムーンラビットへ挑戦上ーっ!! そうそうこれこれ、これを求めていたの!! こーいう面白い展開が見たかったのー!!』


 カラーの大喜びな声が、会場中に響き渡る。

 マイクを片手で握りしめて、もう片方の手をブンブン振り回していた。


『む、無茶苦茶言ってやがるあの少女!? チームとして殆ど敗北はしてるんだから、素直に諦めろよ! プロレスとかでも、素直にタップで降参しろとか言うだろう!?』

『でもそれって、怪我の恐れがあるからそうしたほうがいいってだけで、HPグローブがあるマテリアルブーツだとそこまで気にしなくていいですよね?』

『いやまあ、そうだけどさあ!』


 そう、HPグローブがあるからこそ、最後まで怪我の心配なく戦える。

 だからこそ、スポーツの種類によっては醜いと思われる、最後の足掻きを安全に、全力で行える。


『だいたい風雅選手、この間自分で言ってましたよね? マテリアルブーツはあくまでスポーツで、“スポーツは結局の所エンタメ要素”って』

『それは……そうだけど』

『でしょ? こんな大盛り上がりになりそうな要素、外部で止めるなんて勿体ない!! ヒメノ選手がどこまで行けるか、みんな見てみたいわよねー!!』


 その会場中に問いかけるような言葉に、観客からチラホラ声が湧き上がる。

 多少まばらだが、確かに見てみたい、と。

 結局は、観客も楽しみたいのだ。楽しめる要素があるのなら、見てみたいのだ。


『でしょー!! ほら、みんなも一緒に! ヒーメーノッ! ヒーメーノッ! ハイ!』


『『『『『ヒーメーノッ! ヒーメーノッ!』』』』』


 会場中が、カラーのその声によって盛り上がっていく。

 フィールドの中心にいる、ヒメノに対して期待を乗せて。


 その歓声に、ヒメノは両手を広げて受け止めていた。


「……さて、どうしますのムーンラビット。ワタクシの挑戦、受けてくださらないの?」


「受けるって……」

「これは、思った以上にとんでもない女性だったね……」

「……カグヤ、一応確認だけど。このまま何もせずにタイムアップしても、俺達の勝ちは確定だよね?」

「ええ、そうね。……この挑戦、受ける意味はないと言ったら、確かにそうね」


 ハクトはカグヤに、現状確認をする。

 この挑戦状、会場を味方につけてはいるが、結局のところムーンラビットに受ける義理は一切無い。

 むしろ余計な体力の消耗を避けて、決勝戦のためにこのまま何もせずに終わるのも正しいだろう。


 ……だが。


「……でもハクト君、あなたはそれで満足する?」

「……あの風雅さんに前言われた言葉だけど、“せめて自他共に楽しめるような戦いをしろ”、そうも言ってたよね。だったら、自分の答えは決まってる。そう言うカグヤはどうなのさ?」

「勿論……」


 そう言いながら、カグヤと顔を見合わせながら……


「「やる。だよね!」」


 いえい、と互いにハイタッチ。

 気持ちは完璧に一致していた。


「そうなのかい? 結局やるのか……」

「おい、マジか!? オレはまあ……」


「キテツさん!! 特にあなたには拒否権は与えませんわ! 以前のワタクシの乳房を触った事! この挑戦状受けなかったらこの場で訴えてやりますわ!!」

「とんでもねー事言い出し始めやがったんだけどこの女!? そんな事しなくても、ちゃんと受けてやるって言おうとしたわ!?」


 キテツは叫ぶように反論しながら、そうヒメノに言い放つ。

 アリスもまあ、やるならやるけど。そう言う態度でヒメノに向かい合う。


「結構!! ワタクシの挑戦を受けてくれるようで満足ですわ!! ワタクシも準備万端ですの!!」


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 プレイヤー5:ヒメノ

 残HP:702

 rank:2

 スロット1:ブレイクミサイル(残りE:0 → 2/2)

 スロット2:チョイス・マジック・デバフ(残りE:10/10) (■非公開)

 スロット3:チョイス・レッグ・バッファー(残りE:0 → 6/6)

 スロット4:チョイス・ショック・バッファー(残りE:0 → 6/6) 

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「ああ!? あの女、全部のギアがエネルギーMAXまで戻ってる!?」

「使い切っていなかった筈のギアまで……彼女、さっきの啖呵切る前に、全部こっそり発動しきってたね。全く、抜け目の無い人だ」


「これで準備は整いましたわ。さあ……




 ……勝負ですわ! ムーンラビット!!」



 そうして、レディ・オブ・シャークマンズ改め、ヒメノ個人対ムーンラビットの対決が開始されたのだった……


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