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第6.5話 風雅VS雪女

 スタジアム内に設けられたバトルフィールドには、

 いくつかの"メダル"が取り付けられたブーツを履いた

 2人の選手が相対している。

 一人は二十歳くらいの緑髪の青年。もう一人は小柄な女性だった。

 2人の距離は15mほど。


 青年が、蹴り飛ばすように足を女性の方に向けた。


「こちらからいかせてもらう! スロット1発動! マジック【エアロスラスト】!! 」


 そう叫ぶと、ブーツのメダルの一つが輝き出す。

 そして靴底から風が放たれ、それは多重の刃のように対戦相手へ飛んでいった。


「………………」


 女性は慌てる事なく、紙一重の横ステップで冷静にその攻撃を躱す。

 まるで風に乗ってふわふわと舞っている雪のように。


「スロット3、マジック。【アイスレーザー】」


 お返しのように、今度は女性が青年に向けて靴裏を見せる。

 こちらもメダルの1つが輝き、

 そこから放たれる、冷気を纏った青白い光線。


「チイッ!!」


 青年も慌てながら、その攻撃をどうにか躱す。

 似た様な攻撃をやり返すような単純な応酬のように見える。

 しかし……


「っ!? 地面が凍って……ッ」


 青年の放っていた攻撃と違うのは、低い身長による攻撃位置の低さ。

 それにより女性の放ったレーザーは少し地面に干渉し、通った直線上にその跡を残していた。

 それはピカピカに磨かれたように整ったスケートリンクのような状態だった。


「スロット1、フォーム。【アイススケート】」


 青年が気づいた頃にはすでに遅く、女性は次の一手を開始していた。

 女性は少し飛び上がり、次の技を宣言する。

 女性の両方の靴の裏から刃が飛び出し、まるでスケート靴の様な形状に変化が起こる。

 そして凍った床に着地した女性は、直線上に凍った床の上を通ってどんどん加速して青年に近付いた。


「ぐげえッ!?」


 再度躱そうとしても間に合わず、女性の攻撃をモロに喰らう青年。

 ライダーキックのように放たれたそれは、青年の鳩尾を綺麗に捉えていた。


「ぐ、くそっ!」


 くの字に曲がった青年の反撃を許す前に、すかさず女性が距離を取って離れていく。

 スケート靴越しに鳩尾に攻撃を食らった青年は、しかし直ぐに立ち上がる。

 それはそれほど肉体にダメージを負っている様には見えず、様に見えた。



『おおっとーっ!! アイスクイーン・雪女ゆきめの得意技の一つ、アクセルムーブ・キックが炸裂だー! バトル開始から30秒、序盤は雪女選手のリード!』


 実況の放送が会場内に響き渡る。

 会場の電光掲示板には、2人の情報をゲームのデータのように表示されていた。


 ==============

 バトルルール:殲滅戦


 残りタイム:14分22秒


 プレイヤー1:風雅

 rank:3

 HP:852 / 1000


 スロット1:エアロスラスト (残りE:1/2)

 スロット2:────

 スロット3:────

 スロット4:────

 スロット5:────

 スロット6:────


 VS


 プレイヤー2:雪女

 rank:4

 HP:1000 / 1000


 スロット1:アイススケート (残りE:3/3) (★適応中)

 スロット2:────

 スロット3:アイスレーザー (残りE:1/2)

 スロット4:────

 スロット5:────

 スロット6:────

 スロット7:────

 スロット8:────

 ==============



 ☆★☆



 ……試合は、いまだに続いている。

 今度は、雪女から攻める番だった。



「スロット6。マジック、【コールドキャノン】」

「氷の球か! そんなの簡単に当たらねえ……何!?」


 風雅、雪女の試合は続いている。互いに15mの距離は開いている状態だ。

 今度は雪女選手から仕掛け、氷で出来た巨大な球が風雅選手に向かって足裏から放たれた。

 冷気を纏っており、触っただけで人体は氷漬けになってしまう程の寒さを離れていても感じる程だった。

 そこそこのスピードで放たれたそれは、しかし仮にもプロの風雅選手にとってはまだ避けやすい攻撃だった。


 風雅は落ち着いてその巨大な球を避ける……が、その巨大な球の裏に、”水色に光る球”が裏にある事には直前まで気付いていなかった。

 一つだけ違うその球が風雅に近づいた位置でパアッと光を放ち──それが収まった次の瞬間には、氷で出来た檻が出来ていた。


「げえ!?」

「サモン、【氷の檻】よ。無警戒過ぎたわね」

「無宣言発動!? 裏で発動してやがったのか! くっ! この、このっ!」

「そんな蹴り程度じゃ壊れないわよ。スロット3。マジック、【アイスレーザー】」


 風雅はまんまと檻に捕らえられてしまった形だ。

 急いで氷を壊そうと硬いブーツごしに檻に蹴りを入れ続けるが、多少ヒビが入っただけで簡単に壊れない。


 そんな隙だらけの風雅を放っておくわけもなく、雪女は2発めの【アイスレーザー】を放とうとする。

 照準が定まり、風雅には回避手段が無いと思われたが……


「くそ! マジック、【ソニック・ウィンド】! 二連打!」


 風雅は別のギア、近接に風の刃で斬り付ける攻撃ギアを応用して、檻に内側から攻撃する。

 ズバズバッ! と柱部分を数本上下に斬り付けて、ギリギリ成人男性が潜り抜けられるスペースを作りあげた。

 レーザーが当たる直前にそこから抜け出し、ギリギリ攻撃を回避する。


「あっぶねえ!? ギリギリ脱出出来たか……っ」

「再起動。フォーム。【アイススケート】」


 しかし、一安心するにはまだ早い。

 序盤の攻撃の時と同様に、レーザーが通った範囲には直線状の氷の床が出来上がっていた。

 即席のスケートリンク。再度雪女はスケート靴にブーツを形態変化させて、風雅に向かって加速していく。


『風雅選手、ギリギリレーザーを回避出来ましたが既に雪女選手の次の攻撃が始まっているー!! 序盤の展開の焼き増しかー!』

「2度も喰らうかっ! マジック! 【エアロスラスト】!!」

「むっ」


 直線状に向かってくる雪女選手に対して、風雅も直線状に多重の風の刃を放つ。

 雪女の反射神経なら避ける事自体は訳はない……だが、加速に使っている氷の床が直線範囲にしか無い以上、横に避けたら普通の地面だ。

 スケート靴で普通の地面は歩きづらく、折角の加速も活かせなくなる。


「”スケート・ジャンプ”」


 なので雪女は、当たり前のようにその場でジャンプした。

 多重の風の刃が体の下を通っていくが、せいぜい1秒程度の展開。

 着地まで一瞬浮かんでさえいれば、真上に回避は余裕だった。


 しかしそれは、空中に自分から跳ぶという事。人は空中で身動き出来ない。


「ジャンプしたのは失策だったな! スロット,2,3同時開放! 【アトモスミサイル】!」


 風雅は空中に浮かんだ雪女に向かって、チャンスとばかりにギアを切る。

【アトモスミサイル】、風で出来たミサイル状の弾を放つ技。ギア一つで5発放つ事が出来る。

 ……その弾が、10発分雪女に襲いかかっていく! 


「スロット2個分、全部喰らえええ──ッ!!」


 風雅にとって、今出せる最高火力。

 それを全て注ぎ込んだ攻撃は、雪女選手に全て向かって飛んでいく。

 空中の雪女選手は、回避手段が無く全て当たる未来しか無い────



「マジック。【アイスボール】」



 ──しかし、雪女選手はただ静かに呟く。


【アイスボール】、ただの初級ギア。

 氷の球を発射するだけの技だが、先程の【コールドキャノン】に比べたら、威力も冷気もサイズも下の、本当にただの氷の球を放つギアだ。

 球数は10発と多いが、所詮初心者用のギアで威力はそこまで高く無い。


 対して風雅のミサイルは【アイスボール】より強めのギアで、中級のギアと言える存在だ。

 風雅と相打ち狙いで狙ったとしても、ダメージ効率は風雅の方が高く痛みわけには程遠い。



 ……しかし雪女にとっては、”氷の球が10発”放てるというだけで重要なギアだった。


「──”アイスボール・インターセプト”」


 空中で体勢を整え、風のミサイル一つに照準を合わす。

 一つめの【アイスボール】がミサイルとぶつかり合い、ボゴォンッ!! っと爆発する。

 氷の球は、効果なしでも十分な質量を持った存在。ミサイルがぶつかれば当然そこで暴発する。


 そして1発だけではなく、2発め、3発めと【アイスボール】が放たれ、ボゴゴゴンッとどんどんミサイルが撃ち落とされていき……


 ──10発のミサイル全て、たった一つの初級ギアに撃ち落とされた。


「はあああっ?!」

「まだよ」


 確実に当たるはずだった攻撃を、最小限の手間で片付けられた風雅。

 目の前の光景に驚きの叫びを上げているが、そんな暇では無かった。

 既に雪女による次の攻撃が始まっている。


 1発だけ、ミサイルに当たらずに飛んできていた水色の球が風雅に向かって飛んで来ていたのだ。

 咄嗟に風雅はバックステップで回避するも、よく見ると先程と同様氷の球では無く、何らかのギアによる発射だった。


 地面に当たったそれは広範囲に氷の床を発生させて──直径15m前後のスケートリンクになった。

 そしてそれは、風雅の足元にも及んでいた。


「スロット5。【アイス・ボム】よ」

「げえっ?! 逃げ場がねえ!?」


 足場を凍らされた風雅は、その場で立っていてプルプルとした足で立つのがやっとの状態だった。

 小さなスケートリンク上のフィールドで、靴裏まで鉄製の”ノーマルブーツ”では、仕方がない事だ。

 これにより、咄嗟にステップを踏んで攻撃を躱すことも逃げることも厳しい。


「着地。加速。喰らいなさい」


 ジャンプしていた雪女が着地し、再び氷の床を利用して加速していく。

 直線上の床の先には、先程ボムで広げたスケートリンク。

 十分に加速した雪女は風雅に急接近し、すれ違い様鋭い刃物のスケート靴で斬り付ける。


「ぐうっ!!」

「一回目。一度じゃ終わらないわよ」

「っ!?」


 すれ違った雪女はそのままターンでカーブを描き、風雅の真横に回り込む。

 そして再度、すれ違い様斬り付けて通り過ぎる。やってる事は単純だが、スピードがかなり早い。


「があっ!?」

「”オーバー・スケートドライブ”。二回目。このままHP切れまで行って終わりね」


 雪女が斬りつけながら、そう呟く。

 ”オーバー・スケートドライブ”、雪女の二つめの得意技だった。

 丸く円の軌跡を描きながら風雅選手を切りつけていき、また別の円を描いていく。

 まるでリンク上に咲いた4枚の花弁のように軌跡を描く技だ。


 これはギアの効果では無く純粋な身体能力で出してる技の為、雪女の基礎能力がかなり高い事がよく分かる。


 もう既に技のループに陥っている為、このまま何もしなければ風雅の負けは必須。

 だが……


「三回目──」

「まだだぁっ!! マジック! 【メガストーム】!!」

「っ! いたっ」


 三回目の斬り付けられる直前、風雅はギリギリでギアを発動した。

 持続型のマジックギア、【メガストーム】。

 自身の周囲に小さな風の竜巻を起こし続け、近づいたものを風の刃で自動で切りつける風雅のフェイバリットのギアだ。


 タイミングを見計って放たれたそれは、雪女にカウンターするように彼女にダメージが入る。

 ダメージを喰らった雪女が咄嗟に距離を取り、その後も小さな竜巻は残ったまま風雅を守るように展開され続けている。


『風雅選手、【メガストーム】で雪女選手の連続攻撃を止めたー!! 雪女選手はこのままだと竜巻に自分から突っ込むことになる為、”オーバー・スケートドライブ”が使えなーい!! ここから風雅選手の逆転になるか!?』


 実況の状況解説のアナウンスが鳴り響く。

 ダメージレース的には、雪女選手が勝ってはいる。このまま無理やり”オーバー・スケートドライブ”を連打して押し切ることも出来るが……


「(もしこのまま押しきろうとしてきたら、【メガストーム】したまま捕まえてやる! そうすればダメージはこっちが稼げる! それにそもそも、あの人の攻撃は氷の上でこそ効果を発揮する技が多い! 歩きづらいとはいえ、今の内に【アイス・エリア】の展開場所から離れれば……)」


 風雅は脳内で、軽くここからの攻防の計画を立てる。

 雪女にとっても、この状況は流石に不利になった筈だ。

 仮に、もし風雅が上手く雪女を捕まえた場合は、体格差を利用する事で相手は抜け出せなくする事が出来る。

 そうしたら、彼を覆っている竜巻で何度も斬り付ける事で、HPを逆転させることも夢ではない。簡単には相手は接近出来ない筈だ。


 その間に、何か対策を──


「スロット4。マジック。【氷山の多角】」


 しかし、そんな思考を断ち切るように。無情にも雪女選手の次の手が放たれる。

 スケートで接近が出来ないとみるや、雪女選手は片足の踵を氷の床に振り下ろす。


 そして、付近の氷の床が光ったと思った次の瞬間、氷が形を変えて尖った塊に変化する。まるで氷山の一角の先のように、それが複数。

 それら全てが、風雅を囲って串刺しにするように襲いかかっていった!! 


「って、うおおおお!? 【エマージェンシーエスケープ】うううッ!!」


 近づけないなら、近づかないで出来る攻撃をすればいい。

 そんなあたり前とも言える対処法で簡単に攻略された風雅は、咄嗟に緊急脱出用のギアを発動。

 マジック系統の【エマージェンシーエスケープ】を大慌てで叫んで、その場でジャンプするように回避した。

 慌てすぎてギアの効果とはいえ、7、8メートルは高くジャンプしてしまっていた。


「くそう!! やっぱあの人普通に別の手使って来やがった! てかそりゃそうだよな! こっちはRANK3!  スロット6個分で手持ちのギア殆ど使い切っちゃったし! あっちはRANK4のスロット8個分あるんだから戦術に余裕が……」


「マジック」

「あ」


 ……人は空中で身動き出来ない。

 それを今度は、風雅がその身で実感する番だった。



「【フリーズ・コフィン】」





 ==========

 バトル・フィニッシュ! 

 ==========


 ==============

 バトルルール:殲滅戦


 残りタイム:4分37秒


 プレイヤー1:風雅

 rank:3

 HP:0 / 1000


 スロット1:エアロスラスト (E:0/2 CT:2/3)

 スロット2:アトモスミサイル (E:0/2 CT:2/3)

 スロット3:アトモスミサイル (E:0/2 CT:2/3)

 スロット4:エマージェンシーエスケープ (E:0/2 CT:3/3)

 スロット5:ソニック・ウィンド (E:3/5 CT:2/3)

 スロット6:メガストーム (E:0/5 CT:3/3) (★適応中 → ギア・ブレイク!!)


 VS


 プレイヤー2:雪女

 rank:4

 HP:837 / 1000


 スロット1:アイススケート (E:1/3) (★適応中)

 スロット2:アイスボール (E:0/10 CT:2/3)

 スロット3:アイスレーザー (E:0/2 CT:2/3)

 スロット4:氷山の多角 (E:0/1 CT:3/3)

 スロット5:アイス・ボム (E:0/1 CT:2/3)

 スロット6:コールドキャノン (E:1/2)

 スロット7:フリーズ・コフィン (E:0/1 CT:5/5)

 スロット8:氷の檻 (E:0/3 CT:2/3)


 ==============





『け、決着ぅ〜!! 雪女選手の切り札【フリーズ・コフィン】により、風雅選手超巨大な氷のブロックの中に氷漬けにされてしまいました!! それと同時に、風雅選手のHPも0!! よって雪女選手の勝利決定ー!! そしてこれにより、ウィンターカップの優勝は、雪女選手に決定致しました〜!!』



 そのアナウンスに、会場中が大きく沸く。

 優勝者が確定したことで、大盛り上がりだ。


「では、勝利者インタビューとして、雪女選手に一言お願いいたします!」

「ふう。大したことなかったわね。これなら、どこかの猿の方がよっぽど手応えあったわね」

「厳しいコメント、ありがとうございま〜す」


「そしてちょうど、氷ブロックから脱出完了出来た風雅選手にも、一言お願いいたしますー」

「ぜえっ……ぜえっ……つ、次は絶対勝つ!」

「ありきたりなコメント、ありがとうございまーす」

「なんかちょっと冷たく無い!? 凍ってたから!?」


 そうして、雪女選手と風雅選手のインタビューが終わったところで、この大会決勝戦の動画は終了していた。



 ★☆★


「……なる程。これがマテリアルブーツなんだね」


「そう。それがマテリアルブーツで、今爆発的に流行っているスポーツよ」



 これが、カグヤと出会った時にハクトが見せられた映像。

 そして、今解説席に座っている風雅の試合だった。



 ──カグヤと模擬戦をしたハクトは、今ならよく分かる。

 こうしてみると、やはりプロの試合は一味違う。


 「いつか、ハクト君もこんな試合が出来るといいわね!」

 「簡単に言ってくれるなあ……」


 にっこり笑顔で話すカグヤに対して、ハクトは苦笑しながらも実際これくらい動けるようになればいいなと、そう思っていた。

 まずは、この試合をやってくれた風雅という解説者に、自分の試合を見せよう……

 そんな思いを感じながら、自身の一回戦に向かっていった……






 ★風雅(ふうが)


 20台前半

 176cm

 黄緑色の髪

 秩序・善


 マテリアルブーツプロ選手。

 雪女選手によく挑むが、戦績はイマイチ。



 ★雪女(ゆきめ)


 30代

 140cm

 青白い髪色。

 混沌・善


 マテリアルブーツプロ選手。

 日本のトッププロ。

 年齢の割に、身長小さくて小学生によく間違われるのが悩み

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