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第4話 模擬戦・カグヤ(前編)

 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:12分27秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:812

 rank:1

 スロット1:────

 スロット2:────


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:1000

 rank:1

 スロット1:ファイアボール

 スロット2:────

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「ほら、まだまだ行くわよ! 【ファイアボール】!!」

「くっそ!」


 この模擬戦を開始してから、カグヤが8発目の【ファイアボール】を放ち始めた。

 それをハクトは慌てながらも、ギリギリの所で横に躱す。



「やるわね! 今度はちゃんと避けたわね!」

「あれだけ喰らってたらそりゃあね!」


 ハクトは何発か既に喰らっていたが、だんだん目が慣れて来ていた。

 幸いにも、カグヤが1発攻撃を放った後3、4秒ほどのインターバルを挟んでから次の攻撃が来る為、多少体制を立て直す時間はあった。

 しかしそれでも、これを続けて回避していくというのはそこそこキツイ話だ。


「まるで小学校の頃良くやったドッチボールだ! 回避仕切れない速度ってわけじゃ無いけど、キャッチ禁止の逃げ続けるしか無いっていうハードモード!」

「あは! 良い例えね! でも代わりに、相手を直接蹴って攻撃出来る選択肢があるじゃない。いつでも来て良いわよ!」

「じゃあ遠慮無く、そうさせて貰うね!!」


 そう言って、ハクトは全力でカグヤの方にダッシュし始める。

 しかしそれを除いても、慣れてきたおかげで体勢の立て直しが早くなり、回避した後カグヤに近づけるほどの余裕が出来る様になってきていた。


「ふふ! でも近づいたら避けづらくなっちゃうわよ! 【ファイアボール】!!」

「それは、どうかな!!」

「っ!? おお、完璧に避けた!!」

「【ファイアボール】を放つ直前、思いっきり君の右足が上げられるからね! 撃つタイミングさえ分かれば、近づいても十分避けられる!」


 9発目を回避したことで、ハクトは一気にカグヤに接近出来た。

 元々広い部屋と言っても、テニスコート2つ分ほどの広さしか無いとも言える。

 3,4秒ほどの間隔があって、1発追加で避けられたのなら十分詰め寄る時間はある! 


「おらあ!! さっきのお返しだ!」

「ぐっ!!」


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 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:1000 → 988

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 ハクトはカグヤの横脇腹に全力で蹴りを入れる。

 説明の時にやられた事をやり返しただけだが、多少ハクトが蹴った方がダメージは多かった。


「躊躇無く女の子を蹴り上げるのってどうかと思うの私!」

「説明の前に男子を蹴ってきた奴が言うのも大概でしょ!! HPグローブの効果は実感出来たし、一切躊躇無しだ!」

「思ったより乱暴ね! でもそう言うの嫌いじゃ無いわ!」


 そう会話しながら、カグヤが再度右足で蹴ってくる。

 それをハクトは左足を軽く上げて、金属のブーツの部分で受けてガードする。


「おお、ガードされた!?」

「生憎近接で蹴ったりと言った喧嘩は、ウチの兄直伝でね! 多少の喧嘩は得意なんだよ!」

「へえ、お兄さん何やってる人?」

「”不良警察官”!!」

「今すっごい矛盾したパワーワードが聞こえた気がしたんだけど!?」

「おらあ!! 隙ありっ!!」

「しまっ!?」


 動揺したカグヤにハクトは右足を向けて、胴体に蹴りを入れ込む。

 カグヤに多少ダメージは入っただろうが、それだけでは終わらない。

 そしてそのまま、ハクトはある事を試す。


「喰らえ!! 【インパクト】!」



 ………………しかし、何も起こらなかった。


「……は? え、違う!? ギア名叫べば何か出るんじゃ無いの!?」

「はい女の子に近づきすぎだから、ちょっと離れてねっ!!」

「グゥっ!?」

「そしてこのまま、【ファイアボール】!!」

「ごはあっ!?」


 逆に動揺したハクトに、カグヤは思いっきり蹴り飛ばして距離を開ける。

 そしてそのまま近距離【ファイアボール】を当てる流れるような動きだ。

 モロに喰らったハクトは一気にダメージを喰らった。


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 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:11分58秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:812 → 771

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「うん! 思った以上に動けているわねハクト君! 正直予想以上よ!」

「そ、そりゃあどうもね。じゃあそろそろ、ギアの発動の仕方について教えてくれないかなあ!?」

「んー、そうね。質問応えるって言っちゃったし、丁度キリが良い感じだから教えてあげる」


 そう言ってカグヤは構えを解き、楽な姿勢で立っていた。

 ハクトもそれに攻撃に向かうなんてことはせずに、大人しくカグヤの話をその場で聞こうとした。


「それじゃあ例題として逆に質問するけどハクト君、さっき【インパクト】って叫んでたけど、どうしてそうしたの?」

「どうしてって……カグヤが攻撃する時いつも【ファイアボール】って叫んでいるから、自分の装備しているギア名を叫べば自動で発動するんじゃ無いかと思ってたんだけど」

「着眼点はいいわね。でも残念、不正解よ」


 大事なのはここ。

 と、そう言いながらカグヤは自分の頭を指差し始めた。


「ギアを発動するためには、頭の中の"イメージ"が大事なの」

「イメージ?」

「そう。例えば私の【ファイアボール】だったら、足裏から炎の玉が飛んで行くイメージ。そのイメージで【ファイアボール】をこれから使うぞ〜って言う、意思が大事なの」

「意志、イメージ……じゃあ、もしかしてわざわざギア名叫ぶ必要は無かった訳?」

「それはイメージとタイミングを掴むために、補助としてよくやる方法だから可能ならした方がいいわね」


 実際に声に出すとイメージが掴みやすいし。

 カグヤはウンウンと自分で頷きながら言葉を続ける。


「さっきの例題で問題なのは、ハクト君が【インパクト】を叫んだ時何もイメージが固まってなかったからよ。【インパクト】がどう言うものか何も知らないまま使おうとしてたでしょ」

「そりゃあ、何も教えられてないからね! そんな状態でどうやってギアを発動しろってんだ!」

「まあ、そうね。確かに初心者に求めることじゃ無いのはちょっとこっちの反省。……でもねハクト君、そんなことはよくあることなの」

「何?」


 今の時代だと特にね、とカグヤは付け足す。


「誰かが使ったことのあるギアを動画で見れば、確かに発動時にどんな効果があるのか予め知る事ができてイメージできるわ。実際だからこそプロの試合とか他の学生レベルの大会も見ている人も多いし。でも近年、爆発的に新規ギアが大量に開発されてしまっているの。それこそ誰もまだ使った事が無いようなギアも特にね?」




 ……その言葉に、ハクトは一つ心当たりが思い当たってしまった。


 ────そいつは【バランサー】って言ってな。俺が知る限り、超レア物のギアだ。


 この間、ハクトの父親から貰ったギア【バランサー】。これはカグヤの言うとおり、父親を除けば誰もまだ使った事が無いようなギアに含まれてしまうかもしれない。



「だからこそ、プレイヤーは初めて手に入れたギアは、どんな効果でどう使うか、予め知っておかないといけない。同じギアを使っている人の動画をみたり、"ブーツにセットしたときの説明文"を見たりとかね」

「説明文……さっきのあれか! 【インパクト】は確か……」


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<スロット1>

 ギア名:インパクト

 GP:1   最大E:10   最大 CT:3

 ギア種類:マジック

 効果分類:単体攻撃

 系統分類:無

 効果:近接単体に0ダメージを与え、2マスまで衝撃移動させる。

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「分かるようでまだ分かりづらいな。でも……」

「それでもハクト君が、どうしても答えを先に知りたいって言うんなら、コツをもう言っちゃうけどどうする?」

「……いや、後もうちょっとだけ試してからにする。代わりにカグヤ、一つだけ頼みがあるんだけど」

「頼み?」

「そう。"一発だけ何もせずそのまま受けて欲しい"」

「……それが【インパクト】の発動だったなら、受けてもいいわ」

「分かった。ありがとう」


 白とは冷静に今までの状況を整理する。


 ・ギアの発動には、発動するギアの詳細なイメージが必要

 ・ギア名の叫びは、イメージとタイミングを具体的にするためにした方が良い

 ・【インパクト】は近接単体に0ダメージを与え、2マスまで衝撃移動させる


 ここまでは今日の説明で、そして……


 ・プロの動画ではギア名を言う前に、マジック、フォームなどのギア種類も言っていた

 ・この間カグヤと出会った時、カグヤ自身空から降ってきて、それが【インパクト】の反動を逆利用していたとのこと

 ・その時の説明は、靴の裏からエアバックみたいな衝撃波が出て、相手を吹っ飛ばして距離を稼ぐギア


 これが、この間の時の情報……


 今日初めて手に入れた情報だけで無く、この間の時の事も振り返って思い出す。

 むしろ、この間の時の情報の方が具体例を示していた。


「ふー……よし」


 心の中で整理を終えたハクトは、ゆっくりとカグヤに近づいていく。

 そして十分足を伸ばして蹴りが入るくらいの距離に入って、そこで立ち止まって向かい合う。


「準備できた?」

「ああ、やってみる」


 ゆっくりと、カグヤの胴体に靴裏が触れるギリギリになるように向ける。

 息を吐いて、落ち着いて……


イメージは文字通り、魔法の衝撃波(インパクト)! 



「ぶっ飛べ!! マジック、【インパクト】!!」


ボゥンッ!! 


「う、きゃあああ!?」

「う、おおッ!?」


 ハクトの靴裏から、文字通り衝撃波が出て爆発するような広がりが発生した。

 カグヤはその衝撃で5メートルほど吹き飛び、ハクトも反動を抑えきれず同じくらいの距離を後ろに押し出された。


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 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:9分27秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:771

 rank:1

 スロット1:インパクト

 スロット2:────


 プレイヤー2:カグヤ

 残HP:988

 rank:1

 スロット1:ファイアボール

 スロット2:────

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「い、今のが……これが【インパクト】か!」

「いてて、ってあんま痛く無いけど……そう! やっと発動出来たわねハクト君! それが【インパクト】、あなたに上げたギアの効果よ!! どう、初めてギアを使ってみた感想は!」

「ああ、スッゲー面白い! 本当に自分の意思で発動する感じ、なんか新鮮な気分だ!」


 ギアの発動にはイメージが大事。

 それを実際に体験出来たおかげで、その意味がやっと身に染みて理解出来た。

 初めての感触に、ハクトはすごく興奮していた。

 今までマテリアルブーツに触れてこなかった事を後悔するくらいに。


「実際発動する際、ハクト君ちょっと工夫してたわね! ぶっ飛べって言ったり、マジックって付けたりと、イメージ固めるのに良いわねそれ! でもちょっと長くなっちゃってるから、咄嗟の時は片方だけにした方がいいかも!」

「ああ、分かった! ありがとう!!」

「でも、結局実際のところどうかしら? その【インパクト】であなた自身も反動を抑えきれなかったけど、ちゃんと使いこなせる?」

「いーや、その反動が特に気に入った! いろいろ出来そうだ! カグヤだってそれを活かしていたんでしょ?」


 自分自身すら下手したら吹っ飛ぶ衝撃の反動。

 つまり、”逆に自分だけが吹っ飛ぶ”事も出来ると言う事! 


「カグヤ。君が空から降ってきた時、これを使ってどうやったかやっと理解出来た!」

「へえ。でもそれが分かったところでどうするの? あなた自身も真似するの? まだたった1回しかギアを発動した事ないのに、そう上手くいけるかしら?」

「それは、試してみないとね!」


 さっきはカグヤを吹っ飛ばす為に、彼女に向かって片足で蹴ってギアを発動した。

 つまり、ハクトがやりたい事を再現するには、カグヤに向かってでは無く、この地面。

 地面に向かって、蹴りを入れるイメージが必要。


「それに近いイメージは、俺はもう既に知っている……」


 ハクトはその場で、軽く小ジャンプした後しゃがむように屈んで膝を曲げた。

 いつもゴムのような布に着地した際、力を溜め込むように。

 つまり、イメージするのは"トランポリン"のジャンプ! 



「跳ね上げろ! 【インパクト】!!」


 ボゥンッ!! 


 右足から先程の【インパクト】が再度発動出来た! 

 地面と密接の状態で衝撃波がその場から発生する! 

 ハクトはそのままの勢いで真上にジャンプしていく! 


「で、出来た!? はは、スッゲー飛んでる!」


 3メートル、7メートルと、どんどん高く上がっていく。

 ハクトはやりたかった夢にかなり近づいたことを、飛んだ状態のまま喜んでいた。

 端的に言うと、超喜んで調子に乗っていた。

 その喜びを噛み締めて……


 ゴンッ! 


 そのまま頭を天井にぶつけた。


「ご、は……っ?」


 何が起きたが把握しきれなかったハクトは、首が変な方向に曲がったまま、そのまま自由落下していき……


  ゴギンッ!! 


 今度は地面に頭から自由落下してしまった。


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 プレイヤー1:ハクト

 残HP:771 → 519

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……そのままシーン……とハクトは動かない。



 「ハ、ハクトくううううううううううんっっ!!???」




 ★因幡白兎(イナバハクト)


 主人公。

 白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。

 事故った。


 ★卯月輝夜(ウヅキカグヤ)


 ヒロイン。

 空から降ってきた系女子。

 事故現場目撃者になった。

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