「ここがカグヤの言っていた会場か……」
約束の日曜日、大きめのリュックを背負ったハクトはカグヤとの待ち合わせの場所に辿り着いていた。
思ったよりそこそこ大きな施設で、野球ドーム位の大きさはパット見あるんじゃないか? と、そんな感想を抱いた。
待ち合わせの住所自体にはたどり着いたが、これだけ大きい施設だと合流場所をもっとハッキリしとくべきだったかな……そう思い始めた所、丁度見覚えのある赤髪の姿が。
「あ! ハクト君、こっちこっち!」
「カグヤ! 良かった、すぐ見つかって助かった。これじゃあ迷う所だったよ」
「ごめんごめん、ちゃんと入り口付近当たりって明言しておけば良かったわ。でも本当よく真っ直ぐここに来れたわね?」
「ん? まあ、大体知らない場所って言っても、こういう時は大抵入り口付近辺りが互いに想定してるだろうなって、常識の範疇で考えてただけだって」
「そっか。まあなんにせよ、無事に合流できた事だし早く施設内に入りましょう。こっち来て!」
カグヤに連れられて、ハクトは一緒に施設内に入り、何らかの受付の場所が見えて来た。
そこにカグヤが先に辿り着き、受付の人と何か話そうとしている時、ハクトはふと近くのポスターが目に入った。
「……ん? えーと、“Rank1 ソロトーナメント大会”? 開催場所と日付は……」
「ハクトくーん? どうしたの。ちょっと来てー」
「あ、ごめん。今行くー」
カグヤに呼ばれて、ハクトは一旦ポスターの事は忘れて受付に近づいた。
そこでは既にカグヤは何らかの用紙に記載を終えており、ハクト側に新しい用紙が差し出された。
「こんにちは! お連れ様の方ですね? 当施設のご利用は初めてですか? それでしたら、以下の用紙に名前と住所等を記載して下さい」
「はい。えーと、因幡白兎っと、住所はこうで……」
「あ、ハクト君。そっちの記入終わったら、こっちのちっちゃい紙にも記載してくれない? 大丈夫、本名じゃなくて、プレイヤーネーム的な名前を考えて付けるだけだから」
「プレイヤーネーム? 今?」
「うん。でも一応よく考えて付けてね? 暫くその名前でよく呼ばれる事が多くなるはずだから」
「えー……急に言われても直ぐに思い付かないし、片仮名で“ハクト”でいいや。よくゲームとかでそれ使ってるし」
「“舞い降りた純白の小さき獣 ハクト”とか二つ名的なの無くていいの?」
「絶対いらないよねそれ。……ねえ、それいるの? え? 書かなきゃいけないのマジで?」
「ん? いらないけど」
じゃあ絶対書かねえ。
なぜ勧めてきたし。
ハクトはそう固く誓った。
「じゃあさっきの片仮名で“ハクト”だっけ? それで良いならもうこっちで書いちゃっておくねー」
「ああ、ありがとうー」
生返事でカグヤに返事をした後、ハクトは自分の書いている紙を受付に丁度提出して、その後カグヤと部屋を移動し始めた……
☆★☆
「よっし! とりあえず練習用の個室は借りられたわね」
「個室って言っても、学校の講堂位の広さはある部屋だな。思ったより広いね」
大体テニスコート2個分ほど出来そうな広さはある部屋に案内された。
天井の高さもそれなりだ。ハクトがこの間やってた巨大トランポリンでも頭をぶつけない位、十分出来そうな高さが確保されている。
「さて、と。とりあえずマテリアルブーツの説明に入りたいんだけど……確かハクト君、結局レンタル品じゃ無くて私物の物を大半持って来たんだっけ? 受付でさっき言ってた」
「ん、ああ。この間の時、あの後父さんに色々貰った」
ほらっと、ハクトは父から貰ったものをリュックからひっくり返す様に全部取り出す。
足りないものが無いかカグヤはそれを一つ一つ確認していくが……
「うん、大丈夫そうね! それじゃあ、早速メモリーカードの登録とか纏めてやっちゃいましょう。ハクト君、まずは“ブーツ”と“HPグローブ”を装備してもらえる?」
「分かった。……今更だけど、これ靴のサイズ合ってんのか確認しておくべきだったね?」
「あ、大丈夫。“ノーマルブーツ”だったら大半フリーサイズになってる筈だから、この場でも調整出来るわよ?」
「マジで?」
どうやるの?
こうやって。
あーだこーだ言いながら、カグヤの手を借りてハクトは何とかブーツとグローブを装備する。
「それじゃあ、今度はメモリーカードね。ハクト君、持って来たメモリーカード貸してもらえる?」
「分かった。はい」
父から貰ったメモリーカードをそのままカグヤに渡す。
細長い板状になっていて、ここまで持って来るのにもリュックの中で折れない様に気をつけて持って来たのは大変で……
「えい」
ポキッ
「何やってんのぉ!!?」
速攻で折られた。真ん中で真っ二つ。何の説明もなく。
「え!? いや、これ折らないと使えないタイプだし」
「そんなチューペットみたいな奴なの!? だからって説明無しに躊躇無く他人のやる!? せめて最初に言って欲しかったんだけど!」
「え、ごめん。次から気をつけるね」
まあまあ、とりあえずこれブーツに刺してね、と真っ二つに折れたメモリーカードをハクトは受け取る。
若干釈然としながらも、ハクトは大人しくブーツの刺す場所を聞きながら、言われた通りに両足それぞれの踵あたりに差し込んで行く。
「よし、無事に刺せたわね。それじゃあ、HPグローブの水晶部分を押し込むようにタッチしてくれない?」
「どっちでも良いの? こう?」
言われた通りにタッチすると、ハクトの目の前に何かが展開されて、うおっ!? っと驚く。
手袋の水晶の上に、薄いソリッドビジョンが現れた。
「はあー、スッゴいなあ……思った以上にハイテクだねこれ! 結構最新の技術っぽい……」
「実際、HPグローブって近年大幅に性能更新したらしいわね。あとそれ、空中タッチパネル式になってるから。確か最初はプレイヤーネーム設定画面に直ぐ行くはずだから、そこで入力して」
「さっき小さい紙の方に書いてもらった奴か。一応聞くけど、それと全く同じじゃ無いとダメなの?」
「普通はダメじゃ無いんだけど、ちょっと今日は施設とか申請の関係上、ちょっと困るというか、割と困るかも……」
「ん? まあいいや。要は打ち間違いは絶対しちゃダメってことか。それを確認したかっただけだし」
多少違和感を感じながらも、ハクトは言われた通りにプレイヤーネーム“ハクト”を入力して確定する。
すると画面に表示が出て、デフォルメ表示されたブーツの図形が描画され始めた。
ブーツは左足と右足を示しており、それぞれ両方にハクトrank1と表示されている。
「よし、登録完了ね! うん、プレイヤーネームも問題ないわね」
「ふうー、タッチパネル式とはいうけど、実際物理的に触った感触は殆どないから、ちょっと操作しづらかった。マジで打ち間違えないかどうかヒヤヒヤで……」
「まあ、慣れてないとね。あ、そのソリッドビジョンだけど、普通に他の人から見えちゃうから気をつけてね。確か設定か何かで対策出来るはずだけど、まあ後にしましょう」
さてそれじゃあ……とカグヤが続ける。
「待ちに待った今回のメイン。ギアを取り付けて見ましょう! ハクト君、この間あげた【インパクト】のギアはちゃんと持ってきてる?」
「ああ、持ってきてるよ。けどこれ、どうやって取り付ければいいの? それに右足、左足どっち?」
「うーん、左右に大きな違いとかは無いのだけど、とりあえずハクト君の利き足はどっち? よく蹴ったりする方、そっちにまずは取り付けましょう。ブーツの側面にギアメダルを取り付ける"スロット"、つまり穴が空いているから、そこに付けて」
「ああ、ここ? ……右足だけでハマりそうな穴が5つ位空いてるんだけど」
「あ、それは一番下からでお願い。ノーマルブーツだと、そこから順番になっていくから」
靴の種類ごとに決まってるのよねー、とカグヤの声を聴きながら、ハクトは【インパクト】のギアをセットする。
すると、表示しっぱなしだったソリッドビジョンに変化が起こった。
==========================
スロット1にギアが装着されました
<スロット1>
ギア名:インパクト
GP:1 最大E:10 最大 CT:3
ギア種類:マジック
効果分類:単体攻撃
系統分類:無
効果:近接単体に0ダメージを与え、2マスまで衝撃移動させる。
==========================
「うおっ!? これって……装備したギアのデータってこと?」
「そう、その通り! 初めて装備するギアなら、そこでデータを確認すると良いわね」
「正直、初めてみるパラメータ要素ばかりでよく分からないんだけど、これ結局どういうこと?」
「ふむふむ。じゃあそれも含めて全て教えてあげましょう!」
だんだんテンションが上がってきたカグヤが張り切って声を上げてきた。
「まずは、"ギア種類"なんだけど、
・マジック
・フォーム
・バフ
・リピート
・サモン
の5種類が基本ね。どんなギアもこのどれかに属しているわ」
ふむふむ、とハクトはそこまで納得する。
……そしてここから凄く嫌な予感がしてきた。
まるでオタクが興味ある分野をめっちゃ早口で説明し始めてきて聞き取れないような──
〜〜〜〜〜〜☆スーパー読み飛ばしタイム☆〜〜〜〜〜〜
「あとは、効果分類だけど
攻撃指定持続付与 の4つの動作に対して、
単体 範囲 自身 フィールド 召喚 チーム の6つの対象と組み合わせて、
・単体攻撃 ・単体指定 ・単体持続 ・単体付与
・範囲攻撃 ・範囲指定 ・範囲持続 ・範囲付与
・自身指定 ・自身持続 ・自身付与
・フィールド指定 ・フィールド持続 ・フィールド付与
・召喚持続 ・召喚付与
・チーム持続 ・チーム付与
とか、いろいろあるわね。いくつか例外もあるわ。
次に系統分類だけど、基本的によくある火とか水の分類で、
・火
・水
・風
・土
・草
・雷
・氷
・光
・闇
・無
とか10属性くらいは確かあったわね。
さらにこれに、さっき行った"フォーム"に関連することなんだけど、
・剣
・銃
・ミサイル
・ハンマー
・棍
・槍
・鎌
・ワイヤー
・靴
・鎧
・盾
……
等と言った物理的な変形の形に関連するような情報も載っている場合もあるわね。
あ、そういえば"リピート"でも
・足
・踏
・蹴
・拳
・突進
……
とかも色々あったわね。あー、"サモン"でも
・生物
・無機物
・キャラ
・物体
・物理ブロック
・非物理ブロック
……
とかの分類もあったっけ。
まあとりあえずここまでで系統分類の説明一旦区切るわね」
〜〜〜〜〜☆スーパー読み飛ばしタイム終了☆〜〜〜〜〜
………………………………ふう。
「ハクト君、ここまでで何か質問は?」
「うん。"完・全・に・覚・え・さ・せ・る・気・な・い・だ・ろ・お・前・"」
「うん!」
「わあ、良い返事」
あまりにも元気な返事が返ってきて、ハクトは逆に清々しく感じていた。
さっきまでのカグヤの内容には爽やかさは一切無かったが
「ねえ、待ってカグヤ。ちょっと待って? これパラメータの説明のだけだよね? しかもギア種類、効果分類、系統分類の3つしか説明してもらってなかったはずなんだけど、それだけでこれ? この量? というか、ギア種類はともかく、効果分類、系統分類が複雑すぎるでしょ!? 何だよさっきの説明!? これ覚え切れるやつ絶対いないでしょ!? 」
「そりゃあそうよ。私だって把握しきれてないし!」
「威張っていうな」
「あのね、ハクト君。さっきは敢えて全部説明してみたけど、こんなの"ポ○モン初めての初心者に、じゃあタイプ相性表渡すからそれ覚えてからやってねー"って言うくらいの無茶振りだと思うの」
「実感ありありじゃん」
「とにかく、ハクト君の持っている【インパクト】のギアは、マジックの単体攻撃! 基本的に自分の使っているギアの情報だけ覚えておけば良いから、先ずはそれだけ把握していて」
「まあ、わかった。……言っておくけど、もうブーツ、ギア、グローブ、メモリーカードの説明だけでも既に十分お腹いっぱいだからね? あとどれくらい説明するつもりなの?」
「……………………てへ?」
「まだまだし足りないって顔だねおい」
まあまあ待ちなさい、とカグヤは抑えるような手の動作で改めてこっちに向き直る。
そっちの言いたいことは分かりますよ、と言った表情だ。
「確かにこうやって口だけで説明し続けても拉致があかないわ。と言うわけで……」
「と言うわけで?」
「────実戦よ!!」
「実戦!?」
☆★☆
そうカグヤが高々に声をあげた後。
いつの間にかカグヤ自身もブーツとグローブを装備していた。
「実戦に勝る経験は無いわ! 今はお互いにrank1! "本来右足と左足で合わせてギアを2個装備出来る"のだけど、先ずは互いにギア一個ずつ使用の制限バトル! ハクト君は【インパクト】、私はこっちの【ファイアボール】を使うわ!」
そう言って、カグヤは新しいギアメダルをハクトに見せつける。
火球の球が飛んでいるような絵柄が入っていた。
「そして私は【ファイアボール】を右足のスロット1にセット! これだけじゃまだすぐ使えないから、 互いにこの部屋のスタート地点に立って! ハクト君はあっちの端っこ! 私はこっち側の開始位置に立つから!」
「あっちって、あの"なんか光ってる床"?」
「そう! とりあえず立ってみて!」
了解、とそう言いながらハクトは移動して、カグヤに指示された場所に立つ。
すると、ブワッと、何かのエネルギーがブーツを通して充電されて行くような感じがした。
「うおおっ!? なにこれ?! なんかすっごい力が溜まってくるような感じがする!」
「実際溜まってるのよ、ブーツとHPグローブにだけど。この部屋のあそこに電光掲示板があるのだけど、あれをみてくれない?」
「ん?」
==============
バトルルール:殲滅戦
残りタイム:15分
プレイヤー1:ハクト
rank:1
残HP:1000
スロット1:────
スロット2:────
プレイヤー2:カグヤ
rank:1
残HP:1000
スロット1:────
スロット2:────
==============
「丁度チャージが終わったわね、もう光る床から出て良いわよ。ただし、一度バトルが開始されたらもうその光る床には戻れないから注意してね」
「わかった。うわ、本当に消えた。光ってる箇所が無くなった、と言うより閉じた感じかな?」
そう感想を漏らしながら、ハクトとカグヤはそれぞれ部屋の中心に歩いて行く。
ある程度まで近づいたところで、互いに向き合うような形で相対する。
「ルールは基本的な殲滅戦、15分間の時間制限あり。単純に言うと、相手にダメージを与え続けて、相手のHPを先に0にした方が勝ちよ」
「分かった。さっきまでの説明と違って、シンプルだね」
「スタートの合図は今回特に決まっていない……というか、もう既にタイマーが開始しちゃってるから。と言うわけで……
────先ずは一発、喰らってね? 【ファイアボール】!!」
「っは!?」
説明の流れで、そのままカグヤの攻撃が始まり、反応しきれなかったハクト。
目の前のカグヤが右足をこっちに横に振った後、靴裏から赤い球のような光が飛んできて、それがモロに体に命中した。
命中した赤い光の球から、ゴウッ! っと炎の爆発が生じる!!
「ぐああっ!? いきなり?! ていうか熱!? 燃える!! 燃えて……ん?」
「思ったより熱くは無いでしょ。多少は分かるようにはなってるけど、体へのダメージはHPグローブのおかげでかなり抑えられているわ。見て、電光掲示板を」
==============
バトルルール:殲滅戦
残りタイム:14分30秒
プレイヤー1:ハクト
rank:1
残HP:972
スロット1:────
スロット2:────
プレイヤー2:カグヤ
rank:1
残HP:1000
スロット1:ファイアボール
スロット2:────
==============
カグヤに言われた通りに電光掲示板を見上げると、先ほどと表示が少し変わっていた。
自分の残HPが減っており、カグヤ側のスロット1の部分に名前が追加されていた。
「【ファイアボール】1発で大体30前後のダメージ。今回はちょっと下振れしちゃったわね。そして試合中、プレイヤーが使用したギアはあの電光掲示板に表示され続けることになる。つまり、一度でもギアを使用したら、何を装備しているか全員に分かってしまうわけね」
まあ、目視で相手のブーツを無理やりみて何のギアか分かる人もいるらしいけど。
そうカグヤは追加で呟くように言った。
「とにかく、こうやって相手に攻撃をぶつけてHPを削って戦って行くのが基本ルール。ハクト君、分かった?」
「あ、ああ。……ところで、こっちの【インパクト】って、確かさっきのデータ上"近接単体に0ダメージ"って書いてあったんだけど」
「ええ、そう書いてあったわね」
「これでどう戦えと?」
「んー……」
カグヤはそう呟きながらハクトにテクテクと近づいていき……
距離が1メートルも無いくらいの位置で一旦立ち止まり。
「えいっ」
「うごっ!?」
普通にハクトの横脇腹を蹴ってきた。
可愛らしい掛け声とは裏腹に、結構重い一撃を放ちながら。
==============
プレイヤー1:ハクト
rank:1
残HP:962
==============
「うん。今ので大体10ぐらいね。ギアのエネルギーが尽きた時とかは、直接相手をこうやってブーツで蹴ってもダメージが入るわよ。ギア以外の攻撃だと半減しちゃうから、あんまり数値は出ないけど。でも今回は脇腹だったけど、例えば首とか鳩尾とか急所を狙うようにすると、上手くいけば【ファイアボール】並のダメージが出せるかもしれないわね!」
「ああ、よーく分かった……つまりそっちがギアの攻撃技を持っているのに対して、こっちは素手、というか素足つーかギア無しで戦えって言ってるようなものだね? ねえ?」
「うん!」
「その返事で何でもまかり通ると思ってる?」
酷い話だった。
相手の言われるがままに準備したら、ただのサンドバックの状況になっていた。
「でもハクト君、本当にそうかしら? ────本当に、【インパクト】だけだと戦えないと思ってる?」
「……え?」
「ハクト君。そもそもあなたが今日ここに来た理由は何だったかしら? 何を求めてここに来たの?」
「それは……」
というか、何でこんなことになったんだっけ?
俺は何がやりたかったんだっけ?
カグヤの問いをきっかけにハクトは改めて自分自身に問い詰めてみた。
……俺はただ。
カグヤが空から降ってくるのを見て。
【インパクト】のギアを使ってそうなったらしいから、それを真似したくて。
それをレクチャーしてもらうために、今日ここに集まって……
「────あれ? ねえカグヤ? よくよく考えたら、いきなりバトルする必要なく無い?」
「……………………………………………………んー、と?」
なんかノリで流されそうになったけど、そもそも【インパクト】のギアの使い方をレクチャーしてもらいに来たんだから、HPグローブの説明の為ダメージを喰らうまでは譲ってたとしても、このまま戦闘を続行する理由は無いんじゃ……
いやそもそも、【インパクト】どころか、ギアの起動の仕方すら教えてもらってないよな?
ハクトはそう考えて、カグヤもちょっと目線を逸らしながら同じ思考に到達したようで……
「……………………………………………………実戦に勝る経験は無いわ!」
「それさっきも聞いたなあっ!!」
全く同じ言葉をカグヤは繰り返した。ゴリ押す気だ。
「戦いながらちゃんと使い方は説明するから大丈夫!! 質問があったらバトル中に受け付けるわ!」
「”君説明する前に先に行動する癖"があるっぽいけど大丈夫!? さっきもメモリーカード真っ二つ、開幕【ファイアボール】、横腹の蹴り!! 既に3つくらい心当たりあるんだけど!!」
「ちゃ、ちゃんとギアの効果分類とか系統分類とかの説明は先にしたもん!」
「よりによってそれ最初から覚えさす気無かったやつだよねえ!?」
ブーツとかギアの取り付け型とかはちゃんと教えてくれてた筈なのに……
ハクトはそう振り返っていた。
そしてもしかして、バトル形式の方がよりあの子の説明する前に先に行動する癖が出やすいんじゃ、とも思っていたが……
「良いからお願い! バトルして!! こっちの方が実際教えられそうな気がするの!」
「ああもう、分かったよ! 一応教えてもらいに来た立場なのはこっちだからね!」
こうしてハクトは覚悟を決め、カグヤと初めてのマテリアルブーツ、一対一の殲滅戦を開始した……
★因幡白兎(イナバハクト)
主人公。
白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。
説明長くて分かるか! 状態。
あとで調べなおそうと思った。
★卯月輝夜(ウヅキカグヤ)
ヒロイン。
空から降ってきた系女子。
好きな話題になると早口になるタイプだった。
じゃあ説明前に、実践よ実践!!」