通学の時、私はバスに乗っていました。毎日毎日、当たり前に、決まってバスに乗るのでした。
もうすぐ冬がやってくるでしょう。それは誰から見ても明らかで、ごく当たり前の事なので、非日常的な楽しみなどは、私は見いだせていませんでした。
ある日の朝に、光を見た気がしたのでした。その眩いものは雪に反射して、反対側に座る女の子を照らすのでした。
これはそう、恋と言ってもおかしくないのでしょうか。いかんせん経験が無いもので、私にはよく分かりませんでした。その子は、今時珍しい着物姿で、きゅっと口を結んで、どこか遠くを眺めているようでした。
ああ、そのお弁当箱、とってもかわいくて素敵ですね――
そう言おうとしたのですが、私は言葉がつっかえて、うまいように声が出ませんでした。
そして学校に着いた時、その子は既に席にはおりませんでした。
曰く、こういう話がある。同じ美的センスを持った者は結ばれやすいと。あの弁当箱を褒める事ができたら、どんなに幸せだったかも知れないね?