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風呂:前編(朗読向き)

「少し、痩せたか」

 銭湯に行った時、そんな事を友から言われた。

 それは喜んでいいものではないだろう。健康状態が芳しくない、そのことを、更には他人の目から見ても分かるくらいには至ってしまっている。それにしても、風呂というのは心地が好かった。はて、自分はここまで、とりわけ風呂が好きだっただろうか。あるいは、銭湯、公衆浴場という、この独特の社交場が好きなのだろうか。

 風呂から上がれば飯があった。蕎麦や饂飩や、アイスクリームにコーヒー牛乳。一時の事だとしても、ここは現代の極楽か。そう思えるくらいには、ヒトの頭は単純だった。

 何故疲れている。ついさっきほどの、友の言葉も忘れてしまって、私は漫画を読み、そしてビールを飲む。厳格厳正な会社勤めの淑女が、ろくに髪を梳かす事も無く、我さきにと飯にかぶりついている。自分を観察するのが既に癖になっているが為に、その自分の姿を眺めては、私は溜め息をついたり、顔を赤くしたりするのであった。

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