おはよう。
私が誰だか分かる?
私は、死神のお姉さんよ。あなたのことを引き留めにきたの。
あなた、この先に進もうとしているでしょ。さっきの看板に何が書いてあったかは覚えてる?
コトワリの音が聞こえるか。そう書いてあったのよね。
「理」を「コトワリ」と読むあたり、とても頭の良い子なんだわ。きっとそうよね。
でも、そう。あなたは大切なものを盗んでしまった。それは、横にあった文字。あなたの手の中には何がある?
それと、私の名前は「魔将の女」というのよ。これであなたは何を想像するかしら。
魔女ではない、将軍でもない。そもそも漢字が間違っている。そうね。あってるわよ。
さあ、なんと読む?答えてごらん?
「あ……」
いい子よ、その調子。言葉にできそう?
「マージャンの、女……」
ふふふ。
「馬鹿がっ!」
そう父に激怒され、少女は一歩後ずさった。一歩だけ、後ずさった。
そして瞬く間に、十五年が経ち。
ふふふ。
そう、マージャン。あなたがずーっと、やりたくて仕方が無かったもの。それをようやく手にしたの。さて、どうしましょうか。
やる?やめとく?
この先に進むと、戻れなくなるわ。だから言ったでしょう?私は死神のお姉さんなの。
一生涯、捧げる覚悟は、ある?
少女は、一度だけ、手の中にあった「牌」をもとの場所に戻してみた。
コトワリの音が聞こえるか?理の音が聞こえるか。
「理牌の音が聞こえるか?」
カチャカチャ、カチャカチャ……
ふふ……いいわよねぇ……牌を並べ替える音……
あったかも、知れないよ。もうひとつの、そうじゃなかった方の人生も。
でも、でも、分岐した先に今あるのは……
「あら、あなた、もしかしてキリカさん?」