私は仕事から帰ってきた。そこには誰もいなかった。私は独りで暮らしている。金属の柱。賃貸の自宅に埋め込まれているであろう、無機質なものたちを想像する。
寒い。そうだとりあえずシャワーを浴びよう。そして暖かい布団に潜り込んで、そのまま眠ってしまおうじゃないか。
寂しい。つい本音が口から出そうになる。それでも私はぐっとこらえる。
年齢を考えるのがいつも嫌になる。それはなにも、特別若くいたいという意味ではない。ただ、単純に、ああ私はもう、生まれてからこんなに経ってしまったのだなあ、と考えるのであった。
手が、止まった。風呂場に行こうとした所で、ふいにテーブルに手を着き、その手が止まった。
木のテーブルはひんやりとしている。しかし、それには他のものとは対照的に温もりを感じた。じんわりと手に広がる、気の暖かみ、あるいは。
涙。気が付いたら泣いていた。私は少しばかり取り乱したが、仕方ないから椅子に座った。
そして、日記帳を開く。
「こんばんは……お姉ちゃん……」
日記を書く。それは、手紙だった。何年か前に他界した、大好きな姉への手紙だった。
こんばんは、お姉ちゃん、私はついに、お姉ちゃんの歳に並んでしまいました。私はこれからどうなるんでしょうか。お姉ちゃんにその先が無いものだから、私にはとんと見当が付きません。
これ以上更に、大人になる未来が、どうにも想像できなかった。
想像、できなかった。できなかった。しなかった。
そして、来年。例えば私は元気に働くだろう。きっと全てが払拭されて、元気なオフィスレディになるだろう。
本当にそうか?と問う自分もいた。しかし、これは悲しい話なんだよ。いつまでも子供じゃいられない。
姉の年齢を越えてしまって、私の執着は消え去った。文字通りそれは、見てきた姉の姿に起因して、つまり。
劣等感、コンプレックス。
「ふん、なるほどね」
私は仕事に行く事にした。