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冬の葛藤

「私はきみとのややこが欲しいのだ」

 どこかで聞いたその言葉。現実に帰った僕は、それがいつの事だったかを考える。

 小説か何かを読んだのだ。それの中に居た可愛い女の子だった。いやどうだろう、可愛いという言葉は適切か。綺麗?美麗?はたして。

 それにしてもと、僕は思った。ややこ。その言葉の意味を調べて驚いた。要するに方言で、赤ん坊という意味なのだ。

 なん、だって?

 僕はそれにつき、対抗策を考えた。現実に即した、なにか良い案は無いものか。単なる一時の対症療法ではなく、根本治療になるような、彼女が抱えた恋の病に対するなにか。

「そうだ、僕も女の子になればいい」

「あ?何を言ってんだよ」

だってそうじゃないか。百合展開のあるなしはさて置き、とりあえず僕が女になれば、彼女との赤ん坊は生まれない。

「どうやって?」

 その判断を失い死んでいった、病んだ心のいかに多きことか。僕が言いたい事としては、性別を性別たらしめるものは、いったいどこにあるかという話なんだ。

 まるでゼロだと言い切れるだろうか。絶対にありえないと、本当に心から自信を持って主張できるのかい?僕はひょっとしたら女かもしれないじゃないか。別に精神的なジェンダーに限らない。染色体がいつ異常を起こすかも、死ぬまで分かったもんじゃないだろう?

 何が正常で、何が異常なのか。

 そもそも、だ。そういう話をするならば。

 性別は、生涯変わらないのが正しい状態なのかい?

 そして僕はついに一蹴された。

「お前、何が言いたいんだ?」

 なんだろう。敢えて言語化するならば、破滅願望のようなものだろうか。

 何が正常で何が異常か、その判断を失い死んでいった、僕、僕、細かい細胞。メタ的な、解離的な、哲学的な?危ない思考。説明不能なそういう気持ちが、あってはいけないものだろうか。

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