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第14話

レジデンスに帰ってきて、海星本部長がコーヒーを淹れてくれる。


「えっと。

じゃあ、ピアスをあけようと思います」


「うん」


テーブルの上にはふたつのコーヒーカップ、それにピアッサーに鏡と、そのほかピアスを開けるのに必要なものが並んでいた。

病院であける話も出たが、自分でやりたいとお願いした。

私の運命を変えるピアスだ、自分自身であけたい。


耳を消毒し、あける場所を決める。

が、鏡は海星本部長が持ってくれているとはいえ、やりにくい。


「俺がやってやろうか?」


「……お願いします」


素直に持っていたペンを彼に渡す。

すぐに彼は左右のバランスを見ながら印をつけてくれた。


「ここでいいと思うが」


「はい、大丈夫です」


鏡で確認すると左右だいたい同じ場所に印が付いていたし、問題ないだろう。


いよいよ、ピアッサーで自分の耳を挟む。


「ちょっと待て」


私の顔を横から見て、海星本部長が印からズレていないか、真っ直ぐになっているかチェックしてくれる。


「うん、大丈夫だ」


彼が頷き、私もあまり顔を動かさないように小さく頷き返す。

目を閉じて小さく深呼吸し、覚悟を決めた。


「いきます」


ぐいっとピアッサーを握る手に力を入れた途端、バチン!と大きな音が耳もとでした。


「大丈夫か?」


穴を開けたのは私なのに、海星本部長のほうが痛そうな顔をしているのはなんでだろう?

同じ行程を繰り返し、反対側にも穴を開ける。


「どうですか?」


ファーストピアスの刺さった耳を彼に見てもらう。

ピアスは石のついているのも選べたが、シンプルなチタンボールのものにした。

海星本部長曰く。


『ちゃんとしたのは俺が選んだのが、最初がいい』


……らしい。


「いいんじゃないか」


ちゅっと軽く彼の唇が重なる。


「これで花音は生まれ変わったな」


「そうですね」


もう過去を――高志なんてすっぱり忘れて思い出さない。

これからは海星本部長と生きていくんだ。


「生まれ変わった花音を抱きたい」


彼の手が私の眼鏡を引き抜く。

少しして唇が重なった。

ちろりと唇を舐められ、自分から口を開けて彼を迎え入れる。

すぐにくちゅり、くちゅりと私たちが立てる水音が静かな室内に響き出す。


「……ん……んん……」


漏れる甘い吐息は私のものか、それとも……彼のものか。


……もっと。

もっと……。


じんじんと頭の芯が痺れ、彼以外なにも考えられなくなっていく。

ただひたすらに海星本部長を求めた。


「あっ……」


ゆっくりと彼が離れていき、私の舌が空中に取り残される。


「物欲しそうな顔をして可愛いな」


その舌先に彼は、ちゅっと口付けを落とした。

それだけでびりりと軽く電流が身体に走る。


「ベッド、行こうか」


手を引っ張った彼は、私を抱き上げた。


「きゃっ」


慌てて、落ちないように掴まる。

見ている人がいないとはいえ、お姫様抱っこは恥ずかしい。

海星本部長はそっと、ベッドの上に私を横たえた。

眼鏡を外し、彼がじっと私を見下ろす。

それだけで心臓がどくん、どくんと大きく鼓動した。


「……花音」


甘い重低音で私の耳を犯しながら、彼が服を脱がせていく。


「生まれ変わった花音にも、俺をたくさん覚え込ませないといけないな」


「あっ」


彼の唇が首筋に触れるだけで甘い声が漏れた。

そのまま指で、舌で、彼は丁寧に私を愛撫していく。


「あっ、あっ、ああーっ!」


海星本部長の手によって絶頂を迎える。

けれど彼はそれで許してくれなかった。


「かいせいっ、ほんぶちょぅっ!

もう、イったから……!」


「んー?

海星本部長じゃない、海星だ」


「あっ、はぁっ、ああっ」


言われた意味を理解しようとするが、快楽が暴れ回る身体ではままならない。


「か、かいせいっ、……さん!」


「海星さんじゃない、海星だ」


「ああっ、あっ」


私はつらくて堪らないというのに、海星本部長は愉しそうなのがわからない。


「ほら、言わないとまたイくぞ」


「はぁっ、ああーっ!」


愉しそうに責められ、途端に目の前で星が明滅する。

もうやめてほしい、そう願うが彼は続けた。


「俺は別にいいけどな、花音がつらいだけで」


やめさせようと彼の手を掴み、嫌々と首を振る。

それでも彼はやめてくれない。

見えなくてもますます愉しそうなのはその空気でわかった。


「ダメ、もうダメだからっ……!」


こんなの続けられたら頭がおかしくなる。

なのに。


「花音が俺を海星と呼ぶまでやめない」


「ああっ!

あっ」


さらに責められ、仰け反った喉に彼は口付けを落としてきた。

敏感になっている身体はそれすら、感じてしまう。


「海星!

海星さんっ!」


早くやめてほしくて言われたとおりに彼の名を叫んだけれど。


「ダメだ」


「なん、でっ……!

ああっ!」


お仕置きとばかりに激しく責められ、また達する。

ちゃんと私は役職なしで彼の名前を呼んでいる。

なのになにがダメなのかわからない。

理由を考えたいのに彼は私を責め続け、その隙を与えてくれなかった。


「ダメ……もう無理……許して……」


「ダメだ。

花音が俺の名をちゃんと呼ぶまでやめない」


懇願するが彼は手を止めてくれない。

頭はぐちゃぐちゃでなにも考えられなくなっていた。


「……〝海星〟。

それだけでいいんだ」


耳もとで囁き、彼が離れる。


「はぁっ、……あっ、海星!

……ああっ、……かいっ、せいっ!

もう無理、おねがいっ……!」


「それでいい」


私の髪をうっとりと撫でた彼は、仕上げだとでもいうのか一層責めを激しくした。

おかげで。


「あっ、あっ、ああーっ!」


今までにないほど激しく達していた。


「いっぱい感じてくれる花音、可愛い」


「あっ、……はっ」


ゆっくりと彼が身体の中に入ってくる。

彼のものが奥に当たり、それだけで軽く達していた。


「キモチイイ?」


返事を促すように彼がこつこつと軽くつつく。

それに黙ってこくんとひとつ、頷いた。


「俺もキモチイイ」


額をつけ、海星がにっこりと微笑む。

その幸せそうな顔にお腹の奥が甘く切なくきゅっと締まった。


「もっと花音に言わせたいことはあるけど……」


身体を離し、彼が私の足を抱え直す。


「今日はもういっぱい苛めたから、やめておこう、なっ!」


「んあーっ!」


その言葉とは裏腹に、海星は思いっきり私を責め立てた。


……嘘つき。


「あっ、んあっ、ああっ!」


抗議したいけれど私の口からは悲鳴じみた喘ぎ声しか出てこない。


「花音、気持ちよさそうだな」


愉悦を含んだ海星の声が僅かに私の耳に届く。

気持ちいいなんてもんじゃない、気持ちよすぎてつらい。

……ううん。

彼に甘美な苦痛を与えられ、身体が歓喜に震える。


「はぁっ、あっ、かいっ、せいっ……!」


「ん?

ああ」


求めるように手を伸ばすと、彼は指を絡めて両手を握ってくれた。


「花音。

奥にいっぱい出してやるな」


はっ、はっ、と海星の少し切羽詰まった、熱い吐息が聞こえる。

それは私の体温をさらに上げ、彼のものをきつく締めつけた。


「だから。

……俺の子を、孕め」


淫靡な重低音で海星が耳もとで囁き、達する。


「あっ、ああーっ!

あっ、あっ、ああぁ……」


彼が達すると同時に私も快楽の階段を駆け抜けた。


「花音」


ずるりと彼が出ていき、それが淋しいと思っているのはなんでだろう。


「今日も可愛かった」


私に軽くキスしながら、汚れた身体を彼が拭いてくれる。

しかもまだぐったりしてる私に、パジャマまで着せてくれた。


「シーツ替えるから、あっちに座ってろ」


さらに私を抱えようとしたけれど。


「もう大丈夫、なので」


断ってひとりでベッドから降りようとした。

また、お姫様抱っこは恥ずかしすぎる。


「おっと」


しかし足がよろけた私を海星さんが慌てて支えてくれた。


「ほら、言うことを聞いておけ」


おかしそうに笑いながらそのまま支えてひとり掛けのソファーに座らせてくれる。


「ううっ、すみません……」


無駄に強がったうえに手を煩わせるなんて情けなさすぎるよ……。


「ちょっと待ってろ」


寝室を出ていった彼は少しして、グラスを片手に戻ってきた。


「喘ぎすぎて喉、乾いてるだろ」


右の口端をつり上げ、にやりと海星さんが笑う。


「うっ、意地悪です……」


でも言われるとおり喉は渇いていたので、グラスを受け取った。

中身はレモンフレーバーの炭酸水みたいだ。

そういえばキッチンに、炭酸水メーカーがあったな……。


私が炭酸水を飲んでいるあいだ、海星さんはシーツをテキパキと交換していっている。


「あの、私が……」


やるべきだよね。


「いや、いい。

どうせ花音はまだへろへろで動けないだろ」


「うっ」


事実過ぎてなにも言い返せない。


「だ、誰かさんが意地悪するから……」


唇を尖らせて抗議したら、そこに口付けを落とされた。


「ほんとに可愛いな、花音は」


さらに、また。


「あんまり可愛いとまた、押し倒したくなるんだけど」


「……それは勘弁してください」


「そうか?」


海星さんは残念そうだが、え、まだいけるの?なんかこの先がいろいろ心配になってきた……。

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