校門付近で注目を集めている、今日一番目立った2人であるラブラブカップルを眺めていた奏斗は盛大なため息を吐いた。
感傷に浸るために教室に戻りぼーっと校門の方を眺めてみれば目に入るのは悩みの種であるあの2人。
久藤拓が新田奈海に気があるだろうことは薄々と気が付いて牽制してみればビンゴ。
面白いからとからかっていたが、白雪姫のドレスを纏った新田奈海にすっかり気持ちを持っていかれ、さらには1人で目に涙を滲ませながら階段の上でしゃがみ込んでいるのを見つけてしまい、もう色々と気持ちが止まらなくなってしまっていた。
からかいのついでにスマートに口説こうと思ったのに、余裕なくなるわ、なんか失言かましまくるわ、最後はあっさり久藤拓に持ってかれるわ、と、結果はただ散々な目にあったどころかあの2人の引き立て役となっただけ。
「やーもー……お前ら俺の大嫌いな男女第1位だわぁ」
そんなことを呟きながらも、校門でいちゃつくカップルから目を離せず、どこか和みながら眺めてしまう自分に苦笑した。
「あっらー。こんばんは、引き立て役さん」
不意に声を掛けられ振り向くと、可愛らしく口元に手を添えくすくす笑っている相楽清美がいた。
「あっらー、こんばんわ。友情の熱いプリンセス」
「見事女優賞取っちゃった」
嫌味で返したつもりが、ペロ、と舌先を出すと共に賞状を自慢げに見せつけてくる彼女に「は、さいですか……」ともう奏斗からは苦笑しか出なかった。
「あらー。私が好みなんでしょう? おめでとうとか言わんの~?」
にまにまと悪い笑みを浮かべながら顔を覗き込んでくる美少女に「それはどこの古い情報ですかねぇ……」とため息を零し、校門の方へと視線を戻した。
あのカップルがまだいちゃついているのを発見し、ああまだやってんのかい、と口端を持ち上げた。
「おー、やってるやってる、いい感じやな~い?」
奏斗が覗き込む同じ窓から、桟に手をかけつつひょこっと可愛らしく清美が同じ方向を覗き込んだ。
少しよろければ肌の触れ合える距離に簡単に近づける辺り、彼女が異性とのこういった距離に慣れていることが伺えた。
「意中の相手が友人に取られて妬ましいですか? お姫様」
「そら妬ましいに決まってるやろ。ホント奈海って羨ましい。チックショー、ウチも拓と付き合いたかったわこなくそぉ」
意地悪で言ってみた言葉がまさかの倍以上のボリュームで、しかも可愛らしい顔からは想像できない中々のべらぼう口調で返ってきたものだから奏斗の目が点となった。
「……え……は?」
「あらやだ、本性出ちゃいましたわ。オホホホホ」
全く悪びれない風に清美は上品に口に手を当て笑うと、窓からぴょんと飛びのいた。
「……なかなかの性格を、お持ちで」
「魅力的でしょ?」
素直な感想を述べると、可愛らしいウインクつきの得意げな物言いで返ってきた。
――女は、読めない
新田奈海を口説こうとした際も思ったが、奏斗は自分が思っている以上に女子とやらを甘く見ていることに自覚し「アハハ、うん、魅力的だわ、本当」と腹の底から笑って返した。
「あら、素直。……てっきり、奥手かと」
意外そうに目を丸める相楽清美に、奏斗は「いーや。そんなことないよ?」と目を細めると、静かに立ち上がった。
そして、音もなく大きく一歩を踏み出し。
清美の手首をつかむとぐいっと引き寄せ――
柔らかな頬に、唇をそっと寄せた
「――――っ!?」
ドン
奏斗は思いっきり突き飛ばされ窓に背をぶつけた。
窓自体が高い位置にあったため勢いあまって落下、ということはなかったが肩の方にひゅっと無空の感覚があって少し背筋が冷えた。
「……で? これで奥手か?」
それでもひゅっとなったことは顔には出さず、余裕をもった口調でそう言うと、頬を抑え真っ赤になっている美少女に向かって奏斗はニヤっと笑みを浮かべた。
「……! お……お前は私の嫌いなランキング第1位だ!」
「いいぜ。嫌い=好き。気になる気にしてる大好き、だし――」
「あああああもうなんなのよアンタ、もう、嫌い! 馬鹿! 変態クソ男!」
ヘラヘラとした笑みを浮かべる奏斗に声のあらんかぎりで思いつく罵倒を並べ、相楽清美は教室を出た。
そのあわただしい背中を見送りながら、奏斗は口端を楽しそうに持ち上げる。
「悪いことばかりじゃ……ねぇな」
fin