ずっと、元気がなかったことは知っていた。
拓とも私とも目を合わせてくれない友人のことをずっと疑問には感じていた。
その原因が自分かもしれないというのも薄々感じてはいたけれど、確信ていうものがなかったし、何よりやっぱりサプライズとして今日を迎えたかった。
でも、やっぱり親友だからこそ、全部隠すっていうのはするべきじゃなかったなぁ
『相楽さん、どういうつもりなんですか!?』
拓と計画を練っている最中に、星頭市郎が突撃してきた。
突撃、という言葉が相応しいほど、拓と清美のことを気にも留めずそれぞれの会話に夢中でそのまま通り過ぎていた生徒が振り向くほどの声量だった。
2人は目立たないよう廊下の隅っこで窓の外を眺めながらのヒソヒソ話をしていたのだが、あまりにも意外な人物からの訴えに拓と共に清美は目をパチクリさせていた。
『えっと……どゆこと?』
キョト、と首を傾ける清美に、大抵の男子なら頬を赤らめるか恥ずかしそうに視線を背けるのに、市郎はギロっと睨みつけ、その鋭い眼光をそのまま拓へと移した。
『つうか久藤も久藤や! 新田さんに思わせぶりしといて相楽さんと付き合うとか!!』
『は?』
『相楽さんは新田さんと久藤をくっつけないために妨害してたとか聞くし、2人とも仲いい振りして本当にっ――』
『ちょ、待て、ストップ』
『ホント、ストップ! 待って!!』
訝し気に眉間に皺を寄せる拓の態度が気に食わなかったらしい市郎が拳を振り上げた始めたことに、身長差や体格の違いからして結果が目に見えた拓は青ざめ両手で必死に制し、清美もこれはまずいと2人の間に入り両手をあげて止まるよう手を振って必死に制止を促した。
市郎も流石に暴力はまずいと思ってくれたのか、すんでのところで止まってくれ、やり場のない震えた拳を「クッソっ!」と吐き捨てながら戻し、床を強く蹴った。
ダン! とそれなりの震度が来たかと思うぐらいの足元の揺れに少々臆しながらも拓は『つか、付き合ってるって何? 俺奈海が好きやから誰とも付き合ってねぇし、全員の告白断ってっけど?』と強めの口調で返した。
それに市郎は驚いたように『え? でも噂になってんよ? 美男美女カップルが誕生したって……』と言う不思議そうな言葉に『は!? 待って噂!? それどこ情報!?』と清美が素っ頓狂な声を上げた。
そこで、市郎が丁度こちらをちらちら盗み見ながら通り過ぎる女子数人グループを指した。
清美と拓が同時にばっとそのグループを見ると、彼女たちは『キャー! おめでとーございます!』と手を小さく叩いて祝福の言葉を言い始めた。
それに対し拓は『いや付き合ってねぇから』とズバっと冷たく言い返し、清美は『嘘でしょ待ってやばい……」とサァ-と青ざめていった。
『星頭君。もしかして……奈海が、元気ないから……来たのん?』
恐る恐る尋ねた清美の言葉に、『そうですよ!』と力み気味に市郎は答えた。
その返事に清美は『うああ……』とショックを受けたように頭を抱えた。
その傍らで『何、お前まだ奈海が好きなん?』『告白して振られたけどそう簡単に諦められるかっ』『でも奈海が落ち込んでるってことは俺のが分があるってことじゃね? ……ご愁傷さま~』『やっぱお前殴ってええか?』という勝ち誇った笑みを浮かべる拓と怒りで震える市郎のやりとりがあったがそれはどうでもよかった。
今朝から元気がないことの意味に証明がついた。
自分が原因だった。
奈海に誤解を生んでしまっていた。
――親友を、私が悲しませてしまっていた
一刻を争うと判断して急いで奈海の姿を探せば隣には怪しい気配のあった来宮奏斗がいた。
それを見て青ざめたのは拓の方で『やべぇ、これはあかん』と焦り始め、結果、もうとことん目立ってやってやれ、誰にも文句言われない立場で、かつ絶対奈海に本気が伝わる方法で――ということで、こんな形となってしまったのだった。
本当は、悩んだ
奈海が目立つのを好まないことを清美は知っていたから。
きっと、舞台の上に上がることを一番躊躇するだろうことも。
でも、それでも
その先に、大事な親友にとっての幸せな道が開けるのなら。
全力で背中を押して、滅多に表に出さなかった彼女の願いを叶えて欲しいと思った。
――遠慮しなくていいのに、いつも私を立てるように気を使ってくれた優しい大親友。
私の大好きな大好きな友達。
彼女が幸せになるためなら、なんだってしよう。
時々嫉妬して、意地悪することがまたあるかもしれない。
でも、彼女は受け止めて、私を嫌いにならないと笑ってくれるから。
私も、どんな貴女でも好きだよ、応援するよ、と言える人間になりたい。
だから。
「頑張って――」
どんなことがあっても、私が目いっぱい背中押すから