【解析】の計画を現代風に言うならば、『装備データ引き継ぎで行う周回プレイ』なのだった。
引き継がれる『聖剣』は、竜を殺した数だけステータスにプラスがつく妖刀みたいなシロモノで、それを『普通は斬れない相手』を殺せるほどのものに鍛え上げるのが目的らしい。
ステータスプラスというだけだと『そもそも干渉できない相手』に通じるということはなさそうに思えるが……
実際は単純に『攻撃プラス1』とかの補正がつくわけではない。
『竜を殺せる』という事実が積み上がる。
その事実がある程度の
「でも、僕らはこの剣で竜を殺しすぎたので、たぶん、そろそろこの剣も警戒されてると思う。始祖竜は記憶を引き継ぐようだからね」
警戒されないように、この『竜殺し計画』の重要な部分について、【解析】は記憶の共有を切ってくれていたらしかった。
それだと【解析】もまた『竜殺し計画』の記憶を次回に持ち越せないのだが、そこは権能を持つ
「さて、竜をすべて殺すために必要なのは、まず、この剣。そして最後に、大陸を素早く渡る機動力だ。なにせ今の僕は『不変』ではないからね。老いるし、死ぬ。死ぬにしても、なるべく周回数を抑えたいし、可能な限り竜を殺して死にたい。ほら、滅んだ周回にも人は生きてるだろう? なら、
開き直った英雄は発想がナチュラルに物騒で、少女みたいな顔をした美青年が笑顔のまま『竜を殺して死ぬ』とか言う様子には、倒錯したなにかがあった。
「全竜殺しを叶えるには、今以上の速度で大陸間を移動する手段が必要だ。……魔術師を何人も積み込んだ船団を組織して、それらに魔術で海を鎮めさせながらというのは、あまりにも時間がかかりすぎる」
この時代にはエンジン付きの船というのは存在しない。
魔術による風向きの操作で進む
長距離航海ともなると平均速度はもっと落ち込むし、長距離移動を想定するなら『海を鎮めるための魔術師』もたくさんの交代要員が必要になり、船団は肥大化し、必要な食糧や資材などが雪だるま式に増えていく。
聖剣使いはそのあたり卒がないのですでに十隻以上の船団を組織できる立場だが、たとえば想定される長距離航海に最低限必要な百隻以上を組織してその乗員に『竜殺し』とかいう直接的な
全員に『竜を殺さないと世界が初期化されてしまうんだよ!』と言っても、大半の人が『はあ?』となるだけだし。
それを受け入れさせるには、世界を股にかける独裁者になるしかないだろう。
なので聖剣使いが世界統一大総統になるほど時間もかけられない俺たちとしては、量を質で補える大魔導士を━━
魔術の王を、求めていた。
「ところで僕は毎回、
その
ただし、個性が強いパーツというのは、全体のほんの一部になったとして、完成品のクセを決定づける力がある。
だから俺は、
あいつの説得は、無理。
「ええええ……」
そもそも今回の俺たちは弟子と師匠という関係性でさえない。
あいつはあくまでも最初に自分が所有した『優しさ』として俺を所有していただけであり、俺の個性とかそういうものを気に入って懐いていたわけではない。
概念は保存できないので、概念を擬人化したものをコレクションしていたというだけなのである。
二度の災厄化を経たあの魂がそうそう
あいつへの対処方法は一つ。
勝利して所持するしかない。
「うん、まあ、そうなるのか。君ならなにか、コツでも知ってるのかと思っていたんだけれど」
あいつがまだ『魂の同定』ができて、なおかつ俺の魂を求めてれば別だろうけれど、さすがにそこまで同一なわけがないからな……
今のあいつは、よく似た他人なのだ。
【静謐】【躍動】【変貌】【解析】という四柱の竜に祝福を受けでもしない限り、魂を維持したまま世界の初期化を乗り越えることはできないだろう。
まあ、なぜかそっちは乗り越えてるようだけど……
「乗り越えてはいないよ。竜の仕掛けで記憶だけ聖剣にパッケージングしてるだけ。しかも、君とともに戦ったという『勇者』のことについては伝聞で、僕の記憶は始祖竜が同時期に目覚めてる今の形式の世界になってからのものしかない」
ところで、どうしてお前はそこまで竜殺しに熱心なんだ?
「だってそうしないと今の世界は滅ぶじゃないか。世界の一員として、世界を救おうとするのは当然だろう? ……まあ、この周回は無理でもね。いつか人類と世界が救われるなら、僕はそのための
……個性が強いパーツというのは、全体のほんの一部になったとして、完成品のクセを決定づける力がある。
人として素晴らし過ぎて、全員が『こうあるべき』と思うけれど、決して『こう』はなれない、そういう人間離れした誠実さは、ほんのひとカケラの魂になろうとも、深刻に人格を蝕んでいるようだった。
『人として素晴らしい在り方』という呪いみたいなもんである。
やはり『付き合いがあること』と『理解できること』は全然違う。
俺はこいつを理解できないし、こいつもきっと俺を理解できない。
【解析】だって俺たちのことはきっと理解しきってはいないだろう。
でも、俺たちは手を組める。
だからまあ、魔王だっておそらく、なんとかなるさ。
たぶん。
◆
「あたしを所有したければ、あたしに勝ってから言え!」
わかりあえない相手というのもいるものだ。
俺たちは手を組めるが、それは相手が『手を組むに値する相手である』という前提が必要で、なおかつ目的が一致する場合のみなのである。
というわけで、まずはこちらの価値を示さねばならない。
聖剣使いさん、よろしくお願いします。
「微妙に納得いかないなあ……」