そりゃあ飛び出すよ。
だって、お前が危ないんだもの。
俺を近くに配置して、勇者が接近してきたなら、まあ、そうなるだろうというのは俺からすると当たり前のことだった。
けれど魔導王にとってそれは、あり得ないこと……あるいは、あり得てはならないことだったらしい。
「く、抜けない……!」
勇者の声は背後から聞こえた。
……まあ、正直に言えば。
やっぱり『加護』は『縫い込まれた髪』よりもよほど強いようで、ローブは剣を止めてくれなかった。
ただし、剣を巻き取って、絡め取って、抜けなくする作用だけはあった。
背中側から貫かれた俺が、胸から生えた切先をつかんでいる効果もあるとは思いたいが、まあ、死にかけの人間の握力だし、さほど意味はないだろう。
この隙に逃げたらいいのに、魔導王は驚愕の表情のまま固まってしまって動かないから、俺は心臓を貫かれながら、最後の酸素を吐き出してこんなことを言うしかなかった。
「相手にするな……聖剣を持って逃げれば勝ちだ」
すると魔導王は、ようやく、自失状態から立ち直って……
俺に、怒鳴った。
「
じゃあなんで連れてきた、とか。
……まあ、なにがなんでもついて行くって言ったのは俺なんだけど。
なんですぐそばに配置した、とか。
……まあ、俺の配置位置を決めたのは、俺の独断なんだけど。
……色々つっこみてーんだけど、残念ながら俺の言葉はさっきので打ち止めだった。
「あたしは、
……。
「あたしがもらったんだ! あたしがもらった
まだ存命中の当時の俺は、もはや言葉は発せず、ピクリと動けもしない無力な存在ではあったが、まだ意識があり、周囲の声を記憶するだけの猶予は残されていた。
だから、現在の俺が、当時の記憶を蘇らせて感じることができる。
ひどく覚えがあるのだ。
時代の極まりに起こる、感情の奔流。
なによりも強い想いに釣られて、その時代を形成する人々の感情というエネルギーが無理矢理に集約されるこの
災厄。
……この当時の、今にも死ぬ俺は、それが災厄だとはっきりわかったわけではないだろう。
けれど、愛する妻になにかとんでもないことが起こりかけているのだけは、わかった。
だからまあ、
末期の息を、絞り出した。
「怒っても、いい、けどさ……」
「!? い、生き……!?」
「……『自分』を、
なにか大きなものが彼女を呑み込もうとしている気配だけがわかった。
精霊たちが彼女一人に向けて集約し、悲鳴のように
末期の時になって、俺はようやく、精霊を見る目を一段階上へと進歩させたのだ。
だから、精霊にほとんど取り込まれそうになっている彼女を
「精霊なんかに、お前はやらない。お前は、お……」
俺のものなんだから、まで言えなかったのがなんとも俺らしい。
そこで末期の息も尽きた。
そうして召されるその一瞬前、俺は━━
「わかったよ。……あたしは、あなたのものだ。永遠に誰にも渡さない」
……だから、その時に生まれた『災厄』は。
復讐心に囚われかけ、己のものを奪う者すべてを殺そうとするような【独占】ではなく……
濁流のような感情を前にして己自身さえも手放さず、己を呑み込もうとした感情を逆に御してみせた、例外たる第四災厄━━
その感情を【守護】だと、俺は