目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
9:恋

 遣いが来たことをリリシーの耳に入れようと月華牢に来たジリルは、ノーランがバスケットを持って入っていくのを見かけた。

 一度足を止める。

 あんな如何にも『食べ物が入っています』と言う物を持って、兵が廃墟に出入りしていたら目立って仕方がない。

 注意すべきだろうが、年頃のノーランにも自己アピールの自由がある。どの道、今日はあの酷い手の火傷だ。剣技は訓練できない。

 ジリルは待つことにした。


 中に入ったノーランに、リリシーは期待に沿わない複雑な表情を見せた。

 しかしノーランには上手く伝わらない。


「おはようリリシー ! と言っても、もう夕方だけどね ! 」


「ノーラン……ええ。おはよう」


「ローブ乾いたんだね ! ここは暖かいや ! 」


「ね……ねぇ、ノーラン ? あまりここに出入りしない方がいいわ」


「何故 ?

 あ、これ ! 昼食の時に取り分けてたんだ 」


 バスケットに入ったサンドイッチと茹でた芋を差し出す。


「あ、ありがとう……いただくわ」


「今日からしばらく静養なんだ。手がね……」


「……わたしのせいね……。ごめん」


「そんな事ないよ ! 兵になってから休暇って無かったしね。

 明日も持ってくるよ ! 君の好きな食べ物を教えて ? 」


 リリシーの拒否が通じていないようだ。今は兵士として扱えと言えども、次の王になるノーランをその気にさせても仕方がない。

 だがノーランにとってリリシーは、目にしてきた数少ない同年の女性の中で群を抜いて美しい。

 自分の持って来たサンドイッチを無防備に齧るリリシー。

 天窓の斜陽。髪は錦糸のように光り、ステンドグラスの橙色が素肌に落ちる。

 何としてでも手に入れたい欲望が蠢く。


「……ここでも魔法は使えないのかい ? 」


「ん……。わたしも、もしかしてここならと思ったんだけれど……」


 人間の魔法使いが信仰する四大しだい精霊も倉庫のレリーフに存在する。

 リリシーのような精霊魔法使いの魔法石は五色。四大精霊それぞれの四色と、残り一色は増幅器タリスマンか、自分の得意魔法の石をもう一つ付けるのが主流。人によっては全て火の魔法石……などという特化型もいる。

 リリシーの魔法石は火、土、水の他、風の石が二つだ。


 だが、四大精霊を祀るここでも魔法は使えなかった。オリビアとエリナの声もしない。


「……ノーラン、お願いがあるんだけれど」


「なんだい ? 」


「町の教会の神父様と面会がしたいの。こっそり連れてこれる ? 」


「ここは城の裏だし、多分出来ると思うよ 」


 神父に聞けば、それが昔からなのか最近なのかはっきりするはずだ。同じ魔法使いが神父になることが多いため、当時も使えなければ誰かしら不審に思ったはずだ。


「お願い出来る ? 」


「手配するよ」


 ノーランは少しでもリリシーに気に入られたく、長時間喋り続ける。だがリリシーは生返事を返すだけ。演説者のように一方的に話続けるノーランに、リリシーが少しウンザリ仕掛けた頃だ。結局、業を煮やしたジリルが入ってきた。


「ノーラン、いいか ? 兵の差し入れでも買いに行こうかと思うんだが一緒にどうだ ? 」


「はい ! 着替えて来ます !

 じゃあね、リリシー ! 」


 足取り軽く出ていくノーランを見送ったあと、ジリルがリリシーに向き直る。


「ふぅ……参ったな……。

 さて……リリシー。支度金を受ける時の記録を見たが、君の出身地は不明と記載されていた。孤児や奴隷上がりではよくあることだが、君はその年で魔法使いだ。落ち着いて勉強出来る環境にいたはずだと思ってな。

 それで、調べさせて貰った。

 簡単に情報は出て来なかった……最も、風のシルフを操る魔法使いは数多いから当然だが。

 ……しかし、ヴァイオレットと言う姓で心当たりがあった。

 世界中を飛び回り、空輸を生業にする飛竜使いの一族。君はその出生だな ? 」


「……家業に関しては、帰るまで名乗れません。親にもキツく言われていますし。今はただの家出娘ですよ」


「君の一族が本気になれば、他国を簡単に動かし、戦争も引き起こせるだろう。それが勝算か ?

 飛竜使いは生まれた時に、必ず一匹の飛竜を与えられると聞く……今、君の飛竜はどこに ? 」


「わたしのその素性……ミラベルにもバレてますか ? 」


「いいや。知らんはずだ。もし知っていて飛竜一族に喧嘩を売っているなら、正気の沙汰じゃない。君の一族は強大な独立国家だ。

 俺が気付いたのはその鎧。飛竜素材だよな ?

 クロウはあの雪山で材料の卵を見つけたから寝床にしたと言っていたが、あの山にその種の飛竜はいない。つまり卵の殻は運んで来た……。

 となると、その方法だが……陸路では関所に『卵の運搬を許可した』なんて記録がない。船が通れるような運河もない。それでピンと来たんだ。空輸なら可能だと」


「そうですか。

 確かに空はわたしの国であり、故郷であり、家でした。一族として、各国にコネクションはあるでしょうが、わたしは身分を偽って旅をしていますから。

 第一、わたしは国同士の戦争なんて望んでない。

 もしそうなったら、戦の最前線に立つのは貴方とノーラン王子よ。ミラベルはそうさせるでしょう ? そんな事望んでない。

 わたしはミラベルだけ討てればそれでいい」


 ジリルは少し安心する。あれだけの仕打ちをされ、怒りに任せて破壊的になるのでは無いかと覚悟をしていた。リリシーはどこか冷静で、感情が表に出にくい分、溜め込んだ怒りを一気に吐き出す性分に思えたのだ。

 事実、それは当たっている。


「昨日、兵士を通して君宛に伝言があった」


 初めてリリシーが強い反応を見せる。


「伝言 !? 」


「一人の少年が町でクロウを探し回っているそうだ。恐らく君の言っていたノアと言う少年だろう。ギルドにいた女を使って、門番に伝言を置いていった」


「そう……無事なのね……」


「君がここにいることを伝えた。それと、町の警備兵によれば、少年とクロウは接触を果たしたようだ」


 リリシーはホッと胸を撫で下ろす。

 あのままクロウが町を出ていない事にも、信頼を失わずにいられたのだと。胸の奥にちりちりと湧き上がる感情。やっと会える。オリビアとエリナの最後。何を見たのか。どんな会話をしたなど、伝えたいことは纏まらない程膨大に膨れ上がる。

 しかし一番に伝えたい事。

 冒険者として地獄帰りはしたものの、自分を待っていてくれた事。クロウもノアも。本来、クロウは冒険者では無い。支度金欲しさに今回は同行者として記入したが、ほぼ別行動である。


「……そうだったわ……。

 ジリル団長、ミラベルは生き物の視界や記憶を奪って、離れた場所が見れるようです。あまり深い話を外でするのは控えた方がいいです」


「そんな術が…… ? 成程…… ! いくつも心当たりがあるぞ」


 リリシーは少し安心したのか椅子に座り、天窓を静かに見上げる。


「……。

 ここは温室のようです。服もすぐ乾きました。牢と言うにはあまりに美し過ぎる。

 ミラベルには、この神聖さが分からないんでしょうね」


「……そうだろうな。

 リリシー。無粋な事は承知だが……ノーランの気持ちに気付いてはいるな ? 」


 上を向いたままリリシーは答える。


「……正直、困っています。

 わたしにはわたしの道がありますし、彼はこれから炎城の主になる王子。一時の感情で人生が疎かになっていい方ではありませんから。

 わたし自身は……優しい方だと、感謝はしていますが……そんな気は無いんです。

 ……わたし、これから彼の母親の敵になるんです。彼はどう思っているのか……」


「……ノーランには俺の方からそれとなく釘を刺しておこう。

 あいつにはしっかりして貰わんといかん状況だ」


「はい」


 ジリルが出ていく。

 リリシーは破れた皮の椅子に凭れたまま、天窓を眺める。色とりどりのキャンディのようなステンドグラスは見ていて飽きない程時間により表情を変える。

 その光の中、何かが揺らぐ。

 ソレは小さな隙間を見つけると、パタパタとリリシーの胸元に飛び込んで来た。

 クロウの飛ばした鳩だ。


「 ! 良かった。クロウ……本当にありがとう」


 鳩に結ばれた小瓶を受け取り、グローブの中に潜ませる。

 クロウはまだ町に留まってくれていた。信じていたはずなのに、どうしてあんなに絶望したのか。なんだかんだ言いながら、クロウが仲間を見捨てるはずなどないのに。


 クルックルッ !


「お願いね」


 リリシーは鳩に新たな伝言を結び、ソッと離す。鳩は元気よく欠けた天窓から出ていくのを見守った。


「生き物……ミラベルは魔蝙蝠の視界を水晶玉に写してた……。動物のいる可能性のある場所で大きな行動はしない方がいい……とは言ったけれど。

 もしかしたら魔蝙蝠のような魔物だけかもしれないわ……そうでなければ逆に何もかも知らなすぎるもの……」


 もう一つの気がかり。それは、あれだけ警戒して城に来た自分が、何故すんなりとミラベルの言うことを聞いてしまったのか。


「スカーレット王はかなりの巨漢だった。事故死と聞いていたけれど、生贄にしたのならミラベルが危害を加えたはず。でも、身体は綺麗だった。あの巨体の男性をミラベルが一撃で倒すのは有り得るの ? 毒 ? それとも魔術…… ?

 ノーランもそうだわ。助けに来てくれた時はあんなに勇敢だったのに、ミラベルが現れた途端、何も言えずに……。虐待による精神の支配…… ? いえ、違う。

 何か、自分に従わせる……そんな魔術なのかも……。

 なら、今のわたしは ? きっと大丈夫。大丈夫よ」


 自分に宮廷魔術師の話が出た時も、迷いはしたが簡単に承諾してしまった事を思い出す。この城に入る前はそんな気は無かった。聞く耳も持たず突っぱねたはずだ。

 ミラベルの口先が美味かったのか ?

 しかし、そうでは無い気がするのだった。


 □□□□□□


「町は今日も活気付いていますね」


「そうだな」


 簡単な変装をしたノーランがジリルの側を歩きながら町を歩く。


「ノーラン。気持ちは固めているか ? 」


「はい……ええと、ははは……まぁ急ですが」


 この時、ノーランはリリシーとの関係の話だと思い込むほど浮かれていた。

 ジリルは大通りから外れ、住民の多く住む地域を目指し、ある家の扉を開ける。


「ただいま」


「あら、アナタ ! 」


 来たのはジリルの家族が暮らす自宅だった。


「や、やだ ! ノーラン様 !? こんな散らかった家に ! 今お茶を ! 」


「いや、ちょっと話がしたいから、お前は外してくれ」


 狭い家だが庭があり、掃除も行き届いている。床に子供の積み木が散らばってはいるが、こんな物くらい気にもならない程度だ。


「何のもてなしも出来ずにすみません王子」


「いえ、お構いなく。突然でしたし……」


 妻が二階に子供を連れて上がっていくのを確認したあと、話が再開する。


「ノーラン。リリシーは有能な魔法使いだ。『お前と釣り合いが取れる』なんて俺が言い出したのも悪かった。

 だが、状況が変わってきた。

 なぁ、お前は覚悟が出来ているのか ?

 今日、明日、王になる覚悟だ」


「……」


「リリシーを止めるなら別だが、このままなら母上が死ぬ。

 ノーラン。選ぶ時が来たんだ。

 このままミラベル様と炎城を手にして堕ちて行くのか。

 母親を捨て、自分が炎城を手にするのか。

 前者にはお前自身の未来は無い。だが母親を犠牲にするか等、他者には決められん。

 お前自身が決めるんだ」


「それは……。マ……母さんを庇う事はもうしないよ。

 王になるよ。その方がいいと思うし、リリシーも賛成すると思う」


 ノーランの受け答えには、いまいち明確なビジョンが無いように思える。


「なぁ、ノーラン。母上を討ち取ったら、リリシーは仲間と炎城を立つだろう。

 その時、お前を支える人間はいるのか ? 俺は勿論、お前に剣を捧げるが、ふにゃふにゃな王では民衆が戸惑う」


「 ? 炎城にとどまるかもしれないじゃないか」


 どうにもノーランの頭の中は、リリシーと自身の未来を切り離して考えられない様子だ。


「……。それは、彼女次第だが……。

 突然、女王が魔族だったと告げられた町の人間は混乱に陥るだろう。

 その時に、王が必要になるんだ。……難しい問題だが……同時に、王として立ち上がるお前の晴舞台でもある。民衆が納得し、頼れる王に。

 ノーラン。俺がお前と対等でいられるのはあと少しの間だ。だから今のうちに言わせて貰う。

 良き王になる事を、誰もが期待しているんだぞ。何よりも優先的な事なんだ」


「……」


 ノーランは無言だった。

 何も言い返せない。自分の置かれた状況に目を向けるのが怖い。

 リリシーがミラベルを討ち取る時、自分はその瞬間何を思うのだろうか。

 口数の減ったノーランを見て、ジリルはそれ以上は何も言えなかった。


「……道は険しいが、信じてるぞ。頼んだ、ノーラン」


「……はい」


 □□□□□□


 ノアとクロウは踊り子のエミリアの紹介で城壁の階段を登っていた。

 炎城とその城下町は二層の壁で守られている。

 城と町を隔てるのが一枚目の壁。高さはそれほどでも無く、装飾壁が美しい。

 二枚目は町の外周にある高い壁だ。松明が多く灯るのは外周壁だ。

 階段を登り追えると、先端から三段階に分けて壁の内側に通路がある。その一番上の通路を歩く。所々アーチがあり、その空間で火守りが松明を炊き続けるのだ。アーチの外には、広々とした平原とエルザ山脈の連なりが見える。


「こりゃあ……壮観だぜ……」


 誰もがこの壮大な大自然の前には感嘆の声を漏らすだろう。


 そこへ鳩が戻ってきた。


「クロウ ! ポポちゃんだ ! 何か付いてる ! リリシーからだよ ! 」


「……また手紙かよ !! 読めねぇって書きゃ良かったぜ ! 」


「読めないのに書けないもんね」


「うるせぇよ」


 エミリアがアーチの中にいる、一人の老人に声をかけた。


「おじいちゃん、お客さんよ」


「……。素晴らしい景色じゃろう。

 あそこに何か見えるじゃろ ? 多分ファルハの町じゃよ……」


 老人は炭の入った缶を置くと、足元の火鉢に移していく。火鉢の周囲には囲いがあり、風で巻き上げないよう工夫がされている。


「おじいちゃん、いつか話してたミラベルの話を聞かせて ?

 この人たち、エルザのダンジョンでおかしな物を見たって……。

 ミラベルと戦う算段をしてるみたいなの」


 エミリアがクロウとノアを老人の前に立たせる。


「ダンジョン……。エルザ山脈のダンジョンか……今は魔窟じゃな。

 どれ、座りなさい」


 老人は目があまり見えていないようで 、手でサッサっと方向を示す。

 アーチの中に、段がある。クロウとノアは静かに座った。


「は、初めまして ! ノアと申します。こっちの黒いのはクロウ。鍛治職人です」


「わしゃ、ジェムドじゃ」


「よろしくジェムドお爺さん ! 」


 空気作りを試みるノアを割って、クロウがぶっきらぼうに話始める。


「元騎士団長って ? 今の団長の前任 ? あんたがぁ ? 」


「思ったより老兵じゃったか ? まだ九十手前じゃよ。だがどうも、ここ十年で急に老け込んだ。退役した直後、目も潰れた。おかしいじゃろ ? 聖剣のジェムドとなんか呼ばれていたのじゃが……たちまち老い……まるで生気を吸われたように……」


「……状況からしたら別に驚かねぇな。

 実は俺の仲間がダンジョンの最奥まで行って、地獄帰りをした。聞きゃあ、地底湖で黒魔術の祭壇があって、生贄にされたスカーレット王の亡き骸を見つけたってぇんだよ。

 あの女王は魔族。人じゃない。スカーレット王は事故死じゃない。殺されたって事だろ ?

 地獄帰りをした女は魔法使いで、今はミラベルに囚われている。

 これから仲間の復讐を果たすつもりだ。

 爺さん。協力してくれるかい ? なんでもいい。情報でも、町人への注意喚起や噂の拡散でも」


 ジェムドもまた、なんの驚きも無いように火鉢をつつくとクロウのいる方に向き直る。


「随分切羽詰まっているようじゃな。だが、落ち着かないと計画は失敗に終わるぞい。

 さて、我々の話だが。

 昔からいる騎士共は皆、女王の異質さに勘づいてはいるはずじゃ。

 ミラベルは無駄に善政を行い、町人や外交に関しては何も問題が無いまま時が過ぎたが……。どんなに弱い立場の者でも、一度敵と見なすと容赦無く鞭打ちし、女子供関係なく簡単にしょす。

 騎士団にいるのはあまりいい気分では無かったなぁ。

 最終的に埋葬するのはいつも我々で……何か自分も悪事に加担した気分になる」


「今、伝書鳩で助けを求めてメッセージが来た。

 爺さん、あんたこの意味分かるかい ? 」


「どれ、聞かせてくれ」


 クロウはまた渋々エミリアに紙を渡す。


「読むわね ? えーと……。

『クロウ。会いたい。わたしを信じてくれてありがとう。……わたし、前から貴方……』ね、ねぇ !? ここ読まない方がいいわよ ! 自分で読みなさいよ ! 」


 突然の熱烈なメッセージにエミリアは赤面してクロウを見る。


「別にいい。そんな仲じゃねぇ。読んで」


「そ、そう ? そうは書いてないんだけどっ !?

 えっと……。あ〜ん、どこまで読んだっけ !!


『本当にありがとう。馬鹿なわたしを許して。近々、ミラベルに復讐を果たします。一つ問題がある。

 魔法が使えない。何故、声の事を知っていたの ? ここは声どころか、魔法も使えない。

 ミラベルといる時は、自分の気持ちに蓋をされている気分。何か暗示のような。ミラベルの魔力が予想以上に増幅されているのかも。


 騎士団長 ジリルが味方についています。王子のノーランには町の神父に会いたいと要求をしました。わたしは今、城裏の教会の月華牢にいます。

 王子のノーランは、母親の仇になるわたしを手厚く歓迎してはくれますが、味方である以上どこまで拒絶していいものか……どうしていいか分からない……』。


 マジで ? この子……。ミラベルを殺すの ? 」


「王子様、味方なんだ ! 」


 能天気に解釈するノアにエミリアが苦い顔をする。


「うう〜ん。この場合『どうしていいのか』って言うくらいだし……。多分、王子はそのリリシーって子がLoveになっちゃったんじゃない !? 」


「ひゃぁ〜〜〜 ! 」


「オメェらうっせぇよ !! そこ問題じゃねぇだろ。

 爺さん、魔法が使えないってのは ?

 魔法さえ使えれば可能性あるけどな。どうもあの城は魔法が使えねぇんだ。俺も回復用の携帯魔石をリリシーに貰ってたんだが、それも反応しなかった。だから、魔法全般駄目なんだと思ったわけよ」


 ジェムドは一度、眉を顰めて考え込む。


「オリビアの声もリリシーに聞こえないの ? なんで ? 」


 初耳のノアは不安そうにクロウに言う。


「彼らの声があったからリリシーは正気を保ってた。仲間の声がリリシーを支えていたのに ! 」


 着実に環境は整って来ているが、肝心のリリシーの魔法が使えなければ、ミラベルに太刀打ちなど出来ない。


「例えば、あの城に魔法が使えなくなるようなカラクリって、心当たりは無いかい ? 」


 ジェムドは頷くと、松明に火を付け、それを手探りで外壁の金具に何本も差し込んで行く。


「魔法が使えない……か。いや、『カラクリ』で思い出したぞい。

 炎城の歴史はそう古いものでは無いんじゃ。城下町と呼ばれてはいるが、町より城が後に建った。

 その時の建築士達の噂は今でも密かに語り継がれている。何も問題が無ければいいが、どうも……そうではなさそうじゃな……」


「簡潔に頼むぜぇ爺さん 」


「……結論から言えば、城のどこかに祭壇があるはず。その封印を解くのじゃ」


「祭壇 ? ミラベルの祭壇か ? 」


「いいや、違う。

 城が建つ前、月華牢のある教会はもっと大きな建造物でな。主にこの町で祀られていたのが水の精霊 ウィンディーネじゃ。

 ダンジョンの地底湖も含め、この辺一帯の水源を讃えてウィンディーネだけの精霊教会があった。

 だが城を建てる時、四大精霊も共に祀る事になり、ウィンディーネの教会は取り壊しになった」


「教会の一部を潰して、お城建てたの ? なんか縁起悪そう……。

 それはミラベルが来てから ? 」


「いいや。それよりずっと前じゃ。

 ウィンディーネを祀った場所は取り壊したが、その祭壇は城内に残した。

 だから歴代の神父や賢者様達は年に一度は城に出向き、その祭壇に通っていた。神や精霊を祀る場所と言うのは、人の都合で簡単に変えることは難しいからな。

 なんでも年に一度はその祭壇を動かし、町人にもお披露目していたらしい。祭りの日じゃな。

 だが、ミラベルが来た頃から、城内に通っていた神父や賢者様が行方不明になった」


「行方不明…… ? じゃあ、今は誰も拝んでないの ? 」


「そうなんだろうな……。

 水の精霊ウィンディーネじゃろ ? 魔法が使えない原因は分からないが、精霊様を疎かにすると何が起こるかわからん。それが原因かもと思えてならんな。

 わしが知ってるのはその程度じゃが……役に立てばいいが」


 クロウは考える。

 ミラベルは魔術を使えるはずだ。そうでなければ、不老不死の術が使えるはずは無い。

 だが、そのミラベルの黒魔術の祭壇は離れたダンジョンの最奥にあるというのもおかしいことだ。

 つまり、城内では祭壇が作れなかった。ウィンディーネの封印で精一杯なのだ。


「クロウ、どうするの ? 」


「俺ぁ、魔法使いじゃねぇから分かんねぇ。でも、とりあえず、その城の中の祭壇は探さねぇとな」


「どうやって探そうか ? ……忍び込むのは簡単だけど、怪しまれないためには……」


 そこでエミリアがポカンと二人を見下ろす。


「あら、それは手紙に書いてあったじゃない。

 町の教会から神父を呼んだって。騎士団長も味方なら、神父のフリして入っちゃえば ? 」


「フォフォフォ。なるほど、では一人紹介しよう。

 おーい ! ベアトル ! 」


 ジェムドの声に隣のアーチにいた火守りがひょっこりと顔をだす。

 ジェムドと同じくらいの老人で、もこもこした白い髭が特徴的な背の低い男だった。


「当時、城の建築に関わった大工の孫じゃ」


「何事かね ? 」


 全てを聞いた元建築士の孫 ベアトルは、その穏やかな表情を一変させた。


「それなら、心当たりがあるぞぇ ? 」


「なら、協力してくれますか !? 」


「まぁ、ジェムドもワシも。生きてる内にケリをつけねばならんことだ。もう少し若い頃にお主達のようなものに会いたかったがな」


「僕らも戦闘能力は……ほぼ無いんですけど……。でも……」


「し……」


 ノアの言葉を遮り、ベアトルは人差し指を立てて平原を見渡す。

 すっかり暗くなったが周囲は松明を灯し終え、城が紅く染まる。

 紅に染まった頭上の雲を見上げ、首を捻る。


「何じゃ…… ? 今、なにかに見られていた気配が……」


「多分、ミラベルじゃよ。あれのいない場所での秘密事を、聞かれていた事があった。

 皆、これ以上は終わりじゃ。移動しなさい」


「はーい」


「覗き魔術 !? サイテーね ! 」


 ベアトルが同行する。ノアとエミリアがおぞましそうに空を見上げ、吐き捨てるように文句をいいながら階段を降りる。


 ただクロウだけは。

 その存在を目を細めて微笑み、警戒心のない表情で雲の隙間を見上げていた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?