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5:罪人たちと業

 朝食前、ミラベルは寝間着のまま鏡面台に座り、その美しい顔をジッと見つめる。しかし、台にはおしろい粉を叩く綿花が転がるだけで、肝心の手は右頬に添えられている。鏡に写るミラベルの弾力のある白い頬。

 その片方が腐り落ち、肉片を失い凹んだ右頬を覆いながら鋭い目付きで自身の姿を見ていた。


 老化は有り得ない。

 あの祭壇がある以上は、永遠の美と魔力が手に入る。


 祭壇に異常がある。

 誰かが祭壇を見つけ、魔法石の配置をずらした。

 その時点で腐りかけていたはずだが、今朝になり化粧をする段階でようやくミラベルは気付いた。

 多少の時差があれども、祭壇に触れたのはリリシー以外に他ならないだろう。


「……見込んだ通りの実力ね……。あぁ、その魔力が欲しいわ。今まで犠牲にした魔法使いの誰よりも強い魔力……」


 ミラベルはその場凌ぎの回復魔術を使い肉を盛って行く。

 元に戻った頬にそっとおしろいを付ける。

 祭壇の魔術をかけ直さないと、また身体に傷む場所が出てくるだろう。そう考えると、急激に自分の積み上げてきた術が台無しになった怒りが込み上げてきた。


「くっ !! 」


 手元にあった化粧品を凪ぎ落とし、ランプシェードを掴むと、力任せに壁へ投げ付ける。


「……リリシーッ !! 」


 噛み合わせた歯が音を立てる。


 そこへ侍女の三人がノックをしてやって来た。


「おはようございますミラベル様。本日の着付けに参りました」


 ミラベルは鏡面台に戻ると、もう一度頬を入念に確認してから入室を認める。

 この国を手中に納めた自分が、小娘相手にムキになっている等、知られてはいけない。瞬時に吊り上がった瞳を隠すように、指の腹で眉頭を抑える。


「……二人でいいわ。そこのあなた、ジリルを呼んできて貰える ? 」


「かしこまりました」


 侍女の一人が廊下へ出ていった。残された二人は台車に乗せてきたドレスや装飾品を並べる。


「本日はこちらの暖かいドレスをお持ちしました。色はどれになさいますか ? 」


「……何色が印象が良いのかしら……」


「え…… ? 」


 いつもは頭ごなしに「アレでもないコレでもない」と騒がしい朝の着付けだが、今日は違った。


「いえ、なんでもないわ。この落ち着いたクリーム色のドレスにするわ。装飾品はイヤリングだけでいいです」


「はい、かしこまりました」


 数分して、ようやくジリルがやってくる。廊下で待機し、侍女達と入れ替わりで部屋へ招かれた。


「おはようございますミラベル様」


「ええ。おはようジリル。朝早くに悪いわね」


「いいえ。何時でもお呼びください。お気遣いありがとうございます」


「実はね。わたしが探しているリリーシアなんだけれど……」


 □□□□□□□□


 リリシー達は結局、ミラベルの狙い通り、炎城の手前の町を目指し、馬車に揺られていた。

 農場主が出荷に合わせて呼んでいた馬車屋に食料と共に乗せて貰えることになったのだ。


「それじゃあ、俺は各店に卸に行くから、ここで大丈夫かい ? 」


 町の入口で降りることになる。


「はい、ありがとうございました ! 」


『ようこそ ファルハの町へ』


 木材で作られたアーチを抜けるとすぐに大通りに入る。食品、アクセサリー、炭、服、色々な店がそれぞれ建ち並んでいる。

 炎城から近いせいか、まだまだ旅人も多く歩いている。

 四方に平原へ続く道があるが、ダンジョンを目指さない限り、リリシーの来た方角から町を出る者は少ない。


「ノアはここに来たことある ? 」


「うん。この町から食料もお酒も仕入れてたからね。三ヶ月に一度買い出しに来るんだ」


「そう。えと……まずは装備品かな」


「兵士いないね」


「来てると思ったんだけどね」


 クロウの穴蔵を確認してきたがやはり留守なままだった。

 追手が蔓延っているかと思ったが全くそんな雰囲気がない。町は平和だった。


「女王の金貨を換金した。これで足がつかないお金になったね。武器はどうする ? 」


 実際、今持っている大型のクロスボウは大きな分、安定して精度はいいものの、ノアの体格ではまだまだ持って旅をするには辛い重量だった。


 リリシーは武器屋の手前、群衆の中に一人突き抜けた身長の者に気付き、横道に逸れる。


「どうしたの ? 」


 馬にでも乗らなければ、あんなに頭が高い位置には無いだろう。兵士はやはり来ていた。

 リリシーはノアのポシェットに金貨の入った袋を手早く詰めた。


「え !? リリシー !?」


「ダメね。逃げきれないわ。

 ……ノア。わたしがもしミラベルに捕まったら、外から助けに動いて欲しいの」


「え……それ、別行動って事…… ? 」


「捕まるなら、ノアを見られないうちがいい。

 恐らくは、ただで帰してもらえるとは思えないもの」


「そっか……確かに……。僕が一緒なのはまだ知らないもんね」


「一応この町も馬車屋があるから、炎城の城下町まで馬車で移動した方がいい。魔物に合っても付き人が護衛してくれるし」


 そしてそのポシェットにあった無地の紙を見つけると、手紙をしたため折ってサインを入れる。


「これは ? 」


「どうあろうとクロウは無事に解放させたい。攫ったって事は殺す気は無いはずだもの。

 ノアはとにかくわたしとの接点を隠して町に潜んで。何とか……クロウと引き合わせられれば……。ノアはこの手紙で信用して貰えると思うけど……問題のクロウは……」


「見た目の特徴とか……」


「うぅー……ん。臭い ! 」


「いや、出来れば外見の印象をさぁ」


「外見は……。モサモサ汚い…… ? 」


「……うん。もういいや。じゃあ炎城から出てくる一般人を見張ってればいいかな……」


「クロウとどうにか引き合わせられれば……。

 それまでトラブルは、お金で解決できるならそれでいいから。絶対に怪我とかしないでね」


「分かった。僕も町の人の様子とか探ってみる。耳はいいほうなんだ」


 リリシーは大通りから外れ、町の出口の馬車屋まで行くと、ノアを城下町まで乗せるよう頼む。


「じゃあここで」


「リリシーもお願い。無理なことはしないで」


「分かってる」


 ノアを乗せた馬車が動き出す。

 それが見えなくなるまで、リリシーはぼんやりと立って見ていたが、意を決して大通りへ戻る。

 するとすぐに兵が声をかけてきた。


「失礼。白い髪の魔法使いリリーシア · ヴァイオレットを探しているが貴女か ? 」


 黒毛に白い鼻筋の入った馬。鎧にはスカーレットのエンブレム。

 そして、兵は兜を取る。

 ジリルだ。

 突然引っ捕らえる気は無いようで、辺りを見渡しても兵士はジリル一人だった。

 それもそのはず。

 使い魔の鳥の目を借り、ミラベルは魔術でリリシーの動きを上空から見ていた。居場所が分かれば大所帯は必要としない。口実などいくらでもあるのだ。


「良かった。やはり生きていたのか。ギルドに報告が無いものでな。女王が随分心配されていた。

 連れて来るよう言われている 」


 どの道、リリシーは行かないと言う選択肢は無い。一生逃げ続けるのは無理だ。


 しかしジリルは何も聞かせれていないのだ。ミラベルの素性も、ダンジョンについても。

 中流階級に生まれ、城に騎士として入団し、優秀な成績をあげただけのワーカー。

 あくまで職業。

 騎士団長の誇りだけを胸にし、彼個人には野望や邪心の類が無い。

 それ故に、リリシーも困惑してしまった。


「……しばらく喪に服したいので……ご遠慮させて頂くことは……」


「しかし大分、意気消沈しているように見受けられる。その状態で魔物のいる外へ出るのは危険だ。

 それに女王の気遣いである。出来れば安心させるためにも来ていただきたい。それなりの歓迎はしてくれるはずだ。

 さぁ、乗って」


 ジリルにその気はなくとも、ミラベルはこの手でリリシーを誘い込みたいのだろう。リリシーもそう判断する。

 しかし、ここまで言われて断るのも……自分は秘密を知っていますと言うようなものだ。


「そう……ですね。では……お言葉に甘えて……」


 馬に乗り、ジリルの背負った剣帯を握る。

 ここからは賭けだ。

 ダンジョンも地下四階の地底湖まで行かずして仲間を失ったと言えばいい。

 それを信じられないなら、ミラベルがダンジョンの祭壇の持ち主である事の決定打である。


 □□□□□□


 恐ろしい程高い城壁。

 すでに松明の準備をしている火守りと呼ばれる自警団が兵から替えの松明等を受け取っている。

 馬は一気に城内へ滑り込む。

 謁見の間等通さず、リリシーは直接女王陛下の居住塔へ通された。


 既に辺りは夕暮れ。

 ジリルに連れられ、一人広々した部屋へ通された。

 いよいよミラベルと御対面である。


 部屋には国の功績を称えた盾や賞状の類が並ぶ。どれも新しい物だ 。

 ノアは無事に町に潜んだだろうか。

 クロウはこの城のどこに居るのだろうか。

 不安がピークに達した頃、絨毯を歩くタフタフと言う音が近付く。


「まぁまぁ ! リリシー ! 」


 ミラベルだ。

 クリーム色の質素なドレスに紅の薄い口唇。

 思ったより大人しそうな印象をリリシーは受けた。

 窓の外を眺めていたリリシーの側に来ると、なんの躊躇いも無く、ミラベルはリリシーを思い切り抱き締めた。


「心配していたのよ !

 それに……私に聞きたいことも沢山あるでしょう ? 」


 勿論ある。

 それをミラベルから言うのか。

 リリシーは一瞬でミラベルの波に飲み込まれてしまった。


「さぁ、食事を用意したわ。

 話を聞かせて。私も話したいことがあるのよ」


 廊下を歩くと十人程の侍女と、料理を担当したであろうシェフが会釈し、二人を食事部屋へ通す。

 部屋は案外、狭い。

 豪勢だが、女王陛下が食事をするにはあまりにもこじんまりした部屋だった。

 窓際にテーブルが寄せられ、景色を堪能しながら食事ができる。


「さぁ好きな方へ座って。

 ワインはいかが ? 」


「お酒は……飲みません」


「なら、これがいいわ。この辺りではベリーが沢山採れるのよ。それを紅茶に加工するの」


 ミラベルはティーポットからカップにベリーティーを注ぎ、自分もそれを持ってきて、二人横に並んで座る。対面より気まずさは無いが、距離が近い。

 窓の外、遠くにエルザ山脈が南までずっと続く。この塔は城壁より高い位置にある。


「まずは、いらっしゃいリリーシア。

 リリシーでいいかしら」


「はい。お招きにあづかり光栄です、女王陛下」


「ミラベルでいいわ」


 すると突然、ミラベルはリリシーを抱き寄せた。


「……辛い思いをしたのね。ごめんなさいごめんなさいね」


「……」


 何から突っ込めばいいのか、リリシーはミラベルになすがままに撫でくり回される。

 ミラベルの意図が全く分からない。

 だが、やはり最初に仕掛けるのはミラベルだった。


「ダンジョンの地底湖は見たかしら ? 」


「……え…… ? あ……いえ……見てませn……」


「その様子だと、全て見たのね……」


 ドッと冷や汗が出る。

 しかしミラベルは静かにスプーンをとると、スープに口を付ける。


「美味しいわよ ? 遠慮しないで」


「あ…………は、はい。いただきます」


 しばらくパンやスープを貪り、シェフが最後のデザートを運んできた。


「あとは下がってて頂戴。食事が済んだら食堂に侍女を向かわせるから」


「かしこまりました」


 恐らく廊下にいたのであろう侍女、シェフ、そしてジリルも別の場所で待機となる。


「さてと。リリシー。まずは仲間の死にご冥福を……」


「……」


「あの祭壇はね。私の物よ」


「 !!? 」


 まさかのミラベルからの告白。

 これにはリリシーももう隠しきれなかった。


「な、なぜそんな話を……っ !? 」


「分かってるわ。リリシー。

 これを言ってしまったら、私こそが貴女にとっての仇になるものね……。

 でも、私も貴女に敬意を表して、黙っている訳にもいかないでしょうから」


「わ、分からないわ ! なんでそんな話……」


 ミラベルはベリーティーで口を潤すと、やがて話始める。


「最初に誤解しないで欲しいのは、あの地底湖の毒は元々よ。生物が迷い込んだら毒が出る。まるで食虫植物のようにね」


「祭壇の話が先では ? 」


「祭壇ね。それにはまずは、私の生い立ちから話さなければ行けないわね。

 私は魔王軍の魔術師をしていた両親の一人娘よ。魔王軍の島で育ったわ。二世魔術師ってわけ。

 魔術は呪いや生贄と引き換えに魔法を使うの。いわば自然界のエレメンツ精霊の助力を必要とする人間の魔法とは違うの。魔王軍は魔術の方が主流よ。

 今や魔王の住む大陸は分厚い結界で囲われ、年々、力の強い者程、あの場から出れなくなっている」


「では何故あなたは出れたんです ? 」


 ミラベルはクスリと笑うと、しょうもなさそうに肩を竦める。


「……子供だったからよ。親と喧嘩した弾みで、最初はアルカ大陸の魔法の森に迷い込んだ」


 アルカ大陸は魔王軍のいる島国から一番近い大陸。そして魔法の森は、魔力が湧き出す不可思議なスポットで、魔法使いは皆魔法の森の樹木で出来た杖を欲しがるそうだ。

 リリシーも一度は聞いたことがある。


「子供の私は『これで人間らしい生活を』。そう夢見た。けれど現実が一瞬にして崩壊したわ。

 何故なら人間は貧しく、親は子供を手放し、国の大半が一部の上流階級だけ私腹を肥やしていた。

 私はね。それが許せなかったのよ。

 魔王軍として魔物と育った私が、人間を見て失望するなんてあってはらない。何故なら、人間は皆、魔王軍の島へ来ると必ず、正義と暴力を振りかざして講釈垂れる。

 そして、私たちを問答無用で討伐と称しグロテスクに殺すのよ」


「…………」


「この世界の人々が分かって来た私は、どこかの王族に取り入った方が早いと考えた。どうにか社交会に潜り込むと、すぐにスカーレット王が声をかけてきたのよ」


 恐ろしいのはこの与太話が事実だという事だった。


「でも外交も炎城の立て直しも、最初は上手くいかなかった。ただのお嫁様では、国に口を出せるほどの権力は持てなかった。

 私が王に意見をすると、顔が腫れる程殴られたわ。『お前は俺の横の飾り物だ』『ただ美しく黙っていればいい』。そして『子供はまだか』……これが一番辛かったわね。

 養子にしたノーラン……一人息子よ。彼をスカーレット王は毛嫌いしていた。

 ある晩、揉めているうち、スカーレット王を……私がこの手で……エスカレートしていくスカーレット王の暴力はノーランも襲おうとした 。それで私が…………つい」


 リリシーはただただ生々しい王家の内情に、開いた口が塞がらない。

 ミラベルの手は震え、まるで懺悔をしているかのように、リリシーの方へこうべを垂れている。


「王の遺体をノーランと二人で傷口を隠し、魔術をかけ、人目の付かぬ場所へ沈めた。それがあのダンジョンよ」


 だが、一つ。

 ここに問題が浮かぶ。


 そんな大それた秘密のあるダンジョンへ、何故冒険者を導くのか。


「あそこにあるのは年齢や、魔力を吸い取る儀式祭壇ですよね ? あれは死者を祀るものでは無かった」


「ええ。ええ、そうよ。

 私は顔の造作なんてどうでもいいの。寿命が欲しいのよ ! だって女王の私がやらなければ ! 人間はもっと悲惨な者で溢れてしまうわ !

 魔力もよ。兵士の働きだけでは限界がある。魔力が欲しかった !!

 でも貴女が現れた。有能な魔法使い。

 そこで考えたの。

 私が魔法使いを犠牲にして魔術師でいるより、貴女を宮廷魔術師としようと。

 今までの犠牲者に罪の清算をしろと言われたら、喜んでするわ。

 でも、今じゃないわ」


「わたしの仲間は犠牲になりました……わたしも湖で溶けかかった」


「本当に申し訳ないと思うわ。それをすぐに辞めなかった自分の心の弱さも全て。人は老いるもの。誰かが意志を継げばいい。私も馬鹿ね。

 リリシー ? あなたなら……罪と使命……時に人は、頭が割れるように難しい判断が存在し、世の中はそれの繰り返し。それを理解できるはずです。

 今の所、私が出来ているのは、炎城の街の発展と民の安心出来る生活空間の提供。

 そして他の国と掛け合い、この世から奴隷制度を撤廃した事」


「あれもあなたが ? 」


「……でも、あまり胸を張れる事じゃないのよね。

 スカーレット領の孤児院や教会は、虐待はなくともまだまだ貧しいまま。

 他の国は言うまでもない。貴女の方が詳しいと思うわ」


「奴隷商から孤児院に、飼い主が変わっただけ……ですね。虐待も続いてます」


「そう。暴力も飢えも続いている。

 リリシー。貴女の魔力、賞賛に値するわ。

 是非、この炎城で宮廷魔術師として活動して欲しいの。仲間もあなたが選定して、正しい人間を選べるように。

 私は貴女がいてくれるなら、もう魔術は必要が無くなるわ。

 あのダンジョンの誘致活動を撤廃する事を誓う」


「あなた……クロウを拐ってるわよね ? 」


「あの優秀な鍛治職人ね。ええ。城には招いたけど、手荒な真似はしていないわ」


 ここでリリシーは気付くべきだった。

 あの偏屈なクロウが『招待する』などと言われて、ノコノコ来るはずがないのだ。


 だがミラベルが魔王軍を飛び出した理由も、夫婦関係の裏話も、国の立て直しの話も……これは紛れも無い事実だったのだ。


 加えて、自分の身体の秘密に既に気付かれている。


 ごう

 もしこの魔術を使った業を背負い、これから生きていくならば、魔物を叩き斬る生活より、この似た者同士の女と国の改善に手を貸す方が、余程穢れなき選択のような気がしたのだ。何故かはわからないが、リリシーは今、ミラベルに対しての復讐心より未来のビジョンの方が大きな問題にも思えてきた。


「じゃあ、わたしがここにお世話になったら、クロウは解放して貰えるんですね ? 」


「解放だなんて。今も客人として扱っているわよ」


「そうだったんですか……」


 町に残してきたノアになんて伝えればいいかと考える。

 しかしクロウを解放して貰えるのならば、なんだかんだ言いながらも、ノアの面倒を見てくれるだろう。鍛治職人の助手は欲しがっていた節がある。


「あの……外出とかは…… ? クロウと話せたり……」


 この質問にミラベルは大袈裟に驚く。


「まさか !! そんなの自由に決まってるじゃない !

 むしろ、精力的に城外に出て、民の前で慈善活動なんかもして欲しいのよ ! はぁ〜……私が行くと、印象が悪いみたいで……。スカーレット王の趣味で派手なドレスばかりなんだもの。

 これでも最近は地味なドレスを選んでいるのよ」


 今日ミラベルが来たクリーム色のドレスは、リリシーから見て、地味すぎるというかまるでネグリジェのようにシンプルでセンスの欠けらも無い様に映った。


「どうかしら。

 リリシー。炎城だけじゃないの。まずはこの大陸。やがて人間全てを裕福に。せめて平等に。

 そして魔王軍に味方する者が寝返るくらいにね。国を整えて、善行を積むの。

 私はとてつもない程の悪事を働いてきたわ。でも、味方が増えれば、もう孤独じゃない。話し合っても殴られることは無い。

 あなたとならやっていけそうな気がするの」


「一日、時間をください。

 あと、クロウの面会、解放と……町に少し用事があります」


「勿論いいわよ。

 客室を用意させてるから、そこを使って。

 正式に就任したら、部屋も案内するわ。と言っても、あきれるくらいに余っているのよ。だからこれからここに勤める魔法使いや成績のいい独身の騎士にも解放しようと思うのだけれど、どうかしら」


「……いいと思いますが……」


 ミラベルは人懐こくベタベタとリリシーにふれながら、客室へ案内して行った。

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