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3:炎城とダンジョンの最下層

 日が沈んだ頃、兵は本日のを連れ、城へ戻っていた。


「ママ ! 」


 ノーランが裏口から出て来たミラベルにバタバタと駆け寄る……ところを、騎士団長 ジリルが首根っこを掴み抑える。


「今のお前は兵士だ。精神が弱い ! あの方は国の女王だ ! 」


「んぐ……し、失礼致しました、マ……じゃない。ミラベル様」


 黒いタイトなドレスに、赤の刺繍と金のアクセサリー。夜でも分かるほど美しい顔立ち。普段は接点の無い位の低い訓練兵も、久々に見る柔らかそうなボディに思わず生唾をのむ。


「従軍中は他と同じ一兵である事は当然です。まして貴方はここでは新参。団長から直接指導を頂いているのも特別な事なのですから、彼の言葉によく耳を傾けなさい」


 兵士がこれだけの短時間で移動できるのは馬と、ミラベルの移動魔法によるものである。人数が多ければ移動距離も短くなるものの、それでもエルザ山脈近辺へ二日程で往復出来るほどだ。魔力量としてはリリシーよりミラベルの方が上である。


「ジリル。その調子で、ノーランをお願いします」


 ジリルは外した兜を小脇に抱えて敬礼をする。

 三十代前半程で、中肉中背。顔立ちは印象の薄いタイプだが、剃り残しの無い髭と、兜を取っても乱れず固めた髪に多少の潔癖さが伺える。


「光栄です ! 責任を持って指導させて頂きます ! 」


 スカーレット領はそれほど豪雪地帯ではないが、大きな山脈のせいか標高は高く他国より寒い。特に冬の初めは痛いほどの風が吹く。

 低い空に曇天。

 そんなスカーレット城は、魔物から民を守る大きな石壁に、夜間は多くの松明が灯る。夜通し松明が掲げられるこの城壁都市は、平原に入るとぼんやりと夜空まで光を放ち、旅人は地図要らずで辿り着ける。

 その事から、この城は『炎城』と揶揄される事で有名だ。


 城の裏にある兵士の訓練場にミラベルは姿を現していた。

 土の敷かれた広いグラウンドに、乗馬を訓練するコースが三本。他にも兵の駐屯所等がある。

 町の者からは見えないように高い塀があるため、こうしてミラベルが訪れることもままあるのだ。


「貴方々は下がりなさい」


「はい」


 ジリル共に、他の兵も離れた所でそれを見守る。

 ミラベルの目の前には、地面に突き立てた丸太に縛り付けられる一人の男がいた。

 黒い獣の皮を羽織り、中着は擦り切れた穴だらけのボロボロの服。叩けば埃が出そうな出で立ちで、決して醜男では無いが、伸ばした髪をダラリと垂らしているのが、余計に不清潔な印象をミラベルに与えた。

 鍛治職人 クロウである。

 筋肉質で背の高い男だった。

 追っ手からは逃げ切れず、結局ミラベルの元へ突き出されていた。


「貴方がクロウ · ハクね」


「ははっ ! こりゃあ、ミラベル · スカーレット様じゃねぇですか。肖像画で見るよりべっぴんだなぁ〜。厚化粧なんてやめればいいのに」


 ギザついた歯がチラチラと減らず口を叩く。

 ミラベルは笑みを浮かべたまま、クロウの言葉を受け流している。


「わざわざ御苦労様。

 俺、なんかしました ? なにか聞きたいことでも ? それともこういうのが御趣味で ? 」


「ええ。それはもう…… ! 」


 ビッ !


 ミラベルの打ち込んだ鞭がクロウの肩のマントを裂いた。


「どう ? わたしの鞭も悪くないでしょう ? でも、貴方じゃわたしには釣り合わないわ。

 さぁ、質問にしっかり答えるのよ。嘘を言ったら次は耳が潰れるわ。

 リリーシア · ヴァイオレットはどこにいるの ? 」


「リリーシア ? 今はダンジョンだよ。自分で支度金を出したらしいじゃねぇですか。それとも、あれってギルドが勝手にやってんのか ? 」


「いいえ。わたしがしっかり審査して許可を出していますよ。不正はありません。

 オリビア一行は、ダンジョンに向かった後、足取りが追えていないのです」


「はぁ ? ダンジョンに行った冒険者なんていくらでもいますよ。金貨を換金してトンズラする奴もいるらしいじゃねぇっすか。

 オリビアは違う、なんて言いきれねぇ 」


「本当に知らないの ?

 オリビア一行がダンジョンで死んだ事も ? 」


「…………」


 クロウは一度、驚きの色を見せた。

 勿論ミラベルは見逃さなかった。一度クロウに撃ち込む鞭は後回しとする。


「じゃあこれだけは教えて。貴方がトラブルを起こしたとか……そういう事では無いのですね ? 」


 ミラベルは「お前がオリビア一行とトラブルを起こして戦ったのでは ? 」といういちゃもんをつけてきた。

 クロウもそれに激昂するようなことは無い。冷静にミラベルの言葉を聞き入れる。


「当然、そんな事実無ぇですよ。何しろ、俺ぁ先に町を出たもんで。元々行先は同じ町を点々としてるけど、宿もとらねぇんで。ベッドは落ち着かねぇし。だからあいつらとは、同行はしてるけど……気の合う客って感じだけさぁ。

そもそも喧嘩なんかしたとすりゃ、俺じゃ勝てねぇし。オリビアはああ見えて優秀なランサーだしよぉ。エリナには鍛冶屋の俺でも力で負ける。リリシーが一番小柄だが……まぁ、あんたはどうやら一番好みのタイプらしいじゃねぇか。ああいうのが好きなのかい ? 」


 いくら聞いても口を割らないクロウに、ミラベルはあの手この手で誘導を試みる。


「いいですか ? わたしの期待を背負って旅立った冒険者ですよ ? わたし自身気に止めるのは当然のことでしょう ?

 その為に支度金を出すのですから、その後どうなったのかくらいはギルドに報告させています。

 オリビア一行は今までの冒険者より報告が滞っていました。恐らくは、今まで攻略を目論んだどのパーティよりも先に進んだはず。

 ですが……一週間後、麓の村にリリーシアだけが一人、帰還した様です。住民の話によると、夜間一人で酷い怪我を負って現れたそうです……。

 これを聞いて放っておけますか ? 」


 いかにも「心配しています」と言う口振りに、クロウは顔を背ける。


「女王様よぉ……。トンズラ冒険者は追わないのに、どうしてリリシーの事だけ気にする ? 」


「去るもの追わずです。そんな者を追ってどうするのです ? 金貨を巻き上げますか ? 拷問しますか ? そんな下品な真似はしません。

 ですが、怪我をしてさ迷っているとしたら、救いの手を差し伸べる。当然です。

 王として働くというのはそういう事」


「俺を縛るのは下品じゃねぇのかよぉ ?

 じゃあ、立派な女王になる為のアドバイスしてやるよ。慈善活動したいなら町に出向いて、今日明日食うに困って飢えてる子供たちを救うんだなっ」


 クロウがミラベルのドレスに唾を吐き捨てた。


「……」


 ミラベルは微笑んだまま。

 しかし明らかに変わる圧。

 気配の質。

 怒りに任せて、強力な魔力が漂っているのをクロウは感じた。


「あぁ怒らせたかい ?

 だっておかしいよなぁ〜。あんた、何だってエルザのダンジョンに拘る ?

 こうしようぜ。『一定のレベル以上の冒険者には支援金を公平に出す』。皆があんたに感謝するぜ ? 何故あのダンジョンに行く冒険者だけに支度金を出す ?

 オリビアは最初から不信がってた。あのダンジョンに何かあんたの秘密があるならよぉ……。あいつら見ちまったんじゃねぇか ?

 その様子だと図星ぃ ? あいつらを甘く見てたな」


 ミラベルの笑みが途絶える。

 一切の情も持たない素振りでクロウを見下ろす。


「あのダンジョンは魔王直属の強い魔物達の巣窟です。草原や町の周りにいるような獣達とは訳が違うのよ……」


「どうだろうなぁ ?

 女王様ぁ。そんなに嫌わないでくださいよ。皺が増えるぜ ?

 俺はただの鍛冶屋だからよ。町を出る前にギルドから来たって連中に足止めされて、色々聞かれたんだよなぁ。聞けば集まった冒険者皆から、聞き取りして回ってたらしいじゃねぇか。それも、どうもリリシーの事ばかり聞いてたってな。

 今もそうだ。あんた、リリシーの事を真っ先に俺に聞いたな ?

 こんな状況で、俺が簡単に言うと思うか ? 」


 聞き出しは失敗。既に警戒されていた上に、こんなふうに縛り付けられていては誰でもミラベルに心を開かないだろう。

 ミラベルはクロウから離れると、ジリルに命令を出す。


「枷を付けて牢へ入れて置いて頂戴 ! 」


「直ちに ! 」


 クロウはノタノタと脱力し、兵を手こずらせ連れていかれた。


 □□□□□□□


 リリシーとノアの移動した農家の集落は、血縁者だけで出来た、五軒の集落だった。運良く飼料小屋を借りることになり、二人は藁の上に座り込む。


「あ〜。ふかふかだね〜」


 ドッと疲れが押し寄せる。

 兵士の姿は見当たらない。一気に緊張の糸が切れた。


「リリシー。クロウって人はどっちに逃げたんだろう ? 農場の人は誰も見てないって言ってたし……」


「……反対側に逃げたのなら、捕まったかも……。

 でも、クロウを見つけたところで、何も知らないから意味が無いわ」


「そうだよね ? ダンジョンには行ってない訳だし」


「ノア……わたしがダンジョンで見たものはね。

 祭壇よ」


 ノアは起き上がり、鎧を外すリリシーを見上げる。


「祭壇 ? お祈りするところ ? 」


 リリシーは防刃ローブ一枚になると、ノアのそばに改まって座り直す。向けられる真剣なエメラルドグリーンの瞳に、何かとてつもない焦燥感を感じた。


「それは教会にあるような物じゃない。もっと邪悪な呪術の祭壇。人間にとって……まさに外法と呼ばれるような代物よ」


「僕、体内魔力濃度は0.5未満でそうそうに魔法使いは諦めたから……魔法の知識はあまりないんだよね。

 ……具体的にはどういう物なの ? リリシーは一目見て分かるんだよね ? 」


「魔法使いだからね。それが何か恐ろしい物だとは分かったけど。

 でも、あんな物は初めて見た。魔王側にいるような魔術師なら分かるかもしれないけれど、人間の魔法使いは学びようも無いものだったわ」


「何それ……。じゃあ、それが女王の秘密 ? 魔王の手先ってこと ? ……信じられない……。そんなのが女王陛下になってるなんて……。

 それで、なんの術なの ? 」


「それはね……」


 △△△△△


 ダンジョン地下四階。

 突然の広い空間。松明で照らすと、そこには青く深い湖が現れた。


『地底湖……まさか最下部にこんな物が……。

 しかし妙だね。地下二階まではウジャウジャいた魔物達が、ここじゃ全く見ないじゃないか』


『水も気味が悪いほど澄んでるね』


『階段とか無かったよな ? 』


 見れば奥の方に、ここで息絶えた剣士や武道家と思われる装備の骨が纏めてあった。


『敵が出るのか…… ? 』


『確かに一本道だったよ。それに水中から生き物の気配は無いよ。

 わたし、中に入ってみる』


 リリシーが呪文を唱えると、大きな気泡が頭部を包み込む。陸上では見えないが、水中では酸素のある球体が頭部を保護し、しばらく呼吸が出来る優れた魔法だ。


『何かあったらすぐ出て来いよ』


『うん』


 地底湖の淵からブーツのまま足を下ろす。

 二、三歩歩いただけで人工的に作られた湖だと気付く。淵が階段状に整地されていて、下へと続いていた。

 水は澄んでいるが、日光の届かないこのダンジョンの最下部では流石に何も見えない。リリシーはダガーを抜き、その刃に魔法で灯りを灯す。


 暫く沈んだ後、姿を現したのは一人分の棺だった。


(これは……スカーレット王家の紋章だわ…… !? どうしてここに埋葬したの…… ? )


 更にその隣を照らす。

 石で積まれた規則的な壇。

 その上には杯と誰のものかも分からない魔法石。そして錆び付いたナイフ。香箱の中にはハーブの植物片がグズグズと腐り積もっていた。


(まさか……これは祭壇 ? ……一体なんの…… ? )


 リリシーは柩へすいっと戻ると、その蓋にダガーを差し込んでいく。

 棺は水圧で潰れていない。ダガーを差し込んでも水が流動する感覚も無く、もう大分前に沈んだようだ。ダガーの当たった部分はボソボソとした木片となり、すぐに棺は開いた。

 水は確かに冷たいが、何故か遺体に腐食は見られない。


(……亡くなったスカーレット王だわ……。名前と命日が書いてある……。今から三年前……なんでこんなに綺麗なままなの ? 祭壇のハーブは腐っていたのに……。

 それに……)


 リリシーがスカーレット領のあるこの大陸に来る前に、外交に訪れたスカーレット王本人を見たことがある。

 幼い頃の思い出だが、王は間違いなく貫禄のある中年男性であった。

 しかし、今見ているスカーレット王はどう見ても九十代後半。あまりにも老けている。年齢は合わずとも、間違いなく本人だ。史実通りならスカーレット王の父親も早死にしている。

 確実に棺の中の彼はスカーレット王だった。見た目の年齢だけが合わない。


 リリシーの手が止まる。


 呪術系の祭壇に、老化した御遺体。

 そして王族がこんなダンジョンの地底深くに沈められる理由とは。

ゴツゴツした男性らしい手が、骨と皮だけになり、指輪がぶかぶかだ。


(スカーレット王家の紋章、これは銀に賢者の石の指輪、ルビーの指輪……凄いわ。わたしが墓荒らしなら小躍りするところね……)


 隠された秘密である事は間違いなく、王族の棺を自由にできるのは同じ王族のみ。

 王の娶ったミラベルはスカーレット王に見合う完璧な美貌と賞賛された。そのミラベルは未だ衰え知らずの肉体で、女王となり炎城を手にした。

 支度金をギルドから受け取る時、決してオリビア一行が「ください」などと強請った訳でもない。ギルドの方から声がかかった。

 これが女王の隠したい事だとしたら、腑に落ちない。スカーレット領のギルドは、なぜエルザのダンジョンに冒険者を誘致するのかである。

 しかし、ダガーで別の場所を照らした時、その答えを目の当たりにした。

 リリシーは慌てて水面を目指す。

 王の棺の傍には、幾つもの骸が積み重なり、最早何体いるのかも分からないほどの人数が積み上がっていた。そのどれもが杖やローブを身につけていて、泥の中には彼らの持っていたであろう魔法石が積もっていた。


『みんな !! 』


 水から上がると、突然の酷い霧で方向感覚を見失った。


『オリビア ! エリナ ! 』


 罠だった。

 ここは冒険者を餌食にする場所。

 必要な物は若い肉体と、魔法濃度の高い魔法使いの魔力。それらを吸収する魔の祭壇。


『……っ』


 僅かな呻き声。

 充満しているのは毒霧だった。

 ずっしりと水を含んだローブが着ながらにして、朽ちて行くのが分かる。

 湖の水質も何らかの毒液だ。ローブが張り付いた皮膚が熱く腫れる感覚がある。


『すぐ上に ! 』


 見つけたエリナの身体は既に息が無かった。リリシーは慌てて、自分と同じ魔法をかけたが、もう意味がなかった。

 少しでも霧から遠ざけたいが、その毒霧はどんどん上へ上へと登って行く。

 下は毒液、上は既に毒が充満した急階段。

 よりによって一番体格の小さなリリシーが残ってしまった。

 移動魔法を使う手もあったが、潜水魔法と移動魔法の連続使用は厳禁とされている。突然気圧の違う場所にワープする事を防ぐためだ。だが勿論、この毒霧の中、気泡のマスクを取る訳にはいかない。

 エリナのすぐ近く。

 オリビアの手が地面を掻き毟った状態のまま転がっていた。


 手遅れだ。


『う……うああああああああああっ !! 』


 混乱か怒りか。

 もう何も分からない。

 取り乱したリリシーは二人の骸を引っ張りあげると、水中に引き摺りこんだ。


『うぅぅぅ ! 』


 今思えば、無い話なのだ。

 そんな美味い話は。

 何が支度金か。

 これらは全て、ミラベルが若返りの為に使用している呪術祭壇。

 九十代程にまで老化しているおかしなスカーレット王の身体。リリシーは自身がギルドからしつこく調査書や聴き取りが多かったのを思い出す。

 最初から自分の魔力が狙われていた。


 水底に落ちると、祭壇を隅から隅まで調べる。すると、案の定出てきた。呪文の羅列と魔導書。

 だが、これを読んだことは、リリシーにとって良かったのか悪かったのか。


 自分の魔法石を祭壇に並べると、リリシーはスカーレット王の棺を力任せに何とか落とし、エリナとオリビアを贄に捧げた。


 ▲▲▲▲▲▲▲▲


「それで……二人の身体がリリシーに…… ? 」


「他にも色んな術があったみたい。ダンジョンから出る前に燃やしたわ。あれは人が見ていい物じゃない。

 ……とにかく……めちゃくちゃにしてやりたかったのよ。呪術の儀式って言うのは何年もかけて積み上げて行く特殊な魔術。他人に使われたり、配置がズレたりするとしっぺ返しが来るのよ」


「じゃあ、時間的に王家の兵隊がクロウのところに来たのは、祭壇に何かあったって気付いたから ? 」


「そうかもね。でも、まだ確信は持ててないんじゃない ? 見せしめなら、クロウをその場に磔にするわ。

 具体的に祭壇が今どんな状態か、確認出来てないはずよ」


「……じゃあ。シラを切り通せばいいんだよね ? 逃げれれば一番いいけど。身体を見られない限りは、何をしたか分かんないわけじゃん ? 」


 リリシーは寝転び、天井を見上げながら左腕をあげる。


「この腕はね。エリナよ。とても強い女性戦士で、姉のようだった。

 胴体にいるのはオリビア。子供っぽいリーダーだったけど、決断力が早くて、分け隔ての無い良い奴。槍が物凄く強くてさ……

 ……そして、今はわたしの中に眠ってる……」


「眠ってる ? 」


「わたしはミラベルと同じね。彼女は寿命と魔力を維持したいんだと思うわ。

 わたしは仲間の死を受け入れられず、自分の一部として連れてきてしまった。……どちらも人のやることでは無いわ」


 リリシーは背を向けると小さく丸まった。


「それは違うんじゃないかな ? 僕だって同じことをするかもしれない。

 悪いのはミラベルだよ」


 リリシーは壁を向いたまま。


「寝れるうちに寝よう……」


 僅かに震える声色。

 ノアは自分もマントをかけると、ぼんやりと灯っている蝋燭の火を眺めた。


「うん。……おやすみなさい」

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