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第8話ー束の間の…ー

ふわぁーと欠伸が出る。冴子さんはそんな俺を見て微笑む。


「もう寝よっか。」


冴子さんに言われて俺は履いていたパンツを脱いで、Tシャツと下着だけになる。冴子さんは薄緑色のワンピースを脱いで生成のロングシャツを着る。


「いつもその格好?」


聞くと冴子さんは頷く。


「うん、あと、下も履くよ。」


言いながら冴子さんは生成のリネンパンツを履こうとする。俺はそれを止める。


「ダメ。」


冴子さんが俺を見る。俺は冴子さんの頬に触れて言う。


「そんなの要らない。」


冴子さんが顔を赤くして俯く。電気を消して布団に寝転がる。


「おいで。」


言うと冴子さんが少し恥ずかしそうに布団に来て寝転がる。腕枕をしてやり、薄い上掛けをかける。


「俺さ、冴子に言ってない事ある。」


冴子さんが俺を見る。冴子さんを抱き締める。


「俺、明日も休み。」


抱き締めながら冴子さんの体を撫でる。さっき着替える時にチラッと見えた、冴子さんのショーツ。また総レースだった。触りたい、そのレースのショーツ履いてるお尻。そう思ってロングシャツのボタンを外していく。下まで外すのに焦れる。全部外して冴子さんの体を撫で回す。ショーツのお尻も。冴子さんに口付ける。舌を絡ませ合い、キャミソールの中に手を入れる。指先で乳首を弾く。



日曜日は丸々お休みで、二人でゆっくり過ごした。郁弥くんの車で買い出しに付き合って貰う。


「大きい物とかさ、重たい物は俺が運べるから、買い出ししちゃおう。」


郁弥くんにそう言われて、お米などを買う。そうか、車と男の人の手があると、全然違うんだなと思う。



翌月曜日の朝。早い時間に起き出して、私は台所に立つ。朝ご飯と郁弥くんへのお弁当の準備をしようと思い立ったから。お弁当なんて誰かに作ったのはもう十年以上前の話だ。喜んでくれるかな。



朝ご飯を二人で食べて、郁弥くんはバタバタと支度を始める。オレンジを着ている郁弥くんはやっぱり格好良かった。玄関で郁弥くんを見送る。


「郁弥くん。」


靴を履いている郁弥くんに声を掛ける。


「ん?」


郁弥くんが振り返る。私はお弁当の包みを渡す。


「え?…これって…弁当?!」


何だか気恥しくて、郁弥くんを見られない。


「うん、足りなかったりしたら、教えて。次からは量増やすから。」


郁弥くんが私を抱き締める。


「すげー嬉しい!」


郁弥くんの顔が少しズレて私の唇と郁弥くんの唇が触れる。


「ん…」


唇が離れると郁弥くんは満面の笑みで言う。


「行ってきます!」



職場の工場に行く。


「おはよう、冴子ちゃん。」


工場のおばさん、こと、長島さんが声を掛けてくれる。


「おはようございます。」


言うと長島さんが私に近付いて来る。


「土曜日、デートどうだった?塚越の意気地無しはちゃんとリードしたかい?」


塚越の意気地無しと長島さんが呼ぶのを聞いて笑う。


「楽しかったです。」


答えると長島さんが言う。


「冴子ちゃんのその様子だと上手くいったんだね、心配してたのよ。」


私は郁弥くんと私が付き合う事で、悪い噂が立つんじゃないか、と思っていたのに、周りはこんなにも心配してくれている事を知らなかった。


「冴子ちゃんはさ、成瀬の叔父さんが亡くなってから、いつも一人だったでしょ?町のお祭りにも来ないし、集まりにも来ないし。今年は塚越の意気地無しと一緒にいらっしゃい。皆、冴子ちゃんの事、気に掛けているのよ。」


私は少し目頭が熱くなる。


「ありがとうございます…」



「塚越!デートどうだったよ?」


先輩に聞かれて俺はニンマリする。


「それ、聞いちゃいます?」


言うと先輩は笑う。


「あー、いーや。止めとく。」


俺は先輩に抱き着く。


「何でですかー!」


そして持って来たお弁当の包みを見せる。


「冴子特製の弁当です。」


先輩が驚く。


「マジか!」


そして俺の頭をグリグリしながら言う。


「っていうかさ、いつの間に“冴子”なんて呼び捨てにしてんだよ!」


イタタタタ、なんてふざけていると、団長が声を掛けて来る。


「塚越、お前、分かってんだろうな?」


言われて俺は真面目になる。


「はい、ちゃんと分かってます。」


そして土曜日の夕方にあった事を報告しておいた方が良いだろうと思い、言う。


「土曜日の夕方なんですけど、冴子の前の旦那が押し掛けて来ました。」


団長も先輩も険しい顔になる。


「で?」


団長に促されて言う。


「俺が間に入って、追っ払いました。多分、冴子はアイツに暴力振るわれてたんだと思います。」


団長が溜息をつく。


「そうか。」


俺は決意を新たにする。


「団長、俺、冴子の事、ちゃんと守ります。傍に居て、支えて、甘やかして、大事にします。」


言うと団長は持っていたファイルで俺の頭を叩く。


「当たり前だ。」



基本的に出勤すると24時間勤務になる。だから勤務は明日の朝まで。田舎町の消防なんてのは、普段はあまりやる事も無い。昼間は訓練、夜はいつでも出動出来るようにはしてあるものの、平和なもんだった。あー夜飯、どうしようかなー?なんて考えていた。


「こんばんはー。」


消防署に声が響く。入口を見るとそこには冴子さんが居た。え?何で?俺は慌てて入口に行く。


「冴子!どうしたの?」


冴子さんは大きな包みを俺に差し出す。


「差し入れ、作って来たの。」


マジか!夜飯も冴子さんの作った飯…。


「長島さんに聞いたら、宿直?はお二人だって聞いたから、二人分。」


それで大きな包みなのか。


「夜飯も冴子が作ったの食べられるなんて、すげー嬉しい。」


冴子さんは微笑んで、言う。


「お仕事、頑張ってね。あ、あと、お弁当箱、ちょうだい。持って帰るから。」


外は暗い。田舎町とは言え…。俺は一緒に勤務に入っている先輩に聞く。


「冴子、送って来ても良いですか?」


先輩は笑って言う。


「当たり前だろ、送ってやれ。」



冴子さんと手を繋いで歩く。


「何か返って悪かったかな…」


冴子さんが言う。


「何で!そんな事無いよ!戻ってから冴子の作った飯、食うのすげー楽しみ。」


冴子さんが俺にくっつく。


「ん?」


聞くと冴子さんは俺を見上げる。


「ホントはね、」


そう言って俯く。


「会いたかったの、郁弥くんに。」


あー!もう!可愛い!



冴子さんとのお付き合いは順調だった。休みの日には冴子さんの家に行き、お泊まりしては冴子さんの家から出勤する。お休みは家でゆっくりしたり、山向こうの街に出たり。少し離れた所には小さいけど水族館もあって、そこにも二人でデートした。



徐々に雨の日が多くなって来ている。梅雨入り間近。梅雨の間は何しようかなーなんて考える。冴子さんはいつも本を読んでいたりする。本を読む冴子さんの膝枕でお昼寝する俺…めっちゃ幸せだよなぁなんて考える。


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