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オレンジ
オレンジ
オデットオディール
恋愛現代恋愛
2024年10月25日
公開日
3.3万字
連載中
とある片田舎の小さな町。

私はひっそりとこの田舎町で暮らしている。そんな私に声を掛けて来た青年。彼は“オレンジ”だった…。

彼との出会いは一年前の大型台風の時。オレンジだった彼は町中を見て回り、とある理由で避難に遅れた私を見つけ、避難所まで送ってくれた。それから彼は何かと私に声を掛け、そしてデートにまで誘ってくれた。

心に刺さる年齢という棘、人には話せない過去、背負っている傷…。
全てのものを包み込んでくれる彼に惹かれて行く彼女。

年下彼氏の溺愛ストーリーが始まります。

第1話ー出会いー

「あ、冴子さん。」


そう声を掛けられて振り向く。


「あぁ、塚越くん。」


塚越くんは私の元へ走って来る。


「どっか、お出かけですか?」


聞かれて微笑む。


「そこのクリニックに行くだけだよ。」


言うと塚越くんが心配そうに聞く。


「どっか悪いんですか?」


私は笑う。


「持病の喘息の薬、貰いにね。」


塚越くんの背後から声がする。


塚越ー!


「呼んでるよ。」


そう言って私は塚越くんに手を上げる。


「じゃあね。」


手を振って歩き出すと塚越くんに腕を掴まれる。え?そう思った時には振り向かされていた。


「あの、連絡先とか、聞きたいです。」



クリニックの待ち時間にさっきの事が思い出される。勢いに負けて塚越くんに連絡先を教えてしまった。クリニックに着く前には塚越くんからワン切りされている。スマホに登録する。


『塚越くん』


名前以外はあまり知らない。知ってるのは彼がオレンジだという事。オレンジ、それはレスキュー隊員の証だ。この小さな田舎町にレスキュー隊員が居るなんて。それでも塚越くんを含めレスキュー隊員は三人居る。



クリニックを出て、いつもの薬局に寄る。そしてテクテク歩いて帰る。小さな田舎町、町民のほとんどが知り合いのような、そんな町で私は一人ひっそりと生きている。私がここに越して来たのは十年程前だ。当時、私は生活に疲れ、叔父さんの居るこの田舎町に越して来た。



二十七歳の頃に結婚した。結婚は失敗だった。夫は身勝手な人で私を家政婦のように扱った。耐えられなくなって離婚を切り出してもなかなか応じて貰えず、離婚までかなりの時間を要してしまった。そこで私は神経をすり減らし、鬱病になりかけた。静養も込みでこの田舎町に引っ越して来たのだ。全く知らない町では無かった。叔父が住んでいたから。その叔父も五年程前に無くなった。私は女が一人で住むには大きな家に住む事になった。



家に着き、玄関に入る。誰も居ない家。ただの入れ物のような家…。歳を取ると何にでもしんみりしてしまうのは良くないな、と思い直して、私は部屋に入る。田舎の平屋建ての良くある間取りの家。五年も一人暮らしをしていれば、それにも慣れるものだ。



ピコンとスマホが鳴る。メッセージが来たようだ。


『こんばんは。お疲れ様です。

仕事終わって今帰りです。

冴子さん、何してますか?』


メッセージなんて久しぶりだな、そう思いながら返信する。


『こんばんは、お疲れ様。

私はお風呂から上がって縁側で涼んでました。

お仕事、お疲れ様。』


それだけ送ってスマホを置く。塚越くんは何で私なんかに構うのだろう。塚越くんから見たら私なんてオバサンだろうに。


私は今年もう四十を超える。鬱病になりかけたせいで三十代の前半は潰れてしまっている。何とか立て直した時に叔父が亡くなった。喪失感はあった。でも泣いてばかりいられない。そこから五年、私は何とか一人で生活している。小さな田舎町、興味を持てば誰の事であろうと知る事の出来る、そんな町だ。



「冴子ちゃん、これもお願い出来る?」


そう言われて私は笑顔で引き受ける。


「あ、はい、やっておきます。」


私は近所の工場の事務をやっている。工場と言っても家族経営しているような小さな工場だ。亡くなった叔父の口利きだった。薄らと汗をかく、そんな季節になった。


「夏が来るねぇ。」


工場のおばさんが言う。


「そうですね。」


言うとおばさんが不安そうに言う。


「また台風来るかねぇ。」


台風、と聞いて思い出す。去年の大型の台風。町民全員が避難した、あの台風。私が塚越くんと出会った台風。



「おい、塚越!」


呼ばれてハッとする。


「すみません。」


謝って仕事に戻る。


「何だよ、ボーッとして。」


苦笑いしながら思っていた。冴子さん、元気かな。



俺が冴子さんに出会ったのは去年の大型台風の時だ。



町民全員に避難指示が出て、俺は消防団の人たちと一緒に町をパトロールしていた。早々と避難する人も居れば、避難が遅れる人も居る。町の全戸を回って確認する。風も雨も酷くなっていた。


「んじゃ、塚越、この先頼む。」


避難に遅れたおじいちゃんを背負った先輩に言われて俺は頷く。


「はい、分かりました。」


一戸、一戸声を掛ける。そして不意に見つける人影。その人は壁に寄りかかって何かを抱えている。女性だ。


「大丈夫ですかー。」


声をかけながら近付く。彼女は腕に子猫を抱えていた、ずぶ濡れで。


「大丈夫ですか?」


近付いてまた聞くと彼女が俺を見上げる。


「ごめんなさい、この子、放っておけなくて。」


子猫は怯えていて、彼女にしがみついている。不意に強い風が吹く。俺は咄嗟に彼女を風から守るように囲む。


「とにかく、ここは危ないんで、避難しましょう。」


彼女が言う。


「でも、この子がいたら避難所は無理だから…」


確かにそうだ。避難所はペット禁止だ。考えろ、俺!考えろ!こういう時の常套句はペットよりも自分の命優先、でもこんなにずぶ濡れになって、子猫を抱えているこの人にそれは言えなかった。


「とにかく、雨風凌げるとこに行きましょう。」



彼女と子猫を連れて、高台へと避難する。その間、俺は彼女の肩を抱き、時折吹く突風から守る。避難所は小学校の体育館。どうするか。考えに考えて、俺は彼女に提案する。


「その子、俺が預かります。」


彼女は驚いて俺を見上げる。


「そんな、」


言いかけた彼女に微笑む。


「大丈夫、ちゃんと保護します。だからあなたは避難所に。」



子猫を胸元に入れて、彼女を避難所まで送る。


「冴子ちゃん!こっち!こっち!」


声がする。工場のおばちゃんだ。彼女は手招きされて俺に頭を下げ、おばちゃんの方へ行く。冴子さんっていうのか。



子猫の体を拭いてやり、ダンボールにタオルを敷いて中に入れる。すぐに子猫は眠る。子猫を撫でていると声を掛けられる。


「何だよ、猫なんて。」


言われて俺は苦笑いする。


「放っておけなくて。」


言うと先輩は笑う。


「お前はそういう奴だよな。」


正確には猫じゃなくて、彼女を、なんだけど。それは言わない事にした。彼女、大丈夫かな。守る為とは言え、抱き寄せた彼女はものすごく細かった。背も小さくて、俺が力を入れたら折れてしまうんじゃないか、と思う程に。ずぶ濡れだったけど、着替えとか…そこでハッとする。きっと避難所には着替えなんて無い。俺は自分のロッカーからTシャツと私物のツナギを持って避難所に行く。



避難所に入る。子供たちの笑い声、おばちゃんたちの話し声が響く。見回すと彼女が居た。体育館の隅、一人で毛布にくるまっていた。俺は彼女の元に行く。


「こんばんは。」


声を掛ける。彼女が俺を見上げる。


「あの、ちょっと良い?」



彼女を連れて小学校の建物に入る。


「こっちに入っちゃって良いんですか?」


彼女に聞かれ笑う。


「大丈夫。」


体育館からほど近い、保健室に入る。


「着替えとか無いだろうなって思って。俺のだけど、良かったら。」


彼女が驚く。


「確かに着替えは無いけど…でも…」


俺は彼女に着替えの入った袋を渡す。


「風邪、ひいちゃうから。」


保健室のカーテンをひく。


「俺、そこで待ってるんで。」


保健室の入口に立ち、カーテンに背を向ける。衣擦れの音、袋の音、また衣擦れの音。カーテンが開かれる音がする。


「あの、終わりました…」


振り向くと彼女はダブダブのツナギを着ていた。手も出てないし足元もダブついている。正直、可愛いと思った。俺は笑って彼女に近付き、彼女の足元にしゃがんで、裾を折る。


「やっぱ、大きいかぁ。」


そう言いながら。立ち上がって、言う。


「ほら、腕出して。」


言うと彼女が言う。


「自分で出来るから。」


俺は笑って言う。


「いいから、いいから。」


彼女が腕を出す。袖口を折って畳む。


「良し、おっけー。」


そして彼女を見る。


「髪、濡れてるね。」


彼女の長い髪がまだ濡れていた。


「大丈夫、そのうち乾くから。」


彼女が微笑む。優しい微笑み。一瞬、抱き締めたい衝動に駆られる。何とか理性で抑えて言う。


「服、預かろっか?」


聞くと彼女が首を振る。


「ううん、大丈夫。」


袋に入れた彼女の服を彼女は胸に抱いている。


「戻ろうか。」


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