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第4話


「それで、あのキーホルダーはちゃんと渡せた?」

 カウンターの向こう側に回りながら、茜さんは笑顔でそう訊ねてきた。


 それに対して、僕はしどろもどろになりながら、

「えっと、そ、それが、その――」


 ん? と首を傾げる茜さんに、僕は昨日の顛末を話して聞かせる。

 その間、茜さんは黙って僕の話を聞きながら、何度もうんうん頷いていた。


 やがて茜さんは「ふうん」と口にすると、

「そっか、渡せなかったかぁ」

 残念だったね、と同情するような顔をする。

 けれど、次の瞬間にはぱっと笑みを浮かべ、

「あ、でも昨日はそのお陰で一緒に家まで帰れたんでしょ? 良かったじゃん! 一歩前進だよ!」


 その言葉に、僕は思わず眼を見張った。

 そんなこと、考えもしなかったからだ。


「えぇ? でも、渡せなかったったんじゃぁ、意味が……」


「そんなことないって!」

 茜さんは首を横に振り、

「どんなことであれ、倉敷さんと一緒に帰れたんだから喜ばないと! プラス思考プラス思考!」

 そう言って、ぱちぱち両手を叩く。


 ……ううん、どうなんだろう。

 うまく丸め込もうとしているような気がしなくもない。


「でも、そっか。まずはそれを渡す勇気からかぁ……」

 言って茜さんは人差し指を頬に当てる。


「な、何か、いい方法――魔法はないですか?」


 そうだなぁ、と茜さんはしばらく目をつむり、

「……なくはないけど、どうだろう?」

 小首を傾げ、僕の顔に目を向けた。


「え?」

 どうだろうって、どういう意味?


「何でもかんでも魔法に頼るより、ある程度は自分の力でやった方が良いんじゃないかなぁって、私は思うんだよね」


 その言葉に、僕はなんだか突き放されたような気がして、思わず一歩あと退り、下を向く。


 すると茜さんはちょっと慌てた様子で、

「あ、ごめん! そういうつもりじゃなくて! ほら、私も真帆さんも、結構言いたいことは言っちゃうタイプの人間だからさ、ついつい軽いこと口にしちゃってた。ごめんね?」


「あぁ、いえ……」


 僕はゆっくりと顔をあげ、眉を寄せて申し訳なさそうに両手を合わせる茜さんの顔に、ちらりと視線を向けた。


 やっぱり、これだけ容姿の良い人なら、何を言っても許されるんだろうな。

 それに引き換え、僕は――


「じゃぁ例えばさ、きっかけがあればどうかな?」


「きっかけ?」


 うん、と茜さんは頷く。

「一日中ずっと倉敷さんと話せないわけじゃないんでしょ? 授業の合間の小休憩とか、移動教室の時だとか、ちょっとでも時間はあるんだよね? だったらその時にさ、その大会の話をするの。で、一位になるのを願って、って感じでキーホルダーをプレゼントする。必勝祈願のお守りってことで。ね、変に意識して言葉探しをするより、大会をきっかけにして渡しちゃえば簡単でしょ?」


 どう? と笑う茜さんに、僕はなるほど、と納得した。


 それなら僕にも出来そうな気がする。

 わざわざ変にキーホルダーを渡す理由や言葉を探すより、ずっと簡単そうだ。


「た、たぶん、それなら……」


 僕が頷くのを見て、茜さんは改めて小さく微笑んだ。


「じゃぁ、がんばってね!」


 僕はその笑顔に見送られながら、魔法百貨堂をあとにした。

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