過保護な姉ちゃんだが、俺以外の
「お姉ちゃんね。ネオ君以外の人族は滅んじゃえって思ってるの。だって滅ぼしたらネオ君が怪我することないし、襲われたりすることもないでしょ?」
「うわ~、悪魔らしい考え方だ〜」
「だってお姉ちゃん悪魔だもん」
「知ってるよ、皮肉で言ったんだ」
「ああ~お姉ちゃん悲しいわぁ」
姉ちゃんは傷跡が残る左目に手を置いた。
これは……もしや私はまだ許してないわよ的なあれか!?
それとも単にからかってるだけか?
そっちがその手でくるなら、俺だって。
「あ、ああ傷が痛むううう!」
「大丈夫!? お姉ちゃんが今見てあげるからね」
あれ? もしかして本気で信じてる?
このままじゃ服を脱がされ全裸にされてしまう。
自分から招いたこととはいえ、さすがにこの展開は予想外だ。
「姉ちゃん嘘だって!」
「ひっど~い。お姉ちゃんをからかったのね」
「ごめんって。それより姉ちゃん聞いてくれる?」
「う、うん、どうしたの?」
「姉ちゃんって
「そうなの! 聞かせて」
俺の考えた
それは誰もが笑顔で優しさ溢れる理想の世界。まるでおとぎ話のようだ、と言われそうだが俺は本心からこういう世界があったらいいなと思っている。
転生前もこの世界でも理不尽に振り回されてきた。しかしそんな理不尽な世の中でも優しい心を持った人はまだたくさんいるはず。
だからその人たちのためにも、俺はこの時初めて
「でもね、ネオ君の考えはまだまだ子供。このひろ~い世界のことまだ何も知らないでしょ?」
「俺はもう子供じゃない」
「そうよね……赤ちゃんの時に比べたら身体も男らしく育ちゃって。お姉ちゃん好みだわ〜!!」
「俺の身体を眺めながら言わないでくれ。何か、もう目が変質者みたいだから」
「なっ! お姉ちゃんは変質者じゃなくて――」
「はいはい、ピッチピチのお姉さんでしょ。っでさっき何を言いかけて」
「理想とする世界を目指すならまずは知識を得なきゃね。この世界にはどんな国があって、
この発言、おそらく姉ちゃんは遠回しにどこかの学園に通うことを勧めているのだ。
でも簡単に言ってるけど、今や貴族でもない俺がどうやって金を支払い、通えばいいんだ?
それに平民扱いでこういう学園に入ると、真っ先にイジメの対象として狙われる。
まあ、これはアニメやマンガで得た知識だけど……ああ、でもそうか。学園に通ったのがきっかけで特殊な力に目覚めれば、俺最強ざまぁ展開なんかもあり得たりするのか?
それに俺が望む
「姉ちゃん俺学園に行きたい!」
「なら早速、明日の明朝出発ね。この大樹にちゃんとお礼を言っといてね。ネオ君を何度も救ってくれたんだから」
「うん! ありがとうお姉ちゃん」
「やっぱりこの響きいいわ~! は、違う違う。だから今日は早く寝るのよ」
俺にそう伝えて姉ちゃんは黒翼を広げて飛び去ってしまった。どこに行ったかはわからない。
でも姉ちゃんはこの世界の誰よりも俺を愛してくれている。多分、家族として……。
だから明日に必要な物を買いに行ったに違いないのだ。
それに大樹から離れると危険。
そう理解しているからこそ俺は姉ちゃんが帰るまで大樹の下でずっと待ち続けた。
*
どうやら俺は寝てしまっていたらしい。
まだ日は昇っていない。
姉ちゃんが帰ってきた形跡すらもない。
こんな時間になっても帰ってこないのは少し心配だ。
「姉ちゃんまだかな……」
いつから俺はこんなにも独りでいることに不安を感じるようになったのだろう。
ずっと独り、そんな生活に慣れていたはずだった。やっぱり誰かと一緒に暮らす楽しさ、明るさを知ってしまったからか?
「お待たせ! 帰ったよネオ君!」
「お、おかえり」
「どうしたの? なんで泣いてるの?」
「え? 泣いてる?」
目元に手を当て確かめる。
すると一粒の涙が付いた。
「何で涙が……」
そう言って袖で強く涙を拭う。
しかし涙はどんどん溢れてきて止まることを知らない。それに涙を流している理由、わからないフリをしているだけで、俺自身が一番理解していた。
姉ちゃんが帰ってきてくれて安心した、そんな涙だということに。
「大丈夫よ、怖い夢でも見たの?」
姉ちゃんはそっと俺を抱き寄せた。
この温もり、匂いに安心する。
ほんと恥ずかしい話だ。
精神年齢はとっくに20になった大人だというのに今だ親離れ、姉ちゃん離れができていないんだからな。
「もう大丈夫」
「そ、そう? まだ日が昇るまで時間もあるし一緒に寝てあげようか?」
心配して気を遣ってくれている。
今日だけは、甘えてもいいのかな?
学園に行ったら最終的に離ればなれになってしまう。だから今だけ、この瞬間を大切にしたい。
俺は姉ちゃんに抱き締めてもらいながらもう一度眠りに就いた。
*
「いやん! ネオ君のエッチ」
俺はそんな色っぽい声で目を覚ました。
手を動かすと柔らかくてふわふわした物が手の感触から伝わってくる。これは間違いない。この柔らかさ、吸い付いてくる感じ、強く握った時の弾力、手のひらに収まりきらないほどのたわわに実った果実。
「こ、これはお、おぱい?」
「もうネオ君動揺しすぎ。それは魔物のスライム。どんな想像してたの? もしかしてお姉ちゃんのお――」
「って、なんでここに魔物が!?」
「その子、悪さしないから安心して。枕になると思ってネオ君の頭の下に置いたんだけど……」
「置いたんだけど、なに?」
「お姉ちゃんも最初は勘違いじゃないかって驚いたのよ。だって『姉ちゃん姉ちゃん』って言ってその子を抱き締めるんだもの」
「絶対嘘だ! ほら話だ! 俺がそんなこと言うはず……」
「まあ、ネオ君はお姉ちゃんのこと大好きだもんね。もっと大きくなったら結婚してあげてもいいよ」
「ち、痴女だ……いや、悪魔だから普通か」
「誰が痴女って? お姉ちゃんは純潔よ、処女よ。確かめてみる?」
「はい、結構です」
偉く長話していた気もするが、ようやく空に日が昇り始めた。明るくなってきたところでとうとう俺と姉ちゃんの別れの時。
この15年色んなことがあったけど、とても楽しかった。さよなら姉ちゃん。
でも、俺は思った。
どこに向かえばいいんだ?
「姉ちゃん俺……?」
と投げ掛けた時、姉ちゃんは真剣な眼差しで地面に何かを描いている。
全然読めない、そもそも文字なのか?
複雑な記号みたいな感じだ。
「これが【魔術】よ。今描いてるのは転移魔術。ネオ君がこれから通う学園――王立ブロッサム学園の学園長のお部屋に転移するためのものよ」
「でも急に行ったら」
「それは心配ないから安心して。お姉ちゃん昨夜、手土産を持って挨拶を済ませて置いたから」
術式が完成したのか、辺り一帯が白い光に包まれ、異様な空気を醸し出した次元の狭間も現れた。
「さあ、ここに入って」
「姉ちゃんは?」
「仕方ないわね。だったらお姉ちゃんと手を繋いで行きましょ」
俺と姉ちゃんは互いの手を強く握った。
絶対に離さないようにギュッと。