これは人族と魔族、両族の争いが激化した前後の物語。
かつて世界を災厄に導いた少年がいた。
その少年は、転生して貴族として生まれるが、とある悪魔の策略によって無能だと蔑まれ、赤子のまま大樹の下に捨てられたのだ。
もちろんそれを計算済みの悪魔は少年を自分好みに育て上げようとした。
一度この世界を滅ぼし、創造するために。
だが、少年は強い信念を持っていた。
自分の理想とする優しい世界を実現する、そんな信念を。
少年にとっては異世界とも呼べるこの世界はなんとも醜いものだった。そんな世界で何度も何度も悲惨とも思えるような辛い出来事を身を以て体験する。しかし決して挫けることはなかった。
少年こそ俗に言う勇者に相応しい人間なのだ。
そんな姿を見て、悪魔はいくら考えても理解のできない感情が自身に芽生えたのだと、ここで初めて知った。
そして、とうとう決意した。
未知の力を持つ者を化け物扱いし、場合によっては利用する人族の勇者などではなく、先の行く末をより良いものとする信念ある魔王として少年を育て上げよう、と。
だが、決してそれは簡単なものではなかった。
悪魔は自身の策を持ってして、少年に都合の良い嘘を淡々と並び立てる。それに少年のためならばと、悪魔は大きな犠牲も払い続けた。
もう後戻りはできない。
しかし、この世界では個人の力がいくら強大であったとしても、人族と魔族、両族の激化は避けられない
せめて少年にだけは幸せであって欲しい。
そうでないと、この悲しみは抑えられない。
だからこそ悪魔はまた少年に淡々と都合の良い嘘を吐き、少年の周囲にいる人族、魔族関係なく操作するのだ。
化け物と呼ばれようと構わない。
この理解できない気持ちこそ、少年への――。
リリー・スワラ著
『少年と悪魔、最後の余生 序』より