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店内ラジオ冬

 女子更衣室の見えない防止策水色カーテンの中でバイト服に着替え終わったほのかは柚野に昨日の事を話していた。

 その場に一緒にいた千色にも聞こえるように――。

 その話を全部聞き終わったところで柚野は、ほのかに軽く言い返した。

「それ、でも、キャミだったんでしょ?」

「でも、ピンクのかわいいのなんだよ!」

 とほのかはそれを思い出してか怒り続けた。

 それを見た柚野はさらに軽く、

「別にキャミなら良いんじゃない?」

 と言った。

 すると、ほのかは、柚野を見て、

「キャミでも見せたい人と見せたくない人いるでしょ!」

 と力一杯訴えた。

「もー、何言ってもダメね、こうなったほのかちゃんは」

 と千色は二人に向かって言った。

 そして、やはりアルバイトの子達と同様にエプロンに着替えた。

 正社員の千色はアルバイトの子と違って『こうみ』という白いロゴの入った黒いエプロンだけで良い。

 ただし、上の服はブラウスと一応定められてはいるが千色がこれはブラウスだと言えばブラウスになるので結局はどんな物でも良いようになっている。

 店長だけはエプロンも三角巾もせずにただの私服が多いがその私服がちゃんとした物なので誰にも何もそれに対して一度も突っ込まれたことはない。

 ちなみに皆の雑用係、迫平はアルバイトだが店長に三角巾は似合わないからエプロンだけで良いとアルバイト面接の時に言われ、正社員でもないのに千色と同じ正社員用のエプロンを渡された。

 迫平はそれを今でも愛用しているが店長がその時、何故、迫平にそのエプロンを渡したのかということを迫平は今まで一度も考えることなく働いていた。

「そういえば、もうすぐだっけ? 店内ラジオ冬」

 とその話に飽きた柚野は思い出したようにぼそっと言った。

「そうねー、ほのかちゃん、『店内ラジオ冬』頑張らないとね!」

 着替え終わった千色は極めて明るくほのかに言った。

 それを聞いてほのかは千色に、

「それですよ! 何で私だけがメインやらないといけないんですか!」

 と不満を訴えた。

「しょうがないわよ、しのぶちゃんは三週間前にここ辞めちゃったし、莉奈ちゃんは生放送苦手だし、きのみちゃんは高校生だからダメって店長が言ってたし」

「なんで、辞めちゃうのよー、田井! そして、何で『店内ラジオ冬ってあるんですかね』って軽く言い残したのよ! 最後の最後にー!」

 メインの一人でもあった田井への不満を言うほのかのそれを聞いた柚野は、ほのかも知っているはずのことをずばっと言った。

「何でも運転免許取る為とか言ってたよ」

「それ、私も知ってるし!」

 ほのかは柚野に呆れた。

 千色はその様子を見て少し、苦笑し、

「働きながらでも取れるのにねー」

 と自分の事を思い出して言った。

「ちなみに千色さんは免許持ってるんですか?」

 というほのかの質問にまた、千色は苦笑しながら、

「一応はね」

 と答えた。

「じゃ、才木さんは?」

 あれからほのかは千色に質問するとその次には才木さん――と言うようになっていた。

 千色はそんなほのかを少し厄介に思っていた。

 もしかしたらほのかは何か思っていることがあるかもしれないがそれには触れないでおこうと千色は本能的に思っていた。

「才木くん? 持ってるんじゃないかな? 確か仮免も本免の時も何故か一緒だったし。本免の合格発表の後も私の前でいろいろ先にやってたし」

 千色はあやふやにほのかに答えた。

「その程度ですか?」

 ほのかの千色への質問は続くようだ。

「え? 私、才木くんとはそんなに関わってこない人生だったから。関わり出したのはここ最近、この仕事始めた頃からかな」

 と千色は遠い記憶を思い出しながら言った。

「何でですか?」

「だって、才木くん、あの時」

「ちんすこう好きがそんなにダメだということですか?」

「えーっと、そうじゃなくてね」

「でもさ、ちんすこうって熱く語れる食べ物だよね」

 と突然、柚野が語り出した。

「食べ物ってかお菓子みたいな」

 ほのかもそれに気を取られたみたいだ。

「いろんな味があってさ、癖になるよねー」

 何故、この子達もあのちんすこうでここまで盛り上がれるのだろうか? と不思議に思う千色だったが才木のことはもうこれ以上何も言われそうにないと思うと安心した。

(だって、あの時、才木くん、今は元カノのあの子と一緒にいたしな……)

 末広のような展開にはならないのが現実である。



 その頃、喫茶店内では四名の会員が同じ席で一つの事について悩んでいた。

 その席にはハッパと末広、そして、イチおーやとセンヤがいた。

 末広はこの四名のことを会員番号に八が付いてるからと『ハチ仲間』と呼んでいる。

 会員番号、百八番のイチおーやさんと千八番のセンヤさんはとても熱心な会員だった。

「だから、思うんですよ。この質問良いじゃないですか!」

 センヤは両手を広げて熱く語る。

 それに対し、イチおーやは冷静だった。

「でも、これ読んでそうなるとは」

 ハッパはもしもを考えた。

「でも、読んでもらってこれが現実になったら」

「ま、これも夢ではなくなるな。『特典』良い響きだ」

 ハチ仲間リーダー、末広は腕を組んでそう言った。

「で、その『特典』の具体的な案はどうします?」

 熱心なセンヤがすっと意見した。

「案ですか? そうですね、会員特製――」

 イチおーやもそう言って熱心に考え出した。

「そこまで決めとかないとな!」

 末広もそんな二人の影響でか徐々に盛り上がってきていた。

 そんな末広さん達を見ても熱中できない僕は、

「でも、ここでその具体的な案を具体的に考えるより抽象的に考えた方が店内ラジオ冬、さらには今後の店内ラジオをもっと盛り上げるんじゃないんですかね?」

 とそこそこ熱く言ってみた。

「そーかー。そういう考えもあるよね」

 イチおーやさんが僕の意見に賛同してくれた。

「じゃ、保留ですかね」

 センヤさんもそれに賛成のようだ。

 末広さんもその『特典』の具体的な良い案がまだ浮かばないようでちょっと右手を上げる感じで、

「保留で」

 と言ってくれた。

「保留ね……まあ、良いけど一つくらいはちゃんとしたの考えてお便り出してよ。もうすぐ店内ラジオ冬のお願いお便りコーナー締め切りだからね」

 何気にハチ仲間の話をこっそり聞いていた店長はそう言って僕達の席を素通りして行った。

 時々、こうしてやって来る店長は暇なんだろうな――とハチ仲間、否、リスナー達全員がそう思っていたのだった。



 秋以降、この紅見喫茶店に来ていない会員がいたならば驚きの店内ラジオが今聞けることになる。

 その驚きの店内ラジオとは――、

『えー、では、改めましてゲストのてんちょーでーす!』

『何でそんなに最初からテンション高いんですか?』

『え? だってさ、そっちの方が盛り上がるでしょ』

『静かにしたいって人もきっといると思うんですけど』

『じゃあ、この前辞めちゃった田井さんが言い残した『店内ラジオ冬』生放送でやるか? もう、会員番号も千超えたし、その記念に』

『エー! ってかそれ、絶対、『じゃあ』じゃないですよ、店長!』

『何、その反応。迫平もさ。それじゃ、ダメだよ、ほのかさん達!』

 というほのかと店長の店内ラジオ冬提案の瞬間が明かされるものだった。

 この店内ラジオは事前収録されたものなのでその『店内ラジオ冬』が決定されてからは毎日のようにこの内容のものが流されている。

 ほぼ毎日来ている会員にとってはもう聞き飽きた情報だった。

 そして、それに関連した店内ラジオも続々と流されていた。

 こんなコーナーやりますよとかお便り下さいとかが主だった。



 店内ラジオ冬担当者と店長から勝手に任命されてしまったアルバイトの迫平は定休日の今日、店内ラジオ冬があと一週間と迫った紅見喫茶店内である大事なことをメイン達と決めることになっていた。

 店長は『後は全部迫平に任せる』と言ってフラフラしていたし、きのみは学校のテストが悪かったと言って落ち込んでいたし、才木はあまり店内ラジオ冬というか店内ラジオそのものに協力的ではないがそれなりに協力してくれている感じだし、吉玉はあまり必要ないし、パートのおばちゃん達はパートだから戦力外だということでこの大事な会議には出席していなかった。

 この会議に出席していたのはその残りのメイン二人と千色だけだった。

「えーっと、じゃあ、店内ラジオ冬のゲストは誰にしますか?」

 迫平の言葉にその場にいた全員が無言を呈していた。

「やっぱり、この方でいきます?」

 迫平は自分の横に置かれたホワイトボードに書かれていた一人の人物の名前を読んだ。

「店長」

 その名前にその場にいた全員が頷いた。

「そう、ですか。じゃあ、店長で決定します」

 と迫平は疲れた感じで言った。

 すると、ほのかがいきなり勢いよくその場に立ち上がり、挙手をした。

「はい! 店長、ゲストならスペシャルゲストにダーマさんが良いです!」

「え?」

 迫平の言葉のようにほのか以外の全員が意味不明な顔をした。

「ほのかちゃん? ダーマさんはお客さんよ」

 千色は確認不要のことを確認するためにほのかにそう言った。

「分かってますよ、そのくらい。でも、ダーマさんいないと時々、分からない店長語が出てくるじゃないですか」

 その意見にほのか以外の全員がああ……という顔をした。

 それを見てほのかは言い続けた。

「だから、店長語通訳のためにダーマさんを呼んでください! これは店内ラジオ冬メインの私からの要請です!」

「なんかかっこいいね! その言い方」

 と隣でそう言った柚野はキラキラした目でほのかを見た。

 そんな柚野を見てほのかは真剣に言った。

「ばか、これは必要不可欠な私の問題なの。一時間もあの店長と二人っきりで生放送の店内ラジオ冬ってありえないでしょ!」

「えー、でも、目の前には会員のリスナーさんとか――リスナーさんしかいないね、確かにそのリスナーさん達に無言になられるとキツイものがあるね」

「でしょう、柚野! だから、ダーマさん必要なんです! 迫平さん、ダーマさんをスペシャルゲストで呼んで良いかダーマさんに訊いてみて下さい。よろしくお願いします!」

 と言ってほのかは迫平に頭を下げた。

「えー、理由は分かったけどダーマさんって最近来ないじゃん。来たら言ってみるけどさ――無理だったら諦めてよ」

 迫平はもっと疲れた。

「うーん、それで良いです」

 ほのかは最悪の結果を覚悟した。



 いくら待ってもダーマさんはそれから紅見喫茶店に現れなかった。

 ほのかももうこれはダメだと諦めた店内ラジオ冬の前日の日にやっとダーマさんはやって来た。

 それを見つけたほのかは店長に気付かれないようにそっと迫平に言って来て下さい! と迫平にお願いした。

「分かったよ、でも、これでダメなら店長だけだから」

「分かってます!」

 ほのかは迫平がダーマさんに注文を聞きに行くついでにお願いしている様子を見ていた。

「という訳でお願いしたいんですが」

「あー、そうだよね、時々、俺でも分からないことあるからね。良いよ、明日の何時?」

「えっと、あ、ありがとうございます!」

 短時間でのダーマさんの快諾に迫平は少し信じられなかった。

「そんな喜ばないでよ。大したことじゃないよ、寒い中来るなんて。ただ、モコモコが邪魔だったらゴメンネー」

 と笑いながらダーマさんは快くスペシャルゲストを引き受けてくれた。

「あ、そうだ、この事は店長にもリスナーの皆さんにも極秘でお願いします」

「うん、了解。ほのかさんにもよろしく言っといて」

「はい! ありがとうございます」

 と迫平は周りの人が見たらなんかやらかしたのかというような態度で何度も頭をペコペコと下げていた。

 その事を後に迫平から聞いたほのかは両手を上げて喜んだ。

「やったー! これであの私が予想した悪夢の時間がなくなる!」 

 それを聞いた迫平はどんな予想をしていたのか少し気になったが店長がこっちを見ていたのでそそくさとまた仕事に戻った。


 *


 忘年会のシーズンなのにこの店、紅見喫茶店では今からその代わりの『店内ラジオ冬』が行われる――。

 僕がやっとのことで紅見喫茶店に着くともうだいたいの席が埋まっていた。

 そのリスナー達の中で知っている顔を探していると見慣れた手が僕にここ! と教えてくれた。

「末広さん!」

 僕はその手の所に向かった。

 その席には末広さんと四十さんがもう陣取っていた。

 あと開いているのは二つだけだ。

 なかなかメイン達が座る席と近い。

「良い席ですね」

「遅かったな、ハッパ」

 末広さんの言う遅いは店内ラジオ生放送が始まる三十分から一時間前と以外に広い。

「いや、まあ、僕も仕事がある身なので」

「俺、休んだ」

「え、四十さん休んじゃったんですか!」

「そうだよぉ、気になって仕事になんないだろ」

「そうですよね、僕も早く仕事終わらせたい一心でした」

「その点、末広はバイト? だから時間あんだろ?」

「『バイト?』って訊かないでほしいね。働いてることが偉いと思うよ」

「何その意見」

「まあ、まあ」

「そうですよ」

 僕が二人をどうにかしようとしているところにセンヤさんが残り一つの席に座った。

「もう、はっじまりますよ!」

 センヤさんは興奮してきてるらしい。

「お! そうか」

 四十さんも何か楽しそうだ。

「読まれっかなー」

「またですか? 末広さん」

「だって、気になるじゃん! 出したからには!」

「まあ、それもすぐに分かりますよ」

 という僕のこれまで何回も言ってきた言葉を最後に誰も話さなくなった。

 誰かが言った。

「よ! 店長とほのかさん! って店長、ゲストなんじゃ?」

 そう確かに店長が今日、初めての生放送ゲストのはずなのに何でもう出て来ているのかリスナー達全員が疑問に思ったところでこの店内ラジオ冬が始まったのであった。



「ほのかと店長の生放送! 店内ラジオ冬ー!」

 とメインのほのかさんとゲストであるはずの店長が明るく、楽しく同時にタイトルコールした。

「こんにちは! な時間から始まりました、店内ラジオ冬メインのほのかです。で、ゲストの店長!」

「よろしくー」

「という訳ですね、今日の生放送一時間、店長と二人っきりだと物足りないと思いましてゲストのさらにゲストとしてこの方をスペシャルゲストにお招きしました!」

「え? どういうこと? ってだ!」

 ほのかさんの言う『この方』を知らなかった店長もリスナーである僕達と同じ反応だった。

 ほのかさんはそれを無視して続ける。

「はい、では、スペシャルゲストさんのご登場でーす!」

 ほのかさんのテンション高めな紹介でその『スペシャルゲストさん』が登場した。

 ほのかさんと店長以外の紅見喫茶店従業員さん達だけ拍手でその『スペシャルゲストさん』を迎えた。

 それと同時にそれまで二つしかなかったメイン達の座る席にもう一つ椅子が追加された。

 やはりその椅子は迫平さんが持って来ていた。

 その『スペシャルゲストさん』用の席にその人を座らせてからほのかさんはその人を紹介した。

「スペシャルゲストのダーマさんです!」

 ニコッ! とほのかさんは拍手しながらそう言った。

 店長も僕達、リスナーもその状況に上手く乗れないでいた。

 そんな状況の中なのにダーマさんもにっこりとこの事を知っていたというか知らなければスペシャルゲストになんてならないはずだがそういう顔で店の奥から歩いてやって来た。

「スペシャルゲストのダーマです。皆さん、こんにちは!」

 喋りのテンションはいつもよりは高めだがやはり少し低い感じだった。

 何だかスペシャルゲストで登場したダーマさんの表情が異様に明るくテカっていた。

 やっぱり、モコモコ状態で暖房が効いたこの部屋でそれを着ているからだろうか。僕にはとても暑苦しそうに見えた。

 二人はゲストであるはずの店長とリスナー達を置いてけぼりにしてこの店内ラジオ冬を進めたと誰もが思った時だった。

「どうしたんですか? 店長。そんな顔して」

「いや、いや、ちょっと、待って。ほのかさん、何で、ダーマさんがここにいるの? ってか、『スペシャルゲスト』ってなに!」

 店長の疑問はリスナー達全員の疑問でもあった。

「え? だぁから、店長、ダーマさん居た方が嬉しいでしょ? だから、呼んだんです」

 しれっとほのかは言った。

「あ、そうなの」

 店長もすっとそれで納得してしまったらしく、それ以上その事について何も言わなくなった。

「ということで! 改めてメインのほのかと!」

「え、店長と?」

「『ゲスト』付けて下さい!」

「スペシャルゲストのダーマでお送りしまーす」

 店長だけがやっぱり乗り遅れ気味だ。少し、店長が不憫に感じられた。

 この三人の不思議な店内ラジオ冬がもう始まっているのか? そんな顔をしたリスナー達は生放送だから顔も読み取ってもらえるが『普通じゃないの? こちらのお便り』にどんどん行ってしまったメイン達に集中するしかなかった。

「はい、今日限定のこちらのお便りコーナー。リスナーさんが普通ではないかというようなお便りを募集しました。略して『ふつおた』です。では、一通目のお便りです。えっと、ななよんさんからです。ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 ほのかさんの最後の言葉をそのまま大人二人はぼそっと言ったらしい。

 店内ラジオ慣れしてないからだろうか。何となくこんな感じじゃなかったけ? 感が感じられる言い方だった。

「『メインのほのかさん、ゲストの店長、スペシャルゲストのダーマさんこんにちは』」

「え! リスナーさんもダーマさんのこと知ってたの!」

「そんな訳ないじゃないですか! 今、私が付け足したんです」

 真面目にほのかさんは店長に言った。

「そうだよね」

 店長はそれを聞いて安心した顔をした。

「じゃあ、『こんにちは』から」

「こんにちは!」

「店長ジャマしないでください! もう、今度こそ『こんにちは』から行きますよ」

「はーい」

 ほのかさんは気の抜けた返事をする店長を一瞥してからそのお便りをまた読み始めた。

「『こんにちは』」

 一拍間があった。

「なんで! ここで『こんにちは』でしょうよ」

 がくっとなったほのかさんは少しの怒りを抑えようとしてか最後がタメ口になった。

「あ、こんにちは」

「こんにちは」

 店長とダーマさんは一緒ではなく別々にそう言った。

 ほのかさんはこんな感じなのに普通にメインとしての仕事をしている。少し、ダメ出しも入っていたが。

「ダーマさんはともかく! 店長はちゃんとしっかりリハしてるじゃないですか! それを思い出してやって下さいよ」

「あー、ついね」

「『つい』じゃないです」

「それで続きはどうなったの?」

 それまで黙ってたダーマさんがリスナー全員の思いを代弁してくれた。

「あ! えー、『こんにちは』の次からで『最近、思いました。ダーマさんの服暑くないですか? 冬なのに』」

「それだけ?」

「え? はい、そうですけど」

「何で一通目がダーマさんのなの?」

「え? スペシャルゲストだからじゃないですか。で、どうなんですか?」

 皆が知りたいことを訊いてくれている!

「え、そりゃあ、暖房あると暑いけど外行くとちょうどな感じかな」

「えー、ぜったいそれ暑いよ! 暑苦しいよ。冬なのにさー」

「店長」

「何?」

「次のお便り読んでください」

 ほのかさんは冷ややかにそう言って二通目のお便りを店長に渡した。

「え、これ読むの?」

「そうです」

「ゲストなのに?」

「もう、私だけ読むのつらいです」

「そう言われちゃったら読むしかないんじゃない?」

「うん、そうだね。二通目ね……トムさんから『こんにちは!』」

「こんにちは!」

 ほのかさんとダーマさんは同時に言った。

「『何故、バイトのはずの迫平さんだけ正社員用のエプロンを着けているのでしょうか? とても気になります』」

「そうですよね。私は自前なのに。ずっと気になってたんですよ」

「それはね……」

 その話に迫平は今まで自分が一度もその事を考えることなく働いていたことに気が付いた。

 本人がそんな感じなのにトムさんはよく見ていると迫平は思った。

(さすが、サイキスペシャル発案者!)

「……それは俺の独断でアルバイトの男子諸君は正社員用のエプロンだけで良いとしたからなんだよねぇ」

「どうして?」

 やっぱり、ダーマさんはリスナー代表者だと思う。

「つまりは見苦しいのは見たくないということですね」

 的確! と店長は心の中で思ってしまった。でも、そんなこと口に言えるわけがない。だから、店長は曖昧に笑っとく事にした。

「あ、はっはぁー」

「脱力感たっぷりだね」

「そんな感じだ」

 店長は迫平さんに言ったらしかった。

 その迫平さんを見るとへー……という態度でそれと言って面白い事になってはいなかった。

「もっと良い反応しろよ」

 店長は迫平さんを見て言った。

 それとは関係なしにダーマさんは何枚かのお便りを手に持って、ぼそっと言った。

「あのさ、俺も何か読んだ方が良いかな?」

「なに言ってんですか! ダーマさんは『スペシャルゲスト』なんですよ。だから、コメントだけくだされば良いんです」

 そう言うほのかさんの顔を店長はちらっと見た。

「ダーマさんはお客様ですから」

 その通りと店長はほのかの言葉に納得させられてしまった。

 自分達の店のお客様に他のお客様からのお便りを読ませる事などできるはずがない。たとえ、一回もこの店内ラジオにダーマさんがお便りを送ってくれていなくてもそれはできないことだ。

 店長が黙ったままだったのでほのかさんは少し困っていたが次のお便りを読む事にしたらしかった。

「じゃ、無事それも解決できたので次ですね。じゅーむさんからです。『こんちは。もう寒いですね。何か寒さ対策してますか? 僕は手袋が必需品です』という三通目なんですがダーマさんは訊かなくても分かるんですが」

「見た目でね」

「そんなこと言わないでよ。脱げば良いの?」

 そう言ってダーマさんは服を脱ぐ仕草をした。

「いや、脱がないでよ。生なんだから」

 店長はそんなダーマさんを慌てて止めた。少し、残念だと思ったのは僕と末広さんとダーマさんのモコモコ状態が気になる人ぐらいだろう。

「俺はでも、脱がないよ! これが寒さ対策だからね」

「けっこうダーマさん、我慢強いですね」

「そんなことないよ、そう言うほのかさんはどうなの?」

「私ですか? 私は……やっぱり、じゅーむさんと同じように手袋とあと、マフラーとブランケットですね」

「ブランケットっていうとひざ掛けのこと?」

「はい。けっこうかわいいのが売ってるんですよ。毎年」

「毎年って……毎年買ってるわけじゃないよね?」

「買うわけないじゃないですか! 店長。まあ、買わないけどチェックはしてます」

「ほー、俺はあの短時間であったかくなるやつ一つあれば良い感じ」

「え、コート着ない理由それですか?」

「おばけさんだねえ、コート着るに決まってるじゃん。コート以外でってことだよ」

「よく手やばい感じになりませんね」

「ヤバイ感じって?」

「ほら、手がカサカサになったり」

「あかぎれになったりね……」

「ああ、あかぎれは痛いよね。字書けなくなるもんね」

「あと、痒いんだよ。あれ」

 おじさん達の会話はテンポが良い。

「ちなみに今のマスターの『おばけさんだねえ』は『おばかさん』って意味だよ」

「よくさらっと店長が言ったこと聞いてますね」

「ん? ってなったからね」

「私なんてそんなの全然気にしてませんでした」

「マスターはよく『か』を『け』にするんだよ」

「へぇー」

 店長とダーマさん以外の皆がそう言ったり、思ったりした。

「よし、ヨロズさんから」

「ちょっと、店長、やっと自分関連の話が出てきたっていうのに何、先に行こうとしてんですか」

「だって、恥ずかしいんだもん!」

「その手もよく使うよね」

「良いなって思えば使えるもんだよ。ダーマさんも一緒にどう?」

「え! ああ、遠慮しとくよ」

 ダーマさんは苦笑気味に店長の誘いを拒否した。

「すごいですねー、ダーマさん」

「そんなことは」

 ダーマさんはほのかさんに褒められて少し照れていた。

「ダーマさん、かわいいー」

「マスターにそんなこと言われてもねー」

 急激にダーマさんのテンションが下がった。

「店長、続きお願いします」

「え、あ、そうね。『冬にオススメの飲み物を教えて下さい』だってさ」

「飲み物ねー……」

「私はコンスープとかオニオンスープとかを朝に飲むですね」

「何? 朝からそんなの作ってるの? ってか、スープって飲み物なの?」

「まあ、飲める物といえば飲めるよね」

「そうですよね、ダーマさん。それに朝からそんなわけないじゃないですか。あのお湯入れればできあがりで作るんですよ」

「それ料理じゃないね」

 店長の一言にほのかさんはぐさっとやられたみたいだった。

「う……でも、ほっと温かくなるんですよ」

「俺はホット牛乳かな」

 あまりほのかさんには興味がないらしく店長は自分の答えを言った。『ほっと』で思い出したからだろうか?

「マスター、砂糖入れ?」

「いや、入れないの」

「俺、入れる派」

「まあ、甘いの朝から飲めないからだけど」

「そうなんだ。俺は普通にお茶かな」

 ダーマさんもホット牛乳砂糖入れ飲むのか……と末広さんがメモしていたのが目に入った。

「ってコーヒー誰か言わないんですか?」

「あ、忘れてた」

 二人のゲストはほのかさんのあわわ発言にぼけっと返した。

「じゃ、じゃあ、このコーナー最後のお便りです。わんさんからです。『こんにちは』」

「こんにちは」

 二人のゲストはちゃんと言った。

「『僕は雪の多い所に住んでいるのですが紅見喫茶は雪で大変ってことになったことありますか?』ってこの辺、あんまりっていうほど何も雪降りませんよね。毎年、つまんないですよね」

「なのにさ、なんでダーマさんはそんなモコモコなの。羊さんになりたいわけ?」

「だって、雪なくても寒いんだよ」

「ダーマさんは絶対雪ある所ダメそうですよね」

「そうそう」

 末広さんはまたメモしていた。ダーマさんのストーカーだろうか? と思ってしまうまではいかないで欲しいと思う。それにしてもこのコーナーはダーマさんのモコモコネタが多いというか引っ張りすぎだと思った。

「というわけで『普通じゃないの? こちらのお便り』でした!」

「はい! 続いては?」

「あれ、あともう一通ありました。イチおーやさんから『ほのかさん、店長、ダーマさんこんにちは。千番突破! おめでとうございます。これからも頑張ってください!』ということでこの内容のお便りイチお―やさんからだけではなく他の方からもいただきました。お名前だけでも紹介しますか?」

「そうだね」

 店長らしい発言だった。

「センヤさん、四十さん、にぃーさん、末広さん、ハッパさん……小石さん他多数の方からいただきました。ありがとうございます」

 名前だけか……。

「これも皆、リスナーである皆さんのおかげです。これからもどうぞよろしくお願いします。ルール守って頑張りましょう!」

 店長が言うべき良いことを言っているのにほのかさんはさっさと次に進んだ。

「はい、続いても今日限りのコーナーです! 『店内ラジオか紅見喫茶店、店長にお願い』」

 コーナー名を聞いたダーマさんがぼそっと言った。

「直接すぎる名前だね」

「迫平さんが考えたんです」

「彼にポスター任せなくて本当に良かった」

 店長の聞いた迫平さんは? と思って迫平さんの方を見てみたが迫平はどこにもいなかった。水分補給だろうか?

「この店内ラジオでやってほしいこと、などを募集しました」

「ちゃんと実行できるものならオッケーなんだけどね」

 ダーマさんは店長の言葉に笑っていた。

「では、最初のお便りです。ぜろさんからです。『久しぶりに来たのですが……店内ラジオのコーナーとコーナーの間にでも回と回の間にでも何かちょろっと入れてみてはどうでしょうか? そうすればもっと聞きやすくなると思うのですが』」

 ほのかさんが言い終わる前に店長がハッと分かったように言った。

「ああ、あれでしょ? よく聞くよね。短めのになってるやつでしょ」

「テレビじゃ『アイキャッチ』って言ってるよね。ラジオだと確か『ジングル』だっけ」

「よく知ってますね! ダーマさん」

「いやー、これでも一応解説者だからね」

 ほのかさんとダーマさんは一緒にあははっと笑った。

 それを見た店長が一言。

「こうみきっさー……」

 今のはかなり高めの音から下がっていった。これはもしかして、あい……じゃなくてジングル? 店長の考えるジングルだろうか。

「それってもしかしてこの店内ラジオのジングル?」

 ダーマさんが笑いを止めて言った。

「そうだよ!」

 えっへん! としてやったり顔の店長にダーマさんは言った。

「『紅見喫茶』ってこの店の名前じゃ? だったらまだ『店内ラジオ、紅見喫茶店』の方が良いよねぇ」

「ですよね、もっと短くするなら頭文字取ってティー・アール・ケーケーとかですかね」

「どういう意味?」

 店長はすばやくほのかさんに訊いた。

「え、だから、ダーマさんが言ったのをそのままに」

「ああ、そういうこと」

「これって採用の流れかな?」

「そうだろうね。じゃ、これからはダーマさんの『店内ラジオ、紅見喫茶店』を元にいろいろ考えてみようかな」

「おおー」

 と声が出るくらいすごいことだと店長以外の人達は思ったり、拍手したりした。

 店長はそんな中、次のお便りを読み出した。

「さんつーさんから。『何か歌って欲しいです。特にメインの方々に。それかきのみちゃん』」

「え!」

 ほのかは驚き混じりの無理だ……という声を出した。

「歌ね……あ! あれは? 紅見商店街で時々、流れてる『こうみにおいで』」

「どういう歌ですか? それ」

 ほのかさんは店長が何を言っているのか分からない顔で店長に訊いた。

「知らないの? 『こうみーこうみ! 何もないところでも気持ちだけはあっるぞー』っていう歌」

「知りませんし、絶対歌いませんし、これは却下です」

「そう……」

 店長はほのかさんがそう言っても自分が歌わないからかそんなに強くこの案を推さなかった。

「じゃあ、次ですね」

「うん」

 店長は聞く態勢になった。

「えっと、ハチ仲間さんからです。『会員特製じゃなくても良いので何か、そう、『特典』を作ってください! よろしくお願いします』ってことですが」

 ほのかさんは店長を見た。

「ああ、あの団体か」

 店長は思い出したように言った。

 それまで黙って見聞していたセンヤさんはその場でぽろっと言ってしまったようだった。

「『団体』じゃありません。『フォース』です!」

「ふぉーすぅ?」

「はい」

 センヤさんは真面目に店長の投げ掛けに答えた。

 それを聞いた末広さんも、

「ああ、『ハチ仲間、フォース』感じろ! だね」

 と楽しそうに続けて言った。

「え、あの……楽しいやつ?」

「はい!」

 末広さんは店長が何かに気付いてくれたのが嬉しかったようでわくわく声でそう返事をした。

 ついに店長と通じたのか!

「あー……。今、マスターが言ってるのは『フォース』じゃなくて『ホース』だと思うよ」

「え?」

 ダーマさんの発言に末広さんは戸惑った。

「そうそう、水ぶっかけると楽しいよね。長く遠くに飛ばせた時なんか最高だよ。ああ、夏が恋しい……それにしても良く分かったね」

「まあ、付き合い長いからね。まあ、『フォース』も楽しいけど」

 おじさん達の会話はまだ終わらないのかとほのかは内心思っていた。

「あの、すみません。『ハチ仲間、フォース』って何ですか?」

「あ? なあに、ハッパったらハチ仲間のくせに『フォース』の意味も知らないのー?」

 何で末広さん、お母さん口調? さっきのショックのせいで変になってしまったのだろうか? そっちの方が僕は気になった。

 この僕の問い掛けで一時、僕達の席だけ『フォース』についてになっていた。

「だから、今の四人組もこれからどんどん増えていく可能性があるわけですよ」

「そん時は『フィフス』、『シックス』、『セブンス』って変えてけば良いんだって。ほら、だって数字にティーエイチ付けるだけなんだからさ」

「発音間違ってもですか?」

「そうだよ、英語風で良いんだよ」

「末広、お前外国人の友達いなくて良かったな」

 そういって四十さんは末広さんの肩をぽんと叩いた。

 末広さんは少しむっ……という顔で四十さんを見ていたがそこでその話は終わった。何故なら、『店内ラジオか紅見喫茶店、店長にお願い』が終わってしまったからだ。

 僕達はそこで慌てて隣の席の人達にこそこそと自分の名前が呼ばれてないか聞き回った。

 それにすぐ気付いた店長に注意された。

「あー、そこの団体さん達まだ名前……は読んだけど個人的なお便りはまだだからそんなにこそこそしないでよってもうお便り終わり?」

「あ、そうですね」

 ほのかさんが答えた。

 聞き逃した間に何通か分は読まれていることだろう。あの質問をしなければ良かったと僕は少しじゃないくらいかなり後悔した。

「あっ、そうだ。これ、一応録音してるから後日、また店内で流すから。ちょっとそこんところよろしくね」

「うぇー! ゴホゴゴッ」

 店長の急なお知らせに末広さんは驚きと飲み物が一緒に出た。何とも辛そうな咳も一緒に出ていた。気管に飲み物が入ったのだろうか。

そんな末広さんは迫平さんに心配してもらって謝っていた。

「すいません。迫平さん」

「いや、大丈夫ならいいんですけど」

「大丈夫です、ごほ」

 それを見ていた店長は少し、お客さんである末広さんを心配してか、

「次、行くけど大丈夫?」

 と訊いてくれた。

「はい、だいじょーぶです」

 末広さんはまだ苦しそうだったがそう店長に言っていた。

「えーと、次は?」

「……お知らせです」

 ほのかさんはぼそっと言った。

「え? あ、そう」

「何で先に言っちゃうんですか?」

「だってさ、もう疲れてきちゃって」

「それじゃ、お知らせの時間いらないじゃないですか」

 ほのかさんは店長にそう言って他のお知らせを黙々と読んだ。

 そのお知らせが終わると店長が壁に掛かっている時計を見ながら言った。

「あのさー」

「何ですか?」

「まだ、時間たっぷり残ってるよね?」

「そう! そうなんですよ! でも、そんなにもないと思いますけど」

 ほのかさんは店長のその言葉を待ってました! と言わんばかりに大袈裟に言った。

「ここでまたもや、今日限定の『店長に十の質問』をやりたいと思います!」

「はい?」

「店長に今からリスナーさん達から集まった質問の中で一番多かった十個質問をするのでそれに簡潔に答えて下さい。その答えについての詳しい話は後でまとめて聞きますから」

「分かった」

 店長はすんなりとそれに承知した。

「では、一つ目は『店長の仕事は何ですか?』」

「店長です」

「いや、そうじゃなくて」

「だって、店長は店長の仕事に決まってるじゃん!」

「もう、いいです。二つめ! 出身はどこですか」

「ここ、地元」

「あ、そうですか。三つ目は『血液型は何ですか?』」

「ビーオー」

「ってことはビー型?」

「うん」

 ここにダーマさんがいて良かった。

「ちなみにダーマさんは?」

「エー型だよ」

「私もです!」

 店長と一緒かよ……と末広さんが言っていた。

 ちなみに僕はほのかさんと同じ血液型だ。

「四つ目は『犬派ですか? 猫派ですか?』」

「うーん、犬派かな」

「五つ目は『好きな外国はどこですか?』」

「うーん、アメリカ? いや、イタリア」

「六つ目、『自分ではハゲてきてると思いますか?』」

「いや、見て! このふさふさ黒一色だけど一、二本灰色混じりの短髪! ねえ、ダーマさん」

「うん、俺もふさふさ、テカテカだよ!」

「あははー!」

 ダーマさんの言うテカテカはモコモコがもたらしているものだが。

「七つ目、『どうしてそんなに元気なんですか?』」

「それは皆のおかげだと思うよ」

「八、『眼鏡は使ってますか?』」

「作業する時だけね」

「新聞見る時とか必要だよね」

「そうそう。ダーマさんもそうなんだ」

「九つ目は『どうやって紅見喫茶店に出勤してますか?』」

「え? 自転車」

「最後です。最後は『最近また新しいアルバイトの子が増えてきましたがどうしてですか?』」

「それはメイン達にこの店内ラジオ集中してもらいたいからです。ほのかさん達のおかげでこの紅見周辺にもほんの少しだけど活気が戻ってきているのでこれからも無理せず頑張って行きたいと思って」

 店長……と誰かが言った。

 この時の店長はさすがに真面目過ぎだった。

「えー、じゃ、気になった所だけ詳しく聞きたいと思います」

 ほのかさんは淡々とメインの仕事を進めた。

「え、ねえ、今、ちょっと、うるってくるところじゃなかった?」

「もう、時間ないんですよ。店長」

「それじゃ、仕方ないよね」

 ダーマさんも少し淡々気味だった。

「まず、気になったのが『店長です』という最初の回答なんですけど」

「え、だって、店長の人は店長として店長の責任を果たすように働いてるでしょ」

「けっこう勝手気ままな気もするけどねぇ」

 ほのかさんはダーマさんのコメントをそのままにして次に行った。

「何で、犬派なんですか?」

「ああ、実家で犬飼ってたから」

「それだけ?」

「え、うん。慣れ親しんでるし」

「ちなみにダーマさんは」

「俺は猫派」

「そんな感じがします」

「え、どうして?」

 店長はほのかさんにその理由を求めた。

「だって、店長はキャンキャンっぽいけどダーマさんは日向でのんびりしてるような雰囲気がなんとなくするじゃないですか」

「ああ、甚兵衛だけに」

「まあ……そういうことにしておきますけど」

「違うのか」

 店長にしては良い返しだったとダーマさんは言いたかったに違いないと僕は思った。

「あと、どうしてアメリカをイタリアにしたんですか?」

「アメリカはハワイ! だからでイタリアはコーヒーだから!」

「喫茶店という意味で言ったの?」

「そう。だって、さっき言えなかったからさ」

「じゃあ、ハワイは?」

「あ、それ? おらがもう一度行きたい所」

「ああ、そうですか。これくらいですかね。ダーマさんは何かあります?」

「ん? 特には……あ、その新しいアルバイトの子達はこれからこの店内ラジオのメインとかきのみちゃん的な子になってくの?」

「ダーマさんの質問はいつも良いねー」

 僕も他のリスナーさん達もそう思ったはずだ。

「それでどうなんですか?」

 ほのかさんも気になってるようだ。

「うーん、特にそれに関しては何も考えてないけど今後、そうしたいって言ってきた子がいたらそうするかもしれないけど……でも、ま、今のままで良いと思ってるよ。新しいアルバイトの子達には接客に専念してもらたいし、本業そっちだしね」

「じゃ、もう時間もほんとないんでまとめに入りましょうかね」

「うん、そうだね」

 ほのかさんはそう言ってから店長にそう言われてダーマさんに訊いた。

 店長も一応、ゲストなのに。やはり、スペシャルゲストさんの方が大切なんだろうなと思った。

「どうでした? ダーマさん、リスナー初めてのスペシャルゲストさんだったんですけど」

「うーん、こんなんで良いのかな……って」

「大丈夫ですよ、ゲストの店長もこんなんでしたし」

「それ、ちょっと当たってるけどさ」

 店長は小声でひどい……傷つくわ……とそんなんでもないような感じで言っていた。

「まあ、良い経験にはなったよね。これからも俺みたいな感じでリスナーの中からゲスト出演求めてくの?」

 そう言ってくれたダーマさんにリスナー全員が今、感謝したに違いない。

 もし、ここで仮に店長が「うん、そうなの」などと言った日には僕達にも今日のダーマさんのような事ができるということだ。

 これはあの『お願い』コーナーに送った内容以上に知りたいと思う事を訊いているとここにいるリスナー全員が思っているに違いない。だから、これだけ静かなんだ。

「うーん、それは……」

 店長の声が聞こえてすぐに誰かの腹の音が聞こえた。

「残念ですがそれは今後ありえません! スペシャルゲストさんは今回だけの特別ですので悪しからずです! 生放送! 店内ラジオ冬! お相手はメインのほのかと」

「え、ゲストの店長と?」

「スペシャルゲストのダーマでしたー」

「今日は本当にありがとうございました!」

 という感じでほのかさんのキビッとした一言で初めての店内ラジオ冬は終わったと言って良い。

 なんか終わり方が始まり方と一緒なのは偶然なのか? と僕は思った。

 その帰りに末広さんが、

「ああ、あの時、心配してくれたのが迫平さんじゃなくてきのみちゃんだったら良かったのにな……」

 と言っていたのは言うまでもなかった。

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