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第62話 親密になってる

 その後、アタシはすぐに市役所へ向かってつくしと青宮君の二人と合流した。


 そこから場所を移して適当なファミレスへ……と思ったけど、いつもと違って今日は日曜日。


 学校が無くて体力の有り余ってるアタシたちは、普段行かないような運動公園に移動した。


 ちなみに、つくしと二人で何度か行ったことのあるラネッサ公園とはまた違う。


 それよりも施設の充実してる場所で、スポーツジムもあるところだった。


 そこの一画。


 目の前に芝生の広がる屋根付きのベンチに三人で座り、改めて話を始める。


「――それで、結局つくしと青宮君はどこまで二人で話してるの? アタシのお母さんに何あげるかって話し合ってたのは聞いたけど」


 いつもと違う語調なのは自覚してた。


 アタシは少し不機嫌な感じを出しつつ、二人に問いかけた。


 つくしは冷や汗を浮かべながらさっそく返してくれる。


「え、えっと、あのね、春……? 私が青宮君と一緒にいたのはたまたまだって話はもうしたよね?」


 頷く。


 それは知ってる。青宮君がいつも通りアタシをストーカーしてて、それで偶然出会ったって。


「だからね、その、こうしてこの人と二人きりでいたのは事故みたいなものなの。私は無罪っていうか、何なら春を暴漢から助けたみたいなそういう――」


「ちょっと待ってくれ。さすがに聞き逃すつもりは無いよ? 暴漢ってひどくないかな? 僕だって別に姫路さんなんかと行動を共にするつもりはなかったさ。僕の目当ては先川さんただ一人なんだから」


「き、気持ち悪いストーカーのくせにそんな堂々としないでもらえる? 私がいなかったら青宮君、春に何するつもりだったの? 家に侵入して春を襲ってたんじゃない? 君は男だろうと女だろうと見境ないし」


「男だろうと女だろうと見境ないのは否定しない。先川さんがどっちであろうと僕には関係ないからね。でも、家に侵入して襲うっていう発言はこれまた心外だね。僕は紳士だし、君みたいな不純な真似もしない。というか、君は少し自分のことを棚に上げ過ぎでは? 正直先川さんからしたら君の行動が一番不安だと思うけれど? その辺りは自覚してるのかな?」


「っ……! か、勝手に人のことを悪者扱いしないでもらえる!? 何を言おうと君が怪しくて気持ち悪いのは事実なんだから、そこ認めてくれない!? ねえ、春? 青宮君毎回毎回こうしてストーカーしてきて気持ち悪いよね? 家まで監視するとか信じらんない。もう言ってやりなよ。気持ち悪いですって」




「うん。そこは今どうでもいいかな? ていうか、喧嘩するんじゃなくて状況を教えてってアタシ言ったよね? 二人でどんな話してたの?」




 淡々と返した。


 つくしと青宮君はさっきよりも多く冷や汗を浮かべてる。


 動揺してないで起こったことをただ話して欲しい。


 関係ないことをベラベラ話されても事は前に進んでいかないんだし。


「え、えーっと、じゃあ僕が話すね。姫路さんはまるであてにならないから」


 青宮君が言ってつくしが反論しかける。


 それに対してアタシはストップをかけた。


 つくしのことを一瞬だけ見つめて。


「さっきも軽く話していたけれど、やり取りしていたのは君のお母さんに贈る物についてだよ。昨日電車で少し離れた街に行ったってことも聞いた」


「あぁ、そうだったんだ。それ、青宮君知ってるんだね」


「う、うん。勝手に聞いてしまって申し訳ない」


 珍しく何度も青宮君が謝ってくる。


 さっきから威圧的になり過ぎてるのかもしれない。


 反省していつも通りのテンションに戻すことにした。


 何度か深呼吸して、それから二人に向き直る。


「……ごめん。話の続き聞かせてもらえる?」


 アタシがそう言うと、青宮君はハッとして、つくしは涙目になりながらアタシの腕に抱き着いてきた。


 怖かった、とのこと。


 一言、ごめんと謝るけど、心の中で思う。


 悪いのは全部つくしなんだからね、と。


 それが表情に出ていたのか、つくしは小さく悲鳴を上げて震えた。


 たまにはこういうのもいいかもしれない。


 つくしに対して怒ることなんてあまりないんだし。アタシ。


「は、話の続き……だね。了解。えっと、僕と姫路さんは先川さんのお母さんへ何をあげるべきか一緒に考えていて、市役所の適当なスペースで意見をぶつけ合っていたんだ。どうして市役所なのか、という疑問にも答えられる。これは姫路さんが公的書類を提出しないといけない用事があっただけで、僕はそれに付き合わされたという形だね。本当に理不尽だと思うよ。何で僕がここまで駆り出されなきゃならないのか、とね」


「うん。それはアタシも思う。どうしてアタシじゃなくてたまたま出会った青宮君を連れて行ったのか理解できない」


 冷ややかにアタシがそう言うと、怯えながらも傍に引っ付いていたつくしが大袈裟なリアクションで声高々に訴えてきた。


「ち、違うよ!? 別に私、春よりこの人のこと優先させたわけじゃないからね!?」


「優先させてるよ。だって、アタシもあんなに一緒に行くっていったのに、つくしは断ったじゃん」


「あれは違うのー! ちーがーうー!」


「違わない。たぶんつくしは青宮君の方が好き」


「そんなわけないからぁ~! もぉぉぉぉ~!」


 アタシたちがそんなやり取りをしていると、向かい合ってる青宮君はげんなりしたような表情を作り、


「まあ、どれだけ今の君たちのやり取りが本気なのかわからないけれど、とりあえず姫路さんが僕に浮気をしてるとか、そういうことはあり得ない。木下君の件もあったし、こんな女子こっちから願い下げだし」


「そっちに願い下げられなくても私の方がさらに願い下げてるので大丈夫でーす! べろべろばー!」


 舌を出して青宮君を煽るつくし。


 彼は静かに拳を握り締めて、それを自分の顔の前まで持って来ていた。


「この怒りは姫路さんへのモノだ。解放されないよう祈っておくんだね」


 なんて、よくわからないことを言ってる。


 気持ちはわからないけど、その発言をする青宮君は確かに少し気持ち悪かった。


 つくしが散々気持ち悪い気持ち悪い言うのも頷ける。いや、気持ち悪がるならもちろんストーカーされてる事実に対して気持ち悪がった方がいいとは思うんだけど。


「もう……。つくし、さすがに煽り過ぎ。青宮君訳わかんないこと言い始めちゃってる」


「春~? そんなの今に始まったことじゃないんだよ~? この人、春のいないところで散々気持ち悪い妄想してるんだからね~?」


 つくしが言って、青宮君の肩がピクリと震える。


 露骨にメガネを指でクイッとさせ、


「ちょっと姫路さん。君はいきなり何を言い出すんだい?」


 なんてことを口にする。


 さらに青宮君の弱みを引き出すチャンスと見たんだろう。


 つくしはニヤリと笑んで、意地悪く「ええっとね~」なんて言って続ける。


「私たち、春のお母さんに何をあげたらいいか話し合ってたって言ってたじゃん?」


「……っていう名の密会だよね。私を差し置いた」


「だからそれは違うんだってば~! もう! 嫉妬禁止! 私は何が起ころうと春一筋なんだから!」


 アタシがわざと素っ気なくしていても、つくしはそれをかいくぐるかのようにしてグイグイ密着してくる。


 いい匂いもするし、未だにつくしの体の感触に慣れていないアタシはボロが出そうだった。


 貫いていたツンとした態度が崩れかける。


 つくしの方を見ることができなかった。


「青宮君ね、こんなこと言ってたの。『先川さんのお母さんには花を渡すのがいい。あなたの娘さんは天使だが、あなたはそんな彼女を生み出した女神だ。って言いながらね』って」


 気持ち悪くない?


 と笑いながらつくしが問いかけてくる。


 確かに気持ち悪い。


 ジト目で青宮君を見ると、今度は彼がつくしのように慌てふためきながら反論してきた。


 こんな姿の彼を目にするのはたぶん初めてだと思う。


 今までに見たことのない姿を見せてもらってる。


 それは、青宮君だけに留まらず、つくしにも言えることで。


 アタシたちは仲のいい関係ながら、さらに親密になっていってるんだな、と密かに一人で実感するのだった。


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