「2019年生まれ、火星のアウストラレ在住です」
「君、就活の場でふざけるのかね?」と面接官は厳しく問うた。と同時に、目の前の男は今までに見たことのない妙な髪型をしているな、と思った。
「いえ、これは事実なんです」と就活生は答えた。「早い話が、私は未来人です」
「……その髪型は未来で流行っているのかね?」
「あ、そうです。しまった……髪型もこの時代に合わせるべきでした……」
「しかし、なんでまた未来人様とやらがこの町工場で働きたいんだい?」
「順を追って説明します。私が元いた時代では火星のテラフォーミング——環境を意図的に変化させることです——が実行されました」
「ほお」
「火星の地下に水素の貯蔵層があったのは既にご存じですね? 二酸化炭素の分解によって酸素も生成できます。さて、これらが揃うと水、そして海をつくりたくなるものです」
「うむ」
「が、彼らはそれに熱中するあまり、水素は使いすぎるわ海は広くなりすぎるわの大失敗。なんとか人類の定住は進んでいますが、もっと
「ん?」
「テラフォーミングの実行部隊が乗った宇宙船のとある重要な部品は、実はこちらの工場で作られました」
「ということは……?」
「そう、私はこちらの工場を閉鎖させるため今ここにいるのです。さあ雇ってください!」