月日はいくらばかりか過ぎ、シファはお腹が大きくなった華妃への事件の報告に訪れていた。
「――では、人が消えているという噂は解決したのだな?」
「はい、華妃様がご心配されることは何もございません。度々起こっていた季妃様への陰湿な事もこれでなくなるでしょうし、水の問題も解決しそうです。あとは産むばかりかと」
「ああ、ありがとう。シファ、お前に任せて良かった」
「いえいえ、そんなことはございません!」
謙遜するのも全てハリョンがいたからだ。
自分の上司を差し置いて、私の手柄です! とはシファは言えない。
「杜后様の子は元気そうじゃな」
「はい、それはもう可愛らしい男の子で、あ! 華妃様の子もきっと」
「女の子だろう。そんな気がする。じゃが、元気に生むしかないな……」
「はい、王様にとっては二人目の子、皆、待ち望んでおります」
「待ち望んでおると言えば、あのナギョン様は全然結婚をする気がないように見える」
「ああ……でも、ちらりとそういう話を聞きますが全て断っているとか」
「それはまたどうして……青登に入り浸りと聞くが、それが関わっておるのか?」
「え?! どうなんでしょうね……」
おほほほ……とシファは笑ってごまかした。
自分の異父妹の様子を見に行っているとは言えないし、この華妃様こそ、そのナギョンの妻になる人だったのだと思うとどう言って良いか分からない。
誰も知らない事件の話も詳しくは言っておらず、それでも解決したで押し通すなどシファは最初、抵抗した。だが、そんな事を言っても過去を語るにはあまりに遅すぎ、この話は歴史に残らないと言われれば、知らない方が良いのかとさえ思ってしまい、結局、曖昧に結論だけを伝えることになってしまった。
静々とシファは仕事場に戻って来た。
ハリョンは一人黙々と何事もなかったようにバリバリ働いている。
それは最初からそうだったようで少し寂しい。
「ハリョン様」
とシファは寂しさから声を掛けてしまった。
何だ? とは訊いてくれない。
先日、降り続いた恵みの雨のように杜后との間に生まれた男の子、華妃との間に生まれた女の子、どちらも愛しくて、子は何人いても良いものだ……と王が自身で書かれたのはそれからしばらく経ってからのことだった。
相も変わらず、シファはハリョンの一人の部下として宮廷内外の三ノ者の仕事をしている。
「読みましたか?! 王様がお書きになった物! 今やお二人もいるなんて! 考えられません!」
「それだけ王はしたかったのだろう」
さらりと言ったハリョンの言葉にシファはウェーと嫌な顔になった。
二人しかいない仕事場だからとそんな事を言ってほしくないという表れだが。
「王に子が生まれれば止まると王様に言いはしましたが、本当にぴたりと止まりましたねぇ……」
「何だ? お前は止まってほしくなかったのか? 華妃様も今は体調が良くなって良かったじゃないか」
そう言われるとそうですね……となる。
一時は産後の肥立ちが悪くてどうなるのかとやきもきしたのだが、王がそう書いたのを見たことで心が軽くなったのか、体調は回復した。
あとはナギョンがこのまま目立った事をせず、争いの種をなくしていければ良いのだが……とハリョンが思っているとシファが言う。
「現在、幾人かの側室の方のお腹の中にも子供がいるようですが、安泰なのでしょうか?」
それを言われてしまってはおしまいだ。
ハリョンは仕事をする手を止め、シファに言う。
「また争いになれば、三ノ者が出る。それが俺達の仕事だ。だろ?」
強引にまとめられ、シファはそれに頷くことになってしまった。
「それは……そうですね、それが三ノ者として生きようと思った全ての始まりです」
仕事場の窓から見えるのは今にも青から黒に変わる前の赤の奇跡の景色。
人はこれを何と言うのだろう。
シファはそれに少しだけ
「どうした?」
「いえ、明かりの準備をしましょう!」
「ああ、そうしてくれ」
「はい!」
今からつける火の赤とは違った富朱の夕焼けは微笑ましく感じた。
それは二人の富朱の宮廷内外の三ノ者の今の顔に通じている。