知りたい事を教えてくれるのは人の言葉しかない。
月は何故出ているのだろう。
「大丈夫か? 蒼白だぞ?」
シファの顔色を見て、ハリョンは心配そうに言った。
「……」
何も言えない。
先代の王が悪かったでは済まない話だった。
皆が皆、自分の思いと戦って、それでも悲しい方向に進んだ。
では『止める花』だと言われた自分には何が出来るだろうか。
また先代王が悪かったのです! とだけ言えば良いのだろうか。
違う。
この富朱に住む人が、生きやすいようにしなければ。
「王に言います、私……」
ぼんやりと呟いたシファにハリョンの目は何を? と注目する。
「お子様を産んでくださいって。男の子でも女の子でも良いから、とにかくこの国が続くように、子供を産んでほしいです」
王は男だぞ? とか、自分が産めば良いではないか……とはハリョンもならない。
「出来るならそうしている。けれど出来ていない。それが現実問題だ。そして、誰に頼まれたか知らないが、お前がずっと求めていた答えも分かっただろう?」
「はい。きっと先代の王もこれが昔からあったから『カゲ』というのを思い付いたのでしょう。生きて行く為の物がなければ人は人を減らして行く。それが口減らしです。でも、それと今は違うとは断言できません。青登のエランさんがこの富朱にやって来てた理由、それはそこにあるんじゃないんですか? 青登に水はたくさんありませんが頼りになりそうな玄類との繋がりは富朱よりもある。そこから水をもらう気なんですね?」
ああ……とはハリョンは言わない。
「けれど……その水問題も大事ですが、解決しても解決できてない事は続きます。口減らしのせいで子供がいなくなっているって言っても、それはどうしてかって言えば、その原因こそが王に子供がいないからじゃないんですか!? 何故、ハリョン様は何もしないのです?! それでは、先代の王と一緒です!」
シファは語気を強めて一気に言った。
筋違いなのは分かっているのに、ハリョンを責めてしまった。
ここに王はいないのに。
口から出た言葉はもう戻らない。
「誰もが。自由に発言して良いわけではない。ある程度の分別はあるだろ? 自分がこう言えばどうなるかなんて幼い子供であっても分かることだろ!」
感化されたのか、ハリョンの口調も次第に強くなる。
「それは怒られるとか、そういうことですか?」
「そうだ。犬でも分かるさ。本能的に」
熱くなりかけたハリョンは冷静になった。
「それでも王はお前に言われたら、心が変わるかもしれないと思っている。だから自分を止めてほしいと、その名を与えたんだ。王としての責任を果たせるようにする為に。王だって、この国が無くなることを望んではいない。それは事実だ」
ハリョンの言葉にシファは耳を疑う。
それでも王は子を成さない。月の物がちゃんと来ない者ばかりを集めて不安を取り除いているだけ。
どうすることもできないではないか。
「華妃様と杜后様は大丈夫だ」
シファの心のうちを読み取ったのか、ハリョンはそんなことを言った。
それは子供が産める身体だということだろう。
それでも、シファはもう一度、ハリョンに言った。
「王に言います。子供を作ってくださいって」
もうそこには以前のような恥ずかしさはなかった。
開き直りではない。
ただ三ノ者として、一人の富朱に住む者としての思いしかなかった。
それを見るとハリョンはにっこりと微笑みはしなかったが冷静に次にすることをシファに伝えた。
「さすがに今日はもう遅い。王もお休みになっているだろう。明日にするんだな、王にそれを話すのは」
「はい! そうします!」
決意を露わにシファは快活に答えた。
答えてから思う。
あれ? 別にハリョンはそこに居ないのではないかと。
「あの……」
「何だ?」
「もし、一緒に私と王に会ったりは?」
「する」
「えっ」
小さな短い悲鳴が出てしまった。
「何故なら、お前が変な事をした場合、俺が呼び出されるからな。後ろで控えていてやる」
「そのくらいの
「当たり前だ。普通は王に直接会えるわけないだろう? 呼び出されたなら別だが」
「それは……あの噂的にどうなんでしょうねー?」
「何がだ?」
「ハリョン様は何故、王と一緒に居たか言いました。それは私が求める答えでもありました。けれど、王はハリョン様を自室に連れ込んだと聞きましたよ?」
また変な事を聞いて覚えている。
ハリョンはシファに再度言う。
「王は本当に女好きだ。安心しろ、お前の話をしていたよ。俺にくれてやったのは正解だったと言った。それはつまり、お前がそんな話をしても王は気心変えずに自分のしたいようにするということだ。お前の敗北はもう決まっているな」
何をー! とシファはシャー! と猫のように怒りたかったが怒らなかった。
「絶対に説得してみせますッ! 四つの国を作った三ノ者達みたいに!」
と