何故、エランがここに居るのか? と周りを見ても荒れた畑のおじさんとニコニコ顔のエランしか居ない。
理由が分からない。
「あの、遊びにって……」
「ああ、ちょっとねー。大丈夫、今日は爺仙人とかないから!」
恐ろしい記憶が蘇りそうだ。
「もっ、もう良いです! そういうのはッ!」
イヤイヤ! と両手を必死に振って拒否をしたのに。
「えー良いじゃない。面白い物がないと人生つまらないわよ!」
とエランに言われてしまってはおしまいなのだが。
それまで黙っていたおじさんが急に口を開いた。
「三ノ者様?」
「何かしら?」
とエランがさっと答える。
「ええ!? 三ノ者様?! あんたも?!」
「ああ……ついつい、私は青登の宮廷内の三ノ者です」
「あーそれで……」
とおじさんは物珍しそうにその明るい水色の服を見る。
「いやぁ、やっぱり、青登の者は青なんだなぁ……」
実感のないような言い方にシファは苦笑いしつつ。
「当たり前ですよ、ここは富朱だから赤。青登は青、昔から決まっていることです。時に紫になったりもしますが……」
とふいにハリョンの葛花三玉が思い出された。
あれもきっと富朱から青登に行った証。
だから、赤のような紫。
「紫ね……紫と言えば、ここからずいぶんと離れた所にそんな色の提灯を飾った家があったな……。あれは富朱の国なのに青登に数歩で入ってしまう所だからか」
おじさんの話にシファは興味を持ったが、エランが話を取ってしまった。
「そうそう、シファちゃんはハリョン様がどちらにいらっしゃるか知ってる?」
「え? そうですね……宮廷でしょうか? 最近、またお一人で頑張っていらっしゃるから」
「お一人?」
「ええ……まあ、エランさんが心配するような事ではないんですけど」
王と行動を共にしなくなった理由は何だろうと
愛想をつかされたんですか? と言っても無視される始末。
「じゃあ、そろそろ行こうかな。そのハリョン様を訪ねたい所だったし」
と行ってしまいそうになるエランにシファは思い切って訊いてみた。
「あの!」
「何?」
「エランさんはナクヒさんの字、知ってますか?」
「字? ああ、名前の?」
「はい!」
「ええーっと。確か『蓮』に『姫』じゃなかったかしら?」
うろ覚えだと思ってしまったが、それでも良い。
分かった。
「ありがとうございます! おじさんも!」
とシファはまた一人走り出した。
*
エランはシファと別れ、おじさんとも少し話してから少し歩くと一気にニコニコ顔から真面目な仕事をする顔となり、先程の事を言えと指示した人を見た。
「本当に良かったのですか? これで」
「ああ、すまなかったな」
そう言うとハリョンは物陰から出て来た。
「悪い事をさせてしまった」
「いえ……ただ、こちらはそちらの深刻な水問題の解決の為に来たのだということをお忘れなく」
「ああ、分かっている。それで、青登の方ではどうすると?」
「それはあなたも分かっているんじゃないですか? 必要最低限の物しかご用意できないでしょう。水もここまで来ると……」
「そうか……。あのおじさんは何と?」
「水さえあればと。占いをしてみてはどうか? と言ってましたよ。占いでどうなるものでもないですが、これは」
「そうだな」
とハリョンは苦笑いした。
エランはそんなハリョンに真面目な顔のまま言った。
「あなたのお選びになったあのお方は、こちらの申し出を受け入れてくださるでしょうか?」
「それは、どうだろうな。一事が万事でこちらは動いているからな。王の信用する者がちゃんと動けば何とかなるかもしれないが、それが有力だとはとても思えない」
「では……」
「ああ、準備だけはいつでも出来るようにしといてくれ」
「根回しが良いな……とはなりませんか?」
「さあ、それはどうかな? こちらは三ノ者、当たり前の事だと思いたいが」
「それにしてもあの子、また変な事に首を突っ込んでそうですね」
「そうだな」
「知っておいででしたか?」
「じゃなきゃ、こんな所に仕事をほったらかしにして来ない」
「それほど……」
「何だ?」
「シファちゃんが気になると?」
「ああ、そうだな。お前よりは全然そうだ。シドンに何か言われなかったか?」
「言われましたよ。とってもきつーく。絶対に変な事をするな! と」
「それ以外はないのか?」
「……まあ、好きになっちゃぁ、しょうがない! とも言われました!」
「はあ……」
ハリョンは大きな溜め息を吐いた。
「また会ってしまうかもですね」
「は?」
「だって、シファちゃんは欲していますもの! 私の方がまだ答えることができそうです!」
「かき回しに来たのか?」
「いいえ! 本当にハリョン様にお会いしたくて来たのですよ。分かっていらっしゃるでしょ?」
とエランは茶化した。