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新たな側室

 シファとハリョンが富朱に着いた時には十人目の王の側室として棠妃が富朱の後宮に迎え入れられていた。

「ハリョン様!」

 と大変な勢いで最小部署へとやって来たのは下働きをする十五歳くらいの下女だった。

「棠妃様がお呼びのようです。それとこの荷物はこちらでよろしいですか?」

「ああ……」

 シファが青登に残して来た荷物を受け取るとその下女は出て行った。

「荷物は無事に戻った。だが、問題が起きた」

「そうですね」

「シファ、お前が行って来い」

「え?! 何でですか?!」

「俺は宦官かんがんと違って、ちゃんとあるからな……」

「分かりました! そういう話はもう良いですっ! 行って来ます!」

 挨拶も兼ねてシファはその問題の棠妃に会うことにした。

 それからでも遅くはないはずだった。

「――そうなのですか……」

 十八歳になるという棠妃は美しく貴族の娘という感じでたおやかだった。料理をするとは思えないほどだ。

「ですが、ハリョンはもう私より下の存在です」

「え?」

「だから、言わせてもらえば、あちらが来るのが道理でしょう?」

 後宮の中にある棠妃の部屋は他と違って多少派手さがあった。だが悪目立ちするほどではない。

「なのに、来ないなんてどうしてですか?」

「ですから、先程もお話した通り、私が後宮担当の三ノ者なのです。ハリョン様は他を担当されていて……」

「それは分かりました。あなたは後宮担当の医女、ヘジのような者なのでしょう? でも、私が話したいのはあのハリョンなのです。ここでは話せないと言うのなら場所を変えましょう。どうせ、王は来ません。最初だけなのです。きっと、ハリョンだって私の悩みは知っていたはず」

「何の事ですか? それは」

「あなたには言いたくありません。けれど、きっと知られてしまうわね。だから、言います。私、月の物があまり来ないの」

 それはとても困った事だ。

 いや、その前にその『月の物』は定期的に来るとシファは思っていた。

「だから、ハリョンの許嫁ではなく、ここに入れられたのかもしれません」

「それは……」

「他の皆様もそうらしいわ」

「え?!」

「たまたまなのかもしれないけれど、ヘジが言っていたもの。私はそれを信じます」

 だから連れて来なさい。とシファは棠妃に追い出されてしまった。

 けれど、その話を聞いたおかげで納得できた。

 だから、子が出来難できにくいのか……。王が好きになる女性は皆そうだとしたら可哀想な事だ。

 これは秘密ではないだろう……けれど今までそんな話を聞いたことがない。

 シファはハリョンの待つ仕事場に戻る前に、その後宮担当の医女、ヘジに会うことにした。

 宮廷の中を歩くのは久しぶりだった。温暖な富朱にも暑い時期や寒い時期はやって来る。今はちょうど暑い時期に入ろうとしていて、体調を崩している者が多いと聞いた。

 それでかヘジに会うことは叶わなかった。

 そのまま仕事場に戻るとハリョンがスラスラと集中して書き物をしていた。

「行って来ました」

 とだけ言って、シファはハリョンの近くに座った。

「どうだった?」

「連れて来いと言われました」

「だろうな。あの方は結構面倒だからな。羨むのはその美貌だけだ。お前よりちょっとばかし可愛いか? まあ、そう気にせず、これからもよろしく頼む」

「それが! それが元許嫁ってやつですか?!」

「ハ?」

「月の物があまり来ないと言われました! それは知っていましたか? それが原因で後宮に入られたのですか?!」

 怒涛の勢いにハリョンは困っていたが、やがて言った。

「知らなかったさ、それは。けれど、そうか……だから、嫌がったのかもしれないな……。それで、それが原因かと棠妃様はおっしゃったのだな? 断じてそれが原因ではない。お前には話しただろう? それが原因だ」

「では、何と言えば良いのですか? 本当の事を言うのは酷です」

「王の望みだと、それしかない」

「……それで、よろしいのですね?」

「ああ、王もそれは承知している。お前が気に病むことではない」

 ハリョンの真面目な言葉にシファは信じるしかなかった。

 それでしかこの場は収まらなかった。

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