うわぁー! とかそういった感嘆な声は一瞬で終わった。
ここは、この青登は富朱より派手ではなく、静かというよりは落ち着いていた。建物や服の色が青系だからか。人が富朱よりも少ないのもあるのだろうか。都となっている所は富朱に負けず劣らず立派だった。
だが、観光でもしますか? と迎えにやって来てくれたシファと同じくらいの年齢の青登の宮廷内の三ノ者の女性、明るい水色の服を着たエランの案内で都の外れに来ればすぐにその違いに驚かされた。
貧しさが際立っている。
富朱の村でもここまでの所はない。
裸足は普通のようで切れ端の布を縫い合わせている。
肌も汚いままが普通のようだ。
それでも民達は笑っている。
ここまでとは――声も出ないシファにハリョンは小声でそっと言う。
「おっかないか?」
ビクッとなる。それはそんな経験がなかったからか、この光景がひどく目に焼き付いて来るものだったからか。
「ハリョン様」
「何だ?」
「ここは……」
「ここは青登で一番貧しい村の一つだ。それでも皆、笑い。歌う。生きていると実感させてくれる所の一つだな。まあ、青登に観光するべき所があるなら誰もが自由に見て良い、この青い空ぐらいじゃないのか?」
「さっすがー! 青登でお暮らしだったのは本当だったのですね!」
「エランと言ったか、お前の上司は誰だ?」
「文句を言う気ですか?! それならシドンさんにどうぞ! お知り合いですよね?」
「ああ、シドンは俺の下で働いていたからな」
「それは青登時代ですか!?」
「そうだが?」
シファの質問にハリョンは眉根を寄せた。
「そうなんですね……。いえ、ハリョン様の下で働くとはどういったことになるのか知りたくて」
「無駄口はしない男だぞ、シドンは」
「そうですねー、あなたも気を付けた方が良い」
「え?」
「何やら変なものに取り憑かれている気がするから」
「えっ?!」
変なものとは何なんだー! と問いたくても問えなかった。
エランはハリョンにくっつき、本当にあるんですよー! 青登の観光名所! と気軽に歩いて行く。
もうハリョンはこちらを見ない。早くその集いに参加したいような雰囲気で、その場所に向かうのも億劫な気を出している。
怖い……。
そう思ってしまっては足取りが重くなり、前を行く二人とも距離が出来てしまった。
「大丈夫ですか?」
と声を掛けられ、ひゃん! と変な声を出してしまった所でその者がハリョンに劣らず美男だと思った瞬間、すぐに白髪の
「ひゃーんっ!」
何だ? どこの動物の甲高い鳴き声だ? と周りの人達がきょろきょろする中、シファは走った。走って走って、何だかイライラとしているハリョンを見つけた。
そんなハリョンにお構いなしで説明し続けているエランは何やら怖い話でもしているようで。
「この向こうの方に見える山の所にある洞窟がそうなんです! 岩で出来ているんですけどね、
「それー! それぇ! 今、見て来ましたッ!」
「あーおめでとう! それがシファちゃんに憑いてるものだね! あ! もう一人憑いてるかも! だとすると、それは
「そんなぁー! 早く! 早くどっかにやってください! エランさんっ!」
「あー無理だよ。だって、その方達は幽霊じゃないもの。仙人、仙女の方に入るんだ。勝手に離れて行くのを待つしかないね。あ、でもそれは青登の中でしか活動できないって話だから富朱に戻れば大丈夫になるんじゃないかな?」
「エー! それは、それはいつからの話ですか!」
「うーん……確か、その最初の騒動の時はそちらのハリョンさんが指揮を取っていたと聞いたけれど」
「本当ですか?!」
くるっとハリョンの方をシファは見た。
「ああ……でも、それを本当に見た者はいなかった。だから、噓八百として処理した。くだらん話はもう良いか?」
「うーん……思い当たる所はない?」
「え、あ……そういえば」
「何だ?」
エランは興味津々にハリョンは今にも厄介事を増やすなよ? という表情でシファを見守る。
「この青登に入り、私が倒れ、二日目の野宿の時でしょうか、何やらハリョン様ではない男の声を聞いたのです」
「ほぅ! その男の人は何て言ってたの?」
「はっきりと覚えているのは『寝たか?』というのだけなんですが。私はもう目を開けたくないと思っており、目を閉じていました。きっとその時、ハリョン様は起きていらっしゃったと思うのですが、ハリョン様はお心当たりがないですか?」
「あるわけないだろう。それにしても俺の時には知り得なかったその香婉とか言うのは大昔の富朱の
「へー……そのような知識までお持ちなんですね。
さすがに疲れたような顔をするハリョンをシファは心配して見た。
今はこの笑顔のエランの話を信じる時ではないと思えたし、幽霊だか仙人を信じる気にもなれなかったからだ。