うるさい! とハリョンが注意をすれば、シファは言う。
「武官殿が言っていたんです! 何でも青登の方にはかなり秘密めいた話が書かれた本があるとかって。ぜひ、それを見たいんです! だから、どうやれば見れるのかと思って唸ってました!」
はぁ……こいつは……。とハリョンは呆れながらに言う。
「簡単ではない。それは限られた者にしか読めないと聞く」
「でも、ハリョン様なら読めるかもな! って言ってましたよ?」
どこのどいつだ、そんな軽口を叩いた奴はッ! と問いただしたい。
「俺が青登に行けるとでも?」
「いえ、行けませんよね。だから、唸っているのではないですか……」
しょんぼりと自分の席に着いて考え込むシファにハリョンも自分の席から問う。
「それを読んで何とする」
「そうですね。知識はそういうものから来るので蓄積させたいのです」
「文官のような真似を」
ハリョンは馬鹿馬鹿しくなり、自分の仕事の続きをし始めることにした。こうすれば何も言って来ないことをすでに認知していた。
「ハリョン様ぁ~」
だが、今日は違うらしい。しつこい! とそのしっ責でその話を終えることができ、ハリョンは内心ほっとしていた。
これは読まれてはならない物だったからだ。もちろん、ハリョンはその本の中身がどうなっているか知っている。それを話して聞かせることもできた。だが、そうしてしまえば絶対に本物をこの目で見てみたい! と言うに違いない。
だから、ハリョンはそれを阻止した。これは絶対に知られてはいけない真実だったからだ。この身を守るのも三ノ者の仕事。割り切らなければ。
情報に踊らされてはならない。
*
あくる日の朝、文官の一人がいきなり一つの書簡を手に最小部署に駆け込んで来た。
「これは……おはようございます」
「吞気に挨拶をしている場合ではない! シファ!」
「はい!」
「ハリョン様はどこに?」
「ここに居りますが。文官様が何用で?」
「悠然と話している場合ではない! 大変です! 青登にて三ノ者の集いが行われるようなのです!」
「えっ!」
「はぁ……」
二人の反応の違いに情報を持って来た文官は困った。
「分かりました。その書簡はこちらの物でしょう? 頂きますね」
「あ、ああ……」
「では、用件もなくなったことでしょうし、お帰りください。まだまだ書簡を改める時間ですよね」
「なるほど~、先日の件でこちらの仕事内容は把握済みということだな! さすが、あの文官長にまでなられたお父上をお持ちのハリョン様だ」
「いえいえ、父には及びませんよ。さあ、帰ってください!」
敬語ではあるものの、最後の方は語気が強くなっていた。
「あの……」
「何だ?」
文官が帰り、ほっとすることもなくハリョンはざっとその書簡を読み、シファを見る。
「その集いには、私も参加できるのでしょうか?」
「はぁー……」
これが大きな悩みだった。
「何が書かれていたのですか? 何故、そんな大きな溜め息を?」
「読め」
その書簡をハリョンから受け取り、シファも読む。
「こ、これは……! では、私も行けるのですね!? その集いとやらに!」
「はぁ……ああ、そうだな……。出来ればここに残り、宮廷内外の三ノ者の仕事をしてほしいところだが」
「いえいえ! それは文官様と武官様で成り立ちます! きっと」
「軽く言ってくれるな……。まあ、良い。いざとなったらとっておきのを使うさ」
「とっておき?」
そう言って天を見るハリョンをシファは不思議そうに見続けるしかなかった。