ハリョンの言っていた事は本当だった。
だが、陰湿な事をされていたのは季妃様だった。
「何故、こんな事に?」
シファが目にしたのは誰がやったのか高い丈夫な木の枝から大量の水が落ち、季妃が全身ビショビショにされる所だった。
不慮の事故だったのかもしれない。
「良いのだ、シファ。私は身分が低い。だからだと思う」
「それは……私の方が」
「何をしておる!!」
そう申したのは華妃様だった。
「あ! いや、これは!!」
見せまいとシファはした。だが、目にした彼女を放ってはおけないと華妃は季妃に着替えて来るように言う。
「もうすぐ王が来るのです。久しぶりに。それなのに、そのような格好では大変失礼です」
ごもっともなことを言われ、シファは黙った。
「では、私も戻った方がよろしいですね。また何かあれば、おしゃってください」
「ああ、すまないな。あの噂、まだ分からぬか?」
「真相についてはもう少しお時間をください。絶対、突き止めてみせます!」
「そうか……。いや、季妃があのようにされるようになったのはその噂のせいかもしれぬと近頃思う」
「どういう事ですか?」
「あの者はな、遠い親族に青登の者が
誰が? そんな事を華妃様に問えるはずもなく。
ああ!! という後宮に仕える女子達の悲鳴のような感嘆な声にシファはビクッとする。
「驚くな、これはいつもの事だ。王が来る。それは彼女らにも人生を変えるだけの好機ということだ」
「それは……お手付きになる可能性があるということですか」
「ああ、そうだな。私はそうやって選ばれたわけではないが」
深くその話を聞くことは躊躇われた。
「では、私はこの辺りで」
「ああ、そうだな。それが良い。三ノ者は決して選ばれぬから」
「はい」
それは皮肉ではなく、事実。知っていた。辛くもない現実。
ふらふらと自分の仕事場に戻って来たシファは驚いた。ハリョンが居ない。もう! こんなに汚しちゃってぇ! と掃除でもして綺麗にしてあげれば、これはたまげた! と言って褒めてくれるかもしれない。
いや、そんなことはない。余計な事をして! とカンカンに怒る気がする。
ざっと辺りを見回しただけでシファは自分の席に着いた。
何かしら書く物があったはず……それをやっていよう。
サラサラと筆は走らなかった。
筆を止め、過去を思い出す。
妹の、そして、噂の真相を知っているのは誰かと考える。
答えは簡単だった。自分が知っている。
忘れろと言われても覚えている。
あれは絶対に許してはいけないことで知らんぷりをし続けなければいけない事。
「お前」
「は、はいっ!」
急に呼ばれてそちらの方を見る。
ハリョンだった。
「何をしている?」
「え? 書き物を」
「それは良い。これを見本にして、この紙に書いておけ。何でも文官が二人ほど倒れたらしい。疲労だろうな、それの埋め合わせを三ノ者の方ですることになった。宮廷外の事を調べられる余力があると見なされてな。俺は今からこの書簡を届けに行って来る」
「あっ、それはそれは」
「全てお前に押し付けてしまいたいが、それは出来ない。宮廷外の事をするとはこういう事だと肝に銘じておけ」
「はい……」
一気に
案の定、やる気を出したシファは文官二人分とまではいかないまでもそこそこの働きぶりを見せ、文官長に気に入られたらしく、こっちに来ない? という誘いを今でも受けているらしいが、いえ、私は三ノ者ですので……と断り続けているらしい。何とも愉快な話だ。そうした中で新たな情報を掴んだらしいシファがまたハリョンの前で唸り出した。