あっちの村でもあったわよ! こっちの村ではないなぁ……。
そんな村の人達の話を聞いてシファは思う。
何を思って行動しているのか分からない。
「うーん……」
仕事場に戻り、これまで宮廷の外に出て集めて来た情報を整理した。
「うーん……」
それしか言葉が出なかった。
富朱の地図を広げてあの後宮内の噂の起こった場所を記した赤い点の印が四十以上。
この宮廷からかなり離れた所で起こっていて、それが青登近くの富朱付近の村に密集している。それも起こった時期は先代の王が生きていた頃。
私が小さい時の事を何で今、この後宮の方で噂になっているの?
その意味するものは。
「分からない」
それしか出なかった。
それにこんな事があった! と役人に言っても一切動いてくれなかったと聞く。
これは……。
「うーん……」
とまた言った所でハリョンが無言で睨んで来た。
「あ! すみません! もう少し静かに
「いや、唸るなら他に行け」
「え?! もっと優しく声を掛けても良いんじゃないんですか?! こうして部下が考えあぐねているのだから!!」
「それを素直に言ってしまうお前……。だから、王はお前に桃の花を贈ったのかもしれないな。素直すぎるその愛嬌に」
「知ってますか? ハリョン様、愛嬌という花言葉は桃では実の方になるんです! 私はその実はもらっていません!」
「まあ、そんな事はどうでも良い。お前の唸り声が終われば、こちらはまた静かに仕事ができるってもんだ。さっ、行った、行った!」
「いや、行きませんよ! ハリョン様、教えてください。どうしてこんな事をしているのか!」
「何故、俺に聞く?」
「だって、ずっとこの仕事をしているんでしょう? だったら、何かちらっとでも耳にしていると思いまして。村に住む者達は言っていましたよ、皆、全身黒い服を着た者達が関わっていると。それって、あれですよね? わざわざ、その服の色を
「それは三ノ者しか使えないものだ! お前は仲間を売るのか?」
「いえ、そんなことは致しません! だけど、それしか考えられない」
「他にもっと目を向けてみろ。その存在を知り得るのは極少数だ。目立たぬようにする為の変装とか……あるだろう?」
「そうですね……」
ちゃっかり納得させられてしまったことに気付かないシファにハリョンは分からないように胸を撫で下ろした。
わざわざ、ここに戻って来て自分の前で答えを見つけ出そうとしている。
それに手助けすることはできないが、これ以上、踏み込んで来ないようにさせることはできる。
「お前、最近後宮の方にご機嫌伺いをしているか?」
「あ!!」
忘れてた! と言った所か。
「何やら、後宮の方では大変な事になっているらしい」
「どんな?」
「何でもお前のその行動のせいで誰かが陰湿な事をされているとか……」
「え!?」
突然立ち上がり、シファは飛び出して行った。
「まったく……」
ハリョンは天井をふと見た。
あいつはずっと付いている。踏み込んで来ないようにさせても無理か……。シファが『カゲ』の存在を知っている以上、踏み込んで来てしまう。
「王を思うあまり……では済まされない話だ。桃の花を贈られた意味、それはあいつの心意気のせい」
そう言って、ハリョンは仕事を再開した。
問題は山積み。解決しても解決しても次から次にやって来る。
「ハリョン殿~!」
「はい!」
また……今度は誰だ? と訪れた男の顔を見る。