ここは月夜でなくとも明るいが、今は月が出ていて、さらに明るく感じる。それに後宮と同じくらいと言っても良いほど美しい女性が多く、綺麗に着飾り、優雅な香りに満たされ、男なら一度で良いから行ってみたい! と思ってしまうような所だ。
そんな所にハリョンは一人で来た。
私服なのは仕事ではないからで、ある男に会う為だった。
ハリョンはこの近辺で一番大きい店の中に入ると近くにいた店の者に訊いた。
「おいでか?」
「あ! はい!」
シファと同じぐらいの年頃の女性はすぐにその意味が分かったようで、その女性の案内でハリョンは一番広い部屋に通された。
また一番の遊びをしている。
幾人もの女性を
これだから王の弟は。
「やあ!」
元気に気軽に話し掛けて来る。長髪の男。
「束の間のお楽しみをお邪魔して申し訳ございません。ナギョン様」
「どうした? 改まって、謝ることか?」
「はい。先日、
「ああ、あれか……」
そう言うとナギョンはその美しい女性達を全員、外に出してから服を着た。
男の美しい裸体に興味のないハリョンはやっと服を着た昔は友だった男の顔を見た。今の王と腹違いの弟の顔は綺麗に整っていて、悩みなど一つもないように見える。
「お前の部下が聞いたんだってな、あの噂」
「はい。おっしゃる通りでございます」
「その敬語は
「はい、ですが、ナギョン様と呼ばせてもらいますよ。俺はもうあなたの友ではない」
「それは確かにそうだ。こんな月夜に王となった兄。その存在がなくなってもお前はその地位を捨てないんだろうな」
そう言うとナギョンはハリョンを見た。今の王と同じくらい悩める顔になれば良いのにと思うのと同時にこの男と同じくらいに今の王が悩みを晴らし、世継ぎを誕生させることを願う。
「それが俺の願いですから」
「いや、お前の父親のだろ?」
この男は全てを知っている。それは自分もだが、この先の事を案じているのは自分だけだと思い知らされる。
「久しぶりにお会いしたというのに、こんな話もあれでしょう?」
「そうでもない。お前の許嫁は決めたのか? オレの兄の女になることを」
「さあ? どうなんでしょうね。俺は今、仕事仕事で何も出来ませんから」
「またまた~。その部下は使えないのか?」
「いえ、文でお伝えした通り『
「お前は止めないのか?」
「止める権利を使えば、どうなるか、あなたはお分かりでしょう? それは彼女の命を危ういものとする」
「全てを知っている者同士、協力して、どうにかしたいと?」
「ええ。初めての部下をこんな事でなくしたくないのでね」
「ほーう、少しは成長したようだな。ハリョンも」
「あなたは変わりませんね」
「王の血筋だ。今の王にその意思がなければ、唯一の男兄弟であるオレが引き受けることになる。あの佳国最後の王のようにはなりたくないと、誰もが思うだろう?」
「そうですね。チョム・チャンソンの本の件では、あなたがいたおかげで助かりましたよ。あなたの知り合いの三ノ者でしたっけ? その方が一番最初に地中からその本を発見し、今は大切に保管されています」
「ああ、チョム・チャンソンな! 佳国最後の王よりも長く生き、有名な話である『
自分の異父妹だということを隠したいが為のちょっと大袈裟な言い方に付き合って、ハリョンは笑った。
「まあ、その本は今、青登にあるんですけどね」
「お前が一時期居た所か……」
「そうですね。そんな過去もありましたね」
「だから、お前は葛の花をもらった。赤紫色で良かったな」
皮肉か……。それについてハリョンは一言も答えなかった。
「お前の部下は桃か? 何故、それを? と問う前に彼女の話でも聞きたいものだねぇ……」
「そうして美味しく平らげると?」
「いやいや、お前の部下まで食うほど困ってはいないさ。王は多くを聞き、知っている。オレは王ほどではないが、いろんな所から情報を得て、知っている。彼女だって被害者だろう? お前は良く了解したな、そうなるように仕組んだか?」
「いや、誰かが言った。誰に聞いたと言っても、向こうは口を割らない。割れば、その者がどうなるか分かっている。さすが、三ノ者になっただけはあると褒めてやっても良いと思っている」
「そうか……」
こんな所で言う話ではないのは分かっているが、こんな所でないと会えない人物だということは認識している。
だから。
「今はまだ、あなたの力を必要としていない。けれど、いざとなったら、使わせてもらいたいと口約束程度にしておきたい。それしか、今の俺は動けない」
「そうか……」
とだけ、ナギョンは言う。
そして、また彼はハリョンが帰った途端、あの続きを楽しむ為に多くの女性を部屋に呼ぶのだろう。
それくらいしか、今はやる事がないのだから。