この音は何だろう。古琴……?
最近は後宮に行き、ご機嫌伺いから始まるシファの今日の日課はその音から始まった。
誰が奏でているのかと探してみれば、それは華妃様だった。
綺麗な音だ。
「おや、お前はシファか?」
「はい、申し訳ございません。演奏を中断させてしまって、いつものあれです」
「ああ……、今は……そうじゃな……少し気になる事がある」
「何ですか?!」
勢い良く近付いたシファを怒りもせず、古琴の曲と同じようにゆったりと余裕のある感じで華妃は優雅に言う。
「噂じゃ……この後宮内にまことしやかに噂が流れておる。じゃが、誰もそれを外には漏らさぬ。それは自分の身を案じてだろうが……」
「そんなにすごいものですか?」
「ああ……」
そう言って、華妃はシファにだけ聞こえる声で小さく言う。
「富朱の民が一人、また一人と消えているそうじゃ」
「え?!」
驚いてそれだけしか言葉が発せない。
「それも
「そんなことはございません! 華妃様! 私が必ずや、そのお心、払ってみせます! 最小部署の三ノ者にお任せくださいっ!!」
「ああ……、嬉しいことを言ってくれる。お前は私と同じ年頃、頼みましたよ」
「はい!」
*
「――それで? お前は信じられたと思って帰って来たのか?」
返事を言う前にハリョンの怒りが薄々分かってしまう。
「でも! これは一大事です!」
「宮廷外の事を持って来て……」
「ハリョン様はご存知なかったのですか? 貴族様達の間ではすでに噂になっていると……」
「俺はずっと
「つまり……」
「宮廷内の事で手一杯だ! ということだ。宮廷外の事を調べたかったら、一人でしろ。良いな?」
「そんなぁ! そんな上司います? もっと、力になってくれる存在じゃないんですか?」
「ここにいるだろう、そんな上司が。それにお前は確か言ったな? 結構できるとか何とか……」
「もう良いです! 一人でやります!!」
そう言うとシファは出て行った。
「さて、あの方に会わなくては」
やれやれ……とハリョンは筆を執り、スラスラと綺麗な白い紙に書き始めた。