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第13話 過去を糧へ変え

「でも、運命を変えて_覆したところで…推理は助かるんですか?」

「確証はない。でも、未来を変えなければ推理は死ぬ。それは断言するよ」

「そう、ですよね…。すみません、無駄な質問をして」

質問したものの、その答え自体は分かり切ってたことだった。

「別に…無駄じゃないさ。彼奴を想うことに価値があるからな」

でも、自分にそれが出来るのだろうか?俺は推理みたいに頭も良くない。

先輩みたいに頼れる部分もない。生まれてから俺はずっと孤独だった。

そんな俺に_そんな大役が本当に出来るのだろうか?

「俺、如きで変えられますか?」

「急にどうしたんだ?まさか…怖気付いた、なんて言わないよな?」

「別に怖気付いた訳ではないですけど…」

「何を血迷ってるのか分からなんが…それだったら弘乙に頼んでないだろ」

「それは…そうですよね。…すみません。変な質問をしてしまって」

「そうだよな。お前の根性はそんななものじゃないもんな」

「そうですね。それに…俺がするべきことの役目もしましたし」

「…そういや、念の為に聴くが今回の件について何処まで知ってるんだ?」

「推理と行動した範疇だけで他は全く…」

「つまり、殆ど情報は持ってないってことだな…分かった」

その言葉で俺が推理から何も聞かされてないことに落ち込むも肩を叩かれた。

「そう落ち込むな。彼奴も彼奴でお前の為を想ってやったことなんだ」

そういうと先輩は入って来た窓を閉めると背負っていた荷物を置いた。

「取り敢えず、持ってきたこの服に着替えろ。話はそれからだ」

手渡された服を貰って俺は寝ていた時に来ていた寝巻きから着替える。

見た目は自衛隊で見る縞模様の奴で大きさを心配したものの杞憂だった。

「…着替えたな。じゃあ、まずは本部へ向かうぞ。時間もないしな」

「でも…どうやって…?」

この格好で夜を歩こうものなら確実に職務質問されるだろうし。

本当に大丈夫なのかと不安になりながら俺はそう尋ねたのだが…。

「歩く訳ないだろ?そんなんで時間を浪費してたら間に合わなくなる」

そう呆れた様子で俺が着替えたことを確認すると部屋を出た。


持ち主の居ない部屋を出ると答え合わせをするかのように先輩は視線を送った。

「今から俺たちはアレに乗るんだ。…カッコイイだろ?」

黒塗りの車で外国車を思わせるような印象だった。

「え…車?でも、先輩って運転…出来るんですか?それとも特別な力でも_」

「馬鹿言え。此処は空想世界じゃないんだぞ?免許なしで運転する訳ないだろ」

ほら、ちゃんと取ってあるんだと懐から免許証を取り出した。

勿論だが正真正銘の本物で名前の欄にはしっかり、宮乃瑛都と書かれている。

「なぁ、正直な話…俺のことを疑い過ぎだと思うんだが…?」

「いや、その_先輩が頼りになり過ぎるので…人間かどうかを疑ってました」

「それは失礼だと思うんだが…。因みにだが安心しろ、俺は…人間だ」

その言葉に苦笑すると後部座席に乗れと先輩が指示するのでそれに従った。

車に乗り込むと後部座席に色々な武器が置かれていることに気が付いた。

「これって…聞くまでもなく全部、本物…ですよね?」

「当たり前だ。因みに、銃の経験って…あったりするか?」

「ある訳ないですよ。俺はそんな物騒な物と縁のない人生を歩んでたので」

だろうな。そう苦笑した先輩はだったら無闇に触るなよ、と忠告をしてくる。

「取り敢えず、本部まで飛ばすから気を付けとけよ?」

「分かりました。でも、安全運転は心掛ッ…?!」

釘を刺そうとした瞬間に急発進するのは反則だと思う。危うく死に掛けた。

「吹っ飛ばされるところだったんですけど…!」

「だから、気を付けろって言っただろ?ちゃんと注意しとけよな」

「(…何で俺が怒られるんだ、って文句を言っても意味ないか_)」

俺が何を言っても今の状況で無駄になるのが自明の理だったので諦めることにした。

「そういえば…作戦を実行する具体的な時刻や場所って知ってるんですか?」

「時間は…深夜4時前。場所は…また後で教えるよ」

「…そうですか」

「あぁ。…それにしてもお前、良く起きてたな?あの時は黙ってたけど感心してたぞ」

もし、お前が寝てたらお構いなしに叩き起こすところだったしな、と苦笑された。

「お構いないしに…って俺の答えを云々ですよね?当たり前なことではありますが」

「勿論だ。何しろ、俺がお前に聞けるのは流石にお前が起きてる時だけだからな」

「…つまり。先輩は推理から言われてたんですよね?…今回の作戦のことも」

「何をって惚けても無駄なんだろ…?そうだ。俺は彼奴に釘を刺された」

「やっぱり…。そう、なんですよね」

「あぁ。お前の安全を優先するから作戦の情報を言うなってな」

その言葉に俺は納得した。何に納得したのかは分からなくても…それでも、だ。

「じゃあ、何で先輩は俺のところに来たんですか?」

約束を破ってまで決断した理由。…なんて、俺自身の中では薄々分かっていた。

でも、その答えを確認する為に俺は先輩に尋ねることにした。

「…俺は2人よりも長く地獄を経験してる。だから、2人よりもっと後悔してるんだ」

そして、その数が違う。暫くの沈黙の末に先輩はそう付け足した。

「…それって、どういう_」

「質問を折るようで悪いが、まずは俺の質問に答えてくれないか?」

「…俺が答えられる範囲でなら」

「その後悔の中で1番多かった後悔の選択は何だったと思う?」

「…やらない選択をした後悔、ですか?」

少し悩んだ末にそう答えると先輩は黙ったまま頷いた。

「…そうだ。昔の俺は臆病だった。今の姿からは想像出来ないだろうがな」

そう、昔の俺は本当に臆病だった。その臆病さは今でも恥じるほどだ。

あの時は臆病過ぎて…俺は大事な選択を幾度なく間違えた。…師匠も見捨てた。

あの時の決断を師匠はどう思ってるのか?なんて、もう聞けないことだけど。

それでも、臆病な俺のことを言わないにしろ心の中では嫌ってたと思う。

「(師匠は_昔から臆病な性格の奴よりも勇敢な性格の奴を好んでたからな…)」

だからこそ、俺は結果的に…師匠の期待を裏切る形となってしまった。

「先輩が臆病だったなんて…到底、信じられる話じゃないですけどね」

「まぁ、そう思うだろうな。刃さんにもお前は変わった、って言われたし」

別にそのことは自覚はしてるつもりだ。…実際に俺もそう感じてたし。

「俺はあの時にこうしてたら…って後悔が数え切れないくらいあるんだ」

「…そう、なんですね」

「それがどれくらいの数なのかさえも分からない程にはな。でも」

それだけ重ねたからこそ俺も学んだ、と。沢山の後悔を背にして。

「どうせなら、やった後に後悔をするべきなんだってな」

人によって選択肢の解答は違ってくる。それはそれぞれの価値観なのだから。

だとしても、自分の選択肢は間違ってなかったと言えるように。

俺はそれを心掛けてるし例え、間違えてたとしてもちゃんと反省する。

そんな風に変わることが出来た。だから、なのだろうか?

「俺は昔の俺と同じような選択をしてる奴が居たら…止めさせたくなるんだ」

それが、正義心のかもしれないし騙った偽善なのかもしれない。だとしても_。

「目の前で取り返しの付かない選択肢を選ぶ奴が居るんだったら_」


手を貸してやるのが常識だろ?


「別に俺はお前が後輩や推理の助手だから、って感情で助けるつもりはない」

後悔して欲しくないし俺と同じ道を歩ませたくない、それだけだ。

ハンドルを切りながらそんなことを言う先輩の表情は暗くて見えなかった。

でも、もし表情を見ることが出来てたんだったら…それは、きっと_。

「…やっぱり、先輩は憧れるだけの理由があるんですね」

声に出さなくても伝わることはある。その1つが彼の魅力なのだろう。

「…学校の話題を持ってくるのは些か反則だと思うんだがな」

そう苦笑しながらも何処か先輩は自慢げな表情を見せるのだった。


ー某日。

「結局、君は私の意見に賛同してくれるのかな?」

その言葉に反応した俺はそれまで読んでいた詩集を閉じ答えた。

「何度、説得しても俺はその作戦に反対だ。…刃さんを加味したとしてもな」

対面で紅茶を飲んでいた推理は俺の言葉に眉を顰めた後、カップを置いた。

「…わざわざ説得材料の1つを潰してくる辺り本気ってこと、なのかな?」

「表情に出してなくても言葉の含みで残念そうなのが見え見えだぞ」

皮肉に対し真っ向から言い返した俺は改めて詩集に付箋を挟むと机の上に置いた。

「別に君の人生を否定する訳じゃないよ?それに君が反対しても私はやるよ」

「どうして其処まで…するんだ_?作戦の内容、ちゃんと知ってるんだろ?」

「…勿論。だからこそ、私は弘乙を危険な目に遭わせたくないんだ」

「…何でそうしてまで弘乙を優先するんだ?…あくまで弘乙はお前の助手だ」

推理にしては随分と優しいかった声に対し俺は疑問をぶつけてみる。

「…だからこそ、だよ」

突如、琴線を崩すように彼女が本音を漏らしたことに俺は顔を上げた。

「私が…大事な人以外に対して興味を示さないのは…知ってるでしょ?」

「…前に聞いたような気もするが…覚えてないから、知らないことではあるな」

「まぁ、そんなに自分のことを話したことがなかったからね。しょうがないよ」

「それで…随分と内輪的_それも自分主義な考えだが…それで合ってるのか?」

まるで自分と関係のない第三者は枠の外だと。そう言っている気がしたから。

「うん。正直な話、外野がどうなろうと私には関係ないんだ」

「…言い換えれば、内野の人物は自分以上に大事である、と?」

そうだよ。と俺の意見を素直に肯定した推理は何処か遠い表情をしていた。

「それにほど危険な目に遭わせたくない、ってのは普通でしょ?」

「…確かに君の意見は俺を納得させる材料を揃えたモノだ」

…本当、流石だな。そう俺は素直に評価した。…彼女の説得は真っ当だ。

「だったら…君も私の正当性を考慮して動くべきだと思うんだけど?」

「…あぁ、確かにそうだな。推理の言う通りだ」

俺は逆張っている。推理の意見に賛成せず、反対ばかり。…だとしても、だ。


「そうだとしても、賛成出来ない。…それが今ある限りの最善択だたとしてもな」


ーそれから3日後の深夜。

俺はあの時に読み損ねて放置していた詩集を読んでいた。

「(…そういえば、あの時…俺は本当はどうするべきだったんだろうな…)」

…俺は彼女の意見を咀嚼し味わった上で自分の過去を付け加えた。

その結果、俺はあんな風に言うことにした。まぁ、彼奴はそれでも黙ってたが_。

「(じゃあ、彼奴が黙れば俺の言葉は正しくないのか?間違ってるのか?)」

そうして幾度なく自分の言動を、彼奴の過去を、振り返った。

…それでも、俺は自分の言葉は正しいと思う。それは何故なのか?

「(そんなの理由、言う前から決まっている)」


…俺は彼奴と似た選択肢を選んだ結果、を失ったのだから。


あの時の俺は師匠の考えを疑わなかった。…疑うという考えがなかった。

だからこそ、あれだけの後悔をした。その後悔を身に染みて感じているのだ。

「(なのに、同じような誤ちを誰が肯定しろって言うんだ_?)」

彼奴の推理の意見は完璧であり正当性の取れたものなかった。

「(…だからこそ、彼奴は自分の考えを曲げなかったんだ)」

その所為で俺と同じような誤ちを起こしてしまっていた。それは_。


…大事な人の死より後悔するものはないということだ。


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