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第10話 乃に止め腑に落ちる

俺と推理が警察署を出たのは昼過ぎだった。

「このまま家に帰るのも癪だし、どうせならこのまま外食しない?」

「外食。って俺、財布持ってないんだけど」

別に奢るよ。そう彼女は笑うと俺を引き連れて近くのファミレスへと入った。

「変な場所には行くのにこういった場所へ君と来るのは初めてだよね」

「変な場所の自覚はあったんだな…」

そうだな。と俺は答える。この関係性になって既に3週間は経過していた。

「気になったんだけど、君ってこういった場所では何を頼んでるの?」

「特に決まった物は頼んでない。値段を考慮してるならお前に合わせるけど」

「なら、この海鮮丼にしようかな?ちょっと食べてみたかったんだよね」

そう推理が指差す海鮮丼は確かに美味しそうだった。…値段は張るが。

「注文の海鮮丼でーす」

そうして受け取った海鮮丼を見て普段は笑みを浮かべない推理も嬉しそうだ。

「さっき聞きそびれたが…好きなのか?海鮮丼」

「まぁね。美味しい料理なら何でも好きだけど海鮮は特に好きなんだ」

「海鮮好きってまた意外だな。もっと、肉食だと思ってたんだけど」

本当に失礼だね、君は。推理は呆れたような素振りを見せながらも御満悦だった。

「あ、そうだ。してあげるよ。男の子って全員好きでしょ?」

「何を平然と言ってるんだよ。それに男子が全員好きだと思ったら間違いだぞ」

「あれ、男の子ってこういうの好きじゃないの?」

疑問符を浮かべる推理だが俺は別にそういった趣味はない。

「そうなんだ。じゃあ、私がしたいし。ほら、あーん」

スプーンを向けてくる推理に悪気はしないので貰うことにした。

「結局、君も欲しいんじゃん」

「…無料で貰えるのなら有難く貰うのは俺の主義なんだ。趣味じゃない」

「ふーん?まぁでも、私も人生でしたいことだったし機会をくれて有難うね」

と無駄に畏まった感謝を貰ったのだった。


 ♦︎


「お前は消えるべきだ」


家に帰った俺は鳴ってる電話を拾うと唐突にその言葉を貰った。

「…その声って日暮さん、ですよね?」

「そうだ。別に隠すことでもないしな。そして、話題を逸らすな」

日暮さんは聞き間違いの可能性を潰すと溜息を吐いた。

「消えるって…推理の助手を辞めろって言いたいんですよね」

「どうやら、簡単なことを理解する脳はあるらしいな。で、辞めるんだろう?」

冷徹な声だった。それだけで日暮さんは本気で言ってるのだと分かる。

「何で日暮さんにそんなことを言われな_」

「当たり前だろう。お前ので死ぬ奴を誰が黙って見届ける?」

「俺の所為で…死ぬ?そんなの到底信じら_」

「そう思っても無駄だ。俺も伊達に警視をしてることをゆめゆめ忘れるな」

吐く言葉の重さの価値、お前だったら分かるだろう?そうして電話は切れた。


「俺の…所為で_死ぬ?」


 ♦︎


「そういえば、最近になって助手…そう弘乙の奴を、此処らで見なくなったな」

「瑛都との練習はしてるらしいんだけど…事務所は行きたくないんだって」

理由も話さないし。そう溜息を吐く推理の言葉に疑問を持った。

「彼奴、虐めてる訳じゃないんだよな?」

「そんなこと聞いてないけどなぁ。…あ、帰ってきたし聞いてみたら?」

玄関から足音がするとコンビニ帰りの瑛都が姿を現した。

「お前、弘乙と鍛えてるらしいけど彼奴に合わせてるんだよな?」

「無論。俺も馬鹿じゃないですしちゃんと話し合ってやってるので」

やる内容は弘乙と話してるし問題はないはずだ。無理をしてる様子もないし。

そうして軽く推理と話し合った結果、弘乙が次の機会に聞くことになった。

そして日は流れ次の練習日。俺は弘乙に尋ねた。

「最近、事務所に来ないよな。どうしたんだ?因みに嘘を吐くのは止めろよな」

「…そうやって逃げの択を潰してくるのは流石ってところですね」

表情を見たがやはり事情があるようだ。暫く考えた結果、俺は待つことにした。

…何時だって、待つのは得意だ。人生を浪費するのは、俺の生き甲斐だから。

「…その様子じゃ俺が話すまで待つようですね」

「あぁ。何しろ、待つことは得意なんだ」

その言葉に折れたのか弘乙はゆっくりと話し出した。

「もし、先輩にとって大切な人の為に消えろって言われたらどうしま_」

「…話を、してくれないか?俺も…話がしたい」

待つと言ったのに区切ってしまった。…でも、それよりも大事なことだったのだ。


署内で書類を処理していると彼はやって来た。

「来ると思ってたし驚きもしない…が、お前はガキのお守りじゃないはずだ」

「あぁ、そうだな。だとしても、お前の言葉は鞭だとしてもキツ過ぎるんだ」

応接室で煙草の息を吐くと俺は尋ねて来た彼、刃の奴に声を掛けた。

「聞く意味もないと思うが念の為に聞く。…何しに来たんだ?」

「…お前のところにある探偵と助手が来たらしいな」

「それを真っ先に聞くと言うことはやはりあのガキ関連のことなんだな」

呆れたような素振りで資料を眺めていたが溜息を吐くと机に置いた。

「此処まで来てまだ仕事を優先させるなんて随分と律儀な奴だな」

「俺は警視だ。職務放棄なんて言語道断。それが分かったらさっさと話せ」

「じゃあ、戻るが…あの後、助手に随分と言ったらしいな?」

「あぁ、言った。俺は現実主義者だからな。感謝してくれても構わないが?」

着ていた制服を椅子に掛け時間を作ってやったのに刃は黙ったままだった。

「俺は最善の選択を選ぶことを重要視しているのは知ってると思ったんだが?」

「別に知ってる。だとしても…他人の関係性を侵食することはないはずだ」

「俺は其方の利益を考慮した上での最善策を提案している。それに…」

本当は分かってるんだろう?俺はそう刃に投げ掛けた。

「俺とお前。どっちの考えが正解なのかってことを」

「…そうだな。確かに、俺じゃなく…お前の意見が正しい」

「ほらな?だったら、今すぐ…」

「だとしても、それを判断するのは彼奴らで俺らは強要するべきじゃない」

「…お前が仲間を見捨てる薄情者とは思わなんだ_助言はしたからな」

「俺はずっと薄情者さ。まぁ、でも俺が死ぬまで迷惑させねぇよ」

「それが長く続くことを願ってるさ」

そうして刃に普段通り書類を渡すと彼は署を後にした。

「彼奴も…変わっちまったな。…ちっ」

煙草に取ろうし1本なことに舌打ちすると俺は吸うのを諦めて懐にしまった。

「…どうせなら、取っておくとしよう。買うのは…また今度だな」

鳴る電話を無視しつつ俺は窓からの景色を眺める。…不穏な曇り空だった。


数日後。放課後になり学校を出た俺は駅前に居た。

「宮乃、今日もバイトなの?」

「あぁ。今週はちょっとシフト多めなんだ。すまん」

「マジでお前、頑張り過ぎなんだって。偶には休んだらどうなんだ?」

「まぁ、休みの日はちゃんと休んでるし大丈夫だろ」

そうして友達と別れると俺は推理に電話を掛けた。

「あぁ、推理?今日は来るんだろ?…知ってる。…そうだ。どうせなら…」

そうして電話を切ると駅前の大通りを逸れた。暫く歩けばその場所は見えてくる。

「…来たね。時間帯的に補習だったんだ〜?」

「んな馬鹿な。俺は補修の友達を待ってただけだ。あの成績で補習じゃキレるぜ」

「なんだ、つまんない。てっきり、絞られてると思ったのに〜」

と嘆く推理に呆れてるながらも師匠の墓場の前に立った。

「そういや聞いた話だけど物理苦手なんでしょ?今度、教えてあげるよ」

「どうせ範囲外だろ。それに、その物理も赤点じゃないし大丈夫だ」

な〜んだ。と興味を無くした様子の推理は供物を取り出した。

「彼奴もそろそろしたら来ると思うよ。ほら、言ってたら来た。此処だよ〜!」

「はぁ…はぁ。マジでお前さぁ?あ、すみません。遅くなってしまって」

「そんな焦らなくても大丈夫だ。俺も今になって来たばかりだからな」

そうして急いだ様子を見せながらも丁寧に包まれた花を受け取ると前のと移し替える。

「先輩…まだ推理から詳細は聞いてないんですけど…この人が…師匠、ですか?」

そう弘乙に尋ねられ俺は頷く。


「あぁ、そうだ。俺の師匠で…恩人。影野綾目さんだ」


【「記憶」資料、展開数及び質異数不明:微事項、「自滅」の関与】

「君はもうちょっと柔らかくなるべきだと思うのですが…」

私はそう助手に向かって本音をぶつけてみた。私が選んだ助手は無駄に真面目だった。

私の性格を考慮したら助手なのだし多少はふざけて欲しいと思ってるのだけど。

「俺が真面目じゃなくなってもあんまり変わらないと思いますけどね」

「そんなことはないと思いますよ?少なくとも…私的には楽になりますね」

私は依頼書を読みながらそう応える。内容は簡単に言えば危険の具現化。

「この依頼を受けるって本当なのか?到底、受けられる内容は思えないんだが」

そう不安そうな表情を浮かべる助手だけど払拭するように私は軽く応えた。

「私は探偵ですから。どんな仕事でも依頼されたら受ける義務があるんです」

そうして私は紅茶を手に取った。少し、生温いけど問題ない。

「この依頼をこなすことで相手は喜ぶ。それが…私たちの役目でしょう?」

だから、君が仮に否定的だとしても私はこの依頼を受けることにする、と。

そうして彼が奥へと消えた時、自分の右手が震えていることに気が付いた。

「(装っても…身体は正直なんですね)」

私はそう苦笑する。正直、私自身も依頼の難しさ的に断るつもりだった。

でも、私は助手を信頼していたし仮に…。そう仮にだ。

危険が及び私の身にとしても彼なら折れることはないはずだ。

そう思って…そう信じて…私は彼を助手に任命したのだから。

「(そう思っておかないと無責任になってしまいますからね…)」

誰だって…どんな人物だって…どんな主役だって…表舞台から退場する日は来る。

だからこそ、私はあの日、あの時、助手に向かって笑って言えたのでしょう。

どんなに辛くても…どんなに痛くても…どんなに寂しくても…。

「最期に…。探偵の意思は助手が継いでください。…それだけが」

それだけが、最期の願いだと。そうして、そうすることで私はちゃんと遺せたのです。


私が心から好きになった君ですから。きっと、出来るはずです_。

そして、君が継いでくれたら…私たちは…必ず再会出来るはずです_。

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