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第6話 番外編:少年トリック

(ハロウィン特別編の短編物語)

・弘乙と推理の出会うより前の出来事なので本作への影響は特にありません。

(とは言っても多少の新情報は出たりするので読んでて損はないですよ!)



「ねぇ、瑛都。明日って何の日だと思う?」

午前3時。自室で作業をしていると推理が部屋に来てそう質問した。

「何の日って…唯の平日だろ?ハロウィンなんて面白みのない回答を求めるな」

「…随分と辛辣だね。ハロウィンに恨みでもあるの?」

「恨み?そんなものはないさ」

俺は珈琲を飲むと明日の予定を眺める。…空白、だと思う。

「瑛都って行事系のイベント苦手だよね」

「風習を嫌ってる訳じゃないんだけどな…どうも気分になれないんだ」

「それはまた昔の人間の思考だね」

「お前も予定ないんだろ。高値の華らしいけど俺目線じゃ唯の悪ガキだ」

「人のことを刃さんっぽく罵倒しても刺さるって知ってる?」

「…免罪符の効果なし、と」

推理は呆れたような顔で対面に座ると手帳を取り出した。

「因みに私は予定あるんだよね。まぁ、君には関係ないけどさ」

「…そうだな。仮装でもして戯けるなら好きにするんだな。俺には関係ない」

「何で今日はそんなに辛辣なの?やっぱ、ハロウィンと関係あるんでしょ」

「…さぁな。唯、俺は頼まれた作業の追い込み中なんだ。邪魔するな」

そう言うと俺は再びパソコンの画面へと向き直る。

「まぁ、あの量はそうなっちゃうよねぇ」

今日の朝に頼まれた作業内容なのに求める量もイカれてて。

でも、明日の夜までに終わらせろ。なんて言われたらそうなってしまう。

私なら文句言って終わりだけど瑛都曰くそう出来ない内容らしい。

それで泊まり込みで今も作業中らしい。本当、気の毒だ。

「(まぁ、私には関係ないし…って言っても流石に気の毒だよね)」

私は溜息を吐くと下に降りて珈琲を入れて飲んだ。

「瑛都、どうせなら手伝うよ。量、半端じゃないんでしょ?」

「…徹夜覚悟でやるなら頼んだ」

そうして私は作業の4割を貰うと早速始めた。


「終わった…」

壁の時計を見ると既に午前9時。8時間以上ぶっ通しで作業してた計算だ。

何処ぞの探偵は2時間前に作業を終わらせて既にぶっ倒れている。

「(で、明日はクリスマス…じゃなくてハロウィンだったな)」

脳も半分死んでる。…まぁ、耐えれるだろう。そう思うと俺は下に降りた。

「お疲れさん。聞くに2人で長時間作業だったそうだな」

「まぁ、そうですね。推理は死んでるので俺もそろそろ逝きます」

「死ぬな死ぬな。因みに明日はハロウィンだし遊ぶ予定を組んでるだろ?」

「…特に組んでませんけど。それ、何処の情報です?」

「俺の聞き間違いを懸念しないんだったら推理だな」

「…それは推理の予定だと思いますよ。俺は何の予定もないんで」

その言葉に刃さんは軽く眉を顰めた。…そんなに不思議だったりするものなんだな。

「お前にしては珍しいな。聞くにクラスの中心人物なんだろ?」

「まぁ、そうなんでしょうけど。別に予定はないですよ」

「…お前の予定を懸念したがないんだったら都合も良いな。明日、推理に付き添え」

「は?」

俺は思わずそう言葉に出てしまった。

「付き添え、って言っても何をするんです?」

「明日、推理とハロウィンパーティーへ参加しろって言ったんだ。簡単だろ?」

「…そりゃ簡単ですけど。別に俺、居なくても成立しますよね?」

「組織命令だ。頼んだぞ」

「(流石にそれはズル過ぎるだろ…!)」

組織命令と言われたらどんな内容でも俺と推理は受理する義務がある。

「(謀反したら上に怒られるし基本的にやらないと駄目なんだよなぁ)」

つまり、推理への同行は上の意志ということだ。そんなの…反則だと思うんですけど。


「ヤケに元気だな」

「当たり前でしょ?クリスマスと同等の価値を感じてるんだもん」

「俺にとっちゃどっちも価値なんてないんだけどな」

「その逆張りヨクナイ。もっと、本音をダセ」

「その語尾は仮装故の発言と捉えるけど大丈夫だよな?」

今の推理の格好は魔女だ。銀髪と赤の瞳の所為で尚更そう思えてくる。

「どうせなら瑛都も変装したらどう?」

「変装してるだろう。何処をどう見ても立派な黒服だ」

「変装の選択で黒服を持ってくる人なんて初めて見たよ」

うっせ。と俺は毒付きつつ溜息を吐く。…無駄に既視感を感じるし。

「(あの人も行事ごとは無駄に乗り気だったなぁ)」

ふと師匠のことを思い出した。まぁ、思い出したところで何も起きないけど_。

「そういえば、どんな感じなんだ?」

「去年のままなら大きい会場で軽く談笑して…お菓子交換したりしたよ」

「へぇ。高校生メインなんだっけ?」

「そうだよ。出身問わず招待券さえ貰ってたら大丈夫なんだ」

「(治安を疑ったけど、それなら…大丈夫だな)」

そうして推理と共に会場へと足を運ぶのだった。


「随分と暗くなったな」

6時を過ぎたと思えば周囲は殆ど暗くなっている。冬の足音も聞こえるような感じだ。

「此処だね。それにしてもやっぱり大きいなぁ」

「ある程度の大きさを覚悟してたものの…何処ぞの豪邸だとはな」

此処の団地は高級住宅街なのだが…その中でもより目立ってた。

「じゃあ、中へ入ろう。多少、緊張するだろうけど気にせずね」

まぁ、場慣れしてるし緊張することはないと思ったが中は想像以上だった。

「マジ…?」

豪邸へ入ることは何度もあったが…此処までの規模じゃない。

「あの、天井に吊り下がってるシャンデリア、幾らするんだよ?」

「私の記憶じゃ3億円?あ、後。私たちの乗ってるタイルで4000万円ね」

その言葉を聞いた途端、俺はヤバイ場所に来たのだと再認識した。

「因みに去年は刃さんも居たんだけどね、今年は用事で来れないなんてね〜」

「(あの人、コレを知ってて俺を嵌めたな。上の命令でも何でもない)」

完全にあの人の都合に乗せられただけだ。こんなことになるなんて…。

「(刃さんは俺の金銭感覚を知ってるはずだ。なのに…何でこんな場所に)」

3人の中で金銭管理をしてるのは俺だ。刃さんは隙あらば酒と煙草に浪費し

推理は変なものを買ってくる割には使う素ぶりを見せず…と散々だ。

金銭感覚のバグった原因を知れたのは良かったのだが問題は其処じゃない。

執事らしき人に案内された場所なのだが…まあ、豪勢だ。

「何百人居るんだ?」

「ざっと200人だと思うよ。因みに同じ高校の人も居る」

「招待される条件ってあったりするもんなの?」

「大体、特技に秀でてる人は来てるね。後は…情報屋も見たよ。ピンピンしてた」

「…じゃあ、楽しんでくれ。俺は奴と話してくる」

それは大変だ。と苦笑する推理と別れると俺は会場を出た。


「どうせお前のことだし目立つ場に居るだろうなとは思ってたさ」

風の吹くバルコニーで俺は情報屋と出会った。

「招待されたにも関わらず参加しないのは相変わらずと言うべきだね」

「招待されたってより連行された、だな。其処は情報屋でも知らぬなんだ」

「まぁ、其処まで重要じゃない情報を持つ理由もないしね」

情報はそういうと俺の方へ菓子を投げた。結構な値段の奴だったはずだ。

「聞くまでもなく君はソレ好きだろう?最も、探偵は苦手としてるだろうけど」

「そうだな。俺は面倒なのは好きじゃない。有り難く貰う。ところで」

どうした?そう表情に疑問を浮かべる情報屋へ溜息を吐きながら言った。

「刃さんの件も組織命令も…面倒ごとを押し付けた原因ってお前なんだろ?」

「…どうやら、僕らしさを出したトリックは不評だったようだ」

「トリックも何も唯の俺への労働を増やしただけだろ…」

「それは違う。僕はちゃんと君へトリックをしたんだ」

「どういうことだ?」

「数日前に探偵に相談されてね。馬鹿に休暇を与えたいって言ってたんだ。

 でも、休暇を与えるにも理由なしじゃ君は乗らないだろう?其処で僕は考えた。

 この機会を使ってやろうってね。でも、君はこんな場所に絶対に来ないだろう?」

「…そうだな。俺はこういう機会じゃなきゃまず縁のないモノだ」

「そうだろうね。だから、僕は現実的に考えたら絶対に出来ないことをしてみせた」

「…どういうことだ?」

「そのまんまの意味だよ。トリックってのは非現実なことを仕掛けで表すことなんだ」

「…お前が何を言いたいのかは分かった気がした」

情報屋の持つ知識は計り知れないものだが語彙力は其処までだと思ってる。

俺なりの解釈ならこんな手を回してまで休暇を与えてるんだからちょっとは楽しめ、と。

「(…本当に面倒な奴らだな)」

まぁ、でも…推理にまで心配させるってのは流石に良くない。

「それなら楽しんでくるさ。唯、場は不慣れだし相席頼むぜ?暇、なんだろう?」

「其処まで読めてるようじゃ僕もまだまだだね」

情報屋は苦笑した。


因みにその後は推理も合流して楽しんだんだけど…困ったこともあった。

別に事件や事故を起きた訳じゃない。まぁ、ある意味では作戦の1つは事故ったけど…。

「あれ?もう此処のチョコないんだけど」

「あるけど…瑛都、もう食べ過ぎだと思うんだ。糖尿病になっちゃうよ?」

情報屋の呆れる隣で推理は項垂れた。

「(まさか此処に来て狂うのは金銭じゃなくてチョコだったなんて…!)」

金銭感覚をバグらせて給料を増やす算段は見事に潰れたのだった。

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