「この教室だね」
そういうと彼女は教室のドアを開けたが…案の定、中には誰も居なかった。
来てみたものの放課後だから居ないと言えば当然だろう。
「で、どうするんだ?このまま居残ってもその人は来ないぞ」
「だよね。うーん、明日の朝に直接行っても私は良いんだけど_」
「止めろ、俺はもう男共の嫉妬で呪札されたくないんだ」
「どうやったら相手を呼べる…あ、そうだ」
「その発言、ちょっと怖いんだけど。何をするつもりなんだ?」
そう尋ねると推理は前の方の教卓に手を突っ込みソレを取り出した。
「その人は男子だしさ。やっぱ呼び出すならコレを使うべきじゃない?」
「それは…封筒、だよな?」
「そうそう。男子なら誰しも女子から貰ったら喜ぶ…
…その
次の日の放課後。俺と推理は校舎裏に来ていた。
此処で推理が仕掛けた
「上手く、嵌ってくれると思うか?」
「それはね。瑛都がさり気なく聞いたらしいんだけど舞い上がってたんだってさ」
それはそれは凄く喜んでいたらしい。心の中で先輩は哀れんでいたらしいが。
「じゃあ、君は隠れてて。もし、抵抗したら参戦するって形で」
「参戦しても俺は戦えないと思うぞ?」
「こういうのは雰囲気で行けるものなんだよ」
不安に感じつつも俺は推理の居る場所から見えにくい場所を探した。
そうして隠れてから暫くすると校舎から男子生徒が出てきた。
推理と何かを話している様子は見えるが残念なことに内容までは聞こえなかった。
「(何時出るべきなんだ?)」
出るタイミングを見失った、そう思った瞬間、男子生徒がいきなり逃げ出した。
それを見るや否や俺は全速力で飛び出すと校舎へ戻ろうとする少年の前を塞ぐ。
「ちょっと待ってくれないか?」
「な、何なんだよ。お前、退けよ!其処に居ると、邪魔なんだよ!」
怯えたような表情を浮かべ横をすり抜けようとしたがそれも防ぐと彼は激昂し
「退けって言ってるだろ!」
その瞬間、俺に体当たりしてきた。それに反応出来ず俺は吹っ飛ばされてしまった。
視界の端に推理が見えた。男子生徒に逃げられてしまう、そう思った時だった。
「大事な後輩に何をやってるんだ?」
視線を上げると宮乃先輩が現れたと思えば男子生徒に手刀を叩き込んだ。
「おい、其処で寝てる奴。怪我はな…うん、大丈夫そうだな」
それは俺への皮肉ですか?そう言おうとしたものの…声が出なかった。
「君も対人術を学ぶべきだな。あれでやられるようじゃ将来、持たないぞ?」
保健室で軽く手当てを貰った後だ。外で待っていた宮乃先輩とそう言われた。
「そうですね…。それと_ありがとうございました。因みに推理は?」
「霧切?今頃、尋問も終わっているはずだと思う…何なら今から行くか?」
「あ、そうですね。俺も推理と話したいですし」
探偵を心配するのは良い心掛けだと褒められながらその場所へ行くことにした。
「あ、大丈夫だった?」
「ちょっと痣が出来てるけど…大丈夫だ。心配掛けてすまんな」
「まぁ、助手の怪我は大したものじゃないし…大丈夫だとは思ってたよ?」
視線を向けずに受け答えする推理に対し疑問を覚えると宮乃先輩が突っ込んだ。
「…さっき、保健室に送ったって言った時に慌てていたのは誰だっけ?」
「…何のことかさっぱりだね。あ、そうそう。彼に聞いて色々と知れたよ」
話題をすり替えるなよ。と先輩がジト目をしたが推理は無視して話し始めた。
「まぁ、結論から言うと裏があるのはほぼ確実なんだよね」
「というと?」
「さっきの男子の話によれば菓子パン泥棒は『対価』だったらしいんだ」
そうして推理は男子生徒に問い詰めて得た情報の説明を始めた。
男子生徒はある人に依頼して情報を隠蔽して貰ったこと。
ある人はそれの対価で男子生徒の価値を試す為に菓子パンを盗ませたこと。
付き合うのを辞めたくなっても色々と脅されたことなど散々たるものだった。
「つまり、男子生徒を校則で縛っても事件は解決しないという訳だな」
「そうなるね。私も裏で活動してるのが誰なのかは特定出来なかったし」
「特定出来ないってのは吐いてないって解釈で合ってる?」
「それはないと思う。知らないって言い張ってたし」
本当に彼も知らないんじゃないのかな。そう推理は意見を出した。
「分かった。ある程度、バックは俺と刃さんで調査してみる」
此処で行き詰まったと思った矢先、宮乃先輩が提案を出してくれた。
「流石、瑛都先輩。此処ぞという時に頼りになるね」
「そうやって擦っても俺は乗らんぞ。推理、飲み物奢りな」
「えぇ…?後、奢るの私だけなの理不尽だと思うんだけど!」
「探偵は探偵自身で尻拭いしてくれ。後、情報屋にも情報を流せよ?」
「…それも私にしろって言ってる?」
「態々すいません。先輩にまで迷惑を掛けてしまって」
君が謝ることじゃないさ。そういうと先輩は早々に出て行った。
「…じゃあ、私たちも済んだことだし帰るよ」
そうだな。そう頷くと俺は推理の隣に並んで帰ったのだった。
ー4日後。
「怪我は治ったようだな」
「お陰様で早く治りました」
改めて宮乃先輩に礼を言うと俺はソファに座り直した。
「もうちょっとしたら刃さんも来るだろうし此処で待っててくれ」
「刃さんを起こしちゃってちょっと罪悪感あるな」
「普段、働いてないんだし別に気にすることないよ。あ、真面目にしてた?」
「うーん。俺の見た限りじゃ真面目そうに作業してたけどなぁ」
笑いながら談笑していると眠そうな刃さんが入ってきた。
「お前ら、朝なのに随分と賑やかだな。学校の方は大丈夫なのか?」
「刃さん、今日は土曜だよ?」
「…第二土曜じゃないと学校ないんだったな。覚えるの面倒で忘れてた」
そう言うと刃さんは机の上にあったぬるめの珈琲を飲んだ。
「まぁ、お前らがした学校での調査のお陰で大体は分かった」
そういうと後ろの棚から4枚の資料を取り出した。
「この事件…弘乙は居なかったが2人は覚えてるだろ?」
資料は隣町で起きた学生間による事件らしく既に解決済みと記されている。
「ん?あ、あぁ_。覚えてるよ、あの講堂の奴でしょ?」
「講堂…?えーっと、あの意味不明な暴動事件だったっけ?」
「そうだ。俺らはあの時、単なる少年事件だと思ったが違ったらしい」
「そうなのか…」
「あぁ。今回の件もこの事件も同じ人物の影響であると判明した」
そうして刃さんは煙草に火を点けると軽く息を吐いた。禁煙はしないようだ。
「最近になって、裏で知名度を上げたKLEAという人物だ」
「まぁ、この情報は菫さん経由なんだけどね」
「…また菫さんに手伝わせたの?そろそろ自分で調べたらどう?」
「調べるも何も彼奴が最近暇だ、って言ってて案件を投げただけだ」
菫さんって誰なんだ?と疑問に思っていると他の部署の先輩だと説明してくれた。
「取り敢えずは菫のところに行くんだ。それより先の話は俺は知らん」
そういうと他にも複数の資料を宮乃先輩と霧切に渡すと奥へ引っ込んでしまった。
「取り敢えず、俺は作業を続ける。行くのは君らに任せるよ」
「私をパシリに使おうって魂胆なら大丈夫。私も手伝ってあげるよ」
「…俺も行けと、そういう意味なんだよな」
推理に代打のパシリさせる作戦を速攻で叩き潰された宮乃先輩は落胆していた。
その後、俺も手伝ったのだが結果的に作業を終えたのは昼過ぎだった。
「昼食べたら、菫さんの事務所へ行こう」
「私もそうする気分だったんだ。まぁ、料理は瑛都にさせるけど」
「俺への当て付け酷くなってるんだけど」
「それだけの仕打ちを君は私にしてるってことだよ」
「…理不尽だな」
流石にそれは同感だと思ったので手伝うことにした。
【「記憶」資料、展開数及び質異数不明】
ー某日の深夜。
「改めて聞く。…としての意見はそれで本当に良いんだな?」
「私としては、やっぱり何も知らずに過ごして欲しいと思ってる。でも…」
…でも?俺はそう尋ね掛け…止めた。何故?と言われても説明出来ないけど。
「それは…ちょっと嫌だな、なんて思ってる。…やってることは矛盾してるけどね」
「…その気持ちは理解出来る。でも…として生きるのなら結論は出すべきだ」
「じゃあ、聞くけど…だったらどうしてた?」
…俺なら話してた。それで自分の選択を意志を揺らぐ結末へとなっても、と。
「そう、なんだ。…其処は君と違う意見だったようだね」
「…そうだな」
電話を切った。今日は無駄に冷えるようだ。
【旧組織に残された不屈なる回想記録】
時期。…及び「探偵」の死亡数日前と見られる。
「こんな大規模な講堂戦争、よくも警察は野放しにしてたもんだなぁ」
「そうね。随分と近所迷惑だし苦情は入れてそうな感じだけど」
瓦礫を処理しつつ鎮圧された後の凄惨な場所を見ながら溜息を吐いている。
依頼された内容は講堂の鎮圧だった。最も警察に横流しすることも考えていたらしい。
「こ〜んな、学生如きの暴動なのに同業者も居るなんて考えにないわなぁ」
「まぁ、それくらい
「影響を与える出来事って…口調的に知ってるの?」
「そんなの知る訳ないでしょ。こんな
「それは知ってそうな発言だなぁ。ま、興味ないしどうでも良いや。あ、お疲れ〜」
同じように撤収準備をする他の仲間に軽く挨拶をしながら私と先輩は歩いている。
「見た感じ、結構来てそうだけど…何部来てるんだ?」
「ちゃんと数えてないし見た限りだと私たちを入れて4部だったと思う」
「ってことは此処ら辺のKLAUNとASとGLO?此処らの活動者だと」
「AS、見てないし違うと思う。此処らの区域で残ってるとしたら後は…」
そう思っていると奥の方からその話題の人物が歩いてきた。
「久々だな瑛都と推理。そして様子を見るに刃の奴は来てないらしいな」
「寝てるんじゃないのか?事務所を出る時も眠そうだったし」
相変わらずだな。と菫さんは笑った。彼は
菫さんと刃さんは同期で古株ながらも嘗ては最前線で戦っていた人だ。
「菫さんは今日も元気そうですね」
「…馬鹿言え。俺も今年で7年目だしそろそろキツくなって来てるんだ」
「そうとは思えない強さだけどなぁ」
お前らも今の若さを大切にしろよ、と残して去って行った。
「菫さん、お爺ちゃんみたいなこと言ってたね」
「馬鹿言え。その話を菫さんに知られたら怒られるぞ」
と笑う私を瑛都は呆れながら注意していた。