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第4話 泥棒さんと情報屋

週明けの昼休み。軽めの昼食を摂り終えた後、俺は推理に連行されて屋上へと来ていた。

「…それにしても、この事件は随分と厄介そうだね」

「厄介そうって…高校のしかも唯の菓子パン泥棒だろ?」

同じ高校の友達から受けた(らしい)依頼を改めて読み返すと推理に手渡した。

「形だけ見れば大したことない事件でも大きな事件に繋がったりするんだよ」

「…流石に漫画の読み過ぎじゃないのか?どうにもそうとは思えないんだが」

「あれ、おかしいな。助手が随分と辛辣なんだけど」

辛辣も何も想定出来ないし、と俺は推理を気遣いつつ学校の課題を取り出す。

「そもそも今時になって菓子パン泥棒するなんて変な話だよな」

犯行は…まぁ、間違いなく高校生だろう。教師の線は流石に論外と思っている。

とは言え、食事や金銭に困っているなら教師に相談すれば良いし最善だ。

因みに今回の事件だが教師側も問題視はしているものの内容が内容なので

学校全体で上がるレベルで取り扱うことはしなかったようだ。

「じゃあ、明日の放課後にでも話を聞きに行こう」

「…本気で言ってるのか?正直な話、不安しかないんだが」

流石に冗談だと思っていたが…案の定、放課後に俺と推理は事情を聞きに来ていた。

「こんにちは、食堂のおばちゃん」

「…あら?この時間に生徒が来るのは珍しいわね」

「おばちゃんにちょっと聞きたいことがあって来たんだ」

「私に聞きたいこと…。何のことかしら?」

「そう。あの、学校で話題になってる菓子パン泥棒のことをさ」

「あぁ…。あのことね。別に些細なことなんだけどねぇ」

そういうとおばちゃんはその時のことを語ってくれた。

その日の昼休みは金曜日なこともあって混んでいたこと。

毎週、金曜日は食堂の値段が安くなるからなのだが…おっと話が逸れた。

その日の会計の際にメロンパンの売買個数と金額が1個だけ合わなかったという。

それから総出で何度も確認したそうが確認する度に合わないことに気付いた。

そうして初めてメロンパン泥棒が起きたことに気付いたと言う訳だ。

だが昼休みの人混みの所為で誰が何時、犯行に及んだのかも不明なこと。

そしてその所為で証拠もないから会計ミスとなり何も出来なかったと言う訳だ。

「私としても…そんなことをする生徒が居るなんて未だに信じられないわ」

「…そうですね。でも、この事件の真相はちゃんと突き止めますから」

そうして改めてお礼を言ってから俺たちは食堂を後にした。

「…で、当時の情報は掴めた訳だが其処から何か分かるものなのか?」

「分かってたら苦労しないよ。それに、情報収集も序の口だ」

焦る必要はない。そういうと推理は本校舎の空き教室へと向かった。

この高校は本校舎と新校舎に分かれており使う機会の減った本校舎は

空き教室も増えている。其処を選ぶ辺り推理なりの人目を配慮した結果なのだろう。

「この時間帯に来て貰うように相手に調整して貰ってたんだ」

「無策だと思ってたが…其処ら辺はちゃんとしてるんだな」

「私は計画的に動く探偵だからね。其処らの素人とは比べないで欲しいものだ」

「計画的に動くなら、事件が起こる前に解決するのが探偵の嵯峨だと思うんだが」

「…その日は、別の事件で動けなかったんだよ。私の弱点は独り身なことだから」

調子の良い奴だと思っていると彼女は「あっ」と声を上げた。

「ちょっと外で待っててよ。私はと話をしてくるから」

「…俺は中に入らなくても大丈夫なのか?」

「中に居るのはでね。彼の意向で伏せておくことにするよ」

「じゃあ、彼ってのもある意味、秘匿的だったりするのか?」

「そうだね。名称呼びは彼でも彼女で囚われずに居る。それこそ情報屋でしょ?」

情報屋だし自分の情報を伏せるのは当たり前だと言うのは何となく分かる気はする。

とは言え、自分に伏せると言うのは案外、俺の知り合いだったりするのだろうか?

「じゃあ待っててね」

そうして推理と別れた俺はその場に居ようと思ったが結局、図書室へ向かうことにした。


「こんにちは」

勉強している生徒に紛れて俺が声を掛けたのは昨日、会った振りの宮乃先輩だった。

「おう、どうしたんだ?お前1人で来るのは初めてだよな?」

「そもそも俺と先輩自体、昨日までは交流の機会0だった訳ですし」

先輩は教科書を閉じると俺の方へと視線を送った。隣に座れ、という意味らしい。

「先輩って菓子パン泥棒のこと、どう思ってますか?」

「菓子パン…?あぁ。食堂の奴だな?」

「そうです。さっき、推理と食堂に行って色々と話を聞いて来たんです」

「それで俺のところへ来たと言う訳だ。因みに…霧切は何処へ行ったんだ?」

「推理は情報屋に話をしに行くって言ってました」

「あぁ、彼奴と。まぁ、それはそうだよな。お前はハブられた訳だな?」

「平たく言うならそうですね。因みに先輩は見当付いてたりします?」

「付いてない。と言うより聞く相手が間違ってるだろ」

お前の上司霧切に比べて少しの情報しかない俺に何を聞くんだ?と先輩は呆れた。

「じゃあ、先輩ってこの事件についてどう思ってるんですか?」

「…その前に質問返しになるが_弘乙こそ、この事件をどう思っているんだ?」

「え?ま、まぁ…浅はかですけど俺は唯の事件だと思ってました」

「思ってた、と言うのは霧切の意見と対立した結果、霧切に賛同したってことだな?」

「そうです。推理は大きな事件に繋がるような裏があるって_」

「成程な。因みに俺もその線だと思う。…何しろ、愉快犯の犯行にしては危険過ぎるしな」

「やっぱり…そうですよね」

食堂の人は楽観視していたが学生側の立場になれば話は別だ。

情報屋然り、情報は何れ出る。何しろ、実行した報酬に比べて対価が大き過ぎるのだ。

メロンパン1個を盗んだだけで学生生活をオジャンにさせる愉快犯など居ない。

「…にも関わらず犯人の情報は愚か足取りすら掴めてない状況_と」

「先輩って何処まで知ってるんですか?」

「正直に言えば情報は0だ。男だとか女だとか後輩だとか先輩って噂ばっかりでな」

俺だけのコネじゃお手上げだ。と言わんばかりに両手を挙げる。

その言葉に俺は心の中で少しだけ落胆したが…宮乃先輩は笑みを浮かべた。

「でも、情報屋なら話は別だ。何しろ、情報収集が彼奴の得意分野なんだからな」

「情報屋ってやっぱ凄いんですね」

「あぁ。因みに本職には負けるが情報収集能力だけじゃ霧切の奴も相当の腕だぞ?」

でなきゃ、わざわざ組織を抜けてまで探偵業をしないだろ?と呆れたように笑う。

「推理はちょっと変わってますし…納得は出来ます」

自己流で頑張る姿は確かに納得のものだ。…まぁ、それが良さであり悪さであるのだが。

「ところで話題を変えるがお前が事務所から出る時に話したことは覚えてるか?」

「助手として、探偵の為に出来ること…でしたよね?」

初めて刃さんや先輩と会った日の帰りに言っていたはずだ。

「そうだ。そしてその時、お前は探偵の補佐になることと答えた」

「そうですね。それで、先輩は探偵の考えを尊重しろって言ってましたよね」

「あぁ、そうだ。それで聞くんだが_」

そう言うと先輩は急に真面目な表情に変わり_。


「そもそも弘乙はとしてを信頼しているのか?」


「信頼、してますよ。でも…霧切推理じゃなくて探偵として_ですけどね」

「ほぉ。それはまた、どうしてだ?」

「普段の推理は頼りないですけど…事件に関わる時のは凄く頼りになるので」

へぇ。と宮乃先輩は俺を面白いモノを見るような顔をすると声を漏らした。

「似た者同士…引き合ったのかもな_」

「え?」

「何でもない。だが、覚えておけよ?何時だって、助手は探偵のを継ぐと」

それはどういう意味なのか?聞こうとした時には既に先輩の消えていた。ところで…

「(この机に置かれた本は片付けろ、ってことなんだよな?)」


「終わったよ」

空き教室へ戻ると教室から出てきた推理と鉢合わせをした。

「情報屋と話したんだし…新しい情報は得られたんだろ?」

「そりゃあね。因みに_君は私がしている間に何をしてたの?」

「図書室で宮乃先輩と今回の件を話してた」

「…助手としての仕事はまぁまぁだね。それで、彼奴は何て言ってた?」

「『俺に情報を尋ねるよりはお前の上司の情報を待て』ってさ」

そういうと推理は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「まぁ、瑛都も場を弁えてるってことだね。さ、入って入って」

謎に御機嫌になった推理は俺は別の空き教室へと入れるとホワイトボードに書き出した。


「男子」「女子」「眼鏡を掛けていた」「クラスで目立たない先輩」「後輩」


と4つの単語を書くと推理は振り返った。

「さて、助手くん。君に質問だ。どの情報が嘘だと思う?」

「何で嘘の情報を入れるんだよ…」

「ある意味、君の推理力を測るテストだよ。このレベルは解けなきゃね」

面倒だとは思うが言ってることの意味も理解出来る…。

「(男女子はそもそも判断出来ない時点でまず除外。残りの3つだろうけど…)」

それぞれの場合を考えたらどうなる?

眼鏡の情報の真偽は時と場合に寄るだろう。その時だけ掛ける人も居るだろうし。

クラスの先輩と後輩の真偽もその人それぞれの学年で状況も異なるだろう。

何しろ、今回は噂の提供元を推理に教えて貰ってない。それでも解けるってことは…

「その表情を見るに解けたようだね」

「何で後輩なのにクラスの状況を知ってるんだ?」

価値観。で片付けられたらそれまでだが今回の場合は前提が違ってくる。

先輩という辺り噂元は後輩なのだろう。それはまだ良いのだがどうやって

クラス内の情報までのだろう?同学年や上級生なら多少の価値観で

判断出来る。でも、後輩となれば話は別だ。後輩と先輩の交流機会は部活だけだし

その部活での活動も学校とはまた異なってくる。それに他の噂に比べて具体的過ぎる。

眼鏡を掛けていた。は具体的だが何百と居る生徒の中じゃ到底絞り込めるものではない。

だが、前者となれば虱潰しに色々な人に話を聞くだけである程度は絞り出せるだろう。

「つまり、この噂元を流した人物の情報をお前は情報屋に聞いたって訳だな?」

「ビンゴ。じゃあ、この話を流した人に会おう。大事な情報を知ってるはずだよ」

そうして俺は推理と共にその場所へと向かうのだった。


ー弘乙と推理訪問より数日前。

「最近になって、ヤケに騒ぎが増えたようだな。瑛都、今日は何件だったんだ?」

「今日だけで…近辺の事件も4件。事故を含めたら7件です」

「そうか…。それで、奴らとしての動きはどうなんだ?」

「最後の足取りで確定してるのは渡米したこと。とは言え…」

「その後を掴めてない時点でその情報ももはや役に立たん情報と言えるな」

ふっと煙草の火を消した刃さんに俺は尋ねた。

「…推理の助手のこと、どう判断するつもりなんです?」

「俺に聞くことじゃないだろう。彼奴は彼奴のやり方でやるだろうしな」

「…説明したとは言え、危険なことに巻き込むのは抵抗があると思いますけど」

「そうか?俺としては別に構わないことだと思ってるがそれは助手も同じだろう」

ふと彼、弘乙との会話を思い出したが嫌そうな素振りを見せていなかったはずだ_。

「俺の早とちりだったようです。すみませんでした」

そう刃さんに謝罪すると刃さんはポツリと呟いた。

「まぁ、お前の心配する気持ちは分かるさ。…だから、謝罪は止めとけ。傷が増える」

「…そうですね」

そう頷き俺は棚の上の写真立てを眺めた。其処には2人組の姿が収められていた。

片方の少女は呆れていて片方の少年は仏頂面だ。少年は俺だ。そして彼女は…。

「(もう大分時間経ったんだな_)」

恩師であり初めて好きになった人だ。ずっと側に居て欲しいと思っていた。


「…叶うことなら」


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